「旧小澤家住宅 北前船の時代館」で豪商の名残と新潟町家を堪能!/新潟市


2022年02月25日 10001ビュー
北前船の寄港地として栄えた湊町新潟。その名残を感じられる場所のひとつが「旧小澤家住宅」です。かつて豪商として栄えた当主が、自身の粋な趣味をいかんなく発揮した邸宅は古民家好き、アンティーク好きの人なら必ずグッと来る場所です。では早速訪ねてみましょう。

新潟市文化財の貴重な建物

まず最初に入り口で目に入るのはこの看板。新潟市文化財の文字が入っています。
2002年に土地、建物が新潟市に寄贈され、その4年後の2006年に主屋、新座敷、離れ座敷、道具蔵、家財蔵、蔵前及び渡り廊下、門及び東塀と敷地が新潟市文化財に指定されました。その後修復・整備を経て2011年から公開されています。
邸内に入ると、かつて「店」だったスペースに案内所兼受付があります。館内の間取り図もここに展示してあるので、見てから回ることをおすすめします。
受付脇で可愛らしいケロヨンがちょこんとお出迎え。旧小澤家住宅では定期的に企画展示が行われているのですが、数年前にカエルにちなんだ展示が行われたときに出展されたもので、終了後に寄付されたのだそう。
北前船のイラストをあしらったTシャツや手ぬぐい、マグカップなどの商品も販売されています。
反対側にはかつて使われていた金庫が置いてあります。スタッフの方曰く「今は空っぽです」とのこと。豪商の金庫は大ぶりで無骨なものが多く、いかにもお宝の番人といった見た目のものがほとんど。しかしこちらは差し色の金色のライン、ミュシャの絵画のような花や鳥があしらわれた彫刻銘板など、たたずまいが美しいことが印象に残りました。
店の向かって左側には、町家造りの特徴の一つである通り土間が、奥へと続いています。その通り土間に面した部分に、2部屋分の長さの長押(なげし)があります(写真の赤丸部分)。見過ごしがちな場所ですがぜひ注目してほしいと学芸員の方が解説します。「一本もので職人が走って鉋がけしたそうです。手間と技術を垣間見ることができます」とのことです。
邸内は蔵以外では靴を脱いで見学するため、脱ぎ履きのしやすい靴のほうが良いですよ!

北前船について学ぶ

受付の後ろの座敷には、新潟の町の成り立ちや回船業についての解説展示があり、その奥の仏間では小澤家の歴史について知ることができます。
それによると小澤家の祖先は加賀国(現在の石川県)からやってきた人で、本家は鳥屋野潟近くの地主だったそうです。19世紀の初めに初代七助が新潟町に移り、江戸時代は近隣農民に宿を提供し、米を売る仲立ちをしていました。回船業を営むようになったのは明治になってからです。
小澤家の回船業は新潟の米や酒を北海道で売り、そこで仕入れた海産物を山口で売り、塩や空豆を仕入れ新潟で売る……という具合。新潟を拠点に北海道と瀬戸内・大阪を往来して利益を上げていました。
学芸員の方によると「新潟の町家の特徴の一つが仏間、座敷などの格の高い部屋を店の近くに配しているところ」だそうです。こちらの仏壇は家庭用としては最大サイズで、小千谷の彫り師・柳田庄左衛門の手による立派なものです。往事の繁栄ぶりが偲ばれますね。
こちらは茶ノ間です。訪ねる度に季節の花々がキレイに飾られていて、嬉しくなります。その花の向こうに見える襖には、可憐な白いヒナギクがあしらわれています。リアルな花も良いですが、こちらの小さな花も女子としては見逃せない点です。
茶ノ間の隣り、次ノ間の奥には寝室として使われた「寝間」があります。この部屋の注目はなんと言っても窓ガラスです。可愛い小花模様、幾何学模様、結霜ガラスとそれぞれ種類が違うところに注目してみてください。
通り土間に愛らしいものが展示されていました。それがこちらの豆ランプ
そもそも豆ランプとは持ち運びできる小さな石油ランプのことです。安くて使い勝手が良いため、明治から昭和初期にかけて多く普及したそうです。道具として用を為すなら石油を入れて運べれば充分ですよね。しかし装飾としてさまざまな工夫を凝らしているところに当時の人たちの「美を求める心」を感じました。
さらにその先にはスタンプ台がありました。2020年にブレイクした妖怪アマビエさまや、猫(旧小澤家住宅では猫に関する展示も行われました)、カエルなどさまざまな可愛いスタンプとともに、「疫病退散」「笑門来福」などと書かれたお札が用意されています。
私も船に乗ったアマビエさまのスタンプを押して、感染症収束の願をかけてみました。お札はお持ち帰りできます。

見どころは新座敷と庭園

旧小澤家住宅いち押しの場所は、主に接客のために作られた新座敷です。藤ノ間百合ノ間と名付けられた庭に面した続き間で、格の違いを表すため他の座敷より一段高く造られています。
こちらは新座敷の廊下から見た庭になります。ゴールデンウィークの頃はツツジ、5月中旬には藤と、春は花の見頃が続くそうです。
中央にアクセントのように見えるのは佐渡の赤玉石、手前の青い踏み石は紀州、右奥のマーブル状の踏み石は御影石と、石も見どころのひとつです。
藤ノ間の特徴のひとつが、白山公園にある「燕喜館」の座敷に似ていることです。燕喜館は豪商・齋藤家の邸宅の一部を移築再建したものですが、じつは小澤家2代目当主の奥様は齋藤家からお嫁入りしているのです。学芸員の方曰く「もしかしたら奥様の意向で実家と似たような造りになったのかもしれません」と話してくれました。「地袋(床の間の戸棚)がアールが付いた円弧型をしています。これと同じものが燕喜館にもあるんですよ。ちなみに燕喜館は左側に付いています」とのこと。旧家巡りをして見比べてみるのも面白いかもしれないですね。
藤ノ間の見どころをもうひとつ。掲げられている書はあの吉田茂の揮毫(きごう)になります。ほかにも邸内には東郷平八郎、長三洲なさまざまな著名人の書が飾られています。
百合ノ間の床の間は、ずばり木材が見どころ。床柱に使われているのは「カリン」。グラム単位で発注する貴重かつ高価な木材です。床板は黒檀、落とし掛け(上部に天井と平行に入れられた横木)は紫鉄刀木(ムラサキタガヤサン)になります。色調も木目も何もかも美しく、訪ねたときにはじっくりと見てほしいポイントです。
床の間を堪能したあとはぜひ目線を上げて照明もチェックしてみてください。なんとも愛らしいランプが使われているんです。
他にも書き切れませんが障子の桟欄間など旧小澤家住宅には細部にまで気を配ったセンス光る箇所がたっぷりありますよ!
こちらは百合ノ間から見た庭園になります。和風庭園はもともと、和室に座ったときの目線に合わせて作られていますので、ぜひ座った状態で庭園を眺めることをおすすめします。
この庭は松島の実景を模して造ったと伝わっています。初夏の頃には、海原を表している芝が青々と映えてきて、春とはまた違った見応えがあるそうですよ。

人形が彩る春の節句イベント

旧小澤家住宅は明治13年の大火でそのほとんどが燃えてしまいました。大火以前の建物で唯一残るのが道具蔵なのです。
旧小澤家住宅では年に何回か企画展示を行っており、道具蔵はその会場としても使われています。
現在、「ひな人形とからくり人形展」が開催中です。北前船は食文化以外のものも新潟にもたらしました。その一つが上方の人形文化と言われています。蔵の中には見事な雛人形やからくり人形がずらり!
江戸中〜後期の作とされる「からくり人形」の数々。なんとこれ、いまだにちゃんと動くものがあるのです。中には現存するものは日本に数体しかないという超貴重なものも展示されています。
その貴重な存在がこちらのゼンマイで動くカニです。茶わんを載せるとシャカシャカと足が動いて横歩きします。オーナーさん曰く「動く状態で残っているのはこの1体だけかもしれない」のだとか!
これは品玉人形と言われるもの。品玉とは曲芸・手品のことです。箱をじっと見つめる少年。中には何が入っているのでしょうか。つまみを回すと箱が上がって本が出てきました。もう一度つまみを回すと今度は蔵の鍵が、そしてまた回すと別のもの…と続いていきます。
今回の企画展ではからくり人形のイベントも予定されていたのですが、残念ながら2022年は感染症対策で中止となりました。次回に期待しましょう!
※オーナーのご厚意で特別に動かしていただきました。通常は展示のみとなります。また次年度以降の展示や解説イベントは未定です。
こちらは享保雛です。隣に置かれているのは貝に源氏物語の場面が書かれた貝合わせと貝桶になります。人形も見事ですが、一緒に飾られた雅な道具にもぜひご注目を!
邸内には、あちらこちらにひな人形が飾られ、華やかな雰囲気に包まれていました。
こちらは藤ノ間に飾られたひな壇です。緋毛氈の上に色とりどりに並ぶ人形たちの様子は圧巻です。
大きな段飾りも見応えがありますが、こういう小さなものもいいですよね。桃の節句は、女性のための祝い事。いくつになっても心が華やぎます。
そもそも節句には「厄払い」の意味があるそうです。医療が発展していなかった昔は、縁起を担ぐことで子どもの無病息災を祈りました。新型ウイルス禍の今こそ、まさにふさわしい行事だと感じました。

旧小澤家住宅

住所:新潟市中央区上大川前通12番町2733番地
TEL:025-222-0300
営業時間:午前9時30分から午後5時
料金:一般200円/小中学生100円(土日祝は小中学生無料)
休日:月曜日(祝日の場合は営業)/年末年始

■ひな人形とからくり人形展 2022年2月19日〜3月21日

旧小澤家住宅

この記事を書いた人
和田明子

長岡市のリバティデザインスタジオで、夫とともにグラフィックデザインやコンテンツ制作を行う。アート、映画、文学、建築、カフェ巡り、旅行、可愛いものが大好き。ウェブマガジン「WebSkip(https://webskip.net/)」も細々と更新中