見事な技巧に感動のため息。小林源太郎の欄間彫刻「天昌寺」/南魚沼市


2024年12月08日 635ビュー
小林源太郎。出身地が武州(現在の埼玉県)熊谷であったことから、通称「熊谷源太郎」とも呼ばれます。寛政11年(1799年)生まれ。文化11年(1814年)生まれの石川雲蝶より15才年上でした。

石川雲蝶と小林源太郎。タイプが全く違う二人

艶やかで煌びやかな彫刻を遺した石川雲蝶は「越後のミケランジェロ」、いや「日本のミケランジェロ」だ!と称賛されています。
雲蝶と源太郎、それぞれの彫り物が並んである寺社は、秋葉三尺坊奥の院(長岡市栃尾)、曹源寺(同)、龍谷寺(南魚沼市大崎)などがあり、塩沢宿ではそれぞれが薄荷の大看板を彫りました。なにかと比較したくなる二人ではありますが、タイプが全く違う二人でもあります。

源太郎作品で一番のおすすめは天昌寺!

源太郎の作品を観るなら、私が一番おすすめしたいのが天昌寺。欄間彫刻7面が南魚沼市指定文化財となっています。特に私が見惚れるのが、本堂の左側奥「子引獅子図」です。
「江戸時代の図案の基本として、牡丹に唐獅子、竹に虎などがある。獣の王である獅子はよく装飾化され、これは親子獅子を表し、牡丹を背後に右に親獅子、左に2匹の子獅子が球で戯れる様子である。」(※『開館15周年記念 塩沢町の指定文化財展』発行:平成16年10月5日、編集:鈴木牧之記念館開館15周年記念協力委員会、発行:財団法人塩沢町文化・スポーツ事業振興公社)

神がかるほどの技巧!この「籠彫り」を見て!

子獅子が戯れる球。「籠(カゴ)彫り」という透かし彫りの技巧です。3Dプリンターも接着剤も無い江戸時代、ノミ(切削加工のための刃がついた工具)で彫り上げたわけです。小さく作った物をくっつけたわけじゃないんですよ。一本の木から彫り出しているわけです。いや、凄すぎる…。
デザインされた網目状の球の中に、球が入っているんですよ…!この凝り様。こんなに地味な所で、きっちり丁寧な仕事ぶり。私は「作品」と言ったりしますが、正しくは「作品」ではないんですよね。宮彫りは「奉納」される物なので、祈りの対象なんだと思います。
子獅子が2匹とも、表情豊かでかわいらしく、本当にすばらしい欄間です。
親獅子のおしり側にある牡丹の花も見事です。花びらの薄さ、自然な質感が、硬い欅(けやき)から生まれているなんて、信じられないです。

もう一枚の獅子図

「子引獅子図」の右隣に「牡丹獅子図」があります。「牡丹の古木に獅子が戯れている様子を表している。」(※)
「子引獅子図」の獅子は母親で、こちらは父親ですかね?
やあ、この牡丹の美しさ。すばらしい。ため息が出ます。

天昌寺は曹洞宗雲洞庵末の古刹

欄間はあと5枚ありますので、先に天昌寺についてご案内。天昌寺は曹洞宗雲洞庵末の古刹で、承応4年(1655年)に再開山されて以降、27代を数え現在に至っています。(本堂内の正面3面は寛政3年細貝正常、和田職常作であり、源太郎作ではありません。)
「越後三十三観音霊場12番」「南魚上田観音札所27番」であり、「正観世音菩薩」の御朱印もいただけます。(2024年11月時点)
正観世音菩薩坐像が安置されている「観音堂」が境内の高台にあります。積雪期には拝観できません。
観音様は観音堂の本尊として脇侍の二天(持国天と多聞天)を従えています。三体とも新潟県指定文化財です。

拝観には事前連絡をお願いいたします

曹洞宗 飯盛山 天昌寺

曹洞宗 飯盛山 天昌寺

【住所】新潟県南魚沼市思川39番地
【電話番号】025-782-0147(8:00~12:00/13:00~16:00)
※積雪期は除雪の都合がありますので、なるべく早めのご連絡をお願いします。積雪期は駐車場がありません。

欄間は見上げなければなりませんが

欄間の大きさは横165センチ前後、縦59センチ。当然高い所にはめられていますので、遠目になり見やすくはないのですが、手が届かないので保全のためには最高です。彫刻って手元にあると、どうしても触られるんですよね。すると摩耗しますしテカりが出ます。欄間なら最高の状態で永く残ります。

中国の故事に由来する狩野派の絵を浮き彫りに

こちらは「祝鶏老翁図」。「祝鶏老翁は常に千羽の鶏に名前を付けて飼っていた人で、名を呼ぶとその鶏はいつも翁の元へ寄ってくるという。いつまでも吉事が続くということを表している。」(※)
こちらの籠彫りも見事です。言わずもがなですが、籠の中にちゃんと鶏がいます!
凄すぎますって…!
この鶏がまた、良く出来ているんですよ。ヒヨコもかわいい。

亀が酒を飲んでる!「盧教仙人図」

「海浜に打ち寄せる波、左画面から大きな松、その下で腰をおろしヒョウタンの酒杯を亀に飲ませようとする二人の童に、仙人が何か語ろうとしている様子。」(※)
亀が右手をおちょこにかけてるんですよ。なんとかわいい。
「うへへへ。飲んでる飲んでる。」「あっ、やべ。」という顔が、たまりません。

源太郎といえば龍!格が違う!

「太真王婦人図」。「中央の太真王婦人(中国列女伝より、西王母の小女、名を玉巵<ぎょくし>といった仙女)は、一絃琴(いちげんきん)を奏でると、あらゆる鳥が彼女の元に集まるという、時には白竜に乗って四海を飛進したという様子を表している。」(※)
源太郎は龍を得意としたそうです。さすがの出来栄え。
白竜に乗る太真王婦人。風になびかれる様子が美しいです。

麒麟(きりん)と鸞(らん)も素晴らしい

「静玄婦人図」。「画面右に、雲に乗り、両手を前に組み、後ろをふりむこうとする婦人(静玄婦人)がいる。左に躍動感あふれる麒麟を配している。」(※)
「麒麟は想像上の霊獣で、きわめて珍しい出来事の起きるときに表れるという」(木原尚著作『越後の名匠 石川雲蝶』平成5年、新潟日報事業社出版部発行)。龍谷寺に雲蝶による麒麟の欄間がありますね。
「梅福仙人図」。「画面右の梅福仙人(長安の学者、仙術を修行)の前に紫雲が天に浮かび、雲の中から金竜天女が詔を上げ、鷲(ラン/想像上の神鳥)を伴って空より下りてきた様子。」(※)
龍谷寺にも、源太郎による鳳凰の欄間がありますね。

塩沢町文化財に指定されています

平成4年(1992年)、塩沢町(現在、南魚沼市)文化財に指定されました。欄間の一面には「維持 嘉永七甲寅年 七月 當山十八代 欄間師 源太郎」の刻銘があり、木原尚(たかし)さん曰く「源太郎の刻銘はきわめて珍しい」そうです。

住職の阿部哲彦(てつげん)さんは「高い技術による素晴らしい欄間で、遠方からも“越後の名匠を観たい”と来られる方がいます。ぜひ多くの方から拝観していただければと思います」と話されていました。

源太郎とは、どんな人物だったのだろうか

木原さんの『越後の名匠 石川雲蝶』(平成5年、新潟日報事業社出版部発行)によると、「初代小林源八正信を父に持ち、二代目が小林源太郎である。神社仏閣の彫刻、特に子持ち竜、中国の物語による人物像を得意とした。弘化2年(1845年)、源太郎には二人の男子があったが、ある日突然、利欲の念をすて郷里を去り越後路へ向かった。(抜粋)」増補改訂版(平成22年発行)では「雲蝶より15才年上で、雲蝶より早く越後で彫師として仕事をしていた。出雲崎では長く滞在していた。文久元年(1861年)、63才で上州(現在の群馬県)で亡くなった。(抜粋)」とあります。
源太郎は雲蝶より15才年上でしたが、「師匠」だったかどうかは分かりません。そのように記載する古文書などは無いようです。そもそも残っているのは請負書や借金証文。いや、借金証文は雲蝶のみですが。

私は雲蝶の彫り物を見ると元気が出ます。「ありがとう!雲蝶!」と言いたい気分です。そうしたら「おう、がんばれよ!」と返してくれると思います。

一方の源太郎は、静かに見守ってくれるようなかんじです。「ありがたや~」と手を合わせたくなります。そうしたら「うん、うん」とほほ笑んでくれるような。

天昌寺を訪れたら、いつも源太郎がほほ笑んで、そこにいてくれるように、欄間と対面できます。ありがたや。
曹洞宗 飯盛山 天昌寺

曹洞宗 飯盛山 天昌寺

【住所】新潟県南魚沼市思川39番地
【電話番号】025-782-0147(8:00~12:00/13:00~16:00)
※積雪期は除雪の都合がありますので、なるべく早めのご連絡をお願いします。積雪期は駐車場がありません。

「豆腐屋のカフェ 豆爺」でランチ

天昌寺を拝観の後は、約3キロ(車で約5分)移動して「豆腐屋のカフェ 豆爺」でランチします。駐車場が広々としていて、9台まで駐車できます。
豆腐と大豆を使った料理とスイーツが提供されています。席数は19席(テーブル5、カウンター4席)。天井が高く、明るい店内。店内全体で木材が心地よく使われています。
豆腐屋の店主・星野さんが2023年3月にオープンしたカフェで、豆腐屋と両方経営されています。

ランチメニューは4種類

ランチメニューは、写真の4種類。自家製大豆ミートのキーマカレー、豆腐つくね、絹揚げと豚バラ肉の甘辛炒め、ヘルシー豆腐ハンバーグ。全て1,100円(税込)。(2024年10月時点)
どれも美味しそうですが、「ヘルシー豆腐ハンバーグ」に決定。豆腐と越後もち豚のひき肉を使用していて、ハンバーグはふっくらとやわらか。豆乳と隠し味に自家製味噌を使ったホワイトソース(おろしポン酢も選べます)にしました。
お豆腐でヘルシーなのですが、ホワイトソースがこってりと食べ応えありました。最初はちょっと多いかな?と思ったのですが、ごはんも一膳ペロリと。やっぱり南魚沼だけあってお米も美味しいですね。
「自家製大豆ミートのキーマカレー」を同行の友人が注文しました。畑のお肉(自家製大豆ミート)を使用していて、数種類のスパイスがほんのり香るトマト風味。「スパイスが効いていて美味しい。辛みが強すぎなくて、食べやすいわね。大豆ミートなら、身体に良さそうで嬉しい。」と話していました。
セットメニューA プラス200円(税込)でプチスイーツ(温かドーナツ2個とミニアイス)と、セットメニューB プラス300円(税込)でドリンク(全品対象)もありました。
お持ち帰りで、豆乳プリン、とうふドーナツ、各種パウンドケーキ、おぼろどうふ、油揚げなど購入できます。

豆腐と大豆を使ったメニューは、どれもやさしい味わいで、食べるとホッとしました。刺激が強い物は楽しく元気にはなりますが、ちょっと疲れてしまうこともあります。やさしく丁寧で繊細な物が極上だなあと実感する、今日この頃です。皆さまもぜひ、滋味深い味わいを南魚沼で堪能されてはいかがでしょうか。
豆腐屋のカフェ  豆爺

豆腐屋のカフェ 豆爺

【住所】新潟県南魚沼市竹俣289
【電話番号】025-788-0402
【営業時間】10:30〜17:30(ラストオーダー17:00)/日替ランチ(御飯もの)11:00〜14:30(ラストオーダー14:00)
【休日】木曜、第1・3日曜(年末年始12/30~1/3)

南魚沼市塩沢/「天昌寺」と「豆腐屋のカフェ 豆爺」

この記事を書いた人
シバゴー

南魚沼市在住。趣味は写真撮影と読書で、本で調べた所へ行って写真を撮ることをライフワークとしています。神社彫刻が好きで、幕末の彫刻家・石川雲蝶と小林源太郎、「雲蝶のストーカー」を公言する中島すい子さんのファン。地域の郷土史研究家・細矢菊治さんや、地元を撮影した写真家・中俣正義さん、高橋藤雄さんのファンでもあります。