新潟で製作される楽器ハンドパンの工房「響楽舎」と「Bloomy cafe&bake」を訪ねて/燕市


2025年02月22日 111ビュー
みなさんはハンドパンという楽器を知っていますか?
ハンドパンはスイスで2000年に生まれた新しい楽器です。
私が知っていたのはスチールパンというハンドパン似の楽器。
スチールパンは、凹状のスチールドラムでスティックで演奏します。人魚のお姫様の映画音楽で耳馴染みの人も多いかもしれませんが、ハンドパンはスチールパンと兄弟のような楽器です。
ハンドパンは、凸状の見た目は大きいどら焼きのような姿で、椅子に座って足の上に乗せ、手で叩いて音を鳴らします。中央とその周りに音の出るポイントを配し、ピアノとハープを足したような優しい気持ちになれる音を奏でます。
 
まずはその演奏を聞いてみましょう。
響楽舎YouTube
ほとんどが海外で作られていますが、日本でも作られています。それも新潟!
新潟県燕市でハンドパンを作っているのは時田清正さん、彼の工房「響楽舎(きょうがくしゃ)」を訪ねました。

響楽舎

(製作工程の写真はご提供いただきました)
時田さんは学生の頃、友人が演奏動画を見ていたのをきっかけにハンドパンを初めて知り、「変な楽器」という印象のハンドパンを作ってみたいと思うようになります。
 
日本で作っている人はいたけれど、楽器も音もすべて自分のオリジナルであるというところを目指したくて、誰かの弟子にはなりたくないと思った時田さん。
予備知識がないまま、ハンドパンが鉄製品であることから鉄工技術といえば新潟か大阪か、でも工場生産というよりは手仕事をイメージしたので、ものづくりの町 職人の町で知っていた新潟県燕市に行けばなんとかなるんじゃないかと思ったそうです。
チャレンジ精神がすごいですね!
 
新潟に来たのは2018年の秋。
「最初の2年間はひとりで、ハンドパンの写真や作りたい感じをまとめて、製作方法が似ている技術を持ったいろんな工場職人を訪ねました。廃品工場からドラム缶をもらって、ドラム缶から作ってみたけど音が鳴らない・・・そんな試行錯誤の状態を続けていました。
その中で【鍛工舎】の渡邉さんと知り合って、2020年頃からは本格的に職人の技術を参考にしながら作り始めました。
「分かっているのは完成したハンドパンの姿だけ。こう作ったらこの音が出るという完成に向けての基準が分からないので、楕円の大きさとか比率とか、1から全部検証して作りました。ハンドパンを作るための型とか、道具とかも全部オリジナルです」
 
職人は金属の扱いが分かるけど、音とか調律とかが分からない。時田さんは音楽とか音の素養があるけれど、金属のアプローチが分からない。そんな職人との共同作業で製造方法を確立していったんだそうですよ。
お互いが協力しあって2年、ようやく確実に作ることができるようになってきたので2022年に「響楽舎」を立ち上げ、ハンドパンを製作し提供し始めました。
 
ハンドパンの素材は軟鉄スチールが主流でしたが、近年ステンレスが主流になってきました。しかしステンレスは硬いし調律が難しい。でも難しい方を作ることができたほうが、あとでいろいろ応用ができると、時田さんはステンレスで作っています。
一般的なハンドパンの径の大きさは基本53~55センチですが、時田さんの作っているのは体格の小さい日本人に合わせて53センチ。
まずはステンレスの円型の板をお椀型にして、燕の伝統技法「鍛金」の工法で音を鳴らす面を作り、そのあと表面を焼くなど20工程以上を経て、ハンドパンは3~4ヶ月くらいで完成します。正確に言うと製品としてはすぐ完成するのですが、楽器として音を安定させ整える方に時間がかかるそうです。
「ハンドパンを買う人は、ハンドパンに触ることが初めての方が多いです。実際に弾くことができる環境がそんなにないし、弾けたとしても、世の中にあるほとんどのハンドパンが量産品で、Dマイナーのもの(ニ短調音階)が9割以上を占めています。
9音のハンドパンが一般的で、それ以上の音を出すハンドパンを持っているのは演奏者ですね。演奏者が近くにいれば、弾いてみることも可能かもしれないですが、だいたいはそういった環境にはない。弾いたことがある人は自分が弾きたい音階のものが欲しくなって、注文が来ます」
 
「ハンドパンが欲しいという相談を受けたら、その方が納得するまで時間をかけて好みを聞き取って音階を決めます。
ホームページでボタンひとつ押せば買えるんですけど、僕は1回工場見学をおすすめして、最低でも1回は会いたいなって思っています。会って話している中で、こういう音好きかなとか、その方の感覚がなんとなく見えるんです。あとは好きな音楽ジャンルを聞き、一緒に曲を聞いてみる。相談は5~6回とか、毎回3~4時間話をすることもあります。
「この音階で」と決めてくる方もいますが、会ったときには、ほんとにそれでいいか、そのハンドパンだとできることと得意としないことを伝えて、大丈夫か確認します」
ハンドパンを使ってどんな音楽を奏でたいのか、その音楽の好みによって基本となる中央の1音を決めます。
 
「明るい音楽が好きならならメジャー(長調の音階)、メジャーを低い音で作ると落ち着いた感じになる。高い音で作るとキラキラしてなんか可愛い感じになる。
逆に暗い感じの音楽が好きならマイナー(短調の音階)で、低い音で作ると暗いし、高い音で作るとなんかミステリアスなかっこいい感じ。その人の音楽の好みに合わせて決めていきます。
あとはリズミカルな曲がやりたいのか、メロディーをいっぱい弾きたいのか、どんな音楽がやりたいか。メジャーやマイナーの中でもいろんな種類があるので、その人に合わせた音を組み立て、提案します」
そうして基本になる中央の1音が決まります。
中央の1音によって配置する音が変わってくるので、見た目は同じ楽器でも、奏でる音は個体によって違います。1度完成したら作り直しはできないですし、作ったハンドパンを自分のオリジナルとして好きになってほしいから、時間をかけるそうです。
注文が入ってからの完全オーダーなんですね!
 
ハンドパンを手にしたら、今度はハンドパンで楽しむ時間を提供します。
 
「焚き火の会は、ハンドパン好きな人が月に1回集まる会です。
楽器を売って終わりみたいなことはもともと興味がなくて、どっちかっていうと僕が作ったハンドパンでみんなと一緒に遊びたい。 
売る方は売っておしまいなのかもしれないですけど、買った人って買ってからが始まりなんで、楽器を買ったけどどうしようってなることがたぶん多々あると思うんですよ。 
だから、買ったあと楽しく長く続けて、僕と一緒にセッションするぐらいになるまで、一緒に遊べたらいいなって思ってるんで、ハンドパンの焚き火の会をやってます」

というわけで、焚き火の会に参加してみました。会場は鍛工舎の一角。
ハンドパンを買った方や、興味がある方が集まります。初めての人(私)はハンドパンを弾いてみることができたり、自然とセッションが始まったり、ハンドパンで集まった仲間だから話も共通していて楽しい時間です!
こうなったらハンドパンを弾いてみたい!
そんな初めての人(私含む)のために工場見学とハンドパン教室もやっているそうです。
 
●工場見学とハンドパン体験(2時間)
作業工程を3つほど紹介してもらってからハンドパンを体験。ハンドパンはちょっと弾いてみる程度です。
●ハンドパン教室(1時間~)
基礎から弾き方を教わります。終わる頃にはメロディー絶対1個弾けるようになります。
 
というわけで、ハンドパン教室も体験してみました。
1時間は充実しすぎて、マンガでは描ききれないほどの内容満載です。
理解と動作がかみ合わずけっこう疲れてきますが、「ぱせりさんは教えたことをすぐできるようになるから、次の段階にいってみましょう」と褒められていい気分で教わりながら、少しずつメロディーらしき音が鳴るようになってきました。
「ここまで音が出て、基本が分かればあとは上手になるまで練習するだけですよ」という言葉に、ハンドパンが欲しくなってしまうハンドパン沼よ。
音色も好きだし、音楽も好きだし、弾いても楽しいし、聞いてもいい。
これ、マジ欲しくなるんですけども!!
 
2024年10月に3枚目が発売された時田さんのハンドパンアルバムを聞きながら、いろいろ妄想します。
すべてのお問合せはホームページからです!ハンドパン沼にいらっしゃーい。

響楽舎

時田清正
●すべてのお問合せはホームページからお願いします●

鍛工舎

鍛工舎

渡邉和也
新潟県燕市笈ケ島4694-1

Bloomy cafe&bake

工房の隣にはケーキ屋さん「Bloomy cafe&bake」があります。
疲れたカラダを癒すには甘いもの!店内は8席だけの小さなカフェで、店内には時田さんの作ったハンドパンが飾ってありました。
 
11時の開店前から駐車場に車が入り、開店を待つお客様たち。
開店と同時に、ショーケースに並んだケーキが次々と売れていきます。テイクアウトやイートインのお客様で、あっというまに満席になる人気のカフェです。
これはイートイン限定のプリンです。かためで濃厚な卵の味と甘苦のカラメル!カフェラテも美味しかったんですが、これはコーヒーと一緒がオススメ!
 
店主の田中さんは、【鍛工舎】渡邉さんのカフェ募集を聞き即決。Bloomy cafe&bake は2023年11月にOPEN。姉妹でケーキを作り、田中さんのご主人が、渡邉さんの作った鎚起銅器のコーヒーポットでコーヒーを淹れています。
英語で花が満開になるという意味を持つBloomyを店名にした、店内のテーブルにはさり気なく花が飾られ、リラックスできる空間です。実は店名は、息子さんと飼い猫の名前でもあるダブルミーニングなんだそうですよ。
 
ただいま人気のケーキは季節の果物を使ったコシヒカリの米粉のシフォンロールケーキ。使われる果物はそのときによって変わります。確実に食べたい方は、開店から早めに訪ねたほうが良さそうです。
Bloomy cafe&bake

Bloomy cafe&bake

住所 新潟県燕市笈ケ島4694-1 鍛工舎敷地内
電話 なし
定休日 日月木(他不定休あり)
営業時間 11:00~16:00
お支払いは現金 or PayPay/テイクアウトOK
駐車場8台 

今回寄ったところ

この記事を書いた人
小柴ぱせり

72年新潟市生まれ、99年結婚、夫婦二人暮らし。イラスト描きます。 読書、創作、映画、音楽、演劇、着物など、文化系多趣味で、ちょっと?鉄子。企画運営好き。 15年-18年は信州暮らし。
https://314musubiya.9nzai.net/