130年続く味噌蔵「柳醸造」が、味噌ミュージアムと体験型食空間へ進化/長岡市


2025年12月17日 28ビュー
長岡市三島地域にある柳醸造は、1887(明治20)年創業という老舗の味噌蔵。一時は担い手不足と機械の老朽化から閉業が決まり、長年親しまれてきた味が途絶えてしまうところでした。そこに、長岡を中心に地域の食文化を発信しているSUZU GROUPが手を挙げ、昔ながらの製法にこだわった蔵の技術や思いを受け継ぎたいと、2024年に事業譲受。25年10月に、醸造蔵などの一部を改装し「YANAGI MISO MUSEUM」をオープンしたのです。
老舗のDNAを受け継ぎつつ、新たな形で醸造文化の魅力を発信している施設と聞き、訪ねてみました。

発酵文化を伝えるYANAGI MISO MUSEUM

「YANAGI MISO MUSEUM」では完全予約制で、お食事付きの見学ツアーを行っています。店舗の奥、ロゴが染められた暖簾をくぐって、いざミュージアムへ!
入ると出迎えてくれるのは「発酵」の文字。今回のツアーをアテンドしたSUZU GROUP代表の鈴木将さんは「醸造の蔵には発酵に必要な微生物がすみついています。それが蔵の味を決めて、味噌や酒など作られるものを醸していく。ここから先には蔵の微生物たちがたくさんいます。ぜひそういった見えない存在を感じてもらえれば」と話しました。
まずは柳醸造とはどのような会社なのか、その歴史を紐解くところから始まります。
柳醸造は、もともとは米穀商を営む傍ら、米麹の製造販売を行っていました。味噌や醬油の製造を始めたのは1921年。地域の祭りの写真やデパートに出店したときの様子が分かる1枚など、昔懐かしい写真を楽しく解説付きで見るような形で、案内が進みました。
そもそも味噌はどのようにしてできるのか、分かりやすい解説パネルもあります。
展示の上段がお米、下段が大豆について。左から右に見ていくと、製造の過程が分かるようになっています。こちら、展示内容はもちろんですが、使われている木枠にも要注目。何とこれは、米麹を作るために使われていた「へぎ」を使っているのです。新潟名物のひとつ「へぎそば」の器として使われているあの「へぎ」ですよ!
次は実際に味噌が作られている現場の見学です。説明をしてくれたのは味噌作り職人の矢澤弘章さんです。柳醸造では月曜に仕込みを行い、その後、米を蒸して麹菌を付け、金曜までに味噌にするという流れで作業しているそうです。基本的にはいずれの日も見学を受け付けていますが、曜日によって見られる作業が変わってくるので、曜日を変えて何度か参加し、一連の工程を見学するというのもありかなと思いました。

量産を止め、良いものを少しだけに

私が参加したのは月曜日でしたが、それぞれの機械の前で、どのようなことをするのか丁寧な説明があり、見ることのできない作業工程は写真で分かりやすく解説してくれました。
柳醸造はかつて大手スーパーなどに卸す量産品を生産していたそうですが、現在は「良いものを少しだけ」にシフトチェンジ。オール県内産の原材料で味噌作りに取り組んでいます。まさに「作り手の話を直接、現場で聞くことができる」という貴重な体験ができました。
作業工程の解説後は、作った味噌を熟成させている現場に移動します。外に出ると可愛らしいお地蔵さまが祀られていました。その名も「みそ地蔵」。かつて工場中にあったものを、訪れた人にも分かる場所へ移したそうです。
柳醸造がある三島地域には、江戸時代は代官所があり、長岡藩、与板藩、会津藩など複数の藩が飛び地で密集している物流の拠点でもありました。かつては酒蔵も10軒ほどあり、醸造文化の根付いた場所だったのです。そんな地域の往時の様子を偲びつつ、蔵人たちを守ってきたお地蔵さまに手を合わせ、別棟に向かいました。

通称「ハワイ」と呼ばれる温醸蔵

発酵・熟成は隣の建物で行われています。方法は、天然醸造と温醸のいずれか。こちらは「温醸」が行われている場所で、通称「ハワイ」と呼ばれるほど暖かい部屋で発酵を行います。マスクをしていても味噌の良い香りを感じられました。ここでは発酵の程度によって、味噌の色がどのように変わっていくのか、味噌の種類によってどれくらいの時間が発酵に必要なのかといった説明がありました。
こちらは天然醸造を行っているスペースです。夏になって気温が上がると味噌に掛けられたカバーがパンパンに膨れ上がるのだとか。鈴木さんは「長岡は盆地で、冬は寒く夏は暑さ厳しいけれど、そのおかげで冬の寒仕込みは雑菌の少ない環境で仕事ができ、夏になると発酵が活性化する。人間にとって過酷な状況が、味噌の滋味深さを作り出している」と語りました。醸造・発酵文化は、雪国の厳しい自然がもたらしてくれた恩恵の一つということが伝わってきました。

石蔵で味噌を食べ比べ試食

こちらはミュージアムの中心施設「石蔵」です。この場所はかつて柳醸造の蔵人たちが醬油を仕込んでいた場所。土壁、梁など往時の様子がわかるものを残したままリノベーションを行い、現在はワークショップやコンサートなど、さまざまな用途に使われています。
「MISO MUSEUM 見学プラン」では、味噌の食べ比べ体験をこちらで行っています。
用意されているのはこうじみそ越後みそ、コシヒカリ玄米みその3種類です。味の濃い味噌を後から食べたほうが違いが分かりやすいため、テイスティングの順番はこうじ→越後→玄米がお薦めです。
用意してある薄切りのパンに味噌をつけていただきます。こちらは玄米みそをつけているところ。この「玄米みそ」は文字通り、玄米に麹を付けて発酵させたもの。玄米は殻があるため麹が付きにくく、鈴木さん曰く「柳醸造が何年もの歳月をかけて成功した」というもので、蔵を代表する看板商品でもあります。
石蔵の大きな円卓は、かつて仕込みに使われていた樽をリメイクしたものです。鈴木将さんが手にしている八角形の椅子は、蔵人が作業のときに使っていたもの。それをベースに同じデザインで新しい椅子を作り円卓の周りに置いてあります。「大の民芸好き」と語る鈴木さん。かつて使われていた漆器や道具なども展示されているので、そちらも併せてぜひご覧ください。

老舗蔵の味噌を堪能するひととき

「MISO MUSEUM 見学プラン」の締めはおいしいランチ。「やなぎ千年とうふ御膳」をいただきます。「千年とうふ」は、鈴木将さんが命名したもの。百年以上にわたって醸造文化を育んできた柳醸造がこれから先も長く続くことを願って名付けたそうです。
食事は窓際のカウンター席で、庭を眺めながらゆっくりといただけます。目にも美味しいひとときです。
メインは根菜の旨味を生かした自家製味噌に、豆腐を漬け込んだ「千年とうふ」です。お品書きには「味噌の香ばしさと根菜の甘みが重なり、身体にしみわたるようなやさしい味わいの精進料理」と紹介されていました。木綿豆腐を水切りした「押し豆腐」が使われています。
副菜は2種類の「おつけもの」と「おかずみそ」。こちらは季節により内容が変わります。それに県産コシヒカリのごはんと、合わせ味噌(コシヒカリ玄米みそ+こうじみそ)を使った野菜たっぷりの具だくさん味噌汁が付きます。ご飯と味噌汁はおかわりもできます。あまりの美味しさに箸が止まらず、思わずおかわりしてしまいました。スタッフの方は「ほとんどの方がおかわりするので、遠慮せずにどうぞ」と話していました。

ショップも充実

店舗ではさまざまな商品が販売されています。石蔵でテイスティングした味噌、「やなぎ千年とうふ御膳」で提供されたおつけもの、おかずみそは、全て店舗で買い求めることができますよ!
こちらは漬物のコーナー。定番商品のほか、年末から年始にかけては三色なます、初春にはキャベツの重ね漬、夏は梨なすの浅漬けなど、季節ものも扱っています。それぞれ時季を迎えると長年のファンの方から「今年はまだ?」と問い合わせが入ることもあるほど、人気があるそうですよ。
冷蔵ショーケースの下の方には味噌がストックされていて、自宅から容器を持って来て、好きなものを好きなだけ購入できる量り売りも行っています。合わせ味噌希望の場合は、伝えると2種類を半分ずつ詰めてくれますよ。
「やなぎ千年とうふ御膳」に添えられていた「竹の子のたまり漬」「菊とかぶの酢漬」がとても美味しかったので、コシヒカリ玄米みそで作った「越後みそまんじゅう」と合わせ購入しました。竹の子のたまり漬けは、適当な大きさにカットしたものを炊きたてご飯に混ぜると「あっさり味の竹の子ごはん」ができるとスタッフの方が教えてくれました。
「越後みそまんじゅう」は、一口食べてそのふくよかな香りにビックリ!異次元の美味しさでした。
柳醸造では、ミュージアム見学のほかにも石蔵でさまざまなイベントを行っています。そのひとつが「カレーの日」。毎月第2金曜日はお一人様800円(柳醸造会員は500円)で11時から13時まで(なくなり次第終了)、ビュッフェスタイルでコシヒカリ玄米みそを使ったカレーを提供しています。

柳醸造

住所:長岡市吉崎100
TEL:0258-42-2336
営業時間:9:30〜16:00(土曜日は12:00まで)
定休日:日曜日・祝日

●YANAGI MISO MUSEUM 見学ツアー(お食事付き)
料金:3,500円
+1,500円程度で、日本酒ペアリングオプションやお抹茶プランなどもあり。

柳醸造

この記事を書いた人
和田明子

長岡市のリバティデザインスタジオで、夫とともにグラフィックデザインやコンテンツ制作を行う。アート、映画、文学、建築、カフェ巡り、旅行、可愛いものが大好き。ウェブマガジン「WebSkip(https://webskip.net/)」も細々と更新中。