美術館に展示されている貴重な茶器で茶席体験ができる!木村茶道美術館/柏崎市


2021年05月12日 969ビュー
美術館といえば、通常は展示ケースやガラス越しに作品を鑑賞するだけ、ですよね。しかし柏崎市にある木村茶道美術館は、実際に展示されている国宝級の茶器を使って茶席体験ができるのです。館長の石黒信行さん曰く、このような体験ができるのは「日本で唯一」とのこと。

情緒あふれる日本庭園に建つ美術館

館は日本庭園「松雲山荘」の敷地内にあります。新緑美しいアプローチは、歩いているだけで爽やかな気分になります。ただし石段などもあるので高いヒールなどではなく、歩きやすい靴で行くことをおすすめします。
ここは木村寒香庵重義翁(1896〜1990年)の篤志により1984年11月に開館しました。翁は戦前より茶道を嗜み、1972年には柏崎市で江戸千家柏崎支部の旗揚げを行い、茶道教師として多くの弟子を育てました。
1983年、生涯をかけて収集した茶道具などの寄付を市に申し出、それを受けて開館したのが木村茶道美術館です。
収蔵品は開館後も寄付などで増え続けており、現在は美術品なども含めると「およそ1200〜1300点」ほどを所蔵しています。

早速館内へと参りましょう。
展示室は2室あり、4〜7月の前期と8〜11月の後期で展示内容が変わります。

「李朝の焼物展」は、個性的な器がずらり

第一展示室では「李朝の焼物展」が開催されていました。李朝とは、13世紀から19世紀にかけて朝鮮に存在した王朝のこと。
中には不思議な形のものがあり、作品名を見ると「無地刷毛目塩笥茶碗」と書かれています。15〜16世紀のもので、日本では室町時代から安土桃山時代にあたります。じつはこれ台所で塩壺として使われていたもの。それをかつての茶人は茶器に見立てて使っていたのだとか。さすがに形が個性的すぎるのか、茶席では用いず個人で愛用していたと伝わっています。口が狭くすぼまっていることから、真冬など寒い時期に重宝したそうです。
石黒さん曰く、李朝の茶碗は形に歪みがあるような、あまり上等ではないものが少なくないそうです。日本の茶人はその不完全な形に侘び寂びを見いだし、愛したのだとか。
その象徴のようなものが「粉引大編笠茶碗」です。これは窯の中で隣の茶碗が倒れて当たったために形が歪み、失敗作として捨てられていました。それが何かの折りに発見され、この歪みに美を見いだした人が茶器として使うことになったのだそうです。うーん、奥深い世界ですね。
中にはバランスの取れた美しい形のものもあります。茶碗の価値を表す言葉に「一井戸、二楽、三唐津」というものがあり、茶人として有名な千利休の侘び茶の世界でいちばん格が高いとされたのが井戸焼きの茶碗です。「井戸茶碗はどうやら神器として作られていたらしく、李朝茶碗の中では完成度が高い」と石黒さんは説明してくれました。
「大井戸茶碗 銘 玉の井」は専門家から「あまねく大井戸の特徴をそなえた名碗」とお墨付きをいただいたもので、近年は佐渡出身で旧三井物産を創設した益田孝(茶人としても知られ鈍翁と号した)が所有していました。

遊び心の利いた演出の「薄茶器と茶杓展」

第二展示室では「薄茶器と茶杓展」が開催中です。
これは「茶杓(抹茶をすくうもの)を作った人物に合う印象の茶入れを組み合わせた」展示となっています。たとえば千利休作の茶杓には、利休好みの渋く地味な黒い茶入れ「黒漆小棗(なつめ・抹茶を入れる器)」が合わてありました。
その隣に置かれているのは、利休七哲(利休の秀でた7人の弟子)のひとり、古田織部作の茶杓です。織部は利休から「何をしでかすか分からないから面白い」と言われていたと伝わっているそうです。その独創性を高く評価された織部には「元はぐい呑みか調味料入れだった器」を茶入れとして転用したものを組み合わせています。
作庭家としても知られる大名茶人・小堀遠州は織部の弟子、つまり利休の孫弟子にあたる人物です。華やかなものを好み、「綺麗さび」と呼ばれる茶の湯の境地を開いたと伝わっています。その遠州には天馬、青海波、梅などをあしらった明時代の赤絵の壺を組み合わせています。

すべてに意味があり、謎かけや遊び心も感じるような取り合わせに、見ていて飽きることがありませんでした。

早春茶席、春を感じる演出たっぷり

いよいよお茶席体験です。
通常、茶室は小さく狭いものですが、ここは多くの人にお抹茶を楽しんでほしいと、18畳の広さがあります。通常は最大で20人が着座できますが、現在は新型コロナウイルス感染症対策で10人ほどに人数を減らしているそうです。
木村重義翁のモットーが「使ってこそ道具」でした。もともと茶器は眺めるものではなく茶席で使うためにあるもの。その思いを汲んで、同館では垂涎ものの茶器を来館者が手にしたり、道具として実際に使われている様子を見ることができるのです。

 


4月の茶席名は「早春」。
床に飾られているお軸は与板出身の日本画家、三輪晁勢の「富士」です。
春になり残雪が残りながらも裾野は青い大地が見えており、春の訪れを感じる季節にぴったりの絵です。

 

床の間で季節の花を際立たせていた花入は、NHK連続テレビ小説『スカーレット』で話題になった神山清子の「信楽砧形花入」でした。
お抹茶を入れる棗はオランダのデルフト窯のものです。別の用途に作られたものを茶器に見立てて使っているのだとか。
じつはここで使われている茶杓(上の写真右)が、キリシタン大名の蒲生氏郷が作ったものなので、それにかけて西洋で作られたものを組み合わせたそうです。なお、氏郷も利休七哲のひとりに数えられる茶人です。
木村翁の流派が江戸千家だったこともあり、開館当初は江戸千家の方がお手前をしていましたが、今はさまざまな流派の方がお茶を点てているそうです。流派によるお手前の違いなども楽しめますよ。
お手前をする方のほかに、お菓子や抹茶をお運びする半東と呼ばれる方がいます。春らしい桜色の着物を着た方がお菓子をお運びくださいました。お辞儀をして、お菓子を受け取ります。
お菓子は柏崎の老舗菓子店「最上屋」の「下萌」です。下萌(したもえ)とは春の季語で、冬枯れの大地から新芽が顔をのぞかせるという状態のこと。お菓子はそんな早春の様子を表現しています。
お菓子の後にお抹茶をいただきます。ひとくち飲むと、ほんのりとした苦みと香りが広がります。ふと横を見ると見事な庭園が目に入ります。こんな素敵な空間でゆったりとお茶を楽しめるとは、なんという贅沢!
お茶をいただいた器は、加藤唐九郎作「志野織部」でした。
茶碗を拝見するときは肘を膝の上の乗せ、落としても割れない高さで見るようにします。高台(茶碗の底にある支えの台)を見たいときは、懐紙を使い残ったお茶がこぼれないようにするといいですよと、教えていただきました。

お茶席では作法が気になるものですが、「初めての人は知らなくて当たりまえ。好気心と感謝の心をもって茶室に入って下さい」と館のホームページにも書かれています。皆さん親切に教えてくれるので、分からない事は気軽にたずねてみましょう。
最後に庭園散策をして帰りました。ここは紅葉の名所として知られていますが、ちょうど春紅葉が紅葉しており、萌える若葉にアクセントを添えていてとても風情ある景色を堪能することができました。

なお茶席は予約不要ですが、人数制限があるため電話で事前連絡した方が確実だそうです。

木村茶道美術館

住所:新潟県柏崎市緑町3-1(松雲山荘園内)
TEL:0257-23-8061
営業時間:午前10時から午後4時30分まで
休館日:月曜日(祝日の場合は翌日)/冬期間(12月〜3月)

料金:展示室 大人500円/小・中・高校生300円
   お茶席(会記・説明・お茶付) 大人1,100円/小・中・高校生800円

木村茶道美術館

この記事を書いた人
aco-akko

アート、映画、文学、建築、カフェ巡り、旅行が大好き。 日常にあるキュートなものを見つけるべく日々アンテナを巡らせています。