「異様にうまい」と話題の"半生"十全なす漬け 120年続く坂井漬物商店を訪ねて/新潟市


2026年07月25日 18ビュー
夏になるとスーパーや直売所に並ぶ、つややかな紫色の「十全なす」。浅漬けにした「十全なす漬け」は、枝豆と並ぶ新潟の夏の風物詩です。

売り場に色鮮やかな十全なす漬けが並び始めると、「今年も夏が来たなぁ」と感じる人も多いのではないでしょうか(新潟県民あるある?)。自分で漬けたり、お漬物売り場で手に取ったりと、この時期は冷蔵庫に常備しているというご家庭も少なくないはずです。かくいう私もその一人。暑くなると無性に食べたくなる、大好きな夏の味です。

そんな私が昨年、ある店の十全なす漬けを初めて口にした時のこと。そのおいしさに衝撃が走りました。

「……これ、まるでフルーツやん。おいしすぎるーーー!!」

実はこの商品、アナウンサーの安住紳一郎さんがラジオ番組で「異様にうまい」と紹介したほか、俳優の渡辺謙さんもテレビ番組で取り寄せたことがあるなど、多くの著名人の舌を唸らせている代物なのです。

一体、どんな人が、どんな思いでこの十全なす漬けを作っているのでしょうか。今回は、その味を守り続ける「坂井漬物商店」を訪ねてきました。

新潟屈指の老舗漬物店へ

JR新潟駅から車で10分足らず。新潟市中央区の秣川岸通(まぐさかわぎしどおり)にやってきました。今回ご紹介するのは、1907(明治40)年創業の「坂井漬物商店」です。

店内に入ると、「こんにちは!」と笑顔で迎えてくださったのは、四代目の坂井将人さん。現在は専務として店を切り盛りする傍ら、新商品の開発やインターネット販売など、新たな挑戦にも積極的に取り組んでいます。
120年以上の歴史を誇る同店は、長年、漬物の製造・卸売を中心に営み、新潟市内の料亭や割烹、すし店をはじめ、幅広い店舗へ商品を納めてきました。業務用の漬物を数多く手掛け、定食の箸休めや、すし店のガリ、ラーメン店の千切り紅生姜など、実は新潟の食を陰で支えてきた存在なのです。

現在は、製造所に併設した直売所で一般販売も行っており、県内外から多くの人が訪れます。
店頭には、白菜や大根、梅干しといった定番から、赤かぶやきゅうり、みょうが、すいかなどの季節を感じるものまで、さまざまな野菜の漬物がずらり。

越後味噌を使った味噌漬けや、新潟のソウルフード「みかづきのイタリアン」でおなじみの白生姜も発見! どれもおいしそうで、思わず目移りしてしまいます。
年間を通して約30種類の漬物を販売していますが、中でも圧倒的な人気を誇るのが「十全茄子漬」。販売期間は4月中旬から9月ごろまで。それにもかかわらず、販売数は年間10万パックをゆうに超えるという、同店を代表する看板商品です。

年間10万パックと聞くと、大きな工場で機械を使って大量生産している姿を想像しませんか? ところが実際は、その真逆。製造を担っているのは、小さな製造所で働く数名の職人たちです。一本一本の十全なすと向き合いながら、昔ながらの手仕事で仕込んでいます。

ところで、県外にお住まいの方は「そもそも十全なすって何?」と思われたかもしれません。まずは、この漬物の主役である「十全なす」についてご紹介しましょう。

伝統野菜「にいがた十全なす」とは?

画像提供/大越農園(新潟市西蒲区)

看板商品の主役となるのが、新潟を代表する伝統野菜「にいがた十全なす」です。

ころんとした巾着型の愛らしい形と、濃紺に輝くつややかな実が特徴で、一般的な長なすとはひと味違う存在。丸い形から「水なす」を思い浮かべる方もいるかもしれませんが、十全なすは皮が薄く、肉質が締まりながらもやわらかいのが特徴です。浅漬けにすると、みずみずしさとほどよい歯応え、そしてほのかな甘みを楽しめます。
画像提供/大越農園(新潟市西蒲区)

同店では、いくつかの契約農家から十全なすを仕入れています。坂井さんによると、十全なすは天候によって実の育ち方や品質が変わるため、農家と密に連絡を取りながら、その時々で最も良い状態のものを見極めて仕入れているのだとか。

素材のおいしさを大切にすること。それが、120年以上受け継がれてきた味づくりの第一歩なのです。

坂井漬物商店「十全茄子漬」3つのこだわり

一見シンプルに見える十全なす漬けですが、その裏には、坂井漬物商店ならではの工夫が随所に隠されていました。

ここからは、同店ならではの、おいしさを支える3つのこだわりをご紹介します。
 
① "半生食感"を支えるこだわりの塩

同商品は約20年前、三代目であるお父さまが商品化したもの。そして、現在の味へと磨き上げたのが、四代目の坂井さんです。

転機となったのは、取引先の料理人から「うまいんだけど、もう少し味を見直した方がいい」と助言を受けたことでした。

「以前のままでもお客様から支持されていましたし、言われた当初は『これがうちの味だから』と流していたんです。でも、あの時にちゃんと耳を傾けて取り組んでいなかったら、今、こんなに売れていなかったと思います」と当時を振り返る坂井さん。

その言葉が心に残り、しばらく経ってから半信半疑で試作を開始。試行錯誤の末にたどり着いたのが、現在の「十全茄子漬」です。当初より塩分を抑え、切り口はまるで生のよう。それでいて、食べるとしっかり味が入っているという、"半生"のような新たな食感です。
その味を支えているのが、沖縄の海塩「シママース」。一般的な塩より高価ですが、まろやかな塩味で素材本来のおいしさを引き立てることから採用しています。

塩味が強すぎれば色も食感も損なわれ、薄すぎれば物足りない。その絶妙な塩梅を追求した先にあったのが、十全なす本来の甘みとうま味を最大限に引き出す、同店ならではの"半生食感"でした。
 
② 一本一本、手仕事で仕上げる職人技
画像提供/坂井漬物商店

続いてのこだわりは、なんと、ヘタ!

「ヘタなんて、どこで切っても同じだと思うでしょう?」と坂井さん。はい、確かにそう思いました(笑)。ところが、そもそもヘタを付けたまま漬けるのと、取って漬けるのとでは仕上がりが違うのだそう。さらに驚いたのは、ヘタを切る位置や切れ込みの入れ方一つで、漬かり具合はもちろん、色や味まで変わってしまうということです。

「切り過ぎると塩が入り過ぎてしまうし、逆に浅いと味が入らない。だから一本一本見極めながら切っています」。(坂井さん)

十全なすは、一つ一つ大きさも形も異なります。その日のなすの状態を見極めながら、包丁を入れる位置や深さを細かく調整していくとは……まさに職人技ですねぇ。1パック3個入りで年間10万パック以上を販売しているので、仕込む十全なすは約30万個! その一つ一つと向き合いながら培われた経験が、唯一無二の味を支えているのです。
 
​​③ おいしさは畑から始まる
画像提供/大越農園(新潟市西蒲区)

坂井さんが何度も口にするのは、「いい十全なすがなければ、おいしい漬物は作れない」ということ。

実は、十全なすはとても栽培が難しい野菜なのだとか。乾燥や猛暑、長雨など天候の影響を受けやすく、水管理や病害虫対策にも細やかな気配りが欠かせません。さらに一般的なナスに比べて収穫量が少ないことから、栽培する農家は年々減っているそうです。

だからこそ坂井さんは、長年付き合いのある契約農家との信頼関係を何よりも大切にしています。
「農家さんがいなくなったら、私たちも商売ができません。だから、無理な値段交渉はしないんです」。

目先の利益ではなく、生産者が安心して十全なすを作り続けられることを大切にする。その積み重ねが、おいしい十全なす漬けを未来へつないでいくことにもつながっています。

畑で愛情を込めて育てる農家、そして、その思いを受け取って漬物へと仕上げる坂井漬物商店。一袋の十全なす漬けには、新潟の夏を支える人たちの思いが、おいしさとともにぎゅっと詰まっていました。

​新潟の夏を味わってみませんか?

取材後、もちろん「十全茄子漬」を購入して、夕食でガブリと丸かじりしました。

パリッと心地よい歯応えのあとに、みずみずしい水分がじゅわ~っと広がります。なんだかフルーティーな香りが漂い、漬物なのにまるで果物のよう。そして噛むほどに、十全なす本来の甘みとうま味が感じられました。相棒のビールが、まるで水のようにスルスルと喉を通るのはなぜ~?!

安住アナがおっしゃった「異様にうまい」という言葉、とっても分かります。異様にうまいんです、異様に。
直売所以外で販売しているところはないかって? ご安心ください。県内各地のスーパー「原信」や東京にある新潟県のアンテナショップでも購入できるほか、オンラインショップからもお取り寄せできます。詳しくは、下記の店舗情報をチェックしてみてください。

県外の方はもちろん、新潟県民の皆さんにも、ぜひ味わってほしい「十全茄子漬」。一口食べれば、あっちぇ新潟の夏がもっと好きになりますよ!
坂井漬物商店

坂井漬物商店

住所 新潟県新潟市中央区秣川岸通1-2305
電話 025-222-5326
営業時間 8:00~18:00
定休日 日曜・祝日

【十全茄子漬 販売店(2026年7月現在)】
・原信 全店舗
・カトウ食材 下所店
・峰村醸造直売店
・ぽんしゅ館 新潟驛店
・新潟みやげ CoCoLo新潟2F EAST SIDE
・明治屋新潟ストアー
・銀座 新潟情報館 THE NIIGATA(東京都)

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この記事を書いた人
新井まさみ

富山県生まれ、新潟市在住のママライター。 グルメな夫、子鉄の長男、肉食の長女、リアクション芸人の私、の4人家族。 外食費と娯楽費が家計を圧迫していますが、おいしいモノとたのしいコトを求めて日々開拓中!
Instagram : https://www.instagram.com/maconnect2022/