新潟ガストロノミー おいしさの裏側を求めて⑪――特異な地形と“絆”がつくる味「漁場 傳兵」/糸魚川市


2023年01月10日 6041ビュー

糸魚川は漁場の近さが日本一!

翡翠(ヒスイ)のまちとして有名な新潟県糸魚川市。
地形の特徴としてまず挙げられるのが、海抜0〜3,000メートルにもおよぶという標高の差だ。
海も沖に向けて急激に深くなっており、陸から出てすぐに1,000メートルの深さに達するという。
そこは人気が高い魚介類の生息域でもある。

「糸魚川は漁場の近さが日本一なんですよ。」
そう語るのは漁師の伊井良太さん。
伊井さんの捕る魚は四季を通して多種多様だ。
春はヒラメやサクラダイ、夏はバイ貝やミズダコ、秋はノドグロ。
そして魚が美味しいとされる冬に特に力を入れているのが、南蛮エビ、アンコウ、ズワイガニだ。
全国的にあまり知られていないが、新潟県のズワイガニの水揚げ量は全国で6番目の多さを誇る。
県のブランド「越後本ズワイ」は、甘みが強く、身がぎっしり詰まっていることが特徴だという。

糸魚川の魚の美味しさの理由はなんと言っても鮮度の良さ。
特異な地形のおかげで他の地域では数時間かかるところを、糸魚川では数十分程で漁場まで移動できる。
新鮮なまま水揚げすることが可能なのだ。
また、海水に含まれるミネラルの多さもその理由の一つ。
鉱物資源が豊富な土地から流れ込む水により、魚介類は甘みや旨みを蓄えることができるのだという。

Youtubeで地元を応援したい

2016年に起きた糸魚川市大規模火災により、町は大きな被害を受ける。
伊井さんは「糸魚川の魅力、元気を発信したい」と、Youtubeでの動画配信をはじめた。
動画を撮りながら漁をこなし、空いた時間は編集に充てる。
5年続け、今ではチャンネル登録者が2万人を超えた。
地元で寿司屋の「漁場 傳兵(でんべい)」も営む良太さん。
最近では視聴者がはるばる遠方からお店に会いに来てくれることもあるそうだ。

大切にしているのは“絆”

地魚にこだわっているという漁場 傳兵。
しかし、荒れることで有名な冬場の日本海では、漁に出れない日が何日も続くことも。
そうなると持ち味の一つである“新鮮さ”が失われてしまう。
そんな問題を解決してくれたのが実弟で魚屋の浩太さんだ。
浩太さんが営む「傳兵水産」は漁場 傳兵のすぐ隣。
良太さんの捕った魚を仕入れ傳兵に納める。
その際、鮮度保持のための処理を“津本式”と呼ばれる特殊な血抜き技術で行うという。
魚の旨味を引き出すとされる高度な血抜きにより、昔よりもずっと鮮度を保てるようになったそうだ。

良太さんは浩太さんだけを取り持っているわけではない。
仲が良く、腕のいい魚屋さんからも意識的に仕入れるようにしているという。
大切にしているのは「地域全体を盛り上げたい」という気持ち。
漁場 傳兵おすすめのメニューは「漁師の海鮮丼」。
旬の地魚やズワイガニを溢れんばかりに盛り付けた。
味わえるのは、特異な地形による自然の恵みと、家族や地域の“絆”だ。
漁師の寿司屋 漁場 傳兵(りょうば でんべい)

漁師の寿司屋 漁場 傳兵(りょうば でんべい)

住所:新潟県糸魚川市南押上2-1-22
電話:025-553-2661
営業時間:11:30~14:00 / 17:00~21:00 (日曜営業)
定休日:木曜日
駐車場:あり(12台)
総席数:54席

この記事を書いた人
NIIGATA GASTRONOMY

「美食学」と訳され、料理と文化の関係性を考察することを指す“ガストロノミー”。
口にすることで地域の風土や歴史を感じられることから、成熟しつつある食文化の中で、注目を集めている考え方。多様な歴史と文化、豊かな自然に恵まれた新潟県はガストロノミーの宝庫。