新潟ガストロノミー おいしさの裏側を求めて⑩――“ここにしかないもの”で目指す100年後の郷土料理「旧師団長官舎 レストラン・エリス」/上越市
2023年01月10日
いいね
3426ビュー
歴史的建造物で営むレストラン
新潟県上越市に少し風変わりなレストランがある。なんと市の指定文化財「旧師団長官舎」の中にあるというのだ。名を「レストランエリス」。この新たな試みを始めたのはオーナーシェフの米谷太雅さんだ。もともと上越で別のフレンチレストランを経営していた米谷さんは、常に心から消えない悔しさを抱えていたという。 「観光客が北陸新幹線で行くのは、金沢か富山。それが悔しくて。上越に降りてもらうにはどうしたらいいのか、と。」 目玉となるものが無ければここ上越が目的地にはなり得ない。
そこで飛びついたのが、上越市による旧師団長官舎の利活用のための事業だった。旧陸軍中将の邸宅として建てられた旧師団長官舎は築112年。歴史的にも価値のある建物だ。 「歴史的建造物と自分の料理が合わさることで、“ここにしかないもの”ができるのでは。」 そう考えた米谷さんは、ミシュランガイド新潟版にも掲載されたこともあるお店を閉じ、2021年にレストランエリスをオープン。米谷さんの挑戦は始まった。
心に残ったある出来事
米谷さんが上越に移り住んだのは15年程前。料理店を開くことを決めていた米谷さんは「まずは自分に足りない経験を積もう」と、農業に従事することに。その時に知り合ったのが藤田農園の藤田敏典さんだ。
「お手伝いに来た時に食べさせてもらったトマトが美味しくて。店を出したら絶対にここを使わせてもらおうと。」 藤田農園ではトマトの他にも、ほうれん草やモロッコインゲン、冬はカリフラワーなども作っている。飲食店との付き合いは今はレストランエリスのみだそうだ。
米谷さんには忘れられない出来事がある。農家での就業に区切りをつけ、ついに開業した米谷さん。上越を盛り立てたい一心で藤田農園の野菜をいろんな飲食店に薦めていた。次第に藤田農園は米谷さん以外のお店とも取り引きするようになる。しかし目利きの料理人から細かな注文を求められるようになり、普段の仕事を妨げるようになってしまったという。 「このことがきっかけで、地域との共存を考えるようになりました。」 食材はなるべく地域の市場を通したものを適正価格で買い取る。ボールペン1本でも地元の業者さんから仕入れる。大切にしているのは地域との信頼関係だ。
“100年後の郷土料理”を
「高価な食材はなるべく使わない」という米谷さん。藤田農園のほうれん草を使用したメニューでは、ほうれん草と加茂湖の牡蠣を合わせて作ったクリームに卵をのせた。メニューの主役はほうれん草、そして脇を固めるのは卵。どちらも日本人にとって身近な存在だ。 「身近な食材や地域を大切にすること。それが“100年後の郷土料理”に繋がるんじゃないかと思うんです。」 まだ生み出されて間もない“ここにしかないもの”が辿る道のりに、あなたも触れてみてはいかがだろうか。
旧師団長官舎 レストラン・エリス
住所:新潟県上越市大町2-3-30
電話:025-526-5903
営業時間:ランチ 11:30~14:30 / ディナー 18:00~22:00
定休日:月曜日
駐車場:有(専用無料15台)
総席数:36席
この記事を書いた人
「美食学」と訳され、料理と文化の関係性を考察することを指す“ガストロノミー”。
口にすることで地域の風土や歴史を感じられることから、成熟しつつある食文化の中で、注目を集めている考え方。多様な歴史と文化、豊かな自然に恵まれた新潟県はガストロノミーの宝庫。