長岡花火をテーマにした小説『君と花火と約束と』聖地めぐりと著者インタビュー/長岡市


2026年06月02日 15ビュー
2025年12月に小学館ガガガ文庫から刊行された小説『君と花火と約束と』。長岡まつり大花火大会が作品の重要なモチーフになり、長生橋、長岡駅、長岡高校、アオーレ長岡など長岡市内各地が登場します。主人公が暮らす東京と、物語の多くを占める長岡市の、小説に登場する場所を巡ってみました。
そして作者の真戸香さんには、作品に込めた思いや長岡の印象などたっぷりと伺いました。

小説『君と花火と約束と』とは

イラスト/あかもく

まずは小説『君と花火と約束と』についてご紹介します。
主人公は東京都調布市で暮らす「まこつ」くんこと夏目誠。彼が高校の入学式の朝、近くの神社で葉山煌(あき)という美少女に出会います。その後、彼女から「ずっと君に会いたかった」という突然の告白を受けるのですが、どうやら煌は訳あって「夏目誠」という人物を探していたようなのです。残念ながらそれは同姓同名の人違いでしたが、誠は「本物の夏目誠探し」を手伝うことになり、その過程で煌と一緒に長岡へやってくる…という展開です。

物語に沿って、登場順に聖地をご紹介

それでは物語のストーリーを追いかけながら、登場する場所をご紹介しましょう。
始めは主人公の高校生・が暮らす東京都調布市の各地が登場します。冒頭、高校に向かって誠が歩くのは深大寺近くの桜並木。ここは通学路の設定で、何度か出てきます。
私が訪れたときは桜の開花直前だったので、残念ながら花の写真は撮れなかったのですが、とても雰囲気のよい並木道でした。訪れる際にはお寺参りとともに門前そばをお楽しみください。
並木道を通り抜け、立ち寄る神社が「布多天神社(ふだてんじんしゃ)」。調布の森の鎮守様として知られており、本殿は覆殿に囲まれ直接見ることはできませんが、宝永三年(1706年)に再建されたもので、調布市指定有形文化財になっています。
誠が煌と出会う重要な場所で、その後も何度か登場します。煌が自分と長岡との縁や、「夏目誠」を探すことになったきっかけを誠に打ち明けるのも、この神社の境内です。
調布に長年暮らし、名誉市民にも選ばれた水木しげるさんにちなんだ御朱印など、多くの限定御朱印がいただけるので、御朱印好きにはおすすめの神社です。
©KADOKAWA 1966

誠が通う学校は「東京都立調布高校」という架空の名称で、映画スタジオに隣接しているという設定になっていますが、調布市には実際に、高校の隣に映画スタジオがあるのです。それが角川大映スタジオ。正面入口前には誠が「“ダークサイドに落ちたハニワ”みたいな巨像が2体」と表した像が実際にあります。それがこちらの魔神像(左)・武神像(右)。1966年の大映作品『大魔神』に登場する守護神です。敷地内は立ち入り不可なので、外から見るだけにしましょう。
調布はかつて撮影所や現像所などが集積し、映画の街と呼ばれたそうで、近くの児童公園には「調布・映画発祥の碑」や「映画俳優之碑」もあります。

いよいよ長岡が登場!

煌と親しくなった誠は、彼女の曽祖父が花火師だったこと、幼い頃に父の実家がある長岡で暮らしていた時期があること、などを知ります。煌と曾祖母は大の仲良しで、曾祖母からプレゼントされた花火の絵を、煌はお守りのように大切にしていました。その絵の裏には長岡市内の住所と一緒に「2026年8月1日14時」と謎の日時が書かれていたのです。誠と煌はその日をめがけて長岡市に旅立ちます。
というわけで最初に登場する長岡の場面は、煌と誠が新幹線から降り立つ長岡駅です。
駅構内にある長岡の紹介コーナーを見て、誠は「長岡市にとって花火がどれほど重要な存在なのか」と思いを馳せます。さらに大手口から出てすぐの場所に設置された正三尺玉の打上筒の模型を目の当たりにし、煌と一緒に「こんなに大きいものをどうやって空に打ち上げるのか」と盛り上がります。
こちらの筒は1926年に作られ、70年以上にわたって実際に使われていたもの。「花火文化の貴重な遺産」として保存・展示され、長岡を訪れる人たちを迎えています。
2人が長岡へとやってきた8月1日は、長岡まつり大花火大会の前日。所用があるという煌といったん分かれ、誠は一足先に絵の裏に書かれていた住所の場所へと向かいます。そこで誠が出会ったのは煌とよく似た、長岡の方言を話す少女・ハルでした。
煌とはその場所で14時に落ち合う約束をしていたのですが、なかなか現れません。どうしたらいいか迷う誠にハルは一緒に探そうと提案。長岡の街へと繰り出します。
まず向かったのは新潟県立長岡高等高校でした。煌は2学期になったら転校することが決まっており、絵の謎解きのついでに学校へ立ち寄って手続きをすることになっていたのです。しかしそこに煌は来ていませんでした。

※長岡高校正門は国登録有形文化財です。触ったりせず、敷地の外から見学しましょう。
次に誠とハルが訪ねたのはアオーレ長岡です。ここは2012年4月にオープンした市民交流の拠点施設で、設計したのは世界的建築家の隈研吾さん。市役所のほか、日本家屋の「土間」をイメージしたナカドマ、アリーナ、市民交流ホールなどを併設し、市民だけでなく、多くの人が集う場所になっています。
煌が見つからずふたりはまちなかを歩き、フェニックス大手イースト大手通庁舎も訪ねます。
フェニックス大手イーストの1階は階段状のテラスシートがあり、イベントが開催可能なイーストスクエアとなっています。また3階と4階には、学びと交流の拠点のまちキャンこと「まちなかキャンパス長岡」が入っています。
また隣のフェニックス大手ウエストには子育て施設の「ちびっこひろば」があり、まちなか絵本館なども入っています。
フェニックス大手の向かいにあるながおか市民センターも訪ねます。こちらは1階に国際交流センター地球広場、2階には長岡観光コンベンション協会などが入っています。

※市民センターは2026年11月末をもって閉館予定です。
なかなか見つからない煌をさらに探して、誠とハルは水道公園まで足を延ばします。
公園内の赤い屋根が目印の水道タンクは遠くからでも見える長岡のシンボル的な存在。1927年に造られたもので、1998年には水道タンクが、2013年にはポンプ室棟・予備発電機室棟・監視室棟が国の登録有形文化財になりました。

誠とハルが食べるタコライスは作者お気に入りのメニュー

煌が見つからないまま夜を迎え、2人は長生橋方面へと向かいます。1日の平和祭の影響で「20時をまわっても出店に人混みがあふれて」いました。そこで誠とハルはタコライスをテイクアウトし、近くのベンチで食べます。
実はこのタコライス、作者の真戸香さんが2019年に初めて長岡まつりに来た時に食べ、余りの美味しさに小説に登場させたという一品。次回のまつり(2022年)では出店場所が変わっていたためかお店が見つけられず、2023年の再挑戦でようやく再び巡り会えたと、真戸さんは興奮気味に話してくれました。

※写真は八海山スキー場で提供されていたときのもので、盛り付けが多少異なります。
作っているのは「Kitchen Quruli(キッチンクルリ)」という移動販売のお店。店主の丸山大樹(ひろき)さんによると、クルリという店名はロティサリーチキンなど、クルクル回したり巻いたりして調理をするものを提供することにちなんで命名したそう。ソースには複数のスパイスを使っており、クミンは粒のままで使用。「噛んだときに広がる香りがアクセント」になり、美味しさを引き立てます。今年の長岡まつり大花火大会でも、長生橋東詰の交差点から北に100mほど行ったところにある市川医院の駐車場で、15時から21時頃まで出店します。タコライスは1,200円(税込)で販売予定ですよ。

Kitchen Quruli

出店情報は公式Instagramでチェック
https://www.instagram.com/kitchen.quruli/

Kitchen Quruliのもう一つの名物はなんと言っても専用のオーブンでクルクル回しながら丸ごと焼き上げるロティサリーチキンです。パリッと香ばしい皮と、しっとり柔かな肉の組み合わせがたまりません。
写真はホールチキン(1羽分)で3,800円。
タコライスを食べた後、誠とハルは長生橋に向かいます。ここは煌が幼かった頃、曾祖母といつも花火を見ていた思い出の場所でした。実は長生橋は、煌と誠が花火大会当日に花火を見ようと約束していた場所でもあります。
ここから物語はラストに向けて怒濤の展開を見せるのですが、長岡花火の象徴でもある長生橋は、重要な場所として何度も登場します。
長生橋でハルは自分の話を始めるのですが、それによるとハルたちは毎年夏には長生橋のたもとで花火を見ていたそうです。そしてこの物語が感動的な結末を迎えるのもこの橋のたもとです。
長生橋の東側には「長生橋東詰広場」という少し広くなったスペースがあります。ここで煌と誠は……ぜひ小説を読んでみてください!
夜遅く、煌がみつからないまま、ふたりはとりあえずハルと出会った空き家に戻ることに。その道中立ち寄るのが平潟神社です。ここはハルが子どもの頃から何度も家族と訪れた場所。手水を使い、境内を歩き、参拝した誠は煌に再び出会えるように祈願します。
こちらの神社は昭和20年の長岡空襲で甚大な被害に遭った場所です。そのため毎年空襲の日である8月1日に行われる「平和祭」では戦災殉難者慰霊祭が行われています。

長岡花火が重要なモチーフに

神社を後にし、歩く誠とハルの背後でふいに花火が上がります。1945年8月1日、長岡空襲の始まった時刻22時30分に合わせて上げられる慰霊の花火「白菊」です。
長岡まつり大花火大会では8月1日22時30分に加え、2日3日とも19時20分から、それぞれ白一色の尺玉3発の白菊が上がりますのでお見逃しなく。
誠とハルは空き家で一晩を過ごし、8月2日、長岡まつり大花火大会当日を迎えます。誠が花火会場にたどり着くのは19時頃。開演アナウンスが流れ「夜空に爆音が響き渡り、続いて艶やかに流れる大輪の花火が夜空に咲きはじめた」と記されています。
作者の真戸さんは何度も取材に訪れただけあって、花火の描写はもちろん、会場の混雑ぶりなども臨場感たっぷり。小説を読みながらまるで花火大会に行っているかのような感覚が味わえます。
これから小説を読む人のため詳細は明かせませんが、誠はある重大な思いを胸に、花火の打ち上げ場所へと向かいます。もちろんこれは小説の中だけのお話しで、実際の花火打ち上げ場所は立ち入り禁止です。
かつてその打ち上げ場所にひょっこり現れ花火師に怒られたのが、かの有名な切り絵画家・山下清で、その日見た花火の感動を元に作った『長岡の花火』は彼の代表作となりました。
真戸さんも、山下清が残した「みんなが爆弾なんかつくらないで、きれいな花火ばかりつくっていたら、きっと戦争なんて起きなかったんだな」という言葉との出会いが、この小説を書く原動力の一つになったと話してくれました。
誠と別れたハルが道に迷ったとき、『長岡まつり大花火大会企画展示《シベリア抑留戦死者を悼む》』という企画展示を目にします。
これは長岡戦災資料館をモデルに書かれたものですが、真戸さんが取材した当時、城内町2丁目にあった資料館は、坂之上町3丁目の元互尊文庫の建物に移転し、2026年5月29日にオープン予定です。
煌との約束を果たすため、誠が花火会場を必死に駆け抜けるシーンで打ち上がるのはフェニックス花火です。フェニックスという名称は登場しませんが「会場に流れるJupiter」というフレーズがそれを示唆しています。

入念に取材を重ねた作家の真戸香さん

小説『君と花火と約束と』が刊行されたのは2025年ですが、作者の真戸香さんがこの小説に関わるようになったのは、そこからさかのぼること8年前の2017年でした。同作はアニメーション映画化され、2026年7月17日(金)に全国公開となります。映画の企画プロデュースを担当した、シンエイ動画社長の梅澤道彦さんから「終戦80年を節目として戦争や平和について問う作品を作りたいと考えている。ついては長岡花火、長岡空襲をモチーフにした物語を作ってもらえないだろうか」と打診を受けたことが執筆のきっかけでした。真戸さんは2007年に『あしたの私のつくり方』で小説家デビューしており、こちらは成海璃子さん、前田敦子さん主演で実写映画化もされています。そのキャリアを買われての声掛けだったそうです。
2019年からコロナ禍の休止をはさみ2024年まで毎年、長岡まつり大花火大会に足を運んだという真戸さん。「花火会場で観覧したり、屋形船から見たり、さらには会場周辺を歩いて周囲の人たちの様子を観察したりと、さまざまな角度から長岡花火体験を重ねていきました。長岡の花火はどれも素晴らしいですが、中でも心に残ったのは長岡空襲が行われた8月1日の夜、空襲開始時刻に合わせて打ち上げられる白菊です」と語ります。作中でも誠が白菊を見て「祈りにも似た感情」が湧き上がるという描写があるのですが、それはそのまま「私自身の白菊に対する思いを書いたもの」だそうです。

未来について悩む10代の揺れる心、恋愛、平和への思い、世代を超えてつながれていく命など、ひとつの物語にさまざまな思いが詰まった小説『君と花火と約束と』。真戸さんは「主人公の2人は10代ですが、この小説はテーマが広いので世代を問わず多くの方に読んでいただければ」と語っていました。ぜひ小説を手に、物語の世界を巡ってみてはいかがでしょうか。

小説『君と花火と約束と』

著:真戸香
刊:小学館ガガガ文庫
定価:814円(税込)
電子書籍あり

小説『君と花火と約束と』長岡聖地めぐり地図

この記事を書いた人
和田明子

長岡市のリバティデザインスタジオで、夫とともにグラフィックデザインやコンテンツ制作を行う。アート、映画、文学、建築、カフェ巡り、旅行、可愛いものが大好き。ウェブマガジン「WebSkip(https://webskip.net/)」も細々と更新中。