地元も観光者も主人公になれる。商店街で空き家をリノベした複合施設 <三-Me.(ミー)> /三条市


2023年04月14日 4905ビュー
日本有数のものづくりのまち、燕三条地域。今注目されているのが、ものづくりをテーマに繰り広げられる漫画やアニメの舞台、ロケ地になっていること。とくに、テレビ放映されたばかりのオリジナルTVアニメ <Do It Yourself!! -どぅー・いっと・ゆあ・せるふ-> とのコラボスタンプラリーを行う三条市内の一ノ木戸商店街が大きな話題に。

聖地巡礼といえば、ここ数年の賑わいという印象ですが、作中に登場する街を巡ってみると新しいお店が存在することに気づく。それが、今回登場する地域の複合交流拠点 <三-Me.(以後、ミー)> です。
<ミー> はもともと、一ノ木戸商店街と昭栄通り商店街、中央商店街の3つが交わる三叉路にある空き家をリノベーションし、2023年2月12日にオープンしました。

「たとえ目的がなくても、<ミー> に関わってくださる誰もが主役になれる。そんな場を目指し、設立したと語るのは、燕三条空き家活用プロジェクトの武田修美さん(株式会社MGNET)と佐藤芳和さん(,and Sato Architects)。よくよく考えると、主役とはどういうことだろう。観光で訪れた人も主人公になれるのか、とお二人に疑問をぶつけるうちに<ミー>で成し遂げたい世界観が見えてきました。
話し手:武田修美さん(左)、佐藤芳和さん(右)。

地元プレイヤーが続々と集うワケ?

三条市の街を長らく象徴してきた商店街。それぞれが交わるY字路に地域の複合交流拠点 <ミー>があります。その拠点に到着するやいなや目にしたのが、衣食が立ち並ぶショーウィンドウでした。

佐藤芳和さん(以後、佐藤):
外から眺めてみて、何屋さんだろうと思いませんでしたか。1階はチャレンジショップ+シェアキッチンとして、多くの団体や人たちとコミュニケーションが取れるようにと設計しています。

立ち上げの経緯については、この建物はもともと<正札堂>という衣料品店兼住宅だったんです。その後、1階はカレー屋さんや事務所といった様々なテナントが入りましたが、2階3階は15年以上空いていました。しかし、ここ数年はずっと空き家だったそうです。オーナーとしても「お店を閉めないといけない。でも、街のためにも頑張る若い人たちを応援するためにも、シャッターを開けないといけない」と葛藤があったそうです。そこから相談を受けたのがこの場所がはじまったキッカケでした。

当初、何をするか決まっていない中で、この指とまれ!とこの場で地域課題に取り組みたい、何かしら始めたい人を募集してみたんです。ありがたいことに、想定よりも多くの反応をもらい、プリン専門店 <GABBY GABBY>や古着のプラットフォームを目指す<FIFTY %>、フリーラウンジを提供する<Luck>など、やりたい気持ちにあふれる人たちと次々に繋がることができました。
佐藤:
改装前、まだ形が見えないときからです。これも、この地に根付くチャレンジ精神によるものだと思います。

武田修美さん(以後、武田):
リノベーションを始める前は、空き家の利活用として移住促進を軸に捉えていましたが、この場所なら新しいことにチャレンジしたい人たちへの橋渡しができるんじゃないか、と。
 
それで、オーナーさんにも事業展開を説明していくうちに、どんどん後押ししてくれて。3階建て、3つの機能(チャレンジショップ、ゲストハウス、住宅)を持つ地域の複合拠点構想に辿り着いたんです。
※プリン専門店 <GABBY GABBY> は、甘さと塩気のバランスが絶妙な一品。オープン当初から完売が続いてきたが、新たな味の開発が進んでいる。

佐藤:
ゲストハウス計画についても、オーナーさんから賛同をもらい、2階スペースを活かしながら着々と準備中です。ゲストハウスを始めようと考えたのも、三条は街中に泊まれる場所が足りていないという思いがあったからです。観光や短期間のお試し移住での住まいとしてゲストハウスを利用し、本気で移住したい人は<ミー>内に支店のある<きら星 燕三条>がサポートする連携が生まれてきました。

武田:
<ミー>を作っていく中で、オーナーさんはじめチャレンジする人を応援する街の気質に助けられました。背中を押してくれるのはうれしいことですし、こうした気質が育まれるまでには、地域の先輩たちの姿が大きい。
 
私が若い頃、先輩たちが成功だけではなく失敗も大切にするありのままの背中を見せてくれましたし、なぜ失敗したのかを真剣に語ってくれました。その姿を今振り返ると、人間らしさを育み、許容する地域文化が生まれたのではないかと思います。現に今も、新しい試みであっても応援してくれる人が多いのは気質のおかげでしょう。

佐藤:
私たちも、<ミー>という集合体でチャレンジする姿を見せながら、失敗さえも伝えていきたい。

誰もが主人公になれる。

※夜18時からは、<Luck from 三>としてフリーラウンジや貸切利用もできる。

燕三条地域では、工場見学を行えるオープンファクトリーを皮切りに観光コンテンツとして楽しめるスポットが整備されてきました。さらに、冒頭でふれたように聖地巡礼、アニメや漫画の舞台となって地域を巡る人たちも増えています。その中で、「(<ミー>では)観光名所や体験スポットを案内するのではなく、この場を訪れた人に焦点をあて続けたい」と語ります。
 
武田:
これまでの地域観光は、いわゆる目的地ありきでした。だからこそこの地に訪れる人がどんな興味関心を持ち、何をしたいのかをカジュアルに語り合える場って大切に感じますね。
 
佐藤:
「まず、あなたのことを教えてください」、その一言です。観光で訪れた人や地元在住であっても、相手を深く知ることは大切です。その先に、自分を表現し、自分で何かできる場、チャレンジしたい人が芽を出せる場に繋がってくると思うんです。
 
何かしたい若者が集まって、「何かしたいこと、ある?」と聞きながら、本人らの自主性を尊重しながら改修する環境を作っています。
※ゲストハウス(2階)と住宅(3階)の様子。同施設のベランダからは、五十嵐川や自然豊かな三条市の風景を楽しむことができる。

武田:
初対面であっても、燕三条地域と<ミー>という共通項があるから結束力が高まるんです。そこから、それぞれの興味関心で枝分かれしていく。私たちは、仲介人として地域に伝える役割なんでしょうね。<ミー>という名称の通り、それぞれが自分を語らい、主人公になれるという想いも込められているので。

佐藤:
パーソナリティを見つめ、拾い上げ、この場から一人でも多くの主人公が生まれるような、サイクルが生まれたらきっとこの街はよくなると思います。それが最終的に街へと還元され、魅力に繋がっていくと信じていますから。

仲介人が語る、三条の好きなところ

今回、お二人のお話から単なる地域住民と観光客との取り組みでは終わらない。<ミー>という集合体としての世界観や、人間らしい社会の在り方。その先に人と人、人と地域との溶けあうなかで生まれる地域の可能性を伺うことができました。最後に、佐藤さんと武田さんから感じる、<ミー>がある三条市の好きなところをお聞きして、締めようと思います。
佐藤芳和さん
好きなところは、地域プレイヤーの多さです。三条市に暮らしている人たちが、街に対して他人ごとではなく自分ごととして捉えているからこそ。さまざまな観光資源を作ろうと取り組んでいる姿が、やっぱり好きです。
武田修美さん
新潟県燕市出身の私からみると、多様性がある街だと感じます。出る杭が多すぎることもありますが(笑)、地域を長らく支えてきた地域プレイヤーたちが、私たちのような若者や新たなチャレンジを受け入れてくれる、懐の深さが好きですね。
地域の複合交流拠点<三-Me.>

地域の複合交流拠点<三-Me.>

住所:新潟県三条市神明町5−3
営業時間:店舗により異なる。HP参照。

この記事を書いた人
水澤 陽介(みずさわ ようすけ)

新潟県生まれ、東京、沖縄を経て地元新潟にUターン。2021年2月、三条市の中央商店街に本屋「SANJO PUBLISHING」を立ち上げ、“まちを編集する本屋さん”をモットーにまちの魅力を集め、届けています。 まちを編集する本屋「SANJO PUBLISHING」(https://note.com/ncl_sanjo