大地の芸術祭2024を楽しもう!【中里エリア編】/十日町市


2024年08月08日 2722ビュー
エリアごとにシリーズでお届けしている「大地の芸術祭 越後妻有アートトリエンナーレ2024」の紹介記事。4回目の今回は中里エリアをご紹介いたします!

現代アートのレジェンド、磯辺行久の作品を堪能

2009年に閉校となった清津峡小学校を、磯辺行久記念 越後妻有清津倉庫美術館[SoKo]としてリニューアルし、大地の芸術祭の拠点施設の一つとして活用。館名に冠されている磯辺行久さんは現代アートのレジェンドと言える人で、大地の芸術祭には2000年の初回から参加しています。
今回は『北越雪譜』で知られる鈴木牧之が著した『秋山記行』を題材にしたプロジェクトを発表。第1弾として秋山郷の集落「清水川原」に焦点を当てた《驟雨がくる前に「秋山記行」の自然科学的視点からの推考の試み-2》が展示されています。
こちらは、津南町秋成の清水川原集落で展開されている磯辺行久の《驟雨がくる前に「秋山記行」の自然科学的視点からの推考の試み-1》を補完する作品です。ぜひそちらと併せてご鑑賞ください。
かつて感染症(天然痘)が流行ったときに、感染対策として、疫病が発生した集落の人流を断つための告知看板が再現されており、コロナ禍のことを思い出してドキリとしました。床の作品は靴を脱いで上がることが可能。鳥のような視点で集落を見ることができます。
2000年から現在まで、大地の芸術祭で磯辺さんが発表してきた作品についての時系列順の解説展示もあります。かつての信濃川の川筋の再現、地下を流れる水の可視化など、越後妻有の大地そのものをアートにした作品ばかりです。
磯辺さんが美術界で活動を始めたのは1950年代から。60年代にワッペン型を反復したレリーフ作品で一躍注目を集めます。これまでどのような作品を作ってきたのか、大地の芸術祭以前の作品もこちらの美術館には展示されています。
清津峡への行き帰り、道ばたの緑の中に見え隠れするかわいいかかしは、クリス・マシューズの《中里かかしの庭》という作品。全部で18体あるそうですよ。かかしの白い水玉模様は、日本の伝統的な鹿の子柄を連想させます。パッと見てすぐに数えられるのは3〜4体程度。果たしていくつ見付けられるでしょうか。
小学校の跡地に金属の彫刻作品が並んでいます。白羽毛集落のこどもたち+青木野枝の《LIKE SWIMMING》は星、家、魚など愛らしい形で、見ているだけで楽しくなってきます。
同じく青木野枝の《田の玉/白羽毛》は、リング状の玉が天に上っていくかのような作品です。青木さんはこの作品が置かれている白羽毛(しらはけ)集落と7年以上に渡る交流を続け、子どもたちとワークショップを行ったり、田植えや稲刈りに参加したりしてきました。この《田の玉/白羽毛》は青木さん曰く「一番この地でやりたかったことが叶った」作品だそうです。
内海昭子たくさんの失われた窓のために》は、まるで部屋の窓から外の風景を眺めているような作品です。景色が透けて見える白いカーテンは、風の動きを私たちに伝えてくれます。作品の手前に置いてある階段付きの台に上って鑑賞してみると、また違った視点で楽しむことができますよ。

清津峡でトンネル作品をたっぷり楽しむ

日本三大峡谷に数えられる清津峡。全長750mの清津峡渓谷トンネルを、2018年にアート作品として改修したのが、マ・ヤンソン / MAD アーキテクツの《Tunnel of Light》です。トンネルを往復すると距離は1.5km、時間は40〜60分程度かかります。
トンネル内部は夏でもひんやりと心地よい空気が流れています。通路は5色の異なる色でライトアップ。ミステリアスな雰囲気が味わえます。
2021年の芸術祭で新設されたのが第2見晴所の《Flow》です。白と黒のストライプで壁も床も表現されたこちらの空間。真ん中のカプセルのようなものはトイレで《見えない泡》という作品名が付いています。中に入ってビックリ。トイレの中から清津峡の風景が楽しめるという仕掛けになっています。
第3見晴所では、壁面に円形の鏡がはめ込まれています。まるで露が周囲の景色を映し出しているかのような作品で、タイトルは《しずく》です。外の景色を眺めるのも楽しいですが、こちらではぜひ鏡の中に映る景色も鑑賞してみてください。
トンネルの一番奥のパノラマステーションにあるのは《ライトケーブ(光の洞窟)》です。水を張った「水盤鏡」に清津峡と鑑賞者が映し出される様子は圧巻のひとこと。写真映えするスポットとして、一躍脚光を浴びました。ここは何度訪れても感動してしまいます。
端を歩けば水に濡れることはありませんが、サンダルや歩きにくいヒールは避けたほうが良いかもしれません。

※「大地の芸術祭 越後妻有アートトリエンナーレ 2024」開催期間中(7/13~11/10)の土・日・祝日と、8/13~8/16、10/21~11/8の平日は、《Tunnel of Light》の鑑賞に事前予約チケットが必要となります
清津峡トンネルの手前に、1階がショップとカフェ、2階が温泉の足湯というエントランス施設があります。天井には鏡に覆われた丸い開口部があり、足湯しながら天井からの光と外の風景を楽しめるこちらの施設も実は《Tunnel of Light》の作品の一部で、《ペリスコープ(潜望鏡)》という名称が付いています。足湯施設にはタオルの用意はありませんが、1階ショップで「清津峡タオル」が300円(料金は全て税込)で販売されています。
カフェではドリンクやスイーツが楽しめます。夏期限定(9月初旬頃までを予定)で、かき氷(400円)やかき氷フロート(600円)を提供しています。足湯を楽しんだ後にいただくかき氷フロートは美味しさもひとしおでした。

不思議な作品が点在

リチャード・ウィルソン日本に向けて北を定めよ(74°33’2”)》は、何とも不思議な形をしています。実はこれ、作家のロンドンにある自宅の構造を再現したものなのです。なぜひっくり返っているかというと、ロンドンに建っている家と同じ向きのまま、地球の裏側にある日本に持ってくると、この角度になるのだとか。
分かるとなるほど!という作品。こういう謎解きのようなアートって面白いですね。手前にある田開稲荷神社の大鳥居との対比も絶妙です。
頭が縄文型土器という何とも不思議な土偶のようなアートはニュウ・ポ(牛波)の《克雪人》です。腹部にはガス燈が備えてあり、これには「雪すら溶かす」という意味が込められています。
河口龍夫未来への航海》は、多くの種子に覆われた黄色い舟です。この舟は「現代のノアの方舟」なのだとか。なぜ動物ではなく種なのか、環境問題を提起するものなのか…など、作品を見ているといろいろ想像が膨らんでいきます。
舟のさらに奥には、河口龍夫水から誕生した心の杖》がありました。なみなみと水をたたえた水槽の上にある多くの杖。これは生命の根源から未来へと思いを馳せる作品です。
建築家ユニットCLIPの作品《河岸の燈籠》は、開放的なデザインのトイレ。夜になるとガラス越しに燈籠のような灯りが見えるのだとか。外壁の赤は、緑深い背景に映えるようにという思いから。確かに遠くから見ると目立っていました。
新潟県、長野県の信濃川流域に住む高校生の詩を、18本の電柱に刻んだオル・オギュイベいちばん長い川》。詩を選んだのは詩人の大岡信さんです。「この川をはさんだ向こうに好きな人」など、胸キュンな詩から、川の環境についてうたったものまでさまざま。アート鑑賞しながら文学にも触れるひとときです。
小さな風車のおもちゃがあしらわれたダダン・クリスタント手とは美しいもの》。リサイクル可能な材料で作られています。会期前には中里の学校の生徒を対象に、会期中は清田山キャンプ場に来た人を対象にワークショップを行い、作品に反映していくそうです。

風車づくりワークショップ:8/18(日)10:00-12:00

こちらの作品は、道路(駐車場)から山の中を進んだところにあるので、雨の後など道がぬかるんでいる日は要注意。歩きやすい靴で行くことをおすすめします。
2006年に発表された作品が配置を変えて再制作された、ダダン・クリスタントの《カクラ・クルクル・アット・ツマリ》。作者のダダン・クリスタントさんの故郷バリ島では、竹で作られた風車は、神に収穫の感謝を捧げるためのものなのだとか。風が吹くとカラカラと心地良い音がして、風の流れを音と視覚で感じることができますよ。

大地の芸術祭の中里エリア編、いかがでしたでしょうか。次回は松代エリア編をお届けする予定です。お楽しみに!

大地の芸術祭 越後妻有アートトリエンナーレ2024

期間:2024年7月13日〜11月10日
定休日:火水曜日(8月13日、14日は一部作品・施設特別開館)
開催時間:10:00~17:00(10、11月は10:00~16:00)
※作品により公開日時が異なる場合あり
パスポート料金:
会期中(7/13〜11/10) 一般4,500円/小中高2,000円/小学生未満無料
個別鑑賞券もあり、各施設で販売
磯辺行久記念 越後妻有清津倉庫美術館[SoKo] 一般800円/小中学生400円
清津峡渓谷トンネル 一般1000円/小中学生400円(作品鑑賞パスポートの提示で入坑料 高校生以上500円/小中学生350円)

2024年は11月10日までの土日祝日、越後湯沢駅=清津峡=十日町駅を結ぶ実証運行バス「YukiMo!(ユキモ)」を運行しています。

大地の芸術祭2024を楽しもう!【中里エリア編】

この記事を書いた人
和田明子

長岡市のリバティデザインスタジオで、夫とともにグラフィックデザインやコンテンツ制作を行う。アート、映画、文学、建築、カフェ巡り、旅行、可愛いものが大好き。ウェブマガジン「WebSkip(https://webskip.net/)」も細々と更新中