ニットで人と人をつなぐ「LOOP&LOOP」 未来を切りひらく持続的な産地を目指して/五泉市


2021年10月12日 9394ビュー
※五泉ニット工業協同組合提供

最近、新潟には産地が多いと聞く。

あれもこれも新潟発で生産されているのに……灯台下暗しとはこのことで、地元であればあるほど気づきづらいものです。 

五泉市もそう。知る人ぞ知るニットの生産日本一であり「五泉といえばニット、ニットといえば日本の五泉」を合言葉に、五泉ニットブランドの醸成とまち全体でその文化を育てようと取り組んでいます
今回訪れたのは「LOOP&LOOP(ループアンドループ)」、五泉駅から徒歩5分の距離にある複合施設。五泉ニットと出会え、ニットでつながれる場として9月1日にオープンしました。

LOOP&LOOPを運営する五泉ニット工業協同組合の高橋正春さんに五泉ニットとは何か、また持続的な産地を目指すための産業観光について伺いました。

五泉ニットとこれまでの成り立ち

初秋を迎えて、朝晩に肌寒さを感じる今日この頃。ニット素材の服を鞄にそっと忍ばせるだけで安心感がある、秋寒に重宝するアイテムです。

このニットの産地といえば五泉市、『五つの泉が、豊かにわき出る里』と呼ばれて、古くから水に恵まれた地域です。水源の豊かさによって織物の風合いが決まるといわれ、江戸時代からきめ細やかな織物を織るところとして五泉市は栄えてきたそう。
※2017年、五泉市は婦人セーターの生産額が日本一となっている

昨今、着物から洋服にライフスタイルが変化するなかで、五泉市は織物からニットへとシフトし、時代に合わせた産地に変貌してきました。

産地であり続けられるのはそれだけではありません。ニット製品を完成させるために必要な工程を市内ですべて担えること。多数の工場やチームが点在し、ニットの糸の染色からはじまってニット生地の編み立てから縫製、加工までつくれます。さらに染色や刺繍、加工業などを得意する企業や工場同士が連携し、ワンストップで製造できるのが大きな強みとされ、ニットの産地と呼ばれる所以なのです。

「五泉ニットこそが私たちの強み」 アパレル不況に見つめ直すブランド

今、アパレル業界の不振や海外ファストファッションの国内進出をきっかけに、繊維業界の国内生産が年々減少しています。「この危機感が、五泉ニットブランド化事業を推進する原動力につながっています」と五泉ニット工業協同組合の高橋さんは力強く話します。

打開策を探しに産地ブランドとして業績をより戻す地域、とくに活気をみせる今治や鯖江に訪れて五泉市には何があって、何ができるかを考えてきたそう。
「視察を踏まえてまちを見つめると、若くてこれからを担うひとたちが五泉に多くいらっしゃって。しかも、世代交代は進んできて、工場において若手の経営者も出てきました。

地場産業を未来につなぐためにも、『私たちの強みは五泉ニット』と再認識し、多方面でアプローチするプロジェクトを発足しようと考えました。

2015年からはじまった五泉ニットブランド化事業がそう。『人材育成』『地域活性化』『販路市場開拓』『広報・PR』という4つの観点から業界内外で募集した20名からなる分科会をつくって、多様なひとたちが五泉ニットを自分ごととして捉えてもらえるように進めてきました」(高橋)

LOOP&LOOPの設立秘話

五泉ニットブランド化事業の販路市場開拓の施策として、2021年9月1日に五泉市吉沢でニットをテーマとする複合施設「LOOP&LOOP」をオープン。五泉ニット工業協同組合の事務所をリノベーションし、アイデアは分科会に参加する女性からの意見を参考にしたそう。

  「以前から、都内を中心に五泉ニットのプロモーションを行ってきましたが、『市内で五泉ニットを買える場所が少ない』って言われてきまして。しかも商店街に近い立地にあいまって、『事務所だけにしておくのもったいない』『こうした方がいい』と率直な声が集まってきました。

(それはなぜかって?)五泉ニットは女性の力が大きい。

ニットを製造するための工程はきめ細かくて、繊細な手仕事が必要ですし、女性の働き手が多い業界です。だから分科会に参加する女性も多く、LOOP&LOOPに対しても自分ごととしてアイデアをいただけました」(高橋)
※LOOP&LOOPの2階では旧五泉ニット工業協同組合の歴史を感じられる写真が展示される

LOOP&LOOPのリノベーションにあたっては、五泉出身で在住の建築家と議論されました。「ニットの関係者しか来なかったから、いろんな方が集える場と雰囲気にしてほしい」とお互いの想いを語り合ったと照れくさそうに笑う高橋さん。

LOOP&LOOPの場にその想いが反映されています。

LOOP&LOOPの名称を一般公募したり、複合施設として五泉ニット製品を購入できる『みんなのショップ』。キッチンスペースを利用できるチャレンジショップ『みんなのカフェ』と『みんなのキッチン』、ノスタルジックな雰囲気を持つコワーキングスペース『みんなの学び場』、ミニシアターを備えるイベントスペース『みんなの遊び場』。

「ニットの若手のみなさまが公募の段階から参加して、一緒に名称などを考えてくれた」と高橋さんは当時を振りかえって笑顔をみせます。
※五泉ニット工業協同組合提供:市外の学生たちの誘致を行う

その想いは新潟県内に届いたそう。

LOOP&LOOPは市外から訪れる学生の修学旅行先のひとつに選ばれました。従来、五泉ニットを製造する工場見学だけでしたが、館内でのワークショップを提案しました。

 「はじめての試みでしたが学校側が案を採用してくれて。館内でのワークショップを、組合会員から譲り受けた糸の残りをつかったオリジナル小物づくりなどを行いました。地域をこえて、人と人とがニットでつながれる場だと実感しました」と高橋さんは語ります。

まち全体をニットで染める「五泉ニットフェス」

※五泉ニットフェスの会場のひとつ「五泉八幡宮」。

五泉ニットはこれまでの実績が認められ、2017年に地域名と商品名からなる地域ブランドを保護、そして地域経済の活性化を目的とした『地域団体商標』に認定されました(県内認定数14つ)。またSDGsを推進するプロジェクトを立ち上げて、多方面でのアクションと五泉ニット産地の全体を支援しています。

とくに開催まであとわずかとなった『五泉ニットフェス』。地域活性化を目的に五泉ニット工業協同組合が立ち上げて今年で7回目。2020年から11月に開催日を移して、新型コロナウイルス感染症の対策を行いながら2回目を迎えます。
※LOOP&LOOPは五泉市駅前商店街から歩いて3分ほどの距離にある

五泉ニットフェスでは工場見学や五泉市の商店街と行う『オープンストリート』。さらにニットフェスアンバサダーが主体となって企画する『クラフトマルシェ』、五泉八幡宮さんで開かれる『ニットライトアート』、10月2日にオープンしたばかりの複合施設『ラポルテ五泉』と五感で五泉ニットをたのしめるようにまち全体をつかって準備を進めてきました。

「ここまで来るまでに本当に時間を要しましたが、五泉ニットフェスからの広がりは『産業観光』の可能性がみえてきました。産業観光とは産業発祥の地を観光として回ってみること、地場産業でかつ五泉市が先駆けて行うことができる新しい観光のかたちです。

五泉ニットフェスは本来ニットを核としたまちづくりを目的にした企画です。だから、たとえば工業の私たちと商業の商店街、これまで混じりそうで混ざらなかった同士が五泉ニットフェスをきっかけにつながって、相乗効果を生み出せる観光プログラムをつくれるかもしれません。

LOOP&LOOPはその起点となりえる場として、人と人をつながる役割を担っていきたい」(高橋)

終わりに

日本一の産地であっても、地元であればあるほど知らないことはたくさんあります。

五泉ニット工業協同組合は地元の子に知ってもらえるように小学生から高校生までのニット製造の工場見学を積極的に行なってきたそう。さらに、五泉ニットフェスで高校生が主役になるように『高校生プロジェクト』、ニット製品が出来上がるまで過程を体験できるバーチャル工場見学をサポートしました。

五泉市に住むひとたちが県外に対して今、「五泉といえばニット、ニットといえば日本の五泉」と自信を持っていえるのは、まち全体で五泉ニットの文化を醸成してきたからこそ。

まちは人がいなくては成り立たないように、人と人とが垣根なく一丸となって取り組むことが産地であり続けるための秘訣なのだろうと気づかされました。
LOOP&LOOP

LOOP&LOOP

新潟県五泉市吉沢1丁目1-10
TEL|0250-42-2156
営業時間|10:00−17:00(ショップは10:00〜16:00まで)
定休日|五泉ニット工業協同組合カレンダーに準ず
http://gosenknit.or.jp/wp-content/uploads/2021/06/2021-2022_gosen-cal.pdf

LOOP&LOOP

この記事を書いた人
水澤 陽介(みずさわ ようすけ)

新潟県生まれ、東京、沖縄を経て地元新潟にUターン。2021年2月、三条市の中央商店街に本屋「SANJO PUBLISHING」を立ち上げ、“まちを編集する本屋さん”をモットーにまちの魅力を集め、届けています。 まちを編集する本屋「SANJO PUBLISHING」(https://note.com/ncl_sanjo