八海山を望む池田記念美術館でアート、文学、スポーツにふれる/南魚沼市


2025年06月30日 22ビュー
霊峰・八海山を望む「八色の森公園」内に立つ「池田記念美術館」。ベースボール・マガジン社や恒文社の創設者で、野球殿堂入りも果たした池田恒雄さんによるコレクションが公開されています。その内容は野球・オリンピック・相撲を中心としたスポーツ、日本初の女性洋画家ラグーザ・玉などの絵画、今秋放送予定のNHK連続テレビ小説『ばけばけ』で注目が集まる小泉八雲(ラフカディオ・ハーン)に関する資料など多岐に渡ります。

水の流れに導かれ開放的なエントランスへ

館内に入ると、雄大な自然が一望できる広々としたエントランスホールです。出迎えてくれるのは二つの像。一つは宮沢賢治文学の主人公をモチーフにした「風の又三郎」、そしてもう一つがこの館の創始者・池田恒雄さんの像です。
館の創始者である池田恒雄さんは、1911年小出町(現魚沼市)に生まれました。早稲田大学に進学し、在学中には雑誌「野球界」の編集に携わります。1946年にベースボール・マガジン社を設立。「出版を通じて野球の発展に貢献するとともに、常にフェアプレーの精神を訴えた」という理由で、出版界から唯一の野球殿堂入りを果たしました。選手本人の前で言えないような記事は書かないというジャーナリズムにおけるフェアプレーを評価されてのことでした。

ファン垂涎のコレクションがずらり

池田コレクションは全部で約3,500点あり、展示しているのはそのごく一部。不定期で展示替えを行っているそうです。スポーツに関するコレクションは1階の「スポーツ文化展示室」で見ることができます。
こちらは相撲に関するコレクションです。化粧まわしや手型など、見ているだけで実際の力士のスケール感が伝わってきます。
大鵬や北の湖などの大物力士を描いた相撲絵もあります。さらに力士だけでなく、その美声ゆえに人気を集めた「呼び出し小鉄」という伝説の呼び出しを描いた絵画に加え、なんと力士本人が描いた水墨画風の絵画などさまざまなタイプの作品が並んでおり、相撲に詳しくなくとも十分に楽しめる内容になっています。
スポーツの祭典・オリンピック関連の展示もあります。吉田町(現燕市)出身のグラフィックデザイナー・亀倉雄策さんが手掛けた1964年のポスター、村松町(現五泉市)出身の体操選手で金メダリストの加藤澤男さんが所蔵する審判員のブレザーなど、本県ゆかりの所蔵品が並んでいます。

往年の名選手から大谷翔平選手まで

野球コレクションは往年の名選手から、現役の選手まで幅広い年代がずらり。江夏豊選手、野村克也選手、佐々木朗希選手のサイン入りユニフォーム、松井秀喜選手、イチロー選手、大谷翔平選手のサインボールなどなど。ため息が出るような展示です。
アメリカの1900年代初頭のベースボールカードも展示されています。当時タバコに封入する形でカードは配布されていました。ベースボールカードは収集の対象となりましたが、今ではホーナス・ワグナーという選手の希少カード(所蔵品ではありません)に、なんと700万ドルもの価格が付くほど加熱しているそうです。
カードの隣にはベーブ・ルースを描いた絵画もあり、アートでアメリカ野球を感じることができます。
プロ野球選手の彫刻作品も複数あります。こちらは「ミスタープロ野球」こと長嶋茂雄さんの像です。手掛けたのは、日本近代彫塑界の最高峰と評された彫刻家・朝倉文夫さんの次女、朝倉響子さんです。
取材で訪ねたときは、ちょうど長嶋茂雄さんが亡くなられた直後ということもあり、写真が多数置かれ、展示室入り口には記帳台も設けられていました。(記帳は6月22日まで) 
企画展示室は1階と2階に分かれています。企画展はおよそ年に10回程度開催され、取材時には「世界とつながる書の魅力展」が開かれていました(7月12日まで)。
今年秋には、10月から始まる小泉八雲の妻をモデルにしたNHKの連続テレビ小説『ばけばけ』に合わせた企画展を予定しているそうですよ。

『ばけばけ』で大注目! 小泉八雲の資料展示

2階にはその小泉八雲の文学資料室があります。池田恒雄さんは恒文社という出版社の創業者でもありました。同社が八雲の全集、文学アルバムなどを出版していた縁で、八雲のご遺族から直筆原稿や書簡など、小泉家秘蔵の資料を託されたそうです。
展示は八雲の人生を、幼年から晩年まで辿れるような構成になっています。家族とやり取りをした手紙やアルバムなどもあり、八雲の人柄が偲ばれます。手紙には吹き出し付きのマンガのようなイラストが添えられているものもあり『怪談』を書いた文学者ラフカディオ・ハーンとはまた違った、家庭人としての一面も見ることができます。
ぜひ見てほしいのが、タッチパネル操作で見る展示です。中でも「場所をたどる」という項目は、大型の地図とリンクしており、八雲がいつの時代にどんな場所で活躍していたのか、一目で分かりますよ。
『ばけばけ』のモデルになった八雲の妻、小泉セツが集めていた「明治役者のブロマイド」も公開されていました。収集の背景にはセツの芝居好きがあったと解説パネルには書かれています。大好きな趣味に熱中して、何かをコレクションする…昔も今も変わらないなあと微笑ましい気持ちになりました。

常設展示室の目玉はラグーザ・玉の絵画

2階には常設展示室があります。入り口では新潟を代表する歌人、書家の會津八一のブロンズ像がお出迎え。室内には八一の書画も多く展示されています。
常設展示の目玉は、江戸時代生まれで日本初の女性洋画家として活躍したラグーザ・玉(清原玉)の作品でしょう。明治時代にイタリアに渡って美術学校で絵を学び、海外で高い評価を受けた女性です。ラグーザ・玉の絵画をコレクションしている美術館は少なく、ここは彼女の絵をじっくりと鑑賞できる貴重な館の一つです。
ブルガリアを代表する画家の一人、ヴァシル・ストイロフは生前日本で展覧会を開催。池田恒雄さんがそれに関わっていたことがきっかけで交流が生まれ、水彩画やデッサンの作品収集につながったそうです。ストイロフはパリ在住時に藤田嗣治とも交流を持ち、彼の肖像画を描き残しています。

八雲好みのコーヒーでひといき

鑑賞の後は1階エントランスの奥にある「イケビカフェ」でコーヒーはいかがでしょうか。小泉八雲は著書『クレオール料理』の中で、コーヒー豆の種類、淹れ方について書いています。それを元に八雲が暮らした松江市にある中村茶舗が作ったオリジナルブレンド「ラフカディオ珈琲」(350円)が味わえるのです。館の紹介看板には「小泉八雲が愛した味と香りを今風に再現」と書いてありました。光の池を眺めながら、地元洋菓子店ハックルベリーのクッキー(210円)と一緒にいただきました。
エントランスにはミュージアムショップもあります。スポーツ関連のグッズのほか、地元作家のクラフト作品などが並んでいました。こちらは長嶋茂雄さん関連の雑誌やベースボールカードです。
エントランスは月1回、第4日曜日の14時から「池美アコースティックライブ」の会場にもなります。コロナ禍で休止していましたが、今年2月から復活したそうです。観覧と合わせてこちらも楽しんでみてはいかがでしょうか。

池田記念美術館

住所:南魚沼市浦佐5493-3
TEL:025-780-4080
開館時間:9:00〜17:00(観覧券の販売は閉館30分前まで)
休館日:水曜日(祝日の場合は翌日)
入館料:一般500円/高校生以下無料

池田記念美術館

この記事を書いた人
和田明子

長岡市のリバティデザインスタジオで、夫とともにグラフィックデザインやコンテンツ制作を行う。アート、映画、文学、建築、カフェ巡り、旅行、可愛いものが大好き。ウェブマガジン「WebSkip(https://webskip.net/)」も細々と更新中。