大地の芸術祭2024を楽しもう!【松代エリア編】/十日町市
2024年08月17日
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「大地の芸術祭 越後妻有アートトリエンナーレ2024」の魅力を、新作中心にシリーズでお届けしています。5回目となる今回は、芸術祭の拠点施設まつだい「農舞台」や奴奈川キャンパスなど、見どころ満載の松代エリアをたっぷりご紹介します!
まつだい農舞台とフィールドミュージアムでアート三昧
芸術祭拠点施設の一つ、まつだい「農舞台」フィールドミュージアム。ここには大地の芸術祭を象徴するような作品《棚田》を手掛けたイリヤ&エミリア・カバコフの、他の作品をいくつか見ることが出来ます。旧ソ連に住む架空の人々の計画や夢を集め、ドローイング、オブジェなどで構成された《プロジェクト宮殿》には、今回新たに《天井に天国を》が加わりました。心穏やかに過ごすための「天国の世界」を部屋の中に作ることを構想した作品です。
農舞台内の越後まつだい里山食堂では、妻有地方に伝わる郷土料理や家庭料理、それらをアレンジした料理が楽しめます。芸術祭開催期間中のランチは、ビュッフェ営業となります。なお、レストランの空間は、ジャン=リュック・ヴィルムートの《カフェ・ルフレ》という作品でもあります。天井に配された越後妻有の風景写真が鏡の天板をもつテーブルに映り込み、食事しながらアート鑑賞が楽しめる仕掛けになっています。
里山ビュッフェ(60分制) 大人2,000円/小学生1,000円/幼児500円(ドリンク別)
里山ビュッフェ(60分制) 大人2,000円/小学生1,000円/幼児500円(ドリンク別)
農舞台に隣接する「まつだい郷土資料館」は、江戸時代末期に建てられた古民家を移設したものです。豪雪地帯の住文化を伝える建物で、ここには尾花賢一の《まつだい郷土資料館「しりょう」館》が展示されています。史料、死霊、飼料などの言葉から広がる不思議な物語をたどりながら、松代のかつての文化や風俗、暮らしぶりを垣間見ることが出来ます。
農舞台周辺はフィールドミュージアムと題して、いくつもの作品が里山に点在しています。前山忠《視界/覗き灯篭》は、視界を切り取る仕掛けとして「フレーム」を設置。黄色い枠の中に見えるのは、イリヤ&エミリア・カバコフの《棚田》です。新潟現代美術家集団GUNのメンバーとして、日本の現代アートの歴史に名を刻んだ前山さんと、カバコフの思わぬ共演に見た瞬間、歓声をあげてしまいました。
増田啓介+増田良子《シシの子落とし》は、大量のモミガラと一緒に袋の中に入ることが出来る体験型作品です。松代ファミリースキー場の中腹にあり、米袋が並んだリフト降り場からは、モミガラが入ったオレンジ色の袋を見下ろせます。
作家の増田啓介さんは「景色がとにかく素晴らしいので、ここ全体を庭のように捉えて、くつろいでもらえれば」と話します。増田良子さんは「モミガラの入った袋で子どもたちが楽しく遊んでいるのを、リフト降り場から大人たちが見守っているようなイメージ」と作品名について解説しました。
大きな2つのカゴのようなものがひとつになっているロジャー・リゴース《ダブル・チェンバー》。チェンバーとは部屋の意味で「すべての生態系は分離しているように見えるが、私たちはひとつであり、その一部なのかもしれない」という作家の思いが込められている作品です。集落の人たちの協力を得て作られており、材料の稲わらは前年の秋の収穫分から確保して準備したそうです。作品のかたわらには、作家と集落の人たちの交流や、制作の様子が分かる写真も展示されています。
妻有アーカイブセンター
妻有アーカイブセンターには、大地の芸術祭総合ディレクターの北川フラムさんのアートプロジェクト資料や、美術評論家・中原佑介さんの寄贈書など約3万冊が所蔵されています。ここはかつて小学校だった場所で、2009年の芸術祭以降、作家の川俣正さんが作品発表を行ってきた場所でもあります。今回は同センターを覆う銀色のフェンスを側面まで延長させた《Extend snow fence in Tsumari 2024 夏》を展開。そのミニチュア模型や、プロジェクト資料などが展示されています。
1階のピロティには竹内公太《水泥棒》が展示されています。竹内さんは「知らない場所を訪ねたときは石碑や石仏、遺構を見るようにしています。石にはかつてそこで起きた出来事など、土地の記憶が刻まれていますから」と話します。越後妻有の石碑や石仏、約100点をたずねて撮影し、それらの映像を元に作品を作り上げました。
ところでなぜ《水泥棒》というタイトルなのでしょうか。竹内さんによると「越後妻有地域で石碑巡りをしていると、水の神様、治水工事、水害、雪崩など、水に関するものに多く出会いました。それらを撮影という形で拝借していることを『水泥棒』と表現」したそうです。
BankART妻有
築100年の古民家を、BankARTの作家たちが建築チーム「みかんぐみ」と一緒に、アートスペースにリノベーションし、2006年にオープンした「桐山の家」。それから20年近くが経ち、老朽化が進んだ家に対して「創造的修復」というコンセプトで、新たな作品を展開。みかんぐみ+BankART1929《BankART妻有2024 「創造的修復と交信」》として、大きな巣を模したような川俣正の作品や、MonETの壁画《physis》も手掛けている淺井裕介の作品を家に迎え入れました。
外の納屋では橋本貴雄《交信》を展示。橋本さんは写真家で、2023年から桐山集落で暮らしています。その間に撮影した写真、移住した家に残されていた写真を用いたインスタレーション作品です。
楽暮 D.I.Y.の家 iju
田野倉集落にある石松丈佳《楽暮 D.I.Y.の家 iju》は、2022年にオープンした施設です。外壁作りでDIYを、棚田で田植え体験などのイベントを行ってきました。家そのものが作品であり、石松さんは「環境の特性を感知するようなデザインや造形が作品コンセプト」と話しています。《水の間》は水面が太陽光を反射することで、ゆらめきが光になって映し出されます。
8月3日から9月1日までの土日限定で「カフェいじゅ」もオープン。田野倉のお米を使ったおむすび(300円)、米粉パウンドケーキ(300円)、かき氷 チョコミント・いちご(500円)※1日10食(8/17・18・31・9/1)、クラフトコーラ(500円)などを用意しています。
五感体験美術館 奴奈川キャンパスでたっぷり遊ぼう
今回の芸術祭のテーマは「五感体験」。拠点施設の一つ奴奈川キャンパスは、光、音、触感など感覚的に楽しめる展示がたっぷり。公式ガイドブックには「子ども五感体感美術館」と紹介されています。
鞍掛純一+日本大学藝術学部彫刻コース有志《木湯》は、越後妻有の温泉をイメージした銭湯のような空間です。数万個の木の球体が入った木湯には子どもから大人まで、世代を超えて多くの人が入って、楽しんでいました。銭湯の洗い場のような空間もあり、そこには面白い仕掛けがあります。ある場所にスマートフォンなどを置いて音楽をかけると、木がスピーカーの役割を果たして音が響いて聞こえてくるのです。
鞍掛純一+日本大学藝術学部彫刻コース有志《木湯》は、越後妻有の温泉をイメージした銭湯のような空間です。数万個の木の球体が入った木湯には子どもから大人まで、世代を超えて多くの人が入って、楽しんでいました。銭湯の洗い場のような空間もあり、そこには面白い仕掛けがあります。ある場所にスマートフォンなどを置いて音楽をかけると、木がスピーカーの役割を果たして音が響いて聞こえてくるのです。
鞍掛純一さんは「ほかにも壁には富士山の代わりに緑の山を描いたり、フルーツ牛乳のようなものを木で作ったり、いろいろ遊び心を利かせています」と話します。積み木などの触って遊べるおもちゃもありますよ!
視覚、聴覚が刺激され、たっぷりと楽しめるのが松本秋則+松本倫子《惑星トラリスin 奴奈川キャンパス》です。カラフルに彩られた植物、摩訶不思議な形の何か、そして作家の愛猫をモデルにしたという猫がお出迎え。会場にはカラカラ、リンリンとさまざまな音が流れています。
また会場の壁には、カラーフィルムが貼られた小さな丸い穴が並ぶ一角があります。そこから覗いた風景は「宇宙船から地球を見たときのイメージ」だそうです。
また会場の壁には、カラーフィルムが貼られた小さな丸い穴が並ぶ一角があります。そこから覗いた風景は「宇宙船から地球を見たときのイメージ」だそうです。
《惑星トラリス》というタイトルについて松本秋則さんは「名作SF映画の『惑星ソラリス』にかけて付けた名前」と話します。『惑星ソラリス』は宇宙船の乗組員の潜在意識が、実体化していくという内容。会場にあるものは、誰かの思念がアートになった…という仕掛けなのですが「作品をどのように鑑賞するかは見る人の自由」と解説しました。
光の反射を楽しむ作品、瀬山葉子《Saiyah #2.10》。まずは会場入り口に置いてある色の付いた手鏡を持って入場。分光ガラスが使われており、その鏡を使うことで鑑賞者自身が色のパフォーマンスに参加出来るというお楽しみがありますよ!
奴奈川キャンパス3階で見られる関口光太郎《除雪式奴奈川姫》は、古事記にも登場する奴奈川姫を題材にした作品。求婚者から逃れるために奴奈川にやってきたという伝説があり「もし姫がやってきたのが冬だったなら除雪しながらだっただろう」という空想をベースにした作品。奴奈川姫は新聞紙とガムテープを素材に作られています。雪に見立てた大量の新聞紙を使って、自由に工作することも出来ますよ。
個性あふれる古民家作品たち
《木湯》と同じく鞍掛純一+日本大学藝術学部彫刻コース有志が手掛けた《脱皮する家》は、鞍掛さんが大地の芸術祭に初めて参加した作品。築150年の家の壁や床を彫刻刀でひたすら掘り抜いたもので、こちらは宿泊も出来ます。アート作品1棟貸しでお泊まりという貴重な体験はいかがですか。
《脱皮する家》近くの古民家で見られる椛田ちひろ+有理の《空知らぬ雪》は、「除雪機が雪を空へ返していく装置にも見えた」ことから生まれた作品。1階にはロータリー除雪車の刃をイメージしたものが回転しており、2階には一面に白い雪が舞い散ったようなペインティングが施されている…という仕掛けになっています。
中国ハウスの新作にビックリ
2016年に空き家を改修してオープンした華園(中国ハウス)。中国の作家の制作の場などとして活用されています。屋内の吹き抜け空間を見事に使った作品ウー・ケンアン(鄔建安)《五百筆》は圧巻!
中国ハウスの外観に驚くべき変化がありました。清津峡の《Tunnel of Light》を手掛けたマ・ヤンソン / MAD アーキテクツによる《野辺の泡》という作品で、なんと、民家から巨大な泡が吹き出してしまっています。
この泡は、中に入ることも出来ちゃいます。芸術祭の間だけに現れる儚い風景。唯一無二の空間、と紹介されていました。中に入ったときは、何か声を出してみることをお薦めします。独特の音の響き方がして面白かったですよ。
以上で大地の芸術祭の松代エリア編は終わりです。次回は松之山エリア編をお届けする予定です。お楽しみに!
以上で大地の芸術祭の松代エリア編は終わりです。次回は松之山エリア編をお届けする予定です。お楽しみに!
大地の芸術祭 越後妻有アートトリエンナーレ2024
期間:2024年7月13日〜11月10日
定休日:火水曜日(8月13日、14日は一部作品・施設特別開館)
開催時間:10:00~17:00(10、11月は10:00~16:00)
※作品により公開日時が異なる場合あり
パスポート料金:
会期中(7/13〜11/10) 一般4,500円/小中高2,000円/小学生未満無料
個別鑑賞券もあり、各施設で販売
まつだい「農舞台」フィールドミュージアム券 一般1,200円/小中600円
まつだい郷土資料館個別鑑賞券 一般400円/小中200円(まつだい「農舞台」フィールドミュージアムチケットで、まつだい郷土資料館個別鑑賞券も鑑賞可能)
奴奈川キャンパス 一般800円/小中400円
華園(中国ハウス) 一般400円/小中200円
2024年は11月10日までの土日祝日、越後湯沢駅=清津峡=十日町駅を結ぶ実証運行バス「YukiMo!(ユキモ)」を運行しています。
大地の芸術祭2024を楽しもう!【松代エリア編】/十日町市
この記事を書いた人
長岡市のリバティデザインスタジオで、夫とともにグラフィックデザインやコンテンツ制作を行う。アート、映画、文学、建築、カフェ巡り、旅行、可愛いものが大好き。ウェブマガジン「WebSkip(https://webskip.net/)」も細々と更新中