映画『峠 最後のサムライ』のロケ地をめぐってサムライ気分を満喫No.3 長谷川邸・河井継之助記念館/長岡市


2021年09月02日 7190ビュー
映画『峠 最後のサムライ』のロケ地をめぐる企画も今回で3回目です。訪ねたのはロケ地の1つ「長谷川邸(旧長谷川家住宅)」と、主人公・継之助のことを詳しく知ることができる「河井継之助記念館」の長岡市内2カ所。まずは、長谷川邸からご紹介します。

県内最古の豪農の館

国重要文化財に指定されている「長谷川邸」。現在の主屋が建てられたのは享保元年、西暦1716年と今から300年以上前になります。館のスタッフは「ちょうど『暴れん坊将軍』のモデルになった徳川吉宗公が将軍になった年」と教えてくれました。そう聞くと古さが実感できますね。
長谷川家は江戸時代初期から庄屋を務めた家で、現存する豪農の館としては北陸最古と言われています。主屋は1706年の大火で焼失の後に、10年かけて再建されたと伝わっています。

土間が野戦病院に

「ごめんくださーい」という感じで邸内に入るとまず最初に迎えてくれるのは広大な土間です。ここは普段は薪などの燃料置き場として使われていました。また収穫の時期になると年貢米を受け入れる場所でもあったため、かなり広いスペースになっています。往事の繁栄ぶりがしのばれますね。
この土間で2018年11月、映画『峠 最後のサムライ』の撮影が行われました。何かの炊事シーンかと思いきや、この場所を野戦病院に見立ててのロケでした。新政府軍の攻撃で負傷した役所広司さん演じる河井継之助も、多くの負傷兵とともにここで傷の手当てを受けます。かなりの大けがなのですが、それを悟られると士気にかかわるため、痛みをこらえて懸命に振る舞うという継之助の人柄がしのばれる場面でもありました。
さてその土間にある、ジブリのアニメに出てきそうな形状のこちらのもの、一体なんだか分かりますか?正解は「かまど」です。しかもこれ炊事用ではなく、お風呂のお湯を沸かすための専用かまどとして使われていたそうです。
それでは靴を脱いで上がってみましょう。入ってすぐの板の間は、茶の間として家族が使っていたところになります。

和月伸宏さんが描いた長谷川邸

順路に従って進むと「玄関の間」が見えてきます。そこにはなんと、越路出身の漫画家・和月伸広さんが「るろうに剣心」のキャラクターと長谷川邸を一緒に描いたという、ファン垂涎の1枚が飾られているのです。
こちらは「長谷川邸再建300年」を記念して2016年に行われたイベントのときに描いていただいたものになります。この1枚を観るために遠方から訪れるファンもいるということで「るろ剣」の根強い人気を感じました。
※展示は複製品です。
古い民家に使われている「釘隠し」。長押(なげし)などに打った釘を隠すための装飾具ですが、家主や大工のセンスが光る一品でもあります。 長谷川邸では鶴、扇などさまざまなデザインのものが使われてているそうで、それらがまとめて展示してありました。鶴はいろいろなポーズのものがあり、見ていて飽きません。職人の手づくりのため、同じ形に見えても微妙に差異があるのも魅力のひとつです。
水回りも公開されていました。こちらはお風呂です。と言っても家族は入れません。なんとお坊さんがお経を読む前に身を清めていただく為に用意されたものだそうです。
こちらはトイレです。畳敷きにツヤツヤとした木版など、パッとみた感じは小座敷か隠し部屋のようですね。見えないところ、ご不浄にも贅を尽くしているところに、長谷川家のセンスと財力が見えたような気がします。
主屋の廊下は庭園に面しています。一面苔に覆われており、緑鮮やかで涼やかなお庭でした。秋になると見事な紅葉を楽しむことができるそうです。
邸内にはかつて使われていた品々が展示されているのですが、中でも気になったのがこの扇風機。芝浦製作所(現・東芝)の文字に時代を感じました。レトロ家電や古い道具が好きな方にはたまらない展示がほかにもありましたよ。
邸内には内蔵の「井籠蔵(せいろぐら)」があります。外蔵だと冬に雪が積もったときに物の出し入れが不便なため、中に作られたそうです。井籠蔵は通常の蔵よりも機密性が高く火事に強い構造になっているそうです。
さらなる火事対策として蔵の外には砂、土、水を入れた瓶が置かれていました。
火災時には土や砂で扉のすき間を埋めて内部に火が入らないようにと準備されたものです。大火で屋敷を失い、10年かけて再建した当時の人たちの「もう火事はこりごり」という思いが伝わってくるようでした。
主屋より後の江戸後期に建てられた新座敷も重要文化財に登録されています。家族の居住スペースかと思いきや、客人などが宿泊する場所として使われていたそうです。
主屋の裏には蔵を改装して作られた「長谷川家収蔵品展示室」があります。こちらには画家・谷文晁の作品など長谷川家に伝わる書画や調度品などが展示されています。展示内容は年に数回、テーマを設け変えているそうです。

ロケ需要、続々

長谷川邸では今回ご紹介した『峠 最後のサムライ』のほか、1995年に宮尾登美子原作の映画『藏』、2011年に大林宣彦監督作品『この空の花 -長岡花火物語』の撮影も行われています。展示室の前室にはそれらのロケの様子を伝える写真や、出演者のサインなどが飾ってありました。こちらには緋村剣心を描いた和月さんのサイン色紙もあります。ファンの方はお見逃しなく!

長谷川邸(旧長谷川家住宅)

住所:新潟県長岡市塚野山773-1
TEL:0258-94-2518
開館時間:午前9時から午後4時30分
休館日:冬期間(12月1日〜3月31日)
入館料:大人420円/小・中学生210円/小学生未満は無料

河井継之助の人物像を伝える記念館

長岡市は河井継之助生誕の地。継之助が暮らしていた住居跡には現在「河井継之助記念館」が建っています。
継之助がどのような人物だったのか。詳細な年表、本人直筆の書などのさまざまな資料と共に紹介されています。こちらの銅像は「記念館のシンボルになるものがほしい」という思いで作られたものです。
つい顔を見てしまいますがぜひ足元に注目を。当時珍しかった洋靴を履いています。制作にあたり時代に忠実にということで、当時洋靴を履いていた幕末の偉人・坂本龍馬と同じブーツを履かせたそうです。
幕末の越後長岡藩は武装中立を目指し、当時日本に3門しかなかったガトリング砲を2門手に入れました。そのガトリング砲を忠実に再現したものが写真のものです。継之助には欠かせないアイテムですね。
映画でもガトリング砲を撃ちまくるシーンが登場しますので、要注目!
記念館のスタッフは「継之助はどうしても戊辰戦争の部分に焦点があたりがちになる。しかし彼は藩政改革、経済改革を次から次へと行い、さまざまな功績を残している。記念館ではぜひそちらにも注目して展示を見てほしい」と話してくれました。
記念館から庭に出ることができるのですが、この庭にある灯籠とつくばいは、継之助が暮らしていた当時のものだそうです。館内を一巡りしたあとは、ぜひ庭にたたずんで往事に思いを馳せてみてはいかがでしょうか。

※現在は予約制となっておりますので、事前にお電話をお願いします。

河井継之助記念館

住所:新潟県長岡市長町1-1675-1
TEL:0258-30-1525
開館時間:午前10時分から午後5時
休館日:12月28日〜1月4日
入館料:大人200円/高校生・大学生150円/小・中学生100円

長谷川邸・河井継之助記念館

この記事を書いた人
和田明子

長岡市のリバティデザインスタジオで、夫とともにグラフィックデザインやコンテンツ制作を行う。アート、映画、文学、建築、カフェ巡り、旅行、可愛いものが大好き。ウェブマガジン「WebSkip(https://webskip.net/)」も細々と更新中