大地の芸術祭2024を楽しもう!【十日町エリア編】/十日町市


2024年07月27日 8549ビュー
2024年7月13日に開幕した「大地の芸術祭 越後妻有アートトリエンナーレ2024」。見どころ解説編に続いて、これからエリアごとに新作・新展開作品をご紹介していきます。今回は十日町エリア編をたっぷりご紹介!

モネ船長とたっぷり遊ぼう

まずは主要施設のひとつ、越後妻有里山現代美術館MonETの作品《モネ船長と87日間の四角い冒険》です。池や回廊、明石の湯のエントランスを舞台に、国内外の作家が参加した作品が展開されています。
ひときわ目を引くのは、レアンドロ・エルリッヒの《Palimpsest: 空の池》の上に、水上歩道を設置した原倫太郎+原游の作品《阿弥陀渡り》です。原倫太郎さんは「エルリッヒの作品を邪魔することなく、中に入って遊べる体験型の作品を依頼され、悩みました。考え抜いて出した答えが、トリックアートの上に、トリックアートを置くということでした」と解説。レアンドロ・エルリッヒの元々の作品に合わせて作っているため「水上歩道の幅は広い場所は40〜50センチですが、細い部分は20センチ程度。歩いてみると不思議な感覚になる作品だと思いますよ」と話しました。
確かに歩いているうちにどこまでが阿弥陀渡りで、どこからがエルリッヒの作品なのか分からなくなってきて、ドキドキハラハラ気分を味わえました。
(体験料200円。記載ないものは無料)
回廊の角に巨大な蜘蛛が巣を張ったようなインパクトのあるこちらの作品は、ヌーメン/フォー・ユースの《Tape Echigo-Tsumari》。伸縮性のあるテープを使用しています。池の上に設置されたものは鑑賞用ですが、回廊内にあるハシゴのかかったものは、中に入ることができますよ。お子さんと一緒に入っていったお母さんは「怖い怖い!」と言いながらも、楽しそうに声が弾んでいました。
(体験料200円)
大阪を拠点とするパフォーマンスユニットと建築家ユニット、contact Gonzo × dot architectsの《十日町パターゴルフ???倶楽部!!》は、作品タイトルそのままにパターゴルフができる作品。鈴木牧之の『北越雪譜』に登場する異獣と思しきオブジェなど地元にちなんだ仕掛けがあるので、プレーを楽しみつつ造作にも注目を。
エコロジーや都市計画をテーマにした作品を手掛ける作家ロブ・フォーマンの新作《Colony》は、段ボールや木材などで構成されたインスタレーション作品。宇宙空間でスペースモジュールが繋がっているように、いくつかの空間がつながってひとつの作品が構成されています。中に入って丸窓から外の様子を覗くと、遠い宇宙から地球の人々を見ているような気分が味わえるかも知れません。
天井から吊された、頭が猫で体が龍という 何ともインパクトのある巨大な立体作品は、サ・ブンティ(查雯婷)の《神獣の猫龍》。日本では招き猫のように縁起ものとしても扱われている猫ですが、中国では不吉な動物なのだとか。その猫を吉祥の象徴である龍と組み合わせることで、多様な考え方が共存することを問いかけているそうです。
渡辺泰幸+渡辺さよの《回る音》は、陶を素材にした無数の「音具」が奏でる音色を楽しむ作品。こちらは触ってもOK。「これはどんな音かな」と想像しながら、風鈴のように鳴らしてみる時間は、童心に返ったような一時でした。
透明で頑丈な水風船を並べた加藤みいさの《溢れる》という作品は、1つ1つに周りの景色が映り込んでなんとも不思議な印象。光の状態によって表情がどんどん変わっていきます。水風船は触っても大丈夫。
越後妻有交流館キナーレ「明石の湯」のエントランスも、モネ船長の遊び場として開放されています。《阿弥陀渡り》を手掛けた原倫太郎+原游のもうひとつの作品《The Long and Winding River (tunnel and table)》は川をイメージしたオブジェを配置。昔から川は文明が集まるところ。流れに沿うように小説、エッセー、漫画、旅行ガイドなどの本や、ボードゲームが置かれています。
明石の湯エントランスの奥には、原広司+東京大学生産技術研究所 原研究室の《25の譜面台-様相論的都市の記号場》があります。暗い部屋の中に置かれた25台の譜面台に光源やオブジェを設け、それが明滅。様々な記号に満ちあふれた現代都市を表現しています。
(個別鑑賞券400円)
(作品鑑賞パスポートまたは、越後妻有里山現代美術館 MonETの個別鑑賞券で鑑賞可)
明石の湯のエントランスには、大地の芸術祭とオイシックスがコラボした期間限定ショップがオープンし、新鮮野菜の販売やオリジナルスムージーの提供などを行っています。

アートで伝えるウクライナ

越後妻有里山現代美術館 MonETの1階では、《ニキータ・カダン個展:影・旗・衛星・通路》が展示されています。連作ドローイング《大地の影》、爆撃で破壊された屋根の金属と越後妻有の石を用いた彫刻作品《妻有と​ホストメリの彫刻》など、現代美術を通してウクライナの今を伝える作品が並んでいます。
ウクライナの作家、ニキータ・カダンさんは戦争が起きてから、かつてアトリエだった場所をシェルターにして作品を描き続けています。「《大地の影》に描いた人物はあえて特定できないシルエットにしました。影の主は誰なのか、影に対してどのような態度を取れば良いのか。これは戦争の事実を描いた作品でもあります」と語りました。また《妻有と​ホストメリの彫刻》については「砲撃で破れた屋根を旗として立てた彫刻作品。それを支える土台には展示する土地のものを使うことにしていて、今回は信濃川の石を使っています」と解説しました。
なお2階のMonETシアターでは、カダンさんが選んだウクライナの映像作品2作を上映しています。
旧ソ連(現ウクライナ)出身で、2023年に亡くなったイリヤ・カバコフのドローイング《知られざるカバコフ-生きのびるためのアート》も展示。
世界初公開の、1950年代に描かれた卒業制作から、晩年の作品までが並んでいます。
ターニャ・バダニナは、亡き娘に捧げるシリーズとして始めた「白い服」プロジェクトを世界各地で展開しています。大地の芸術祭では、妻有の住民の協力で集めた野良着を題材にした《白い服 未来の思い出》を展示。大きな壁面を使った作品で、2階からも鑑賞できます。
回廊の一角にあるカフェ(越後妻有里山現代美術館 MonET 1F コミュニティスペース)では、ドリンクや妻有ポークを使った今季限定オリジナルのTSUMARI BURGER「プルドポークバーガー-ジンジャーソース-」(フライトポテト付き950円)を提供。プルドポークとは塊肉を長時間スモークして、ほろほろになるまで柔らかく調理した豚肉のこと。アクセントとしてジンジャーソースと、神楽南蛮マヨネーズがトッピングされています。
また2階の「サロンMonET」では棚田米を使った「棚田ミルク」など、地元食材を使ったアイスクリームや、ドリンクなどを提供しています。

建物全体がアート作品

中越地震で被災した茅葺きの民家を「やきものミュージアム&レストラン」として再生した「うぶすなの家」。焼き物でできた《かまど》《洗面台》《表面波/囲炉裏》など、しつらいがそのままアート作品という何とも贅沢な空間が広がっています。
2階には和紙を使った牛島智子の《つキかガみ巡ル月》が展示されています。作品を楽しみながら、梁や板の間など、建物そのものもじっくり鑑賞してみてください。
うぶすなの家ではランチやドリンクを提供しています。今年のランチは「うぶすな定食」きつね、たぬき(いずれも2,000円)の2種類。「きつね」は妻有ポークの手ごねハンバーグをお揚げでくるんだ肉巻きいなり、「たぬき」はスープで炊きあげた車麩と生揚げです。いずれも地元のお母さんたちが育てた野菜を使った小鉢が付いてきます。旬のものを使うため、メイン以外はその時々で内容が変わるそうです。
うぶすなの家はアートと食事、そしておもてなし上手の地元のお母さんたちとの会話も楽しみのひとつ。水落静子さんは「シェフがメイン料理を監修し、私たちは小鉢を担当して、一緒にメニュー作りをしています。ぜひ地元の食材を使った手料理ごっつぉを楽しんでください」と話しました。
なお、うぶすなの家は1棟貸しで宿泊もできます。

野外作品も見どころたっぷり

十日町市中条の笹山高靇神社には2つのアート作品があります。
ひとつは景山健の《HERE-UPON ここにおいて 依り代》。巨大な杉玉が目を引きます。近づくと若い杉の木を守るように、その杉玉が作られていることが分かります。杉玉は中央が空洞になっており、中に入ると鑑賞者が杉玉に包み込まれる感覚を味わえます。そして上を見上げるとあっと驚く景観が待っていますよ。
アントニー・ゴームリーの《MAN ROCK Ⅴ》は、石の彫刻作品。一見すると不規則な線が刻まれているだけのように見えるのですが、じっと見ているうちに線の意味に気付き、思わず「おお!」と声を漏らしてしまいました。
七和防災センターには東弘一郎の《人間エンジン》が設置されています。ロータリー除雪車をモチーフにしており、なんと自転車のように人が漕いで動かすというもの。豪雪に向き合う住民たちの団結力をイメージしたそうです。
会期中には走行イベントを開催します。(7/21、8/11、9/15、10/20。13〜15時。小雨決行・雨天中止。イベントでは沿道からの鑑賞となり、乗車して走行することはできません)
通常時は動きませんが、運転席に乗り込むことはできます。
葬送は分け隔てのない越後妻有に特有な “和み”の文化の証であった》は、大地の芸術祭のレジェンド的存在、磯辺行久さんの新作です。
柱が立つのは中越地震の3年後に休村した小貫集落(中条・飛渡)のかつての小路跡。この目印に導かれるように歩いて、昔の集落の様子に思いを馳せることで、かつての地形やこの場所が果たしてきた役割について考えてみようという作品です。

京都精華大学有志によるプロジェクト

2007年に廃校となった飛渡第二小学校枯木又分校を拠点として、京都精華大学有志が取り組む「枯木又プロジェクト」。最初に迎えてくれる作品は金沢寿美の《新聞紙のドローイング》。まるで星空か銀河のカーテンのように見えるこちらの作品は、鉛筆で塗りつぶした新聞紙で作られています。
衣川泰典の《石化する風景》は新潟県で採集した石灰岩と、それを用いた石版画作品です。描かれているのは枯木又の木々、自生するユリ、新潟県の海など。石があった場所や石を加工する映像も見ることができます。
旧枯木又分校の2階を全て使ったLiisaの《記憶のラビリンス》。作者のLiisaさんは京都精華⼤学マンガ学部ストーリーマンガコースの卒業生で、作品にもマンガの技法を生かしています。細かい所にまで遊び心が利いているので、作品の裏や天井、部屋の隅などくまなくチェックしてみてください。
2006年から始まり、途中場所を変えて続けてきた酒百宏一の《みどりの部屋プロジェクト》は、建物の老朽化に伴い今期で終了となります。これまで作品を展示した部屋をつなぎ、会場全体を作品化。タイトルはずばり《みどりの部屋プロジェクト「みどりの家」》です。壁一面に、フロッタージュという技法で落葉を写し取った葉っぱが貼られています。葉っぱは会場で制作可能。木が育つように、みんなで作った葉っぱがこの「家」を成長させていくのです。
こちらはDoobu+立命館大学産業社会学部永野聡ゼミの作品《34mmの彩り》。雪囲いの板を使った作品です。地元の小学生に協力してもらい、春夏秋冬の季節が描かれた板が所狭しと配置されています。中央の鏡状の板の間は寝転んでもOK。立ったままでは分からないものが見えるかも。
楢木野淑子の《キューブ》は巨大な陶芸作品。カラフルな紋様が施されていて、見ていて飽きることがありません。十二神社から森の中へ少し入っていくと、大小2つの作品があります。コンセプトは「華やかで優しいタイムカプセル(時間の箱)のような、未来へ託す希望のような作品」だそうです。

田島征三さんの絵本の世界

鉢&田島征三 絵本と木の実の美術館の新作《オレの歌をきいてくれ〜水の女王が創った輪舞曲〜》は、鉄の彫刻作品です。まず水車のハンドルを回して水を出し、水車を回すことによって、隣の作品を動かすという仕組みになっています。作品が動くまでに少し時間がかかるので、それまで頑張って回してみてくださいね。
この彫刻作品は田島征三さんの絵本「オレのうたをきいてくれ!」がベースになっています。主人公の鉄平と水の女王、そしてたくさんの生きものたちが繰り広げる物語で、田島さん曰く「美術館の外にあるビオトープがモデルになっている」そうです。「生物の多様性をこのビオトープは伝えている。環境保護をいきなり地球規模で大きく訴えるのではなく、自分たちが今いる、この小さな場所から考えてみてほしい」と話しました。
館内の「Hachi Café」では会期中限定でカレーを提供しています。中辛のやさいどっさりカレー(1,400円・ドリンク付き)と、お子さまや辛いものが苦手な方向けのトペラトトカレー(1,100円・ドリンク付き)の2種類から選べます。
ちなみに田島さんの絵本やグッズ、カフェで使われている器の一部は、館内のショップで購入可能です。

大地の芸術祭の十日町エリア編、いかがでしたでしょうか。次回は川西エリア編をお届け予定です。お楽しみに!

大地の芸術祭 越後妻有アートトリエンナーレ2024

期間:2024年7月13日〜11月10日
定休日:火水曜日(8月13日、14日は一部作品・施設特別開館)
開催時間:10:00~17:00(10、11月は10:00~16:00)
※作品により公開日時が異なる場合あり
パスポート料金:
会期中(7/13〜11/10) 一般4,500円/小中高2,000円/小学生未満無料
個別鑑賞券もあり、各施設で販売
越後妻有里山現代美術館 MonET 企画展(常設展示含む)一般1,500円/小中学生800円
うぶすなの家 一般400円/小中学生200円
枯木又プロジェクト 一般600円/小中学生300円
みどりの部屋プロジェクト「みどりの家」 一般400円/小中学生200円
鉢&田島征三 絵本と木の実の美術館 一般800円/小中学生400円

2024年は11月10日までの土日祝日、越後湯沢駅=清津峡=十日町駅を結ぶ実証運行バス「YukiMo!(ユキモ)」を運行しています。

大地の芸術祭 越後妻有アートトリエンナーレ2024 十日町エリア編

この記事を書いた人
和田明子

長岡市のリバティデザインスタジオで、夫とともにグラフィックデザインやコンテンツ制作を行う。アート、映画、文学、建築、カフェ巡り、旅行、可愛いものが大好き。ウェブマガジン「WebSkip(https://webskip.net/)」も細々と更新中