ふるカフェ系にも登場!歴史ある古民家・林富永邸でいただく極上の発酵メニュー。CAFE HAYASHI/上越市


2022年09月05日 21576ビュー
雪国ならではの名家建築…として、NHKの人気番組「ふるカフェ系 ハルさんの休日」で紹介された上越市林富永邸。1883(明治16)年に建てられ、2007年に上越市指定文化財として認定されたその家を守り受け継ぐために、週末・祝日限定のカフェとして一般公開されています。
屋敷が建つ場所はかつては高田藩直轄の造林所で、地元の人たちからは「御林(おはやし)」と呼ばれていたそうです。この家は富永家なのですが、屋号は林を加えて「林富永」と名乗るようになったのだとか。
屋号の由来を感じさせる、木立に囲まれたアプローチの向こうに邸宅が見えます。

豪雪のときは2階が玄関!

こちらが番組内で「雪国ならでは」と紹介された建築になります。
一見すると普通の玄関のように見えますよね。林富永邸は中山間地にあるため市街地よりも雪が多く積もります。時には1階部分が完全に雪に埋まってしまうことがあり、そうなると2階から出入りしたのだとか。玄関の2階の窓が、冬場は出入り口として機能していたのです。
邸内から外を見ると、その高さがよく分かります。この部屋は屋敷の人たちからは「靴脱ぎの間」と呼ばれていました。
南向きで日当たりが良く、春から秋にかけては女中さんの針仕事の部屋として使われていたそうです。通常は非公開ですが、年3回行われるイベント「上越名家一斉公開」のときには、この部屋も見ることもできます。
ただし急な階段を登るため、足元には十分お気を付けください。
こちらが1階の玄関です。ここでは上り框(かまち)に要注目。写真では分かりにくいですが、場所によって奥行が3つに分かれているのです。
いちばん短い框は使用人、中くらいはご近所などの身近なお客さま、長い部分はやや格の高いお客さまと、使う部分が違ったそうです。家の格と歴史を感じますね。
主屋の床面積は、約250畳になります。
入ってすぐの広間は、天井がなく梁を見せた豪快な作りです。
豪雪に耐えるために、太くて立派な梁が2本も使われています。昔の建築様式を目の当たりにできる貴重な空間です。

勝海舟の書、自然を借景にした庭など見どころたっぷり

邸内にはところどころに花が活けられています。ぜひそちらにも注目を。ひとつとして同じものはなく、その場の雰囲気に合わせた花器や草花があしらわれており、見ているだけで心和む空間になっています。
奥座敷の注目ポイントは床の間の違い棚です。2段のものはよく見ますが、こちらは3段の設えになっています。
林富永邸はこれ見よがしの豪華な造りではなく、細かいところがさりげなく凝っているのが特徴のひとつです。
富永家の五代目当主・虎太郎は、「日本ワインの父」と呼ばれる岩の原葡萄園の創業者・川上善兵衛と親交があり、善兵衛がたびたび家を訪れたのだとか。あるとき一緒に来訪したのが、その善兵衛に葡萄酒を教えたと言われる勝海舟でした。奥座敷にはその勝海舟揮毫の書が、狩野派の屏風とともに飾られています。
書かれている言葉は「臥起弄琴書」。中国の詩人・陶淵明の漢詩の一節です。「寝ても覚めても、琴や書を楽しむ」という意味の実に風雅なひと言です。林富永邸には水琴窟があり、それにかけて「琴」の出てくる詩を選んだのではないかと伝わっているそうです。
自然豊かな場所にある邸宅で心安らぐひとときを過ごした勝海舟は、こんなところでゆっくり読書や音楽を楽しんで過ごせたら…という思いを込めたのかもしれません。
庭園は杉苔が敷き詰められた枯山水庭園になっています。数百年経つ名木などが植わっていますが、それ以外に目立ったところはありません。しかしこの庭、実にダイナミックな仕掛けがあるのです。
西側の庭を見るときに、眼下に見える田んぼを海に見立てるという趣向です。古来より日本庭園は水辺に信仰対象を置きます。水田の遥か向こうには鉾ヶ岳や権現岳、妙高山など信仰の山が見えるのです。つまり大自然を借景にし、西方浄土を表しているのです。
庭園は通常は屋内から鑑賞になりますが、「上越名家一斉公開」時には実際に庭を散策しながら、この絶景を楽しむことができます。

料理研究家が手掛けるカフェメニュー

歴史あるこの場所を、維持・保存するだけでなく活用することで後世に継承しようと、2020年6月に「CAFE HAYASHI」をオープンしました。手掛けたのは7代目当主の娘さんとそのご主人です。「せっかくこんな素敵な場所があるのだから、活用して屋敷の維持管理のためのビジネスにできればというポジティブな思い」から開業を決めたとご主人の酒井宏明さんは話します。「この場所をカフェにすることで、上越を訪れた人たちが立ち寄れるスポットのひとつになれば」という思いもそこにはあります。
客室は全部で3つ。ひとつが中庭を眺める個室。
もうひとつが、かつて僧侶などが訪れた際に控えの間として使われていた個室。
そして、苔庭を望めるお席になります。
こちらのお席で、発酵をテーマにした数量限定のメニュー「八酵手織り箱」(税込2,500円)をいただきました。二段重ねになっており、上段が軽食、下段がスイーツ、それにドリンクが付いたセットで、和のアフタヌーンティーをイメージしたそうです。なお季節の食材を使っているため、メニュー構成はその時々で変わるそうです。
右側が上段の軽食、左側が下段のスイーツになります。お料理を手掛けている酒井里香さんは料理研究家で、料理教室を15年以上続けている方です。海外生活をきっかけにテーブルコーディネートに目覚め、東京ドームで開催される日本最大級の“器の祭典”「テーブルウェア・フェスティバル」で2015年度に優秀賞を受賞したという経歴の持ち主でもあります。
CAFE HAYASHIのコンセプトは文化財カフェと、発酵+スイーツカフェです。上越は湿度が高く、酒や味噌などの醸造に向いた地域と里香さんは話します。サラダの手前に置かれているのは、レモンと麹のオリジナルドレッシングです。鶏ハムは塩麹を使って柔らかく仕上げ、アクセントとして醤油麹が乗せられています。その隣の厚揚げはトマトと味噌を合わせたトマト味噌に、クリームチーズを乗せてこんがりと焼き上げました。新潟らしいご飯物として、クルミ味噌をあしらったけんさん焼き、塩麹と味噌で味付けしたスープに漬物と、まさに発酵尽くしのメニューが並びます。
新たに用意したものもありますが、スープが入っている器などは林富永邸にもともとあった器を使っているそうです。
料理はどれも優しい味で、体に沁みるような美味しさでした。
スイーツの段は、右から味噌と大豆のロールケーキ、酒粕を使ったパウンドケーキをスティック状にカットしたもの、もなかの皮にクリームと柴漬けを乗せたもの、豆乳と酒粕のヨーグルトとクリームチーズで作ったレアチーズケーキ、発酵あんこの白玉あんみつになります。
こちらのあんこは、麹と小豆を発酵させた「生きているあんこ」で、甘くないので黒蜜を掛けていただきます。メニューによっては材料を寝かせるだけで1週間程度かかるものもあるそうです。
時の流れを感じる古民家で、地元の酒粕や麹などを使った手間ひまかけた発酵料理をいただく…なんという贅沢なひとときでしょうか。

ふるカフェ系の放送以降、来訪者が急に増え、遠くは九州から来られた方もいるそうです。席数が限られているため、確実に行きたい方は事前予約をおすすめします。

CAFE HAYASHI(林富永邸内)

住所:新潟県上越市三和区神田2245-24
TEL:025-532-2602
営業日:金・土・日曜日、祝日 ※不定休あり
営業時間:午前10時から午後5時
※席数が限られているため、予約優先となります。

CAFE HAYASHI(林富永邸内)

この記事を書いた人
和田明子

長岡市のリバティデザインスタジオで、夫とともにグラフィックデザインやコンテンツ制作を行う。アート、映画、文学、建築、カフェ巡り、旅行、可愛いものが大好き。ウェブマガジン「WebSkip(https://webskip.net/)」も細々と更新中