地域に愛され113年!雪国の雁木通りに残る日本最古級の映画館「高田世界館」に初来訪/上越市


2024年09月20日 375ビュー
ライターの井高あゆみです。みなさん、映画はお好きですか?

映画館の大画面の迫力とクリアで豪快な音響で物語に没頭できる体験は、ちいさなスマホ画面や自宅のテレビでは味わえない特別な時間ですよね。

筆者の調べによると1957年、実は新潟県内の映画館は131館あったそうです。しかし、2024年現在は9館まで減少。

減少の最も大きな要因はテレビ局の開局で、近年ではコロナ禍の影響を脱しきれず、経営を持ち直せていない映画館も少なくないと言われています。動画配信サービスの普及も、その要因のひとつです。

そんな変化の激しい映像業界ですが、「上越市には日本最古級と言われる映画館が現役で存在する」という情報が!なんとその映画館は建築から113年というガチの年代物シアターとのこと。

上映中の作品を確認したところ、ちょうど観たい作品を発見したので、さっそく行ってきました!

日本最古級の映画館

その映画館は上越市高田にある「高田世界館」。113年前に建てられた建物ですが、今も映画館として定期上映を行っています。

上越市は雪が深く、「雁木(がんぎ)」と呼ばれる町家の木造アーケードが残っているのがまちの魅力のひとつです。高田世界館は、えちごトキめき鉄道妙高はねうまライン「高田駅」から徒歩約10分の上越市本町の商店街、雁木通りの一角にあります。
高田世界館はもともと、芝居小屋「高田座」として1911年に開業し、1916年に映画館として営業を開始しました。

配給会社が変わるたびに名前は変わっていき、1975年に「高田日活」へ。日活のロマンポルノ路線に合わせた成人映画館となったそうです。
歴史を感じる「高田日活」の文字。この文字がくっきり見えた頃、辺りの風景も今とはまったく違うものだったのだろうなと想像するのが楽しい。

駐車場は建物の裏手にあります。すこし分かりにくいため、行くときは事前にチェックしてから向かいましょう!

早速、館内へ

入り口には古い映写機が展示されています。
建物脇をまっすぐ進んでいった先に入口を発見。
奥まった場所に入口があり、非日常の空間に向かうようでわくわくします。”上映中”の看板がまた何とも言えない雰囲気。
入り口には本日の上映予定表がセットされていました。わたしはこの日が最終上映となる「関心領域」を鑑賞します。

高田世界館は、上映館数の少ないミニシアター系の映画の上映や、過去の名作を上映するイベントをするなど、映画好きにはたまらないラインナップで出迎えてくれます。

高田世界館で映画を観るために、遠方から足を運ぶ方も多いのだとか。
扉を開くとすぐ、入場券売り場が!何ともレトロな空間に、古〜い記憶が呼び起こされます。

子どもの頃に父に連れてきてもらった映画館が、たしかこんな作りだったような……。
入場券はかわいらしい、アメリカのパーティーチケット。
高田世界館はその歴史から、建物自体が登録有形文化財に指定されています。
映画館なので、映画鑑賞に訪れるのはもちろんですが、映画の上映時間外であれば館内の見学も可能です(見学のみの場合、入館料として500円/1名)。

せっかくなので、わたしも上映前の時間を使って館内をくまなく見学してきました!

館内見学にGO!レトロで重厚な装飾

まずはお客さんがいないうちにということで、シアター内を見学。ひじ掛けまで真っ赤なベンチは珍しく、1階と2階ががっつり分かれていて、映画館というよりは「THE 劇場」をイメージさせます。

高田藩の最後の藩主、榊原家の家紋をデザインに取り入れているという板張りの天井が豪華です。
2階に上がるときは一度ロビーに出て、左右にある階段から。
木製の真っ赤な椅子が置かれているのも珍しい。
デジタル映写機。現在メインで稼働している機材です。

圧巻の映写室・・・

スクリーンを正面にみて右手側の階段から2階に上がるとすぐ、映写室への入口があります。
2台の映写機が並ぶ映写室。昔観た「オリヲン座からの招待状」という邦画を思い出し、ノスタルジックな気分に。

この2台は現在も現役で稼働中で、年に数回フィルム上映を行っているそうです。

高田世界館だからこその「映画体験」

高田世界館では国内外の新作や名作を幅広く上映しています。この日、わたしが鑑賞したのは「The Zone of Interest(関心領域)」。2023年・第76回カンヌ国際映画祭コンペティション部門でグランプリを獲得、第96回アカデミー賞では国際長編映画賞と音響賞を受賞した作品です。

ホロコーストや強制労働によりユダヤ人を中心に多くの人びとを死に至らしめた「アウシュビッツ強制収容所」の隣で平和な生活を送る一家の、日々の営みを描いています。

この作品が音響賞を受賞していることはあとから知ったのですが、音に関する表現や内容が非常に印象的だったのは特に感じた部分であり、受賞に納得しました。

やはり、作品そのものに没頭できる楽しさは映画館ならではの体験で、作品の雰囲気を含め高田世界館で鑑賞ができて大満足。

上映終了後、劇場内に明かりが灯っていく様子と後方から「お疲れさまでした、ロビーでパンフレットの販売があります」とスタッフさんのご案内が聞けるのも、手作業の温もりがあり、ほかの映画館にはないポイントです。
高田映画館ではドリンクやフードの販売はありません。持ち込みは自由ですが、あまり匂いのキツいものや大きな音が出るものは控えてほしい、とのことです。

ロビーにはひざ掛けも用意されているので、空調が気になる方はぜひご利用ください。

高田世界館の歩みとこれから

館内の見学時、支配人の上野さんにお話を伺いました。

「高田世界館は一度取り壊しの危機にも瀕し、市民主体の保存運動やNPOが建物と経営を引き継ぐことによってこの場所を守ってきました。私が支配人として切り盛りするようになったのは10年前です。それから徐々にかたちを整え、試行錯誤しながら取り組みを進めてきました。このような背景があるため、映画館(建物)としては老舗ですが、経営的にはまだ歴史は浅いんです」と上野さん。

マサラ上映や上映プログラムの工夫など、営業努力を行うなかで地域の方への認知は広まり、遠方の映画ファンの方々にも高田世界館の存在が届いています。しかし、まだ映画館として地域に定着しているとは言えないそうです。

また、上野さんは映画館経営を軌道に乗せていく使命はもとより、100年以上経つ建物を維持保存していくという難しさについてもお話ししてくれました。

突然の映写機の故障、クラウドファンディングへ乗り出す

高田世界館は現在、クラウドファンディングを実施しています。実は2024年4月、映画館経営の要である映写機が故障しました。

1スクリーンしかない高田世界館。自費で設備更新の費用を捻出するのは難しく、前述の通り建物の修繕にも出費が生じるなか、映画館として建物を存続させるためにクラウドファンディングに挑戦することになりました。

集める金額は最低限の設備更新に要するものであり、目標金額より多くなった場合には中古品から新品の部品へとグレードアップする予定とのこと。
また、より上質な鑑賞環境を目指すべく更なる設備投資を予定しています。

クラウドファンディングの詳しい情報はぜひリンク先よりご確認を!

次回はフィルム映画を鑑賞したい

高田世界館での映画鑑賞は、とっても貴重で楽しい時間でした。

現役稼働しているフィルム映写機や映写室の見学も、ほかではできない珍しい体験なので、上越市を訪れた際はぜひ高田世界館に寄ってみてください。わたしは次回、フィルム映画の上映日を狙って訪れたいと思います。

映画上映、館内見学対応のほかにも様々な取り組みをされています。気になる方はぜひチェックしてみてください!
高田世界館

高田世界館

住所:新潟県上越市本町6丁目4-21
電話:025-520-7626
メール:info@takadasekaikan.com
定休日:毎週火曜日

高田世界館

この記事を書いた人
井高あゆみ

新潟県在住のフリーライター。「目の前のことを全力で楽しむ」好奇心旺盛なインドア人間 。店舗や企業のインタビュー・取材を中心に活動中。お笑いと爬虫類をこよなく愛する。