河井継之助と酒を訪ねる旅のススメ④〈福島県只見町編〉/魚沼市、福島県只見町


2022年11月14日 6094ビュー
こんにちは。
〈深く、濃く、美しく 新潟を伝える保存版観光誌〉『新潟発R』の編集長をしております髙橋真理子です。
新潟県長岡地域振興局さんとのコラボ企画で投稿させていただきます。
 
司馬遼太郎の小説を映画化した『峠 最後のサムライ』。ご覧になった方も多いですよね。
主人公は幕末の“風雲児”と呼ばれた長岡藩家老の河井継之助。その最後の一年を描いた映画の余韻冷めやらぬ10月1日、継之助終焉の地である福島県只見町と新潟県を結ぶローカル線・只見線が全線運転を再開しました。

魅力あふれる只見線

只見線は新潟県の小出駅から福島県の会津若松駅を結ぶ約135㎞の鉄道路線です。
国内有数の豪雪地帯を走るローカル線で、車窓からの絶景や、秘境を走る姿の美しさが多くの人を魅了しています。
しかし残念ながら2011年の新潟・福島豪雨により只見駅・会津川口駅区間が不通となっていました。10年以上の歳月をかけ、この区間の運転が再開され、地元はもちろんのこと、新潟県でも祝福の声が上がっています。

只見線についてはポータルサイトをご参照ください。
全線運転再開を機に、新潟県長岡地域振興局さんとのコラボで発行してきた、歴史と酒を訪ねる旅を案内するリーフレットに、福島県只見町を加えた改訂版を発行しました。
新潟県内のJR駅などで配布しています。表紙は小千谷市にある司馬遼太郎『峠』の碑です。ぜひご活用ください。

 

只見町への往路は只見線で

ブログでは、冊子で紹介しきれなかった只見町の取材レポートをお伝えします。

JR小出駅から只見線に乗車。所要約1時間20分、8駅目が只見駅です。
途中の越後須原駅から徒歩圏内には玉川酒造があります。
「越後ゆきくら館」という見学施設を併設し、天然の雪を活用したゆきくら(雪中貯蔵庫)を見学することができます。豪雪地の知恵を実感!
酒造りの見学や試飲、売店での買い物も楽しめるので、ゆっくり出かけてみたいですね。
玉川酒造 越後ゆきくら館

玉川酒造 越後ゆきくら館

新潟県魚沼市須原1643
TEL.025-797-2777
営業時間/9:00~16:00
定休日/1月1日
入館料/無料(予約不要、団体の場合は要予約)

玉川酒造から徒歩約7分の場所には1797(寛政9)年に立てられた豪農の館「目黒邸」が、そこから徒歩約8分の場所には「絵本の家ゆきぼうし」もあり、観光スポットも充実。只見線で1日かけて巡るのもいいですね。

目黒邸

魚沼市須原892
TEL.025-797-3220
開館時間/9:00~16:00
休館日/年末年始
入館料(目黒邸、民俗文化財館、資料館共通)/大人500円、小中学生100円

絵本の家ゆきぼうし

魚沼市須原5192-1
TEL.025-797-2330
来訪の問い合わせTEL.090-2307-6854(大平代表)
開館/土・日曜 10:00~16:00

これぞローカル線の醍醐味

長岡市のお福酒造と、小千谷市の新潟銘醸のカップ酒を持参。
山古志の牛の角突きと、小千谷の錦鯉が描かれたすてきなカップ酒です。

今回は取材前なのでぐっとガマンして写真撮影のみでしたが、
カップ酒を飲みながら、車窓の絶景を楽しめるのはローカル線の醍醐味ですよね。
乗客は、景色に見入ったり、カメラのシャッターを切ったり、流れる車窓の絶景にくぎづけ。
破間(あぶるま)川沿いに山並みを走り、大白川から県境を越え、田子倉湖や只見湖沿いの秘境感あふれる絶景に目を奪われているうちに、のどかな里山風景が現れました。目的の只見駅に到着。

只見駅で情報&只見の味&土産をチェック

駅の近くには全線開通に合わせて移転リニューアルした只見町インフォメーションセンターがあります。
売店では地元産の旬の野菜や加工品、みそや、只見線グッズなどを販売しています。軽食コーナーでは只見特産のトマトを使ったフレッシュなトマトジュースなども味わえます。
レンタサイクルや最新型電動バイクISSIMO(イッシモ)もあるので、只見町巡りに活用したいですね。
 

只見町インフォメーションセンター

福島県南会津郡只見町只見上ノ原1828
TEL.0241-82-5250
営業時間/4月下旬~11月下旬・9:00~17:00

もう一つの河井継之助記念館へ

今回は只見町で合流したカメラマンさんの車で移動します。
最初に向かったのは、“もう一つの河井継之助記念館”「只見町河井継之助記念館」。只見駅からは車で約12分。只見線の会津塩沢駅からは徒歩約10分です。

ちなみに、新潟では河井継之助は「つぎのすけ」と呼びますが、只見町では「つぐのすけ」と呼ばれています。
記念館職員の鈴木奈苗さんと新國(にっくに)由利さんに案内していただきました。
 
取材に同行した新潟県長岡地域振興局の担当者マコトさんはお二人に何度かお会いし、すてきなお人柄にすっかりファンに。今回も「ぜひお二人にご登場いただきたい!」というマコトさんのオファーがあり、そろって取材を受けてくださいました。ありがとうございました!

映画の影響で、来館者は約2倍になったそうです。「新潟の記念館と只見の記念館をはしごする方もいますよ。長岡の人で、只見で継之助がどのように紹介されているのか気になっていたと言っていた方もいました」と新國さん。
 
只見の記念館は1972年に開館し、93年に継之助終焉の家となった村医の矢澤宗益の家を移築したのを機にリニューアルしました。

 
電力開発のため湖底に沈む運命だった矢澤邸でしたが、継之助を看取った矢澤宗益から数えて5代目当主にあたる矢澤伊織氏が自力で移築、保存。このエピソードも紹介しています。
「72年の開館当初、長岡市では記念館の計画がなかったため、長岡市から寄付をいただいたと聞いています」と鈴木さんが長岡市との縁を説明してくれました。このエピソードは『只見町史』でも紹介されています。
峠をイメージして設計された館内は、河井継之助の生涯、長岡の戊辰戦争、『峠』の世界、八十里越、只見の戊辰戦争などのコーナーに分かれています。長岡の戊辰戦争のコーナーには継之助が購入し応戦したガトリング砲のレプリカも展示されています。
 
2階から外へ出ると、目の前には只見川が滔々と流れています。司馬遼太郎がこの景色を眺めた地点には「司馬遼太郎が眺めた場所」の標柱が。川の流れを見ながら、どんな思いでここに立っていたのか、想像してみたいですね。
河井継之助記念館の隣には「山塩記念館」があり、明治後期まで山塩を生産していた当時の貴重な資料が展示されています。こちらも必見です。

只見町の継之助の墓へ

記念館から徒歩数分、只見川支流の塩沢川沿いにある医王寺には、42歳で只見の地で最期を迎えた河井継之助の墓があります。
命日の8月16日には墓前祭が催され、小千谷市にある慈眼寺の船岡住職が読経を行っています。福島県只見と新潟が、継之助を通して今もつながっていることを実感できます。
只見町河井継之助記念館

只見町河井継之助記念館

福島県南会津郡只見町塩沢上ノ台850-5
TEL.0241-82-2870
開館/4月下旬~12月初旬・10:00~16:00(11月下旬~の来館は事前確認推奨)
休館日/開館期間中の木曜

八十里越の福島側の玄関口へ

次に訪ねたのが、車で約8分の旧長谷部家住宅(叶津番所)です。

新潟県三条市と福島県只見町を結ぶ峠道、八十里越。
長岡の戦いで重傷を負った継之助は、越後側の起点である吉ヶ平から八十里越を通り、叶津の口留番所に到着。この峠で悪路に揺られながら、継之助が「八十里 こしぬけ武士の 越す峠」という自嘲の句を詠んだことは有名です。
越後と会津の交易の道としても往来されていた八十里越。江戸時代後期に建築された叶津番所では物資の出入りを取り締まっていました。天保5(1834)年の大飢饉のときには越後から救援米が八十里越で運ばれたそうです。戊辰戦争では西軍(新政府軍)が本陣を構えました。
 
1879(明治12)年には長谷部家が戸長となり、戸長役場が置かれました。1973(昭和48)年には福島県指定重要文化財に指定されています。

 
建物の内部は1階から3階まで全て見学ができます。座敷周りに広い内縁がある雪国会津の特徴的な造りや、格式の高さがわかる彫り物など、さまざまな特徴を間近で見ることができます。
旧長谷部家住宅の裏側には、国指定重要文化財の旧五十嵐家住宅があります。1718(享保3)年に建てられた本百姓農家の家で、福島県内最古の古民家とのこと。
土間の周囲には昔の農具も展示されています。

旧長谷部家住宅(叶津番所)

福島県南会津郡只見町叶津居平456-1
TEL.0241-71-8218
開館/4月下旬~11月下旬・10:00~16:00
休館日/期間中の月曜(祝日の場合は翌平日)
入館料/無料

新潟のファンも多い十割そば

ランチは同じ叶津にある、お客様の約半数が新潟県、関東圏からも多くの人が食べにくるという人気の手打ちそば処 八十里庵へ。
50年以上前から地元の食材を使った加工品を製造しているヤマサ商店の2代目の佐藤弘さんが約20年前に始めたそば処です。
会津産の在来種のそばを石臼で挽いた十割そばを味わえます。「つるっとしたのど越しとさくっとした歯応えが特徴」と佐藤さん。
そばに、店の周囲でとれる野菜や山菜を揚げた天ぷらなどが付く「季まぐれセット」を注文。
佐藤さんの説明通りののど越しと歯応えのよさが共存する存在感のあるそばは、リピートしたくなるおいしさです。桑の葉など珍しい天ぷらが味わえるのもうれしい!
雪が降ると春まで休業ですが、年越しそばだけは注文を受け付けます。
担当のマコトさんは「浅草岳カレー」を注文。カレーの上には、なんと岩魚のから揚げが!
天ぷらものっていて、ボリューム満点。ここでしか味わえない一品です。
ヤマサ商店で製造している山ウドと会津地鶏のだしを使った「うどりカレー」や、えごまみそ、金山町産の赤かぼちゃのパイなど、地元の食材を生かした魅力的な加工品も販売しています。
 
そば店は約2000坪の山と池がある広大な敷地の中にあります。敷地内には体験小屋があり、みそづくりや染め物など、佐藤さんのネットワークで、匠の技をもつ地元の人たちの指導のもと、さまざまな体験ができます。体験希望の場合は事前に電話でご相談を。
 

手打ちそば処 八十里庵

福島県南会津郡只見町叶津入叶津30
TEL.0120-82-3401
営業/4月末~11月20日頃・11:30~14:00
定休日/営業期間中無休


「只見方式」により集めた民具が勢ぞろい

おいしいそばとカレーに大満足したら、南会津方面へ約25分、川沿いルートを走り、今年7月に開館した「ただみ・モノとくらしのミュージアム」へ。
「只見方式」と呼ばれる、町民による民具の記録・整理作業を経て分類・整理された只見町の民具約2,333点を収蔵する博物館です。これらの民具は「会津只見の生産用具と仕事着コレクション」として国重要有形民俗文化財に指定されています。

展示ホールに向かう通路には、1965(昭和40)年から始まった町民の取り組みの記録写真などが掲示され、「只見方式」の素晴らしさを実感できます。
展示ホールでは期間を決めて収蔵品の企画展示を行っています。
只見では、特に仕事着のコレクションが豊富なことが特徴。見ているだけで楽しくなります。
さらにすごいのが、博物館では通常見ることができない、収蔵庫まで見学できることです。
「見る収蔵庫」として、職員立ち合いのもとでじっくり見学ができます。
屋外の遺跡ひろばには、前身の「会津只見考古館」のときから展示されていた福島県指定史跡「窪田遺跡」があります。縄文時代の石棒や復元住居を見ることができます。

ただみ・モノとくらしのミュージアム

福島県南会津郡只見町大倉窪田30
TEL.0241-86-2175
開館時間/9:30~17:00(入館は~16:30)
休館日/月曜(祝日の場合は翌平日)、年末年始

いよいよ只見町の酒スポットへ

民具から只見町の昔の生活に触れたら、最後の見学地「ねっか 奥会津蒸留所」へ。旅のテーマの一つである、酒スポットを訪ねます。ここでは只見町の自然の中で、只見町産の米を使った酒が造られています。ミュージアムからさらに南会津方面へ車を走らせ、約6分。
 
梁取(やなとり)集落の田園の中にある小さな建物が蒸留所。もともとは空き家でしたが、持ち主は家を離れても定期的に大切に管理していた建物を、焼酎蒸留所に改装しました。
ここでは只見産米だけを使った焼酎を蒸留しています。
 
代表社員の脇坂斉弘さんは16年間、「花泉」「ロ万」の銘柄で知られる南会津町の花泉酒造で酒を造っていました。「2014年に隣の只見町の町長から、只見町に酒蔵を造りたいと電話をいただいたんです」。最初は無理だと思っていた脇坂さんですが、只見町の米農家たちが食べる米だけでは田は守れないと、酒蔵造りの実現に向けて動き出しました。
 
そして「特産品しょうちゅう製造免許」という国の制度を活用し、17年4月に地元の米で作った米焼酎「ねっか」がデビューしました。現在、定番品とともにさまざまなコラボや限定商品を造っています。
 
その中に、河井継之助のイラストがラベルに描かれた「継ねっか」という商品があります。
「『継ねっか』は地元の小学生や住民たちで育てた米を使った焼酎です。河井継之助が生涯を閉じた場所只見で、継之助が大切にした「義」と「人情」、そして未来を見据えていた彼の志を受け継ぐという思いを込めました。美しい只見の田園風景をつないでいくという意味もあります」と脇坂さんは思いを語ってくれました。
小学5年生が田植えと稲刈りをして造ったその焼酎は、20歳のときにプレゼントされるとのこと。すてきですね。
「ねっか」では21年に輸出用清酒製造免許を全国第一号として取得し、海外向けの清酒も製造しています。さらに只見駅前にどぶろくの醸造所も開設予定。
全国から熱い視線が注がれています。オンライン蒸留所見学も行っています。
 
ねっか 奥会津蒸留所

ねっか 奥会津蒸留所

福島県南会津郡只見町梁取沖998
TEL.0241-72-8872
営業時間10:00~16:00(12:00~13:00は昼休み)
定休日/不定休
見学・オンライン見学可(要予約)

只見名物マトンのルーツを探る

只見町の旅は、只見の名物を土産に購入して締めくくりましょう。
その名物はマトン。味付けマトンを販売している、只見駅から徒歩約4分の駅前ストアーへ。
取材前、店主の酒井ヒデ子さんに電話で、「只見でなぜマトンが名物に?」とたずねると、マトンの焼肉、ジンギスカンが只見に広まったきっかけは1950年代の只見川電源開発で労働者が好んで食べたからという説があるが、実は違うとのこと。ルーツが書かれている本を紹介してくれました。
その『只見とっておきの話Ⅱ』(只見町)によれば、1950(昭和25)年に地元の家畜保健衛生所長を務めた河嶋吾郎さんが、この地に畜産業を根付かせるためマトン焼きに目を付け、羊の飼育を推奨。羊の飼育と普及に関わっていた地元の馬場兵一さんが解体方法や肉の味付けを試行錯誤し、只見でマトンが手軽に手に入り、自家製のタレでジンギスカンを味わうようになったそうです。
タレも各家庭によって違うそうですが、駅前ストアーの味付けマトンのタレは、夫の酒井正紀さんのオリジナル。リンゴやレモン、洋ナシ果汁に玉ねぎ、パプリカ、おろしニンニク、香辛料など多数の材料をブレンドしているそうです。
土産に購入し、ジンギスカンを楽しみました。
写真は担当のマコトさん作のジンギスカンです。

駅前ストアーでは「ねっか」の焼酎や会津地域の地酒も販売しています。
駅前ストアー

駅前ストアー

福島県南会津郡只見町只見宮前1310-5
TEL.0241-82-2270
営業時間/8:30~19:00
定休日/1月1~3日

ジンギスカンだけでなく、只見町の名物はまだまだたくさんあります。
次回は地元の食と酒を楽しめる店もチェックしたいと思います。

時間に追われず只見線でのんびりと、歴史と酒を訪ねてみませんか。
 


撮影 Studio Activist

河井継之助と酒を訪ねる旅 立ち寄りスポット

この記事を書いた人
長岡・柏崎地域振興局★ふらっと旅を楽しみ隊

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