大地の芸術祭2024を楽しもう!【松之山エリア編】/十日町市


2024年08月23日 512ビュー
新作を中心に、エリアごとに「大地の芸術祭 越後妻有アートトリエンナーレ2024」の魅力をお届けしているシリーズ。6回目は芸術祭の拠点施設の一つ「森の学校 キョロロ」や世界的作家・ボルタンスキーの「最後の教室」、複数の宿泊可能な作品などが存在する松之山エリアをご紹介します。

ステップ イン プラン

松之山エリアの入り口に突如現れる大きな看板。ジョン・クルメリング(テキストデザイン浅葉克己)《ステップ イン プラン》というアート作品です。作家のジョン・クルメリングさんは、ブリキのおもちゃのような模型を作り、それをベースにこの20mの作品を作り上げました。
実はこの巨大看板、松之山の大まかな地図になっているという仕掛けがあります。文字を手掛けたのは、日本のタイポグラファーの第一人者、浅葉克己さんです。見るだけでも楽しいのですが、なんとこの作品、階段が付いており上っていくこともできちゃうのです。看板を間近で見るとその大きさに驚きます。

越後松之山「森の学校」キョロロ

芸術祭の拠点施設の一つ、越後松之山「森の学校」キョロロは、自然科学をテーマとした教育研修施設です。館内はもちろん館外にも自然を生かした作品が展示されています。
7月13日から10月14日までは、企画展示『生き物デザイン学校』が開催中です。いろいろな生き物の「カタチ」に着目し、学校の授業のように1限目「支えるカタチ」、2限目「食べるカタチ」などカタチを6つに分類して紹介。ご案内いただいた方は「芸術祭開催の年でもあるので、子どもから大人まで直感的に楽しんでもらえるようにと企画しました。生き物のカタチは多様で面白い。そしてその形状には意味があるということを、標本を見たりクイズに挑戦したりしながら、楽しく学んでいただければ」と話しました。

32 Resting Stones/三二と休石

中﨑透32 Resting Stones/三二と休石》は、公式サイトに「知られざる地域の文化や市井の営みを可視化した作品」と紹介されています。古民家1棟をまるごと作品にして、地元で俳人として活動した村山休石村山三二の俳句集から抜粋した句を並べながら、二人の人生をひもときつつ、松之山地域の文化をアート作品として見せていく…という仕掛けになっています。
作品は2階にも展示されています。解説パネルには通し番号が付けてあり、本を1ページずつ読みながら家を巡って、作品も読み解いていくような感覚になりました。なお家のあちらこちらに置かれた石は、作品タイトル通り、全部で32あるそうですよ。

三省ハウス

1989年に閉校した小学校を改装し、2006年から宿泊できる施設「三省ハウス」として活用。作品も展示され、レアンドロ・エルリッヒLost Winter》などを見ることができます。新作の村山悟郎生成するドローイング –松之山野鳥ノ図–》は、壁一面に鳥をモチーフにしたドローイングが描かれています。モチーフはキビタキ、アカショウビンなど土地に縁のあるものばかり。このドローイングは宿泊用居室の壁にも展開されています。
宿泊は全室ドミトリータイプで、男女別になります。居室はかつて教室だった場所。そこに二段ベッドというのは、なんだか物語に出てくる寄宿舎っぽいですね。スタッフによると、かつての卒業生が懐かしんで、利用者として泊まって同級会を開いたこともあるそうです。

in and out

2006年「大地の芸術祭・空き家プロジェクト」で湯山集落の空き家を再生し、2012年から古民家の常設ギャラリーとして活用されてきた「ギャラリー湯山」。惜しまれつつ2023年秋にファイナル企画展が行われました。その家屋を保存することで、訪れる人を鑑賞体験に導く作品がアイシャ・エルクメンin and out》です。外観を真っ白な金網で覆ったのは、雪を表現しているそうです。
中にも同じように、真っ白な金網で囲われたものたちが置かれています。これはかつてこの家にあった民具など。家の中でも擬似的な雪を見るという体験をすることができるのです。

最後の教室

松之山エリアの目玉作品の一つが、クリスチャン・ボルタンスキー+ジャン・カルマン最後の教室》です。旧東川小学校を丸ごと使った作品で、これまで何度も鑑賞してきましたが、飽きることがありません。最初に足を踏み入れるのは薄明かりが灯った大きな空間。かつて体育館だった場所です。目が慣れてくると白い光が降り注いでくることに気付きます。この場所は豪雪地帯。作家が制作に訪れた時はたまたま記録的な大雪が降っていたのだとか。その時の体験が作品に大きな影響を与えたのかも知れません。
床にはベンチや扇風機などが置いてあるので、目が慣れるまでは慎重に動くことをお薦めします。
体育館の右脇を歩き、校舎を奥に進むと聞こえてくるのが心音です。じっと耳を澄ませていると、命そのものの音を聞いているということがじわじわと実感できます。展示は3階まで続きます。白い大地のような、棺のような、ちょっと怖くも美しい空間が待っていますよ。
2018年に加わった作品がクリスチャン・ボルタンスキー影の劇場 〜愉快なゆうれい達〜》です。教室の壁に骸骨やコウモリ、天使など、生と死の狭間をゆく生き物たちの影がゆらりゆらり。怖いものばかりなのに、ちょっと可愛く見えてくるという不思議な作品でもあります。

家の記憶

塩田千春家の記憶》は2009年の作品です。ドイツを拠点に活躍する国際的な作家として知られる塩田さんですが、その名を聞くと「赤い糸」を思い浮かべる人も多いのではないでしょうか。しかしこの作品で使ったのは黒い糸。越後妻有の古民家の囲炉裏の煤の色を表現したそうです。使用した毛糸の量は550個、天井裏にまで縦横無尽に張り巡らせました。その長さはなんと44,000mになります。集落の人たちから集めた「いらないけれども捨てられないもの」が家のあちこちに配され、一緒に編み込まれています。

オーストラリア・ハウス

ローレン・バーコヴィッツ残り物》は、オーストラリア・ハウスに展示されている新作です。バーコヴィッツさんは環境、サステナビリティをテーマにした作品を多く手掛けてきた人です。こちらの作品はプラスチックトレーや、空のペットボトルなど、使用済みのプラスチックをアートにしています。ぶら下がっている緑色のものは越後妻有の自然を、白いものは降りそそぐ雨を表しているそうです。どこから見ても良いですが、作家お薦めのビューポイントは、上の写真のように、窓に向かって本物の自然と作品を同時に鑑賞できる辺りだそうです。
オーストラリア・ハウスの2階は宿泊者のみが利用可能なスペースです。宿泊する方は、見学時間外には館内外のアート作品を独り占めで楽しめますよ。小さいスペースですが、キッチンも付いており、食材を買ってきて料理することもできます。

夢の家

マリーナ・アブラモヴィッチ夢の家》は、「夢を見る」ために作られた古民家の作品で、こちらも宿泊が可能です。宿泊者は赤、青、緑、紫の部屋で作家デザインのパジャマで眠り、翌朝見た夢を書き残すという趣向で、過去に泊まった人たちが見た「夢日記」を閲覧することもできます。
夢を見るための部屋はこちら。普通に布団もあるのですが、棺桶のような四角い空間に横たわって眠ることもできるのです。公式サイトでは「夢をみるためのベッド」と紹介されていました。実際に横たわって、どんな感じなのか体験する事もできますよ。

不思議な石

松之山の大地にポツンと置かれた、鮮やかな蛍光色の3つの物体。elparo不思議な石》は、空から降ってきた何かをイメージした作品だそうです。それはもしかして隕石なのか、はたまた地球が何かを再生している様子なのか。答えはありません。ミステリアスな何かをどう捉えるかは、鑑賞者次第。あなたはこの作品、何に見えますか?
この不思議な形は作家曰く「等高線を表している」そうです。「趣味がトレッキングということもあって、制作していない時間は地図を見て過ごすことが多い」ことが、この作品につながったとのこと。フランスの作家・エルパロさんは、冬に自宅のPCでアイデアを作り、夏にそのプロジェクトを稼働させ実際に制作するというスタイルを取っています。越後妻有では順調に作業がはかどったそうで「今は日本文化を楽しんでいる。新潟は何でも美味しいし最高」と笑顔を見せていました。

大地の芸術祭の松之山エリア編をお届けしました。いかがでしたでしょうか。次回はいよいよシリーズ最終回となる津南エリア編です。大割野商店街や秋山郷の大赤沢など、今回要注目のエリアです。お楽しみに!

大地の芸術祭 越後妻有アートトリエンナーレ2024

期間:2024年7月13日〜11月10日
定休日:火水曜日
開催時間:10:00~17:00(10、11月は10:00~16:00)
※作品により公開日時が異なる場合あり
パスポート料金:
会期中(7/13〜11/10) 一般4,500円/小中高2,000円/小学生未満無料
個別鑑賞券もあり、各施設で販売

キョロロ個別鑑賞券 一般(高校生以上)600円/中学生以下無料、パスポート提示で一般(高校生以上)300円
32 Resting Stones/三二と休石 一般400円/小中200円
三省ハウス 一般400円/小中200円(※11:00~16:00)
夢の家 一般400円/小中200円(※11:00~16:00)
オーストラリア・ハウス 一般400円/小中200円(※11:00~16:00)

2024年は11月10日までの土日祝日、越後湯沢駅=清津峡=十日町駅を結ぶ実証運行バス「YukiMo!(ユキモ)」を運行しています。

大地の芸術祭2024を楽しもう!【松之山エリア編】/十日町市

この記事を書いた人
和田明子

長岡市のリバティデザインスタジオで、夫とともにグラフィックデザインやコンテンツ制作を行う。アート、映画、文学、建築、カフェ巡り、旅行、可愛いものが大好き。ウェブマガジン「WebSkip(https://webskip.net/)」も細々と更新中