映画『峠 最後のサムライ』のロケ地をめぐってサムライ気分を満喫No.2 北方文化博物館/新潟市


2021年08月06日 8339ビュー
映画『峠 最後のサムライ』のロケ地をめぐる企画。2回目の今回は、新潟市江南区の「北方文化博物館」を訪ねました。
実はこの施設、博物館という言葉から思い浮かべるイメージとは全く違う場所なのです。どんな博物館なのか、さっそく見てみましょう。

豪農の館が博物館に

北方文化博物館は阿賀野川沿い、阿賀野川床固め公園の近くにあります。
駐車場から塀伝いに歩いて行くと、入口が見えてきました。
北方文化博物館は、越後随一の大地主である伊藤家の第5代当主・文吉が1882(明治15)年からおよそ8年かけて建てた邸宅です。その広さは敷地8,800坪、建坪1,200坪、部屋数はなんと65以上!
往事の繁栄ぶりが伝わってきますね。

時代は流れ、第二次大戦後の農地解放により、地主制度は大きく変わることになります。7代目当主・文吉は将来を見据え「博物館を作り、財産をすべてをこれに寄付する」という決断を下します。伊藤家が代々集めてきた貴重な美術品などは、こうして散逸することなく残ることとなり、屋敷は1946年に戦後国内初の私立博物館「北方文化博物館」として生まれ変わったのです。
お城のようなアプローチを進んで行くと、立派な門が現れました。
明治18年頃に造られた、総二階建の門土蔵です。

近代和風大邸宅の主屋

門をくぐり中に入ると、明治20年築の伊藤邸の主屋棟がどんと構えています。学芸員の伊里(いさと)浩さんは「当館の見どころは建築、庭園、美術品」と解説。まさにその通り、と頷ける言葉です。
主屋棟に入ると茶の間、台所、女中たちの仕事部屋だった中の間があります。豪農の館としての生活空間も大切な鑑賞ポイントで、かつての暮らしぶりが伝わってくるような空間です。そこには当主が使ったり、集めたりしていた垂涎ものの器などがずらりと展示されています。
ここでの見どころのひとつは、長い庇(ひさし)に使われている「一本ものの丸桁(まるげた)」です。会津から切り出して運ばれた天然絞りの杉材で、その長さは30mもあります。伊里さん曰く「これほどの部材はおそらく全国でもなかなか見ることができない」とか。このすごさに驚きつつ先に進むと……。

ロケ地となった大広間

そこには想像を絶する空間が待っていました。主屋棟から中庭をはさんで建つ、大広間棟の百畳敷きの大座敷です。まさに圧巻!足を踏み入れた瞬間、思わず息を呑みます。
昨年には大人気アニメ「鬼滅の刃」に登場する、お館様の屋敷に似ていると評判になり、多くのファンが訪れたことでも話題になりました。
訪ねたときも、皆さんスマホ片手に楽しそうに撮影をしていました。大きく設けられた開口部から臨む日本庭園は、まるで巨大な屏風絵のようです。これは撮りたくなりますよね。このフォトジェニックな空間で、映画『峠 最後のサムライ』のロケは行われました。
学芸員の伊里さんは「明治になって豪農も大きな屋敷を建てられるようになったものの、伊藤邸は江戸時代の武家屋敷の格式を踏襲している」と話します。そのため藩主が鎮座して対面するのにふさわしい場所として、ロケ地に選ばれたのではないかと分析していました。
撮影が行われたのは2018年10月。開戦か非戦か揺れる状況のなか、仲代達矢さん演じる長岡藩主の牧野忠恭公に、役所広司さん演じる河井継之助が自身の思うところを述べる重要な場面が撮られました。
当日はメディア向けに公開撮影も行われ、私もその現場に居合わせたのですが、あまりの緊張感に大汗をかいてしまいました。
実は以前にも、ここで映画のロケに立ち会ったことがあります。森田芳光監督、織田裕二さん主演の『椿三十郎』(2007年)の撮影です。あのときはこの庭園で夜間撮影が行われ、それを息を殺してジーッと見ていたことを思い出しました。

田中泰阿弥による池泉回遊式庭園

さてその庭園ですが池泉回遊式の見事なもので、手掛けたのは京都の慈照寺(銀閣寺)の出入り庭師としても知られる柏崎出身の作庭家・田中泰阿弥(たいあみ)です。映画『峠 最後のサムライ』にも趣を添えています。
※イベント時を除いて、通常は庭園内には入れません。
学芸員の伊里さんに庭を鑑賞するときのポイントを教えてもらいました。
この大広間はひとつの大空間に見えますが、実は欄間で3つに区切られています。部屋に入ってすぐの下段の間から中段の間、上段の間と座る場所を変えていくことで、それぞれどんな風に見え方が変わるか楽しむといいですよ、とのことでした。
なかでも一番のビューポイントは、やはり主客が座る場所(上座)になります。そこからは小さな滝組が見えるのですが、実はこれ京都の天龍寺の石組みを模したものなのだそうです。「他にもさまざまな楽しい仕掛けが隠されています。庭の見立てに正解はありませんので、心に感じるままに楽しんでください」と伊里さんは話しました。

三角形の茶室?

北方文化博物館には何棟か茶室が建っているのですが、そのうちの1つがとても面白いのです。その名は「三楽亭」、なんと建物が三角形!見るからに個性的な形ですよね。6代目伊藤文吉が20歳の頃に自ら設計したと伝わっているもので、三角形の空間に書斎、茶室、水屋の3室が設けられています。
どこもかしこも三角形な部屋は、じっとしていると摩訶不思議な感覚に陥ります。三角の部屋に丸や四角の障子窓が映え、設計者の非凡なセンスが感じられました。こちらも通常非公開ですが、中を見たいという要望があるため見学会を開催したいとのことでした。その際はホームページで告知するそうです。

米蔵が展示施設に

次に向かったのは多くの美術品が展示されている「集古館」です。使われているのは、かつて米蔵として3,000俵もの米を収めていた建物。国内外のさまざまな美術品・骨董品が展示されています。
常設展示のほか、季節ごと年4回の企画展示も行われています。2021年夏の展示は『所蔵品展「幕末志士の遺墨展 〜映画『峠 最後のサムライ』によせて」』です。(8月29日まで開催)
河井継之助をはじめ、西郷隆盛、山縣有朋、勝海舟など幕末の武士たちの書がずらりと並び、まるで戊辰戦争の真っ只中にいるような気分になりました。

広い敷地に様々な施設

あまり知られていませんが、こちらには宿泊施設もあります。その名も「豪農の宿 大呂庵」。大呂とはカタツムリのことです。施設内にテレビを置いておらず、のんびりゆったり過ごしていただきたいという意味が込められています。
北方文化博物館では、岡本喜八監督と真田広之さんが出演したお酒のCMが撮影されたこともあるそうです。そのときに真田さんが日本酒の瓶を持ちながら駆け上がったのは大呂庵の階段です。
次に「おみやげ処 三楽」に立ち寄りました。県内の名産がずらり。安田瓦を使った食器や村上紅茶、地元のお菓子や最近ブームの発酵食品など幅広く取り揃えています。
右手奥には地酒を扱うコーナーも。ここには県内のさまざまな蔵元の酒がズラリ。なかでもイチオシが「豪農の館 本醸造」。こちらでしか販売していない限定酒です。
他にも、伊藤家の井戸が店内に残っている「茶房 井戸小屋」、素朴な味わいの「そば処 いはの家」、味噌蔵を改装した食事処(要予約)、移築した2棟の茅葺き古民家など、北方文化博物館は施設や見どころが多いのです。

四季折々の北方文化博物館

最後に北方文化博物館の四季折々の風景をお届けします。

の季節は近年少しずつ早まっており、2021年はゴールデンウィークの終わり頃から5月中旬にかけてが見頃だったそうです。藤も「鬼滅の刃」に登場する印象的な花ですよね。こちらもシーズンには多くのファンが訪れたそうです。
夏は蓮の花が楽しめます。水に浮かぶ可憐なピンクの花が瑞々しい緑の中に見えるさまは、暑さを忘れさせてくれる涼やかな風情です。
秋はなんといっても紅葉でしょう。見頃を迎える11月下旬には開館時間を延長してライトアップが行われます。
冬の雪景色も素敵です。雪化粧した日本庭園は絵になりますね。まさに新潟ならではの美しさですね。

北方文化博物館では、通常非公開の庭や茶室に入ることができるイベントを不定期に開催していますので、気になる方は参加してみてはいかがでしょうか。

北方文化博物館

住所:新潟県新潟市江南区沢海2-15-25
TEL:025-385-2001
営業時間:午前9時から午後5時まで(12月から3月は午後16時30分まで)
休館日:年中無休
拝観料:大人800円/小人400円

〇宿泊
 大呂庵
 3週間前までに電話にて要予約、6名様から。
 料金1名16,500円(税サービス料込・休前日はプラス1,000円)

〇イベント
 豪農ワンダーランド
 「伊藤家ゆかりの禅宗道場・大栄寺の体験と精進料理ランチ」
 開催期間:4〜11月の土日祝日
 所要時間:午前10時〜午後1時
 料金:4,800円(博物館入館料込み)
 最小催行人数:4名 ※7日前まで要予約

 「伊藤家特別回遊から非公開茶室見学とお抹茶セット」
 開催期間:4〜11月
 所要時間:60分
 料金:2,000円(博物館入館料込み)
 最小催行人数:3名 ※要予約

 「沢海まちあるきと北方文化博物館の見学」
 開催期間:3〜11月
 所要時間:120分
 料金:1,500円(博物館入館料込み)
 最小催行人数:5名 ※要予約

北方文化博物館

この記事を書いた人
aco-akko

アート、映画、文学、建築、カフェ巡り、旅行が大好き。 日常にあるキュートなものを見つけるべく日々アンテナを巡らせています。

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