あなたにとっての「おらんち」に。県内初の分散型ホテル「町宿Oranchi」がつくる土地の温もりを感じる旅/上越市


2024年06月01日 439ビュー
昨今ブームとなっている「一棟貸しホテル」。

皆さんはどんなイメージを持っていますか?

今回ご紹介する一棟貸しホテル「町宿Oranchi(まちやどおらんち)」は県内初の分散型ホテル。

泊食分離スタイルで、まちなかの飲食店や商店を利用してもらい、まち全体を巡って楽しむ旅のかたちを提案しています。

新しいスタイルのホテルで、一体どんな過ごし方ができるのでしょうか。

大切な人と語り合う。上越の歴史を感じる「レキシ棟」

(画像提供:町宿Oranchi)

「町宿Oranchi」には、レキシ棟、ミライ棟という雰囲気の違う2つの棟があります。

レキシ棟は築100年を超える古民家をリノベーションした棟。

年月の重みを感じる梁。

ここで過ごしてきた人たちの息遣いを感じる土間。

歴史の重みを残しつつも、北欧インテリアやドライフラワーが心を軽やかにしてくれる、ホッと落ち着く空間です。
レキシ棟のもう一つの魅力は、木の温もりを感じるBarカウンター。

ここには地元の酒屋さん「やまぎし酒店」がセレクトした季節の日本酒が用意されています。

地元の食材を買ってきて、お酒を飲みながら自炊するのもよし。
地域の飲食店に出かけて、帰ってからゆっくり飲み直すのもよし。

大切な人とゆっくり語り合う、そんな過ごし方がレキシ棟でのおすすめです。

仲間と楽しむ。上越の自然を味わう「ミライ棟」

ミライ棟は新潟にゆかりのあるアーティストとコラボしたおしゃれな空間。

上越の海をイメージしたアート作品や雪山にちなんだもの、それぞれの作品が各部屋のインテリアになっており、心が躍ります。

これからの季節はお庭でのBBQがおすすめ。初夏の心地良い風を感じながら、友人や家族とワイワイ過ごす時間はとっておきの思い出になることでしょう。
ミライ棟のもう一つの特徴は、棟の裏にあるバレルサウナ(注1)。扉を開けると木の心地良い香りが広がり、サウナ内からは山の景色が望めます。こちらのサウナのおすすめはなんと言っても冬! 2,3メートルも雪が積もる豪雪地ならではのサウナ体験ができます。

人の温もりを感じる一棟貸しホテル

2023年8月にオープンした「町宿Oranchi」は地域課題解決に取り組む妙高市の山﨑建設と、パートナー企業でホテル運営事業を行う長岡市のロコウェイによるプロジェクト。

2つの棟に共通するコンセプトは「人の温もりを感じる一棟貸しホテル」。

日本酒を提供する「やまぎし酒店」の手書きのパネルや、ウェルカムコーヒーを提供する「MYOKO COFFEE」のコーヒーの淹れ方のメモにそれは表れています。
ホテル全体のデザインを手がけたロコウェイの田原哲社長は、そのコンセプトを「残心(ざんしん)」という言葉で表現してくれました。
田原社長(以下敬称略)「当ホテルは管理人が常駐しないタイプです。人はいないのですが、人の温かみを感じるちょっとした心遣いを残すようにしています。

例えるなら、実家に帰ったときのお母さんやおばあちゃんの温もり。あぁ、気が利くなぁっていう、あのホッとする感じですね。

こういったアイデアはプロデューサーの小杉永愛を中心に、パートナーの皆様、管理人メンバーのみんなと一緒に創り上げてきたものです。」
物件のオーナーである地元企業・山﨑建設の山﨑健太郎社長も「町宿」ならではの温かさについて教えてくれました。

山﨑社長(以下敬称略)「Oranchiは田舎の住宅街にあるホテルなので、近所のおばあちゃんがお客様に話しかけてくれることもよくあるんです。人のいないホテルですけど、地域の人の温かみを感じることができると思います。」

地域と共に在るホテルのかたち

上越エリアでも、いわゆる観光地周辺ではなく、あえて何もない「普通の田舎まち」にホテルを作った理由とは?

町宿Oranchiを立ち上げたお二人に、その経緯を伺いました。

田原「私はずっと観光やホテル運営に携わってきました。地域のさまざまな人やお店とコラボしたイベントを行ったり、泊食分離スタイルで地域の飲食店と磨き合う経験をして、ホテルというのは地域に愛されることで、よりその魅力が増すんだなということが分かったんです。

地域と協働型のホテルを自分の住む新潟でやりたいと思っていたときに、知人から山﨑建設さんを教えてもらったんです。」
山﨑「その頃、僕は地域の課題解決をビジネス化しようと、MUM(ミョウコウアップサイクルマーケット)という取り組みを始めていました。廃材の活用と集落の創生、そして空き家の再生という3つの軸を掲げていたんです。」

田原「当時私が関わっていた古民家再生事業でもアップサイクル(注2)を一つのテーマとしていたので、ぜひ話を聞いてもらいたいと思い山﨑建設さんのお問い合わせフォームからメールを送りました。」

田原さんの熱い想いを受け取った山﨑社長は、すぐに連絡をし実際に会うことに。

山﨑「とにかく『地域と共に在るホテルをつくりたい』という想いがすごく強いんだなということを感じましたね。直感的にも信用できる人だなと思ったので、もうその場で一緒にやりましょうと話をしました。」
そして山﨑社長が紹介したのが、このレキシ棟とミライ棟の物件。

田原「山﨑建設さんが相談を受けていた物件だったんですよね。レキシ棟に関してはとても状態の良い古民家だったので、これまでもお蕎麦屋さんやカフェをやりたいという声があったそうです。

ただ、家主さんとしても思い入れのある家だったので、信頼できる人に譲りたいという想いをお持ちだった。それが山﨑建設さんなら、ということで紹介していただいたんですよね。」

「土地と建物に息づく歴史」をコンセプトに

田原「ホテルってお金をかければ豪華にはできます。ただ、その分デメリットが2つあって。それは宿泊料金が上がってしまうことと、町並みに合わなくなることです。

Oranchiの構想においては、人生で一度しか訪れないような高級ホテルではなく、何度も訪れて、馴染みの店ができるような町宿をイメージしていました。」

歴史的価値のある部分はそのまま残し、お客様を迎えるために必要な部分はアップデートしていく。その想いは家主さんをはじめ、地域の方にも受け入れられました。
山﨑「オープン前に地域の皆さんを招待して、内覧会を行ったんです。そのときの第一声が『懐かしい』でした。元々この家は土間や囲炉裏の周りに近所の方が寄り合っていたんです。

内覧会では逆に僕らがこの家の歴史を教えてもらうことになりました。

家主さんもこの家の歴史を残して、住み継いでもらえるのは嬉しいと喜んでいただけて。僕たちのコンセプトはちゃんと伝わっているのかなと思いました。」

地域で循環していく空き家再生のかたち

実は今年の夏に、隣の妙高市でもう一棟オープンする予定があります。レキシ棟とミライ棟のオープンを機に、地域の方から「うちもやってほしい」と連絡があったのです。

田原「Oranchiの取り組みとしては、10棟20棟と数を増やしていくつもりはないんです。このエリアで常時5棟を運営していければと思っています。

理想では、このまちに住みたいという方がOranchiの物件を買ってくれて、地域に移住者が増える、そしてまた新たな5棟のホテルができるというサイクルを回していければいいなと。」
山﨑「家って生モノなので、年々老朽化が進んでいくもの。このプロジェクトの出口は僕らが家を持ち続けることではなくて、地域を愛する人たちが増えてその輪が広がっていくこと、空き家を減らしながら移住者を増やしていくところまで持っていけたら面白いと思っています。」

田原「移住情報ってネットでも調べられますけど、好きな居酒屋ができて店主と仲良くなったからとか、地元の人に裏側を聞いて愛着が湧いたからというのが自然な流れかなと思うんです。

だからOranchiの役割は、来てくれたお客様にこの土地を好きになってもらうこと。そのために、レキシ棟とミライ棟での過ごし方、地域との連携を増やして、この土地を好きになる仕組みをもっと作っていかないといけないなと思っています。」

みんなにとっての「おらんち」に。

山﨑「そういう点では、地元である当社の役割は地域とホテルを繋いでいくこと。運営やコンセプトの部分は田原社長にお任せして、僕は町内会とのやりとりなど地域との相互理解の部分に注力しています。例えばゴミは当社で回収して、地域には出さないとか。それぞれの強みを活かして役割分担しています。」

田原「一番大切なのは地域の方と同じ方向を向いて歩むこと。その部分は僕らだけじゃできなかったですね。」

山﨑「やはりこのような地域においては、知らないということが噂を招き不信感に繋がることって多いと思うんです。僕らが間に入ることで地域との良好な関係が続いていくように、誤解なく伝えることを意識しています。」
田原「あとはフルオープンにして、全て見せるようにしています。近所の方にお会いしたら、『どうぞ中見てってください』って。一度見てもらったら、次からは『どうも』と声を掛け合える関係ができますから。」

山﨑「地元の人に見てもらえることはメリットですよね。」

田原「Oranchi(おらんち)というのはお客さんにとってはもちろん、地域の人たちにもOranchi(おらんち)の一つだと思ってもらえるといいなという意味もあるんです。

外から人が来てくれることに対して、地域にウェルカム感が漂っているとお客様も心地良いでしょうし、地域にとってもそれが誇りになっていけばいいなと思います。」
大切な人と気兼ねなく過ごせる一棟貸しホテル。

日々の忙しさを忘れて語り合える時間。

その土地の温もりを感じながら、地域の日常に私の日常を重ねてみる。

分散型ホテルが目指す旅のかたちは、私たちの心にもう一つの「Oranchi(おらんち)」を残してくれるのかもしれません。

(注1)樽型の形状のサウナ。全体に均等に温度を伝えることができる。
(注2)元の素材を生かしながら付加価値を与え再生すること。創造的再利用とも言われる。
町宿Oranchi

町宿Oranchi

住所:レキシ棟 新潟県上越市中郷区板橋174
   ミライ棟 新潟県上越市中郷区藤沢944
問い合わせ先:info@locoway.jp
宿泊プランや予約については公式サイトをご確認ください。

この記事を書いた人
諸岡江美子

千葉県出身。新潟県に移住して10年。雪国の暮らしの知恵が好きで、地域のじいちゃんばあちゃんから教わったことを日々研究中。古民家で夫、子どもと田舎暮らしを楽しみながら、フリーでライターやインスタ集客をやっています。
https://note.com/emiko_writer