三条市のまち、あたらしいシンボルへ 複合施設「まちやま」に潜入した/三条市


2022年09月08日 10078ビュー
日本有数のものづくりのまち、燕三条地域。ものづくりとひと口にいっても工場見学を行えるオープンファクトリーを始め、観光コンテンツと結びつきが強いエリアです。燕三条地域のうち三条市に焦点をあててみると、ものづくりの文化を育んできたのが三条総鎮守八幡宮エリアだったそう。神社とものづくりと聞いて意外に思われるかもしれませんが、三条市在住で著者の水澤からみても、確かにと思う。

三条総鎮守八幡宮を中心に市街地と歓楽街、長らく続く工場とが混じり合う。ほど良い近さには、信濃川や五十嵐川の土手沿いなどの自然豊かな原風景が残っているエリアなんです。さて今回、ご紹介するのはそのエリアで新たにオープンした図書館等複合施設『まちやま』です。まずは、その施設をご覧ください。

※まちやまのオープンに合わせて公開されたプロモーションビデオ(クレジット:NANKOTSU
ひときわ目立つスケールの大きい建物! なのに木がふんだんに使用され、どこか温かみが感じるデザイン性。一見、図書館だとは思えないほどです。<学ぶ・見る・触れる>をコンセプトに作られたまちやまは、世界的な建築家である隈研吾氏が手がけ、人と人のつながりを活性化させる場になるようにと心がけたよう。

ここでふと疑問が浮かびます。

ものづくりのまち、三条市を観光で訪れた人たちはまちやまをどう楽しめばいいのだろうかと。今回、まちやまの構想から企画運営に携わる『ツクール・ド・さんじょう』の長野源世さん(NPO法人えんがわ)と篠原智子図書館長(株式会社ヴィアックス)、そして泉田陵さん(三条市市民部生涯学習課)の3名にまちやまの楽しみかたと観光とのつながりを聞きました。
※左から順にNPO法人えんがわの長野源世さん(左)、株式会社ヴィアックスの篠原智子図書館長(中央)、三条市市民部生涯学習課の泉田陵さん(右)

まちやまの遊びかたは自然に生まれている

※図書館フロア(1階〜3階)には26万冊以上の本が揃っている

古き良き街並みが残る、三条市元町。三条総鎮守八幡宮からは徒歩5分、まちやまはその一角にオープンしました。

まちやまとは複合施設の名称の通り、本館となる図書館内に『鍛冶ミュージアム』とカフェ『bibliothèque café Aï-DA(ビブリオテックカフェ アイーダ)』(1階フロア)が併設。他にも、サイエンスホールがある『科学教育センター』や、まちなか広場にある『ステージえんがわ』と『三条スパイス研究所』がある施設一体型のエリアとなります。さらに屋外には芝生や遊歩道があり、屋外スペースで過ごすこともできます。

図書館だけではなく、まちなかの南北エリアを横断しながら楽しむ姿を見かけるようになったと篠原図書館長は話します。

「まちやまは図書館としての使い方以外にも、利用者が思い思いに描いてもらいたいと考えて設計されています。最近見かけるのは例えば、芝生の上で思い思いにくつろいだりカフェ アイーダでコーヒーを優雅に飲んで楽しんでいる姿など様々です。

図書館を訪れて本を読みふけるのもうれしいですし、ここ一ヶ月で利用者のみなさんによって使い方の多様性が認識され始めたと感じています」(篠原)
※まちやまには駐車場(123台)と駐輪場(50台)が完備されている

新潟県に限らず、地域の居場所やネットワークづくりとして図書館が注目されている今。まちやまも従来の図書館機能にとどまらず、利用者一人ひとりとつながるために遊びかたを尊重しているのだろう。そして図書館といえば本、その選書にもこだわりを見せます。冒頭でお伝えしたように三条市はものづくりのまちとして国内外に広く認識されていて、1階の特設コーナーには“ものづくり”に特化した書籍が並んでいます。

「鍛冶ミュージアムを併設するにあたって、どのように図書館や科学教育センターなどと連携しようかと考えたときに、やはり本だなと。例えば、鍛冶ミュージアムで展示品を見て、鍛冶に興味が湧いたときに自分で調べてもらう。また、科学教育センターで行う実験の授業で金属の変化などを学び、それがきっかけで鍛冶を調べるということもあると思います。また、鍛冶職人さんとお話しする中で、『せっかく鍛冶ミュージアムと図書館が一緒の建物に入っていて、ものづくりのまちにある図書館なんだから、ものづくりに特化した本が並んでると良いよね』という意見もいただいていました。そのような経緯もあり、学芸員と私でものづくりに特化した本を選定し特設コーナーに設置しました。このコーナーをきっかけに、将来的に鍛冶職人を目指すなんて人が現れてくれたらめちゃくちゃ嬉しいですね」(泉田)

「私たち、図書館員としては選ばないような本がたくさんあります。書庫に眠る古書はじめ本そのものに日の目が浴びていると感じています。鍛冶屋さんご自身もしばしば訪れてくれるのでうれしく思いますね」(篠原)

伝統文化からサークルまで 土地に根付くコミュニティを醸成したい

※まちやまは旧三条市立三条小学校の跡地に建てられた

「まちやまの駐車場もたくさんご用意できたので、これからは三条総鎮守八幡宮エリアの工場とも連携していきたい」と篠原図書館長は補足します。その理由を聞くと、まちやまが建築着工した2020年。もっといえば計画段階であった10年前ほどから三条市の住民にとって多大なる期待を寄せられた土地だからという。

「まちやまがある土地にはもともと、三条市立三条小学校の跡地だったからね」と長野さんは静かに語り始めます。

「三条小学校とは1872年に設立した市内でもっとも古い小学校。小学生たちの教育の場として機能してきた広大なグラウンドとプール、体育館は地域住民にとっても大きな役割がありました。例えば、合唱コンクールの練習会場や町内祭りでの集まりなど、伝統文化から始まって小さなサークル活動までこの土地と建物が活用され、コミュニティが生まれて発達してきた場だったんです。

しかし三条市では高齢化が進み、この土地を中心に集まってきたコミュニティは自然消滅してしまい、外で集まる機会さえ失っていったんです。2017年には三条小学校が閉校に決まった。
三条育ちの私にとってそれは寂しい気持ちがあって。学校がなくなっても新しいコミュニティが生まれる場として2016年にステージえんがわが立ち上がったんです」(長野)
※ステージえんがわと同時期に発足されたスパイス研究所は、まちやまのオープンに合わせて飲食メニューのリニューアルを行う

ステージえんがわはもともと、三条市の旧学校給食センターの跡地に設立されました。同施設内にあるスパイス研究所とともに、食を起点にする新しくコミュニティを創出してきました。今回、団体(ツクール・ド・さんじょう)を立ち上げることで、高齢になっても地域で元気に暮らせる社会を目指すスマートウエルネスシティの考えを取り入れていくという。

「三条小学校に縁がある私としては、この土地が元気になる企画を考えていきたいと思っています。具体的には、この土地と空間を生かして子どもも大人も一緒に地域について学び、給食を食べられる『まちやま招学校』を開校したいと検討しています」(長野)

「三条総鎮守八幡宮エリアは古くからあった文房具屋や工場が無くなったりと、長野さんのお話しのとおり高齢化の進展や空き店舗などの増加により、かつてこの地域が有していた交流拠点としての機能が失われつつありました。このような時代背景を踏まえ、より多くの人が出掛け、そこでの交流から新たな活動が創出されていくような好循環を生み出すための仕掛けについて、ハードとソフトの両面から検討を進めてきました。

まず、ハード面で様々な活動を活発化させるため、施設機能を有機的かつ効果的に結び付けるという観点から施設機能の集約化、複合化の視点が不可欠であり、三条小学校の閉校後に生まれる跡地スペースを最大限有効利用し、これまで以上に交流やにぎわいを創出していくエリアとしての面整備を図る必要があると考えました。

そこで、旧三条小学校跡地について、隣接するステージえんがわを含めた一帯の敷地と捉え、老朽化が進み、新たな施設の設置要望があった図書館機能を始め、鍛冶の歴史や魅力を伝える鍛冶ミュージアム機能とものづくりのDNAを次代に育む科学教育センター機能を兼ね備えた新たな図書館等複合施設を設置することに決定し、事業を進めてきました」(泉田)

まちやまを帰着として外に出かけよう!

※ビブリオテックカフェアイーダの人気メニューといえば、地元食材を使うフランス風そば粉のガレット(600円〜)

まちやまにはオープン1ヶ月間で来場者数10万人を超え、三条市外から訪れる人たちも徐々に増えています。ここでまちやまに訪れた人にお薦めする三条の街並みコースはありますか、と著者のわがままに応じて3名それぞれにお出かけスポットを教えてもらいました。

篠原図書館長
「先月、開催された三条夏まつり大花火大会(8月)の日が象徴的でしたね。家族で訪れてもらい、お父さんと子どもたちは児童コーナーで絵本を読んでいて。お母さんはビブリオテックカフェアイーダでガレットを食べてお茶で一息し、思い思いの時間を過ごしていました。そして、花火が打ち上がるタイミングでまちやまに集合して、会場に向かっていました。

まちやまはまちにできた山、つまりは畳部屋(2階)でくつろいでもらってもいいですし、1階のカフェで休憩してもいい。また屋外に出て、市全体を俯瞰してみてもらっていいんです。まさに、山のふもとから山頂まで大いに遊んでもらいました」
長野源世さん
「このエリアはシーズンごとに楽しめる地域行事が盛りだくさんです。春は三条祭り、秋に『燕三条 工場の祭典』と観光の目的が変わる不思議な土地です。

その中で私がお薦めするスポットは三条総鎮守八幡宮。社内には刀の形をした石碑がありまして、幕末時代に名刀工と呼ばれた栗原信秀さんが当時天皇に納めた名刀だと言われています。私自身三条育ちで毎日のようにここに通っていたのですが、その石碑が何かとは知りませんでした。

でも、大人になって三条に帰ってきて地域ごとに関わっていくうちに、三条には素晴らしい歴史があるんだなとわかりました。石碑もそのひとつ。他にも、クジラ雑炊などおもしろい食の文化があるのでぜひ立ち寄ってほしいですね」
※歴史民俗産業資料館はまちやまから徒歩5分圏内にある

泉田陵さん
「お話に乗っかると鍛冶ミュージアム、そして三条総鎮守八幡宮で三条鍛冶の歴史や鍛冶職人の技術にふれてもらったら、次に向かってほしいスポットとしては隣接する三条鍛冶道場ですね。三条鍛冶道場では、自分で鎚を振って炉で赤めた熱い鉄を打つなど、実際に和釘をつくる体験が出来ます。その足で、さらに三条総鎮守八幡宮で歴史にふれたり、周辺地域にあるオープンファクトリーなどで職人たちが作っている姿を間近で見てものづくりを体感してほしいですね」

篠原図書館長
「そうなると最後は三条市歴史民俗産業資料館でしょうか。歴史民俗産業資料館ではものづくり以外にもまちと結びつきが強い伝統文化や行事を解説しています。例えば、三条市の伝統行事である三条凧合戦の凧はタコではなく、イカと呼ぶとかね。三条生まれでも初めてここに訪れた方でも、意外と知られていないことが多いですからね」

終わりに

「(公開される時期だと)五十嵐川の土手沿いをサイクリングするのがいいですよね。下田地域の入り口まで自転車で15分程度ですし、過去に鍛冶の材料として使われていた砂鉄も五十嵐川で取っていたと言われますし。原風景を眺めながらこのシーズンだと涼しくなってきた三条を満喫できると思います。まちやまでレンタサイクルを始めようかな」(長野)

どっとあふれ出る三条の魅力と遊べるスポット。三条在住であっても知らないことがたくさんあったので、今回のお話をもとに三条市を巡ってみようと思います。
図書館等複合施設『まちやま』

図書館等複合施設『まちやま』

住所:〒955-0072 新潟県三条市元町11−6
営業時間:9:30~22:00
休館日:第3月曜日
毎月の末日(土日祝日、月曜日の場合は直前の平日)
年末年始(12月28日~1月3日)
電話番号:0256-32-0657
※9時30分~17時(ただし、休館日は除く)
※科学教育センター直通TEL.0256-46-0262
Webサイト:https://www.city.sanjo.niigata.jp/

この記事を書いた人
水澤 陽介(みずさわ ようすけ)

新潟県生まれ、東京、沖縄を経て地元新潟にUターン。2021年2月、三条市の中央商店街に本屋「SANJO PUBLISHING」を立ち上げ、“まちを編集する本屋さん”をモットーにまちの魅力を集め、届けています。 まちを編集する本屋「SANJO PUBLISHING」(https://note.com/ncl_sanjo

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