映画「峠 最後のサムライ」の撮影が行われた古民家・渡邉邸でお抹茶を味わう/関川村
2021年01月13日
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長岡が生んだ幕末の英傑・河井継之助を描いた映画「峠 最後のサムライ」。原作・司馬遼太郎、主演・役所広司さんという豪華な顔合わせの作品で、新潟県民としては期待の高まる1本です。新型コロナウイルス感染症の影響で公開が延期となっていましたが、いよいよ今年6月18日に封切りが決まりました。
「峠」の撮影は県内各地で行われましたが、そのうちのひとつが関川村の渡邉邸です。専属ガイドによる邸内見学の後に、通常非公開のお茶室でロケ場所を眺めながらお抹茶がいただけます。ただしこちらの体験企画は今年1月11日から3月31日までの期間限定!ということで、早速訪ねてみました!
「峠」の撮影は県内各地で行われましたが、そのうちのひとつが関川村の渡邉邸です。専属ガイドによる邸内見学の後に、通常非公開のお茶室でロケ場所を眺めながらお抹茶がいただけます。ただしこちらの体験企画は今年1月11日から3月31日までの期間限定!ということで、早速訪ねてみました!
渡邉邸は、ひと言でいうならばまさに「粋な趣味人が建てたお屋敷」で、見どころがたっぷり。さりげなくあちらこちらに楽しい仕掛けが施されており、中には謎かけのようなところもあるのだとか。その粋な遊びに気づけるかどうか、ちょっとドキドキ。今回は「渡邉家保存会」で事務局長を務める井浦愼一郎さんのガイドで邸内を巡りました。
ここだけの3つの見どころ
渡邉邸は関川村で代々続く大庄屋の家です。初代当主儀右衛門(ぎうえもん)は村上藩の藩士でしたが、家督を2代目に譲り隠居。そのときに武家としての地位を返上し、以降は酒造業・金融業・回船業などで財をなしたと伝わっています。現在の屋敷が建てられたのは1817年と、今からおよそ200年余り前になります。1954年には国の重要文化財に指定されました。井浦さん曰く「ここはほかの重要文化財の屋敷にないものが3つある」とのこと。
その1つ目が、木羽を22万枚使った「石置木羽葺屋根」です。大量の木羽を抑えるため屋根には約1万5千個の石が置かれているのですが、1964年に起きたマグニチュード7.5の新潟地震、2004年の中越地震など度重なる震災に見舞われながらも、なんと200年間、落石が一度もないのです。それにかけて「落ちない石=合格祈願石」として土間に展示されています。
2つ目は通り土間の広さです。最盛期には1万俵もの米俵がここに持ち込まれたのだとか。そのため米を運ぶ人たちの渋滞緩和策として家の中で大八車がUターンできるように、これだけの広さを設けたのだそうです。
古民家好きでいろいろな豪農・豪商の館を訪ねてきましたが、確かにこれだけの広さの土間はなかなかお目にかかれません。圧巻のひとことです。
古民家好きでいろいろな豪農・豪商の館を訪ねてきましたが、確かにこれだけの広さの土間はなかなかお目にかかれません。圧巻のひとことです。
3つ目は土間に面したダイドコ(台所)にある囲炉裏です。通常、重要文化財の建物は火気厳禁なのですが、ここは今も昔と変わらず囲炉裏で火が焚かれています。じつは囲炉裏は暖を取る以外にも重要な役割があります。それは煙で家を燻すこと。柱や壁、屋根を殺菌したり、防虫したりと、煙にはさまざまな効果があるのです。それができなければ維持管理が難しくなることを訴えたところ、特別に認めてもらったといういきさつがあるそうです。
あの有名俳優が座った場所は…
仏間の前に、もうひとつ小さな囲炉裏があります。映画「峠」では、佐々木蔵之介さん演じる小山良運(長岡藩士で継之助の親友)が一家で食事を取るシーンが撮影されました。なお佐々木さんが座ったのは柱を背にした上座です。ファンの方はぜひチェックを!
名家繁栄を支えた「家の掟」
仏間の入り口には、この屋敷を作った第七代当主渡邉三左エ門善映(さんざえもんよしあき)による「家の掟」がかかげられています。善映は渡邉家中興の祖と呼ばれている人物で、飢饉が起きても配下の農民が苦しむことがないように小作米の一部を備蓄して凶作を乗り切ったという、まるでドラマか映画に出てくるようなエピソードの持ち主です。その善映が掲げた「掟」とは一体何だったのか?気になったのですが、残念ながら崩し文字で書かれているため読むことができませんでした。
売店では現代文に読み下した「家の掟」(200円税込)が販売されています。早速1部買い求めて、じっくりと読んでみました。財を成すためには入ってきたお金に応じて暮らすことを心がけよ、平時は美食せず質素倹約に努めよ、というような内容がずらり。現代にも通じる教えですね。
床に泳ぐ鯉、何匹見つけられるかな
2009年から6年の歳月をかけて、渡邉邸は大修理を行いました。そのときに傷んだ床の木材をくり抜いて新たな木材を埋め込む作業を行ったのですが、大工さんが遊び心を発揮。板張りに木で作った鯉を泳がせてしまいました。というわけで、囲炉裏の脇には現在5匹の鯉がいるそうです。果たして何匹見つけられるでしょうか。ぜひ探して見てくださいね。
田中泰阿弥が手がけた国指定名勝の庭園
大座敷からは1963年に国の名勝に指定された庭園を臨むことができます。
天才庭師と呼ばれ、京都・銀閣寺などさまざまな名庭に関わった柏崎市出身の田中泰阿弥(たいあみ)が昭和26年に全面的に手を入れて、現在の形にしました。
庭には「客人の健康長寿を願う主人のおもてなしの心」として、松の木を鶴に、置き石を亀に見立てた縁起物が配されています。ほかにも大きな石を不動明王に見立てた「不動石」、鯉の滝登りとして知られる出世の象徴である「龍門瀑」を表した石橋など、さまざまな仕掛けが施されています。
天才庭師と呼ばれ、京都・銀閣寺などさまざまな名庭に関わった柏崎市出身の田中泰阿弥(たいあみ)が昭和26年に全面的に手を入れて、現在の形にしました。
庭には「客人の健康長寿を願う主人のおもてなしの心」として、松の木を鶴に、置き石を亀に見立てた縁起物が配されています。ほかにも大きな石を不動明王に見立てた「不動石」、鯉の滝登りとして知られる出世の象徴である「龍門瀑」を表した石橋など、さまざまな仕掛けが施されています。
日本庭園は着座した状態で鑑賞するように造られており、最高のビューポイントは客人が座る場所。そのため座敷の上座から眺めるのをおすすめします。じつは座敷の柱、軒柱など3本の柱が視界を遮るのですが、位置を調整すると見事にその柱が1本に重なる場所あります。ぜひそこを見つけて庭を見てください。ネタバレになるので詳細は書きませんが、あっと驚く仕掛けが待っていますよ。
映画「峠」では継之助の自宅として、渡邉邸が何度か登場します。
松たか子さん演じる妻・すがが、継之助の身支度を調える場面は大座敷の一角です。井浦さんは「特徴的な黄色い壁ですぐに分かる」と教えてくれました。この写真と同じ壁が画面に映ったら要注目ですよ。
ほかにも夫婦が仲睦まじくオルゴールを聴くシーンも、大座敷で撮影されています。
松たか子さん演じる妻・すがが、継之助の身支度を調える場面は大座敷の一角です。井浦さんは「特徴的な黄色い壁ですぐに分かる」と教えてくれました。この写真と同じ壁が画面に映ったら要注目ですよ。
ほかにも夫婦が仲睦まじくオルゴールを聴くシーンも、大座敷で撮影されています。
縁起物が散りばめられた邸内
仕掛けと言えば、お座敷にも縁起物の松竹梅があしらわれています。「まずは壁の模様に注目してください。ここに松があります」と、井浦さん。竹は付書院の妻板に彫られていました。しかし3つ目の梅が室内に見つかりません。「梅はどこでしょう?」と問われ、まさかと思いつつ庭を指さすと「はい、正解!」と言葉が返ってきました。
今は見ることができませんが、早春には白梅が庭を彩るのだそうです。「庭と建物はひとつのごとし、これを『庭屋一如(ていおくいちにょ)』と言います。渡邉邸の旦那様はまさにその心で、空間を存分に使って粋な遊びをたっぷりとしています」。確かにそうですね。雪が溶けて春になったら、松竹梅の3セットを観にもう一度訪れたくなりました。
今は見ることができませんが、早春には白梅が庭を彩るのだそうです。「庭と建物はひとつのごとし、これを『庭屋一如(ていおくいちにょ)』と言います。渡邉邸の旦那様はまさにその心で、空間を存分に使って粋な遊びをたっぷりとしています」。確かにそうですね。雪が溶けて春になったら、松竹梅の3セットを観にもう一度訪れたくなりました。
さらに細かい部分では、部屋ごとに釘隠しの意匠が違うことにご注目。コウモリ、雁、真向兎など何種類もの縁起の良い柄が使われています。中でも注目は「桃」の釘隠し。これはレアもので、邸内にあるのはたったひとつだけ。見つけた人はスタッフに声を掛けると、何か良いことがあるかもしれませんよ!
お茶室でゆったりお抹茶体験
邸内を一通り見た後は、通常非公開のお茶室にてお抹茶体験です。
緋毛氈が敷かれた庭がよく見える場所に着席。外に目をやると、築山に登る石段を眺めることができます。映画「峠」ではその石段近くで少年が絵を描いている場面が撮影されました。そこで彼に声をかけるのが、役所広司さん演じる継之助です。その少年は佐々木蔵之介さん演じる小山良運の息子で、後に洋画家として名を残すことになる小山正太郎なのです。小さなシーンではありますが、歴史好き・美術好きの人にとってはたまらなくうれしい場面のひとつです。
緋毛氈が敷かれた庭がよく見える場所に着席。外に目をやると、築山に登る石段を眺めることができます。映画「峠」ではその石段近くで少年が絵を描いている場面が撮影されました。そこで彼に声をかけるのが、役所広司さん演じる継之助です。その少年は佐々木蔵之介さん演じる小山良運の息子で、後に洋画家として名を残すことになる小山正太郎なのです。小さなシーンではありますが、歴史好き・美術好きの人にとってはたまらなくうれしい場面のひとつです。
お抹茶が運ばれてきました。お菓子は関川村名産の「中村屋のきんつば」です。実はきんつばはちょっと苦手だったのですが、せっかくのご縁なのでいただいてみたところ……これが驚愕の美味しさでした!!
程よくパリッと歯ごたえのある皮に、しっかり甘みを感じさせつつも、決してくどい味わいではない絶妙な餡が絡みあい、口の中で最高のハーモニーを醸し出します。あまりの絶品ぶりに、これは絶対に箱買いして帰ろうと思ったのですが「前日までに要予約」のお菓子だそうです。
程よくパリッと歯ごたえのある皮に、しっかり甘みを感じさせつつも、決してくどい味わいではない絶妙な餡が絡みあい、口の中で最高のハーモニーを醸し出します。あまりの絶品ぶりに、これは絶対に箱買いして帰ろうと思ったのですが「前日までに要予約」のお菓子だそうです。
お菓子には楊枝が添えられていましたが「崩れやすいので気を使わずに手で持って召し上がって」とのことなので、お言葉に甘えてそのままいただきました。お抹茶も薄味で飲みやすく、茶席と聞いて思い浮かべるような肩の凝るものではありません。
和室でゆったり日本庭園を眺めながら、最高のお菓子と抹茶を味わう。今の生活スタイルではなかなかできない経験です。静かな空間に身を置いてゆったり過ごすと日頃の疲れが自然にほぐれていくような、心地よい気持ちになりました。
和室でゆったり日本庭園を眺めながら、最高のお菓子と抹茶を味わう。今の生活スタイルではなかなかできない経験です。静かな空間に身を置いてゆったり過ごすと日頃の疲れが自然にほぐれていくような、心地よい気持ちになりました。
お抹茶をいただいた茶室は暖房が効いていますが、ほかの部屋は冷え込みが厳しいためぜひ暖かい服装でお出かけください。足元はスタッフからも「靴下の2枚履き、靴下専用の使い捨てカイロなどの防寒対策」を薦められました。
邸内では2月19日まで小正月行事の「団子木飾り」、2月21日から4月5日までは「春の『享保・天保雛人形』と『土人形』飾り」を見ることができます。
今回書き切れなかった「謎解き」もまだあります。お出かけの際はじっくりお楽しみください。
邸内では2月19日まで小正月行事の「団子木飾り」、2月21日から4月5日までは「春の『享保・天保雛人形』と『土人形』飾り」を見ることができます。
今回書き切れなかった「謎解き」もまだあります。お出かけの際はじっくりお楽しみください。
国指定重要文化財 渡邉邸
住所:新潟県岩船郡関川村下関904
TEL:0254-64-1002
参観料:大人600円/小中学生250円
営業時間:午前9時〜午後4時
定休日:年末年始(12/29〜1/3) のみ
見学ガイドあり:土日祝(10時30分〜/14時〜・1時間程度)
【専属ガイドの邸内見学と、非公開茶室でのお抹茶体験】
期間:2021年1月11日から3月31日まで
・3日前までに予約(0254-64-1002)
・午前9時30分〜11時/午後1時〜2時30分
・定員3名以上6名までの2組限定(12名まで)
※1〜2名の予約も受け付けていますが、予定人数に達しなかった場合はキャンセルとなります。
・料金2,000円(参観料込み)
・参加者全員に猫クッキーのお土産付き
『峠 最後のサムライ』
6月18日(金)より全国ロードショー
出演:役所広司、松たか子、仲代達矢 ほか
監督・脚本:小泉堯史、原作:司馬遼太郎
配給:松竹、アスミック・エース
©2020『峠 最後のサムライ』製作委員会
HP:touge-movie.com
この記事を書いた人
長岡市のリバティデザインスタジオで、夫とともにグラフィックデザインやコンテンツ制作を行う。アート、映画、文学、建築、カフェ巡り、旅行、可愛いものが大好き。ウェブマガジン「WebSkip(https://webskip.net/)」も細々と更新中