『十一人の賊軍』の演技で注目される新発田市出身の実力派俳優に迫る

2024.11.28

11月1日に全国公開された映画「十一人の賊軍」(©2024「十一人の賊軍」製作委員会)

戊辰戦争時の新発田を舞台にした2024年11月1日公開の集団抗争時代劇 映画『十一人の賊軍』(白石和彌監督)。
新発田藩城代家老・溝口内匠の命により罪人集団「決死隊」=賊軍が結成され、新政府軍=官軍と死闘を繰り広げる物語です。
溝口内匠の娘・加奈を演じたのは新発田市出身の俳優・木竜麻生さん。これまでの歩みと、『十一人の賊軍』の見どころ、そして新発田と新潟への思いを語ってくださいました。

木竜麻生さん

【お話を聞いた人】
俳優 木竜 麻生
1994年新発田市出身。14歳の時に原宿でスカウトされ、大学進学を機に上京。本格的に芸能活動を始める。2018年公開の映画『菊とギロチン』(瀬々敬久監督)では約300人の中から選ばれ女力士・花菊役で映画初主演。また同年に公開された野尻克己監督『鈴木家の嘘』でも約400人のオーディションを勝ち抜きヒロインを務めた。この2作品の演技が評価され数々の映画新人賞を受賞。22年の主演作品『わたし達はおとな』(加藤拓也監督)では北京国際映画祭フォーワードフューチャー部門で最優秀女優賞を受賞。近年の出演作は『福田村事件』(23/森達也監督)『熱のあとに』(24/山本英監督)ディズニープラスの配信ドラマ『七夕の国』(24)など。

慣れ親しんだ新発田城でも撮影した『十一人の賊軍』

―新発田城近くで生まれ育ったそうですね。
城北町というところで、『十一人の賊軍』の舞台にもなった新発田城の近くにある保育園に通っていました。保育園からの帰り道、公園で遊んだり、新発田城のお堀端を散歩したりするのが日課でした。

春は家族や友だちと新発田城でお花見をして、屋台で蒸気パンを買うのが定番コース。昔からよく訪れていた場所ですから、この映画でロケ撮影をした時は不思議な感覚でした。感慨深いですね。

艶やかな桜並木と新発田城のコントラストは、新発田の春の風物詩の一つ

新発田城址公園

住所:新発田市大手町6
問合せ:新発田市観光協会 0254-26-6789
丁字型の棟の上に「三匹の鯱」を配する三階櫓は全国でも珍しく、「日本100名城」にも認定される新発田城。
4月上旬から中旬頃、桜が見頃を迎える。

お祭りには欠かせない新発田名物「蒸気パン」。「ポッポ焼き」とも呼ばれる。薄力粉に黒砂糖と水、炭酸、ミョウバンを加え、専用の焼き器で焼き上げる。もちもちとした食感と黒砂糖の素朴な風味が魅力。

―東京・原宿でスカウトされたことがきっかけで役者の道へ?

中学2年生の時、母と、友だちとそのお母さんの4人で原宿に遊びに行ったことがあるのですが、竹下通りを歩いていたら、今の事務所の社長に声をかけていただいて。でも部活動の新体操を続けたかったし、高校卒業までは新発田にいると決めていましたから、その間は待っていただくかたちになりました。

数百人のオーディションを勝ち抜いた主演作2本で高い評価

―ご自身のターニングポイントになった作品は?

瀬々敬久監督『菊とギロチン』(2018年)ですね。女相撲の力士の役でした。当時私は大学3年生。周囲は就職活動まっ盛りで、同級生たちがみんな就職ガイダンスや面接に明け暮れている中、私は相撲の稽古に取り組んでいました。

そうしているうちに、映画のお仕事と並行して就活をすること、演技の稽古と同じモチベーションを保って就職を考えることはできないと気づいたんです。母に電話して「就職活動はしません」と告げたら、「そんなことわかってたよ~。役者のお仕事を頑張りな~」って(笑)。その言葉で、俳優をやっていこうと決意しました。

映画公開前にキャンペーンで新潟を訪れ、インタビューに答える

―『菊とギロチン』は約300人の候補者から選ばれ初主演。同年公開の野尻克己監督『鈴木家の嘘』でも約400人のオーディションを勝ち抜き、ヒロインを演じました。

『鈴木家の嘘』の公開後しばらくしたくらいから、俳優のお仕事だけで生活できるようになりました。この2本でさまざまな新人女優賞をいただくことができ、ありがたかったです。

溝口内匠の娘・加奈の心情は、現代の女性にも通じるもの

―さて今回の『十一人の賊軍』ですが、最初に出演依頼を受けた時のお気持ちは。

びっくりしました。実は事前に、この作品の情報はキャッチしていました。戊辰戦争の新発田藩のお話で、新発田を舞台にしていると。何かチャンスがあったら、ぜひ関わりたいだろうとマネジャーも考えていてくれたので、実現したときはうれしかったです。


―新発田の「食堂みやむら」さんがオファーの一つのきっかけとか?

そうなんですよ! 白石和彌監督がロケハンで新発田を訪れた際に、「食堂みやむら」さんで名物のモツラーメンを食べながら、何気なくお店の壁を見たら、私を紹介した新聞記事が貼ってあったそうで……。

「食堂みやむら」さんは、小さい頃から家族でよく食べに行っていたお店で、お店の方たちがずっと応援してくださっているんです。白石監督が「木竜さん、新発田出身なんだ! 溝口内匠の娘・加奈役にぴったりだ!」とすぐに連絡をくださったと後で聞きました。

家族でよく食べに行っていたという「食堂みやむら」

壁いっぱいに貼られたサインの中には、木竜麻生さんのサインや切り抜きとともに「十一人の賊軍」のポスターも

―これまでの作品で木竜さんを見ていて、実力を認めていらっしゃったんですね。今回演じた加奈について、どう思われましたか。

その当時の女性ですから、当然、時代背景の影響は受けています。でも、阿部サダヲさん演じる溝口内匠の娘としての複雑な思いや、野村周平さんが演じた婚約者・入江を慕い、心配する気持ちは、現代に生きる自分と通じるものがあるはず。その感覚を大事にして演じました。

加奈は、当時としてはかなり強気の、凛と立っている女性です。戦争に翻弄されながらも、覚悟を持って自分の行く道を選びました。加奈がいることで、為政者として権力を振るいながらも、家族との関係では苦悩する溝口内匠面の内面が浮かび上がり、人物像がより広がったのではないでしょうか。

新発田城でもロケが行われた。この映画では乗馬シーンにも挑戦

―加奈と、鞘師里保さんが演じた罪人・なつとのシーンに心を打たれました。

加奈がなつを後ろに乗せて馬を走らせるシーンがあるんですが、これまで乗馬は一人でしかやったことがなかったので練習しました。なつとのやりとりは、立場も身分も違いますが、同じ女性として心が通い合う場面になったと思います。女性が共感できるシーンもある映画です。


―完成した作品を見ての感想は。

撮影時から大きな規模の作品だなと思っていましたが、想像以上のスケールでした。キャストが体現した登場人物それぞれの覚悟を想像すると、胸が熱くなる瞬間がたくさんあります。エンターテインメント性も高く、幅広い年代の方が存分に楽しんでいただけると思いました。

「ぜひ多くの方々に観てほしいですね」と映画への熱い想いを語る

役にも自分にも嘘をつかず、いつも誠実でありたい

―役者として心がけていることは?

作品と役柄に誠実でいることです。どんなに役作りをしても、「木竜麻生」から完全に離れることはできません。だからこそ、なるべくその役に一番近いところを「私」も一緒に歩いていたい。映画もドラマもフィクションですが、撮影の瞬間には、「役」と、そこに寄り添う「私」が嘘をつかないように気をつけています。

そのために普段から、自分の内面を見つめるようにしています。物事や人に対しての最初の印象はもちろん大事にしていますが、その後に気持ちが変化していく過程にも注意を向け続ける。生活する中でも、自分の五感で感じることに敏感でいたいですし、小さなことも疎かにしないようにしていますね。


―今後、やりたい役はありますか。

「面白そう」と思ったらどんどん挑戦したいです。そして、どんな役を演じても「こういう人はどこかにいるだろう」「この時代にいてもおかしくない人」と思ってもらえるような、実存感を出せるお芝居をすることが目標です。

県外の人に味わってほしい地元グルメがいっぱい!

―地元の食べ物で好きなものはありますか?

うわー、いっぱいあるから迷いますね……。東京で食べたいと思いながら果たせないのが「蒸気パン」。「ポッポ焼き」ともいいます。それに「ちまき」。東京だと中華ちまきになりますが、私にとってのちまきは、もち米だけで、笹で三角に包んであって、きな粉をつけて食べるもの。子ども時代のおやつで、夕ご飯前でもパクパク食べていました。

全国的にもめずらしい三角形の「ちまき」。もち米を笹で包んで三角に折り、い草で縛ったものをたっぷりのお湯でじっくり2時間ゆで上げ、きなこをかけていただく。昔はどこの家庭でも作られていた新発田を代表する郷土料理

あとは「醤油おこわ」ですね。東京の友だちに「新潟の茶色のおこわって赤飯なの?」と聞かれたことがあります。私の中では「醤油タイプの赤飯」という認識。この3つは、新潟を訪れたらぜひ食べてほしいですね。

一般的な赤飯のように赤い色ではなく、醤油で色付けされた茶色の「醤油おこわ」。ふっくらと炊き上げた金時豆が入っているのが特徴の郷土料理。

―好きな飲食店は?

「コーヒー&レストラン シド」というお店で高校時代にアルバイトをしていたんですが、どのお料理もおいしい! 特にナポリタンが好きで……。エビとかソーセージとか具材がいっぱいで豪華なんです。軽めだと「海苔トースト」かな。次に帰省したときには、ぜひ食べたいですね。

シドの人気メニュー「パスタランチ」。日替わりパスタ・プチ前菜・自家製パンにドリンク付

コーヒー&レストラン シド

住所:新発田市新栄町1-1-24
電話:0254-26-7530
営業時間:月~土曜 9:00~15:00、17:00~21:00 日曜・祝日10:30~15:00、17:00~20:30
定休日:火曜日

あとはやっぱり「食堂みやむら」さん。「もつラーメン」はもちろんですが、「カツ丼とラーメンのセット」を毎回お願いしています。

新発田名物「もつラーメン」920円(税込)。名前は「もつラーメン」だが、実は豚のほほ肉を煮込んだもの。あっさりしたスープとよく合って美味

「もつラーメンとかつ丼セット」1,290円(税込)も人気。木竜さんお気に入りの「かつ丼とラーメンセット」は1,090円(税込)

食堂みやむら

住所:新発田市大手町5-5-7
電話:254-26-1213
営業時間:11:00~14:00
定休日:月曜日

「パトラン」のケーキも大好きです! 帰省の度に祖母と行っていろいろ買います。イチジクなど季節のショートケーキは必ず、他にもイチゴのショートケーキやベイクドチーズケーキ、それにミルフィーユ! パイ生地にカスタードとイチゴで、シンプルですが本当においしいのでオススメです!

木竜麻生さんも絶賛のパトランの「いちごのミルフィーユ」560円(税込)
新発田産の越後姫を使ったぜいたくな一品。こだわりの濃厚カスタードが美味!

パトラン

住所:新発田市中曽根町1-3-26
電話:0254-22-3048
営業時間:10:00~18:00
定休日:水曜日

新発田は素の自分に戻ってリラックスできる大切なふるさと

―思い出の場所や好きな場所は?
子どもの頃は祖父と「岡田の天然プール」によく行きました。「プール」と呼ばれていますが、川なんです。あとは新発田農業高校の「長峰農場」。ポニーにご飯をあげて、帰りにソフトクリームを買いましたね。

今でも帰省したら母とよく行くのは、月岡温泉の共同浴場「美人の泉」。あのお湯が大好きなんです。疲れがとれますね。一度、大学の友だちが東京から遊びに来た時に連れて行きました。また、個人的には西新発田駅の後ろの、ずーっと広がる田んぼの風景がすごく好きで、フィルムカメラで撮影したりします。

新発田農業高校が実習を行う「長峰実習農場」。馬や牛、豚、鶏などが飼育されている。
現在は鳥インフルエンザ予防のため、一般の方の立入りは不可となっている。

厩舎の中でくつろぐ「カステラ」

新発田市月岡温泉 共同浴場「美人の泉」

月岡温泉 共同浴場「美人の泉」

住所:新発田市月岡403-8
電話:0254-32-1365
営業時間:10:00~21:30(最終受付20:30)
定休日:火曜日・第3水曜日
料金(日帰り入浴料金):大人600円、小人350円

硫黄成分の含有量は国内随一。エメラルドグリーンの美しい湯は、入浴すると肌がつるつるになることから美肌の湯とも呼ばれている。

帰省すると、小学校や中学校からの友だちが声をかけてくれて、ドライブすることが多いです。真冬に福島潟に行き、「さーむ」とか言いながら周辺を友だち何人かと歩いたこともあります。ファミレスや、コンビニでコーヒーを買って散歩しながら話すこともありますね。

ありがたいことに東京で表に出る仕事を続けられていますが、地元の友だちは以前と変わらず接してくれます。新発田では自然に素の自分になれる気がします。


―しょっちゅう帰省されているとお聞きします。

家族が「そんなに帰ってこなくていい」と言うくらいですね。新発田も、新潟も、実家も大好き(笑)。お仕事の合い間に、ふうってリラックスできるのが地元。帰省して、新潟のきれいな空気を呼吸して、緑に触れて、おいしい物を味わって、東京に戻る。そのリズムが今の私には心地よくて。ルーティンで帰省することが、東京でお仕事を楽しみながら頑張れる大きな力になっています。


―最後に、『十一人の賊軍』をご覧になる方にメッセージをお願いします。
今回、白石監督をはじめスタッフのみなさんが「新発田が舞台の作品ですから、必ず新発田でロケをしましょう」と言ってくださり、私も地元で撮影させていただきました。新発田への敬意と愛情も感じ取れる作品になっています。

映画をご覧になった後で、シーンを思い出しながら新発田と新潟を巡っていただき、「新潟って、新発田って、すてきなところだなあ」と実感していただけたら、これほどうれしいことはありません。映画と一緒に、新潟と新発田の旅も楽しんでいただけることを願っています。

映画公開前のキャンペーンで白石和彌監督とともに
映画『十一人の賊軍』

映画『十一人の賊軍』

絶賛上映中
出演:山田孝之 仲野太賀 ほか
監督:白石和彌
原案:笠原和夫
脚本:池上純哉
音楽:松隈ケンタ

©2024「十一人の賊軍」製作委員会