新潟ガストロノミー おいしさの裏側を求めて⑮――ここの素晴らしい四季の情景を、お皿の上で表現したい「和の食 樹翠」/上越市


2023年01月11日 3161ビュー

常に変化しつつ、変わらずそこにある松の様に

禅語に「松樹千年翠(しょうじゅせんねんのみどり)」という言葉がある。“松の木は千年の長い歳月を経ても風雪に耐え抜いて常に緑を保ち続けている”という自然の情景を詠んだもので、常に変化しつつ、変わらずそこにある姿を意味するという。その言葉から店名を取った「和の食 樹翠(きすい)」が2020年4月に上越市にオープンした。
店主の佐藤翔さんは1990年福岡生まれ。料理好きの両親の影響を受け、日本料理人を志したという。東京の河豚料理屋にて修業したのを皮切りに赤坂 菊乃井、フランス料理店、鮨店、京都の日本料理店と順調にキャリアアップしていく。「そろそろ独立開業を」と考えていた頃、知人から上越にある雁木町屋が空き家になっていることを聞いた。上越を訪れた佐藤さんは「海や山があり自然が豊富。人が温かく、季節がはっきりしている」と一目ぼれし、ここに店を構えることを決意する。

丁寧に処理された肉でジビエ料理に取り組む

佐藤さんが取り組んでいるものの一つがジビエ料理だ。ジビエ肉は能生で農業の傍ら猟師をしている青田徹さんから仕入れている。その種類は熊、イノシシ、鹿肉など。「惣右ェ門(そうえもん)」として食肉処理業も営む青田さんは狩猟後まだ温かいうちに処理をし、新鮮なうちに冷凍するという。
「ジビエはまだ一般的に知られていません。臭いというイメージがありますから苦手な人もいると思います。ですが青田さんから仕入れる肉は丁寧に処理されているので臭みがないんです。」 11月15日から2月15日までが狩猟期間とのことで、この時期の動物は冬を越すためにドングリや栗を食べ脂がのっているそうだ。

Iターンだからこそ気が付くことを発信する

「毎日豊富な食材を目の前にしながらその時々に採れるものでメニューを考えるのが楽しい」という佐藤さんは、メニューを毎月のように変え、2週間ごとにマイナーチェンジさせる。のどぐろや甘鯛などの地魚、雪室野菜、春の山菜、そして肉は頸城牛やジビエ。地域の食材が佐藤さんの手で季節の情景としてお皿の上に表現されていく。「ここの情景が素晴らしく、お皿の上でそれを表現したい」と語る佐藤さん。地元民にとっては見慣れた冬の景色も、福岡出身の佐藤さんの目には特別に映る。「穴熊のみぞれ椀」はその「秋から冬への移りゆく季節」を表現した一品。
「Iターンだから気づくこの地域の良さもあると思うんです。」 桜や紅葉の様な派手さはないが、夏の猛暑のなかでも、冬の吹雪のなかでも、その針葉を天へと向けて変わらずに緑を保ち続ける松。それは新しいことに挑戦しつつも、時代や流行に流されることのない確固とした日本料理の心技を追求し続ける佐藤さんの姿と重なる。
和の食 樹翠

和の食 樹翠

住所:新潟県上越市仲町3-3-13
電話:025-512-0120 or 080-7305-0120
営業時間:ランチ 11:30~14:00(最終入店 12:00)
ディナー 17:30〜22:00(最終入店 19:00)
(ランチは第1〜第1・3木・金・土曜日のみ)
定休日:日曜・月曜日
駐車場:あり(1台)
総席数:26席

この記事を書いた人
NIIGATA GASTRONOMY

「美食学」と訳され、料理と文化の関係性を考察することを指す“ガストロノミー”。
口にすることで地域の風土や歴史を感じられることから、成熟しつつある食文化の中で、注目を集めている考え方。多様な歴史と文化、豊かな自然に恵まれた新潟県はガストロノミーの宝庫。

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