新潟について知りたければここ!縄文から大衆文化まで盛りだくさんの新潟県立歴史博物館/長岡市


2021年03月17日 8274ビュー
2020年8月に開館20周年を迎えた新潟県立歴史博物館。これまで何度も訪れていますが、あまりの見どころの多さにいまだ「展示を見尽くした」感がありません。
縄文人の暮らしぶりや、昭和の雪国の町並みなど、まるでその時代にタイムスリップしたかのような実物大のジオラマ展示が複数設えてあります。それらを見ていると時間が過ぎるのもあっという間。
今日こそは見尽くしてやるぞ!という思いを胸に、専門研究員の宮尾亨さんの案内で、じっくりと常設展示を観賞してきました。

5千年以上の時の流れを体感「新潟県のあゆみ」

常設展示は「歴史展示」と「縄文展示」の2つに分かれています。
歴史展示は「新潟県のあゆみ」「雪とくらし」「米づくり」の3つで構成されています。
県のあゆみといっても、その歴史は壮大なものです。旧石器時代から始まり、展示を追って行くとそれに合わせて時代も進んでいきます。
大量の土器の欠片が並べられた展示の上には、狩猟民族として移動しながら生活していた私たちの祖先が、農耕を覚えて定住していく様子が時系列で描かれています。
7〜8世紀頃には文字で書かれた法律を使う律令制が導入され、人びとは税金を納めて社会を築くようになりました。基本的には今と同じシステムですね。税の徴収記録について書かれた古い木簡などもいくつか発見されています。
「やれやれ」といった感じで働いている役人の後ろに書かれている文字は、実際に発見された木簡に書かれていたものです。それらを探しながら「昔の人はこんな風にオフィスワークをしていたのか」などと考えてみると、古い文書も人間味を帯びて見えてくるから不思議です。
展示品にキラキラと輝く大きな珠がありました。そこには「越後」など無数の漢字が刻まれています。これは国宝「威奈大村骨蔵器(いなのおおむらこつぞうき)」のレプリカです。705年に越後城司となった威奈大村が、この地で没したという記録が刻まれています。
歴史博物館の展示品は本物にはAレプリカにはRのアルファベットが説明板に書いてあります。「私たちの館は標本資料で歴史を説明することを心がけており、実物か否かはそれほど重視していません」と、宮尾さん。なお国宝はレプリカを作るのも当然ながら許可が必要で、複製といえどこのような展示は貴重なものなのです。
新潟県が生んだ英雄・上杉謙信とそれにまつわる人物のコーナーは、定期的に展示品の入れ替えを行っています。
取材時には謙信の肖像画が三幅飾られていました。真ん中の一幅は、謙信といえばこれという有名なものですよね。私はてっきり謙信はこういう顔なのだと思っていたのですが、実は昔の肖像画は本人に似ているとは限らないのだとか。「こういうキャラクターとして伝えたいときにはこう描く」というような様式がある程度決まっていて、それに添って描かれることが多かったそうです。なお謙信の肖像画は生前に描かれたものが現存せず、この有名な一幅も江戸時代の作品なのです。本当の謙信はどんなルックスだったのか、謎は深まりますが、こうして展示から想像を膨らませるのも楽しい時間ですね。
次は江戸時代の展示です。幕府の大切な資金源であった佐渡金銀山。そこから掘り出された金銀は「御金荷(おかねに)」として北国街道を経て江戸に運ばれていきました。当時の様子が再現されたミニチュア展示は、その大きさと緻密さに思わず見入ってしまいました。
映画館の入り口を模した展示は、近現代です。これはかつて新潟市にあった映画館「大竹座(だいちくざ)」をモデルにしているそうです。中に入るとブロマイドがあったり、かつての古い電話の受話器を持ち上げると昔懐かしい音楽を聴くことができたりと、いろいろ楽しい仕掛けがあります。
近現代の展示で気になったのは郷土出身の偉人たち。中でも明治時代の油田景気に沸く長岡で活躍した女株券師や、女性初の代議士誕生の紹介には興味をそそられました。今こうやって女性が社会で輝けるのも、このような先人たちの頑張りがあったからこそとしみじみ感じました。

昭和30年代の町を訪ね、雪国の再現のリアルさにうなる

次の展示室は「雪とくらし」です。雪のトンネルを模した廊下を進むと、昭和30年代の高田(上越市)の雁木通り商店街に行き着きます。雁木とは、家の前の歩道部分に張り出した雪よけの屋根のこと。これは公共の設備ではなく、なんと各家の人たちが自費で設置しているのです。そのためそれぞれの経済事情などに応じて材料が違っていたり、屋根の高さがずれていたりして、引いてみると雁が空を飛んでいるように見えることから「雁木」という名が付いたという説があります。
かつては冬になると雪が人の背丈より高く積もりました。そのため道路は雪で埋まり、閉ざされた町は昼間でもうっすらと暗かったのです。展示は当時のその様子を忠実に再現しています。
写真は駄菓子やおもちゃが売られていた一文店と呼ばれる店です。近年、駄菓子は人気がありますよね。思わず品揃えをジーッと見てしまい、つい買い物したくなってしまいました。
ここはロケ需要も多く、高田を舞台にした映画「ふみこの海」、大林宣彦監督の映画「この空の花 -長岡花火物語-」、AKB48のMV「So long!」などの撮影も行われました。
展示室の2階に上がると、「三八豪雪」と言われる昭和38年冬の町の様子が広がっています。かつては大雪が降ると道路は通れなくなり、屋根から下ろした雪の置き場になっていました。あまりの雪の多さに人々は2階の窓から出入りすることもあったのです。車社会となった今では「二度と見ることのできない光景」と宮尾さんは語ります。
このジオラマは、雪が止んだときに皆で一斉に雪下ろしをしている様子を表しています。屋根の上で滑って転んでいる人がいたり、雪の塊に角形の切れ目が入れてあったりと、実に細かく作り込んであるので見ていて飽きません。

苦労して米どころに

新潟県と言えば全国屈指の米どころ。私も学校の授業で「越後平野」という言葉を学び、それは広大な稲作地でもあるのだと教わりました。それは江戸時代以降の灌漑用水工事や低湿地の干拓など、先人たちの苦労あってのことなのです。その当時の様子などをジオラマで見ることができます。

縄文人の世界にタイムスリップ

次は「縄文展示」です。展示室入り口には、ちょっと怪しい古代文明の壁画のような装飾が施されています。じつはこれ縄文土器の表面に付けられた模様を垂直方向に組み立てたレリーフなのです。展示室内に入る前に、ぜひ一度じっくり見てほしいコーナーです。
展示室では縄文時代の人々がどのように暮らしていたのかを、四季ごとに再現した実物大のジオラマで知ることができます。何度見ても、驚きの声をあげてワクワクしてしまう展示のひとつです。
季節は「冬の狩り」から始まります。ハンターたちの傍らには犬がいます。この当時から犬は人間の大切なパートナーだったのですね。離れた所で、奪った命に感謝を捧げるように手を合わせている人の姿も。さまざまなドラマを感じることができます。
雪が解け、季節は春を迎えました。女性たちは山菜を摘んでいます。
よく見るとこの近辺の里山で採れるようなものばかりです。当時はまだ農耕は行われていなかったため、山菜は貴重なビタミン源だったと推測されています。
佐渡をモデルにした夏の展示は、鯛の収穫の様子を表しています。よく見ると岩場にカンゾウの花が咲いていますが、昔からカンゾウが咲く頃は鯛の旬と言われていたそうです。縄文の人たちは生活で得た経験をもとに「あの花が咲く頃はどの魚がよく採れる」などと判断していたようです。来たるべき冬に備え、女性が保存食の干物づくりをしています。
最後の季節「秋」では集落の暮らしを再現しています。
家や倉庫も再現されており、中の様子を見ることもできます。現在は新型コロナウイルス対策で家の中には入れません。
この場所の注目ポイントは縄文土器を作る人たち。おばあさんが子どもたちに土器作りを教えているのですが、傍らの粘土には指の跡がくっきり残っています。このように細部まで再現されている縄文ジオラマは、見れば見るほど新しい気付きがあります。

縄文文化をもっと深く知る

最後の展示室のテーマは「縄文文化を探る」です。どんなものを食べていたのか、どんな家で暮らしていたのか、ジオラマで感じた興味や疑問に対する答えがここにはあります。
圧巻は高さ約4メートルに及ぶ貝塚の展示。ほとんどがカキとハマグリだそうで、縄文人も意外とグルメだったのでしょうか。
縄文と言えばやはり土器ですよね。湾曲した壁一面に土器が飾られた展示に圧倒されます。それにしてもあの複雑な模様はどのようにして作られているのでしょうか。気になりますよね。
じつはその「縄目の展示」もあります。撚った縄と、それで作ることのできる模様が並べて展示されており、その数ざっと150種類以上!こちらも見ていると時が経つのを忘れてしまいそうになる展示のひとつです。
常設展は音声ガイドの無料貸出もあります。所要時間は約1時間30分ほど。ただしゆっくりと見て回りたい人は2時間は見ていたほうが良いかもしれません。新潟県の歴史や文化を数時間でギューッと知ることのできるこの楽しい施設、まるで豪華な幕の内弁当のような展示だといつも思います。県民はもちろん、県外から訪れた人たちも、ぜひ足を伸ばして訪れてほしい場所です。

新潟県立歴史博物館

住所:長岡市関原町1丁目字権現堂2247番2
TEL:0258-47-6130
観覧時間:午前9時30分から午後5時まで(入館は午後4時30分まで)
休館日:月曜日(月曜休日の場合は、その日以後の休日でない最初の日)/年末年始(12月28日〜1月3日)
常設展示観覧料:一般520円/高校・大学生200円/中学生以下無料

新潟県立歴史博物館

この記事を書いた人
和田明子

長岡市のリバティデザインスタジオで、夫とともにグラフィックデザインやコンテンツ制作を行う。アート、映画、文学、建築、カフェ巡り、旅行、可愛いものが大好き。ウェブマガジン「WebSkip(https://webskip.net/)」も細々と更新中