名建築「今泉記念館アートステーション」で地元名士の傑作コレクションを堪能/南魚沼市


2024年05月11日 1452ビュー

公共建築賞受賞の建物

建築好き、アート好きにとってたまらない場所。それは名建築の美術館です。今回訪ねた南魚沼市の今泉記念館アートステーションはまさにそんな場所。竣工は1990年で、94年には公共建築賞を受賞しています。手掛けたのは建築家の香山壽夫(こうやまひさお)さん。彩の国さいたま芸術劇場、せきかわ歴史とみちの館など多くの文化施設を作ってきた人です。
2015年には新潟出身の巨匠、前川國男が設計した京都会館の改築も手掛けました。
香山さんは実は新潟と浅からぬ縁のある方で、以前ご紹介した関川村の渡邉邸は、なんと母方の本家に当たり、幼い頃に度々訪ねた「自分の記憶の原形」なのだとか。そのため香山さんは、雪国の住文化を色濃く残したあの庄屋の大邸宅を「自分なりに解釈して借用」したと語っています。そのひとつが、大きな切妻屋根です。
この施設は、旧塩沢町(現南魚沼市)生まれの今泉隆平さん(1908〜1997)の地元愛がきっかけで誕生しました。今泉さんは石打村役場勤務を経て村長となり町村合併を推進した地元の名士。その後埼玉県に移り、牧場や農場の経営をしていましたが、大手企業の開発により土地を手放すことになります。それで得た資産を元に「財団組織の文化施設をつくり郷里の文化向上の一助にしたい」と申し出があり、作られたのがこちらの建物です。1階にはそんな今泉さんの足跡をたどれるコーナーが設置されています。
当初は町立今泉博物館という名称で、今泉さんが集めたオセアニアの民族造形コレクションなどが展示されていましたが、2012年、同地に道の駅南魚沼「雪あかり」が開設されたのに伴い「今泉記念館」としてリニューアル。1階が観光案内所、2階がアートステーションという現在のスタイルとなりました。「道の駅に美術館が併設されているのは全国でも珍しい」と、同館を管理する南魚沼市観光協会の植田智徳さんは話しました。

大胆なデザインの展示室

それでは2階のアートステーションへと行ってみましょう。まず訪ねたのは絵画などの美術品が展示されているスペースです。大きくカーブしている展示室は半円状のアーチ壁で区切られており、まるで雪国のかまくらをくぐり抜けて、アート巡りをしているような印象です。
湾曲した展示室部分を外から見るとこんな感じです。
圧倒的な存在感がありますね。
美術館は作品に悪影響を与える紫外線を嫌い、自然光を入れないようにしているところが多いのですが、この館はあえて鉄骨剥き出しの天井から外光が入るようになっています。後の講演会で香山さんは「上から落ちてきた光を受けて効果的になるように計画した」と語っています。確かに天井から降りそそぐ光が床に反射してゆらぎ、遠くから引いてみると水面のように見える面白い仕掛けになっていました。

棟方志功の作品を常設展示

絵画などの美術品を展示することでさらなる集客につなげたいという思いから、リニューアル後は、寄贈された美術品を公開するようになりました。その核となったのが六日町出身の実業家・田中政之さん(1948〜1992)のコレクションです。田中さんは油彩、版画、ガラス工芸など数々の美術品を収集しており、いつかは美術館を作って公開出来ればと考えていました。田中さんは40代の若さで亡くなってしまいますが、ご本人の思いを汲んだご遺族がコレクションを寄贈したといういきさつがあります。
田中コレクションの中心は、版画家・棟方志功の作品です。144点の収蔵品から随時40点以上を『常設展 棟方志功』として展示しています。
2024年3月9日から6月12日にかけては、なんと板画作品(棟方は自らの版画を『板画』と称しています)94点を一挙公開という、ファン必見の展示内容になっています。
棟方作品というと、思い浮かぶのはふくよかな女人像。田中コレクションにもたくさんの女性たちが登場します。観光協会の植田さんは「棟方に限らず、藤田嗣治などいわゆる美しい女性を描いた作品を田中さんは多く集めていました。国内外を問わず多岐にわたる作品を収集していたので、審美眼の強い人だったのではないでしょうか」と推測しました。

年に3回企画展を開催

棟方作品以外の収蔵品は、年に3回ほど開催される企画展で見ることができます。
2024年3月9日から6月12日までは旧塩沢町出身の版画刷り師・木村希八(1934〜2014)の生誕90周年を記念して『木村希八展-SUN-』が開催中です。
今回は、本人が通っていた小学校校舎の廃材を使って作ったオブジェなども展示。木村がアートを通して郷土や自身の思い出をどう表現したのか、刷り師以外の表現者としての表情も見ることができます。
他には篠田桃紅加山又造片岡球子などの作品も展示されています。これらはいずれも木村が刷り師として関わった作家ばかり。いかに木村が刷り師として多くの優れた表現者たちから信頼されていたのかが伝わってきます。
今泉記念館アートステーションの2階部分は南端に美術展示室、北端にオセアニア民俗資料の展示室、それらを結ぶ長い通路という構造になっています。通路を移動する時にはぜひ足を止めて、窓の外にも目を向けて見てください。額縁のように大きく切り取られた窓の向こうには、日本百名山の一つに数えられた巻機山が見えるのです。作品鑑賞の合間にぜひこちらの風景も楽しんでみてはいかがでしょうか。

現地の人も驚く貴重な今泉コレクション

もうひとつの展示室では、今泉コレクションを見ることができます。パプアニューギニアを中心とするオセアニアの民族資料コレクションの数はなんと6千点!年数回の美術企画展に合わせて、こちらも企画展を開催しコレクションを公開しています。今回の企画展は「南国の摩訶不思議な世界展」です。
こちらに展示されているもののほとんどが、儀式などで実際に使われていたものばかり。ただ近年はプラスチック製のもので代用することもあるのだとか。そのためパプアニューギニアの人が訪ねてきて鑑賞したとき「ここまで充実したコレクションは自国でもなかなか見ることができない」と感動したそうです。

ファミリーでも楽しめるフレンドパーク

1階の観光案内所は現在「フレンドパーク」という愛称で、小さなお子さん連れでも楽しめるようなアクティビティが、期間限定でいくつか用意されています。そのひとつがキッズバギー(20分300円〜)です。年齢制限はありませんが、乗車できるのは体重20キロまでのお子さんとなります。
ほかに15分300円から楽しめるラジコンボートもありますよ。
屋外には、現在野外ラジコンボート場として活用されている水遊び場もあります。
夏になると、愛称サザンビーチとして、子どもも楽しめる水遊び場になるそうなので、そちらもお楽しみに。利用は無料です。
フレンドパークの「Cafe 雪あかり」ではコーヒーやジェラート、チョコレートなどスタッフが厳選したお菓子を提供しています。
コーヒー「南魚沼名水珈琲」は軟水で、口あたりまろやかな南魚沼の天然水を使用。ホットはトラジャブレンドのレギュラーか、期間ごとにフレーバーが変わるスペシャル(いずれもショートサイズ200円、トールサイズ300円)から選ぶことができます。
ジェラート(350円)は長岡市の人気アイスクリーム店「パティスリーソレイム」のものを提供。季節ごとに数種類ほどメニューの入れ替えもあるそうです。

アート鑑賞のあとにぜひ!

今泉記念館に隣接して、産直の米や野菜などを販売する「四季味わい館」があります。
訪ねた時には山菜がたっぷり!他にも南魚沼産コシヒカリでつくったおにぎりなどの惣菜もあり、目移りしてしまいました。またレストラン「たっぽ家」では「コシヒカリに合うおとなカレー」(1,100円)、「しいたけとにいがた和牛のロースト丼」(1,450円)、魚沼牛乳を使ったご当地ソフトクリーム「たっぽ家ソフト」(400円)など地元食材のメニューが充実しています。
アート鑑賞の後に、ぜひこちらも合わせてお楽しみください。

■今泉記念館アートステーション
住所:南魚沼市下一日市855(道の駅南魚沼今泉記念館2階)
TEL:025-783-4500
営業時間:9:00〜17:00(最終入館16:30)
定休日:年末年始・その他臨時休館
入館料:大人500円、小・中・高校生250円(20名以上で団体割引あり)

■四季味わい館
TEL:025-783-3983
営業時間:9:00〜18:00(5月〜11月)、10:00〜17:00(12月〜4月)
定休日:元日

■たっぽ家
営業時間:10:00〜18:00(5月〜11月)、10:00〜17:00(12月〜4月)
定休日:水曜日・元日

今泉記念館

この記事を書いた人
和田明子

長岡市のリバティデザインスタジオで、夫とともにグラフィックデザインやコンテンツ制作を行う。アート、映画、文学、建築、カフェ巡り、旅行、可愛いものが大好き。ウェブマガジン「WebSkip(https://webskip.net/)」も細々と更新中