新潟ガストロノミー おいしさの裏側を求めて⑫――生産者と料理人の真剣勝負が新潟ガストロノミーを進化させる「割烹 新多久」/村上市


2023年01月10日 3578ビュー

買う人がいなければ良いものも生産できない

「“もう少しだな”と。初めて“ふたなつ”を新多久の山貝さんに持ち込んだ時言われたんです」と語るのは野澤食品工業の野澤陽祐さん。
村上市塩谷にある天保7年創業の野澤食品工業は、代々伝わる木樽を用いた昔ながらの製法で、手作りの味噌と醤油を作り続けている。
昔の人は甘い醤油を好んだそうで、甘味料を加えた醤油を作っていたという。
しかし野澤さんは「手間暇かけた無添加の醤油を作ってみたい」と思っていた。
しかし高い無添加醤油を買う人がいなければ商売は成り立たない。
そこで一般消費者ではなく、質の高い食材を必要とする料理人に売ろうと考えた。
こうしてできたのが2年寝かせた醤油“ふたなつ”。
しかし開発したての商品はまだ認めてもらえなかった。
そこで改良に改良を重ねたさらに1年後、新多久さんに持参すると「奥行きを感じる醤油だ」との合格の返事を得たという。

2度夏を越す醤油

“ふたなつ”はその名の通り、夏を2回越してようやく出来上がる醤油。
一般的な醤油は脱脂加工大豆という、油を搾ったあとの大豆が使われており、出荷まで約1年、大手メーカーでは約半年で出荷されるそうだ。
野澤さんは丸大豆を木桶で仕込み天然熟成させる。
大豆が溶けるまでに時間がかかり、出荷までに1年半から2年と夏を2回も越す長期間が必要だという。
木桶で作られる醤油は、なんと国内生産量のわずか2〜3%。
木桶には菌が住み着くため、木桶で仕込んだ醤油には蔵ごとの味が表れる。
この長い熟成期間と木桶を使った手仕事が、“ふたなつ”の優しく力強いうま味を生み出す。

新多久の味を支える醤油

「割烹 新多久」は村上にある慶応三年創業の日本料理店。
村上を中心とした近隣でとれる食材や村上の食文化を生かす料理でありながら、一方でもっと美味しいものを探究する心から出る、自由奔放な斬新さが特徴だ。
新多久の味を支えるのは刺し場・八寸場を担当する兄の山貝真介さんと煮方・焼方を担当する弟の亮太さん。
兄弟二人で話し合いながらコース料理を組み立ててゆく。 ​
料理で食材の宝庫村上を感じて欲しいという山貝さんは調味料もできるだけ「自然なもの、地元のものを使いたい」という。
「“ふたなつ”は醤油としてお刺身などに使うほか、出汁づくり、煮物、食材の漬けこみなどいろいろ使わせていただいています。もしこの醤油がなければ、新多久の味も変わってしまうでしょう」

山貝さんの意見を素直に聞いて醤油を改善した野澤さんと、“ふたなつ”を育て、継続的に購入する山貝さん。
生産者と料理人の真剣勝負が新潟ガストロノミーを進化させてゆく。
割烹 新多久

割烹 新多久

住所:新潟県村上市小町3−38
電話:0254-53-2107
営業時間:ランチ 11:30~14:30 / ディナー 17:00~21:30
定休日:第1・第3火曜、毎週水曜・不定休有・祭日は不定休
駐車場:あり(10台)

この記事を書いた人
NIIGATA GASTRONOMY

「美食学」と訳され、料理と文化の関係性を考察することを指す“ガストロノミー”。
口にすることで地域の風土や歴史を感じられることから、成熟しつつある食文化の中で、注目を集めている考え方。多様な歴史と文化、豊かな自然に恵まれた新潟県はガストロノミーの宝庫。