日本の渚百選に選ばれた海でサウナ! 柏崎市鯨波に根づく風土を生かす「サウナ宝来洲」と「サどころ新潟プロジェクト」/柏崎市


2021年07月10日 11154ビュー
最近ジワジワと人気が広がるサウナ。サウナー(サウナ愛好家)が楽しむひと昔と比べてドラマや本、サウナグッズをきっかけにひとつのカルチャーとして20代から30代の若い方たちから熱が高まっています。
 
さらに新型コロナ感染症の影響によって遠出ができないからこそ、近場のサウナが注目を集めて、お一人様や貸切で安心して利用できるスポットが新潟で増えています。
 
そんな新潟のサウナ事情に何やら変化が起き始めているそう、しかも柏崎市鯨波から。その変化の起点となっている海と溶けあう、アウトドアサウナ『サウナ宝来洲(ホライズン)』に訪れました。
(サウナ宝来洲は海が見えるJR信越本線『鯨波駅』から徒歩3分ほどの距離にある)
(海と山に囲まれた自然豊かなエリアで味わう、極上のサウナ体験が待っている) 

なぜ地方のサウナに変化が起きているのか。海と溶け合う、に秘めた思いとは……。サウナ初心者のライター水澤が、サウナ管理人の小竹屋旅館の杤堀耕一さんにサウナ宝来洲を立ち上げた経緯からお聞きしました。
2021年6月16 日に小竹屋旅館向かいのビーチにサウナ宝来洲をオープンした杤堀耕一さん。旅館経営のほかにも柏崎観光協会の理事や新潟サウナの魅力をプロモーションするサどころ新潟projectの発起人でもある。

サウナ宝来洲 Webサイト / Twitter / Instagram

日本海側海水浴場発祥の地「柏崎市」

サウナ宝来洲がある柏崎市鯨波は、海にまつわる歴史的な出来事に大きく関わっています。
 
ときは1888年5月。柏崎の海は日本海側でもっとも早く海水浴場が始められた土地とされています。当時、陸軍軍医総監を務めた松本順さんが、柏崎に滞在中に海水浴の保健効果を提唱したのがその始まりです。
 
その後、鯨波は日本海側海水浴場の聖地として、加えて日本の渚百選にも入選した海として昭和の時代には賑わいました。杤堀さんにもその記憶が強く残っています。
「私が子どもの頃、海水浴で遊ぶ方たちは県外の自営業の方など羽振りのよいお客様や若者が中心だったことを覚えています。
 
だから、夏の1ヶ月で旅館や売店の売上は1年分の生計が立てられるほどだったので地域全体としても潤っていました。海水浴客相手の商売で皆さん十分生活はできていて、新しい事業を立ち上げる発想はなかったはずです」(杤堀)

海を楽しめるシーズンを拡張するために

杤堀さんが東京での就職を経て戻ったのは2009年。鯨波へ海水浴に訪れる方たちは既にじわじわと減っていました。客層も自営業者や若者から家族へとシフトしていき、海で暮らす人たちの商売に変化が起きつつありました。
 
「(柏崎の)観光協会や協議会に関わるようになって感じたのは、入り込み客数が夏の短期間の天候に左右されてしまうため増減の原因やお客様のマインドの変化がわかりづらいこと。海水浴客が3分の1、4分の1ずつ減少しても天候や景気といった不可抗力、外的要因のせいにしてしまう空気がありました」(杤堀)
「私が帰ってきた頃には海水浴の陰りが見え始めていたので翌年2010年以降新しい海の価値を事業化しようと、シーカヤックや海辺でのバーベキューを始めました。
 
もともと海の近くに引っ越すならと、自分の趣味のためにシーカヤックや釣りを始めようと準備していまして。いざシーカヤックを買って鯨波の海で遊んだところ海からの景観が素晴らしくて。しかも、シーカヤックは海水の温度が冷たい春や秋にもできるので。海の新しい可能性としてレンタル事業をカタチにしていきました」(杤堀)

 
海水浴だけでは夏の1ヶ月しか持たないところ、マリンスポーツや海辺でできるバーベキューを始めることで5月から9月まで遊べるようになって海の可能性がどんどん広がってきたのです。

新潟らしさの具現化するサウナとの出会い

杤堀さんひとりで小竹屋旅館の経営やシーカヤックのツアーガイドなどを行っていたため、自身のキャパシティに限界を感じていたそう。さらに相変わらず天候に左右されてしまう点が解消できないまま、次なる一手を模索する日々が続いていました。
 
さらに、2020年から猛威を振るう新型コロナウイルスに伴い、海水浴場の休場と見通しがみえない現状があいまって苦しい時期を経てきました。
 
「過去には市全体で100万人をこえた海水浴客も、2020年の夏は晴れた休日でも鯨波海岸には10人ぐらいで。9月は悪天候が続き、ワクチンの目処もまだ立たない時期でしたので正直廃業がよぎりましたね。
 
そんなある日、SNS上で複数の知人が投稿していた『これからは地方のサウナ』という言葉を見つけたのです」(杤堀)
日本各地でフィンランド式サウナやテントサウナ、バレルサウナが増えていき、都心以上に地方のサウナが盛り上がりつつある今。杤堀さんは「地方のサウナが大切にすべきは、テロワールなんです」と語ってくれました。
 
「テロワールとは土地固有の歴史や風土、ロケーションを含めてその土地が醸しだすものを意味します。それをサウナで表現できれば新潟独自のサウナカルチャーが誕生する可能性があり、とくに首都圏のサウナーをターゲットに新たな観光になると確信しています」(杤堀)
 
強い決意を感じるほど杤堀さんがそう伝えられるのは、本人が実体験した長野県の野尻湖にある「The Sauna」の存在があったからでした。

自然のままがいい 水風呂と外気浴を味わえる幸せ

杤堀さんがThe Saunaに初めて訪れたのは2020年の9月頃でした。

野尻湖の湖畔にあるログハウスのような外観の薪サウナ。裏山から水を引いて作られた年中冷たい水風呂、木々に囲まれた環境での外気浴は長野ならではの自然の中でサウナを体験できる、至福のひととき。杤堀さんは自然環境を最大限利用したThe Saunaの水風呂と外気浴を体験して、「あっこれだ。うちでもできる」と一瞬で考えたそう。
 
「外気浴にしても水風呂にしても、サウナが必要とする要素は東京より地方がはるかに良いものが揃っています。しかも、私にとってはサウナは冬でも商売になることが何よりも大きかった。
 
海だとマリンスポーツを行っても頑張って半年しか営業できませんでした。サウナなら通年営業が可能なんです。新潟に住んでいたらわかると思いますが、冬のあの海辺で商売ができること自体信じられませんよね。季節風がふき荒れる海辺でですよ笑
(サウナ宝来洲はもともとあったデッキを取り壊して作られた。写真引用:サウナ宝来洲)
 
地方のサウナに可能性を見出したものの初めてのサウナ作りであったため、The Saunaの支配人である野田クラクションべべーさんにコンタクトを取ってプロデューサーとして関わってもらうことになりました。
 
「野田さんは、2020年度サウナーが選ぶ『SAUNNER OF THE YEAR 2020』に選出されたばかりで多忙でしたが、鯨波まで来てもらえて。当時あった海辺のデッキで海を見ながらふたりでコーヒーを飲み、海のサウナの可能性を確認し合いました。その後なんとかスケジュールを調整していただき、プロデュース契約に至りました」(杤堀)
 

地元の工務店と作りあげた「サウナ宝来洲」

プロデューサーの野田さんと杤堀さんが考えた構想をカタチにするためにまず必要だったのが鯨波地域の厳しい気象条件を理解して、かつ設計後のメンテナンスをも踏まえることができる地元の工務店でした。
 
「現在の小竹屋旅館を作ってくれた近所の池田工務店の息子さん (以後、池田くん)にお願いしました。しかも、池田くんは偶然にもサウナの聖地であるフィンランドに新婚旅行へ行ったこともあって(笑) すごく縁を感じました。

野田さんとコンセプトを考えながら、それを元に私がビジュアルイメージを具体化して池田くんに施工方法を相談しながら、全体のプラン作りを進めていきました。
 
ゴールデンウィークにオープンする想定で着工したかったのですが今年の2月は柏崎でもまだ雪が降る日があったため、工事は天気が安定する3月に始めて5月22日にプレオープンできるよう、池田くんが工程の調整を行ってくれました。ゴールデンウィークを挟むことになったため、工程管理や職人の手配は大変だったようです。その間に、私はサウナで使用する椅子や照明器具などインテリアの選定を行いました。」(杤堀)
地元の風土を知ってサウナ作りに生かせる工務店と人との出会いによって、自然環境に適した強い建築が誕生しました。
 
「海と溶け合う、アウトドアサウナ『サウナ宝来洲』では主役はあくまでも海です。だからサウナは、海が楽しくなるための装置であって利用者が気持ちよく海とビーチでくつろげるように設計しています。
 
ここは新潟ですし、わざわざフィンランドっぽいサウナにする必要はない。サウナ室に凝った仕掛けや意匠を取り入れなくても、個性的な地方のサウナは成り立つのです」(杤堀)​

海の水平線が見えるこだわりのサウナ室

サウナ宝来洲がもっとも大切にする海と溶けあうこと。サウナ室でそのこだわりが強く表現されています。
 
「池田くんにはあえてサウナ室はシンプルに、基本性能に重点を置いて作ってもらいました。
 
海へのこだわりの表現としてサウナ室にあるベンチの一段目と二段目、どこにお客さんが座っても水平線が見えるよう、ベンチと窓の高さ関係を綿密に設計しています。

また、醍醐味であるしっかりと熱いサウナにするために、天井の高さはこだわりました。熱気や蒸気がたまりやすい一番良い場所に座ってもらえるよう、座った状態で頭と天井の隙間は拳一個分になる設計です。
 
さらに日々の業務のことを考えて、サウナ室には珍しい小さな薪用搬入扉を設置しました。この扉とサウナ室入口ドアを開放することで、瞬間的にしかも簡単にサウナ室の換気を行うことができ、サウナ室上部の熱を逃がすことなく薪ストーブから出る煙やガスを素早く外に排出できます。換気はコロナ対策としても、快適なサウナ室にとっても実はとても重要なポイントです」(杤堀)
透明度が高い鯨波の海が水風呂として機能し、施設外のシャワーで砂を洗い流してすっきりと。外気浴エリアのベンチで波の音を聞きながら心地よい風に吹かれるゆったりとしたひとときを。極上の『整う』がサウナ宝来洲で待っています。

新潟サウナが選ばれるために『サどころ新潟プロジェクト』で新しい観光需要を創出する

サウナ宝来洲では、5月22日にプレオープンと本オープンしてからこれまでの約15日間の営業日(6月23日現時点)のうち3回利用されたリピーターがいるほど。
 
地元のサウナーだけでなく、県外からサウナ目的に訪れる観光客を増やしていくためにと杤堀さんは県内のサウナ事業者と共同で『サどころ新潟プロジェクト』を始めました。
 
「(新型コロナウイルスの)ワクチンの普及後、必ず旅行需要は拡大します。そうなってから新潟サウナをプロモーションしても遅い。先行投資してサウナを立ち上げた事業者、今一生懸命リニューアルに取り組む事業者の努力が無駄にならないよう、このタイミングを逃さず新潟のサウナを内外にアピールしたいと考えています」(杤堀)
(サどころ新潟プロジェクトに参画するサウナ事業者の一覧)

「参画するサウナはそれぞれ個性を持っていますし、立地する地域の風土も異なります。県内で競合するのではなくお互いを高めあって、それぞれがテロワールをサウナで表現できれば、他県に負けない新潟のサウナ旅を作ることができます。これまで県をあげて研鑽を続けてきた食と宿泊を絡めて、新しい観光の目玉需要を創出できるはずです。

今後は東京で開催されるサウナイベントにも出店して、新潟のサウナ旅を楽しんでもらえるとっかかりを作っていきたいですね」(杤堀)

終わりに

7月中旬以降、水風呂となる海水の温度が25度近くまで高くなるため休業を予定していましたが、「真夏でもサウナ体験したい」というお客さんのご要望に応えて月曜日と金曜に、貸切に限定して予約を承ることとなりました。

海と溶けあう、1年中楽しむことができるアウトドアサウナに進化する『サウナ宝来洲』。サウナ初心者の水澤にとっても鯨波の海とロケーションが、サウナに行きたい欲を自然と高めてくれるものでした。

サウナ宝来洲(ホライズン) / 小竹屋旅館

住所:〒945-0855 新潟県柏崎市鯨波2丁目3−6 小竹屋旅館敷地内
事前予約が必要

10月~の通常営業時の料金
2時間1名様3,000円(サンセットタイム4,000円)
2時間の貸切料金15,000円(サンセットタイム20,000円)

7月~9月の料金
営業は月曜(日中)、金曜(夜)
貸切のみ受付
2時間の貸切料金 25,000円(貸切のみ・冷水風呂付き)
※ご予約はWebサイトから承っています。
Webサイト:https://www.odakeya.com/sauna
メールアドレス:odakeya236@yahoo.co.jp
電話番号:0257-41-6270

サウナ宝来洲(ホライズン)

この記事を書いた人
水澤 陽介(みずさわ ようすけ)

新潟県生まれ、東京、沖縄を経て地元新潟にUターン。2021年2月、三条市の中央商店街に本屋「SANJO PUBLISHING」を立ち上げ、“まちを編集する本屋さん”をモットーにまちの魅力を集め、届けています。 まちを編集する本屋「SANJO PUBLISHING」(https://note.com/ncl_sanjo

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