【前編】新潟で注目の若手シェフの店へ 寿司界に新たな息吹をもたらす「すし 黒衣」/新潟市


2025年12月24日 27ビュー
新潟県は全国でも有数の米どころ。さらに、海・山・野の幸と四季折々の恵みがそろう、食材の宝庫。まさに、日本海側を代表する食の都と言っても過言ではありません。

そんな豊かな環境の中で、ここ数年は35歳以下の若手シェフのお店が続々と誕生しています。基本を大切にしながらも、自由な発想や独自の感性を料理に落とし込み、新潟のフードシーンに新たな風を吹き込んでいます。

数々のお店の中から、今回は新潟市の古町エリアにある2軒のお店を訪ねました。前編・後編と二回に分けてご紹介します。

新発田から新潟へ、新進気鋭の寿司店

まず一軒目は、新潟市中央区東堀通9番町にある寿司店「すし 黒衣(くろご)」。通称「鍋茶屋通り」から9番町方面へ向かい、国道7号線手前にある建物の2階にあります。目立つ看板はなく、まるで隠れ家のように落ち着いた佇まいです。
「黒衣」は、2025年10月にオープンしたばかり。店内はカウンター6席、テーブル席4席のこぢんまりとした空間が広がります。高級感が漂いながらも、肩肘張らずに食事を楽しめる雰囲気を大切にしています。
店主の長嶋直人さん(32歳)は、新発田市の新発田駅前にある「鮨 和食 ながしま」のご出身。曾祖父の代から続く家業に生まれ、自然と料理人になることを意識してきたといいます。新潟市内の和食店や寿司店で修業をし家業に入りましたが、「自身の店で挑戦してみたい」と、独立を決意しました。

「黒衣」という店名は、歌舞伎の世界で黒い衣裳に身を包み、俳優の演技を助ける裏方の“黒衣”から由来。「主役はお客さんです。自分は黒衣として、そっと食事という舞台を支えたいという想いで名付けました」と長嶋さん。

食材は主に新潟産を使用していますが、コースでは、白身・赤身・光り物・貝類と一通りのネタを提供したいという思いから、県外産も臨機応変に仕入れているとのこと。こだわりは、「その日、最もおいしいものを提供する」こと。まっすぐな長嶋さんの思いから握られる一貫には、その心意気が宿ります。
​メニューは、基本的にはコースのみ。各種アルコールも充実の品揃えです。

●昼12時~※完全予約制
・おまかせ握り7,700円

●夜18時~21時(最終入店)
・つまみと握り 11,000円
・おまかせ握り 7,700円
※20時以降は状況次第で単品での提供も可

それでは、実際にいただいた「つまみと握りコース」をご紹介します。

丁寧な仕事が光る、珠玉の寿司コース

●落花生の塩ゆで
まずは、つまみからスタートです。おおまさりという生の落花生を仕入れ、シンプルに塩ゆで。優しい塩味と自然な甘さが際立つ一品です。“肩の力を抜く最初のひと皿”として素朴ながら、素材の状態を見極めた絶妙な火入れが光ります。
● 春子鯛(かすごだい)
「春子鯛」は小鯛の総称。一晩寝かせ、旨味をじんわり引き出しています。やわらかい白身の輪郭をシャリが際立たせ、序盤から心を掴まれる一貫です。

● 鯵(あじ)
ニンニク・生姜・万能ネギなどを合わせた特製の薬味をわずかに効かせてあります。脂のりの良さに負けず、旨味の層を整えるバランスの妙。甘味の引き立ちが印象的でした。

そして、特筆すべきはシャリのおいしさ。赤酢をブレンドし、赤身や白身などどの素材にも合うように仕上げているそうです。米の粒を際立たせた絶妙な炊き具合も印象的でした。
● コリンキーの漬物
昆布塩水に浸すことで、コリンキー本来のやさしい甘みが引き立ち、ほどよい旨みも加わります。後半の脂の強いネタに備え、味覚をリセットしてくれる役割。

● ホタテ真丈
北海道産のホタテをすり身にし、椎茸・三つ葉・長ネギを合わせた香り豊かな揚げ物。ホタテ本来の甘みがふんわりと口の中で広がります。
● まぐろ赤身
さぁ、まだまだこれから。まぐろの中でも、トップクラスのランクを使用。ねっとりと舌に吸いつくような身の質感、そしてシャリとの相性が素晴らしく、赤身特有のおいしさが際立っています。
● コハダ
お店の“看板ネタ”であるコハダ。濃い目の塩水で締めるという独自の方法により、水分は抜けつつもしっとりとした身質が残るそうです。身は硬くならず、絶妙な締め具合。生臭さは全くなく、旨味がふわりと広がります。
● 南蛮エビ
強い甘みが特徴の新潟を代表するネタ、南蛮エビ。黒衣では、身とシャリの間にエビ味噌を忍ばせ、さらに身の上には、殻を炒って作ったパウダーが! ねっとりとした旨味が広がる中に、シャリの酸味が爽やかに立ち上がり、エビの甘さのみならず、香ばしさや濃厚さも余すことなく味わえます。絶品!
● バイ貝
レベルの高い包丁さばきを感じる一貫。コリコリと噛むほどに海の香りが広がります。

● ブリ
血抜き後にしっかり寝かせて脂を落ち着かせた一貫。ほんのり忍ばせたネギの香りがふわっと立ち、旨味の余韻が長く続きます。

● トロの漬け
ただとろけるだけでなく、身の締りと脂の甘みが存分に感じられます。

● うに
軍艦ではなく、香り高いスジ青のりを合わせた挑戦的な一貫。とろける甘さに潮の香りが加わり、立体的な味わいに。
● のどぐろ炙り
とろけるおいしさは言わずもがな。しばらく目を瞑ったまま戻って来れませんでした(笑)
握る直前に炭火の香りをまとわせたことで、脂だけでなく身の旨さも引き立ちます。そしてこちらにも、とある隠し味が。素材の良さだけに頼らず、黒衣でしか味わえないおいしさをとことん追求する、長嶋さんの心意気に感動! もう言葉にならないとはこのことです。
● 穴子
ふっくらと煮上がった身は、口の中でほどける軽さ。タレを控えめにし、穴子の優しい旨味を素直に味わえます。

● 玉子
一度さっと火を入れ、その後じっくり焼く独自の工程によって“雲のような玉子焼き”に仕上がるそうです。コースの締めにふさわしい一品でした。
選りすぐりの地酒とお寿司との相性も抜群で、食体験が一段と広がります。「逸見酒造(新潟県佐渡市)真稜GON」「葵酒造(新潟県長岡市)Maison Aoi Untitled 01」と個性の異なる銘柄が、それぞれに新たな表情を引き出します。

その時期に、もっとも美味しいものを

すし黒衣は、若い世代の新しい感覚と、職人としての確かな技術が同居する、まさにニュージェネレーションの寿司。派手さよりもおいしさを追求し、"理由ある工夫”が込められています。

「あくまで寿司は料理のひとつ。だからこそ、基本を守りながらも美味しさに対しては自由で、正直でいたい」と語る長嶋さん。一貫一貫に物語があり、“今日の味がベストかどうか”を毎日更新し続ける長嶋さんの姿勢が、一口ごとに伝わってきました。これは今後、予約困難店になること間違いありません。

次回後編は、長嶋さんと同年代で仲が良いという、古町の人気店を訪れました。ぜひご覧くださいね!
すし 黒衣(くろご)

すし 黒衣(くろご)

新潟県新潟市中央区東堀通9番町1394-2 2F
TEL:090-2476-4307
定休日:日曜日
営業時間:昼の部12:00~(完全予約制)、夜の部18:00〜21:00(最終入店) 

この記事を書いた人
新井まさみ

富山県生まれ、新潟市在住のママライター。 グルメな夫、子鉄の長男、肉食の長女、リアクション芸人の私、の4人家族。 外食費と娯楽費が家計を圧迫していますが、おいしいモノとたのしいコトを求めて日々開拓中!
Instagram : https://www.instagram.com/maconnect2022/ 

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