河井継之助と酒を訪ねる旅のススメ①〈小千谷編〉/小千谷市


2022年04月13日 9350ビュー
こんにちは。
〈深く、濃く、美しく 新潟を伝える保存版観光誌〉『新潟発R』の編集長をしております髙橋真理子です。
新潟県長岡地域振興局さんとのコラボ企画で投稿させていただきます。

作家の司馬遼太郎さんが幕末の長岡藩家老・河井継之助を描いたベストセラー小説『峠』が初めて映画化され、6月17日(金)から全国公開を控えています。
映画『峠 最後のサムライ』をきっかけに、河井継之助ゆかりの地と、その地で醸される日本酒を楽しむ〈歴史と酒を巡る旅〉に出かけてみませんか。

まずはリーフレットをチェック!

これまで、新潟県長岡地域振興局さんとのコラボで歴史と酒を訪ねる旅を案内するリーフレットを3種類発行してきました。
 

 
現在は新潟県内のJR駅などで「映画&小説『峠』の舞台へ 河井継之助と酒を訪ねる旅のススメ」を配布しています。ぜひご活用ください。

幕末を激しく生き抜いた継之助ゆかりの小千谷市、長岡市・摂田屋、見附市・今町の〈歴史と酒を巡る旅〉レポートを3回シリーズでご紹介します! 初回は小千谷編です。

談判の舞台の旅は小千谷駅からスタート

小千谷駅は、JR長岡駅から上越線で3駅目。駅前には、錦鯉をモチーフとした地下通路があります。

地下通路の入り口近くには、ポケモンの絵が描かれたマンホール蓋「ポケふた」の「コイキング」も! 探してみましょう。

小千谷には、「たかの井」蔵元の高の井酒造と、「長者盛」蔵元の新潟銘醸があります。どちらも駅から徒歩圏内ですが、今回は先に継之助ゆかりの地から訪ねることに。

小千谷の中心市街地は信濃川の河岸段丘上に発展してきました。駅から徒歩約20分歩き信濃川を渡ったエリアに、歴史を伝えるスポットが点在しています。

小千谷市と聞くとすぐに思い浮かぶのが、へぎそば、錦鯉、片貝の花火、牛の角突きなどの特産品や伝統行事ですが、小千谷の歴史に大きな影響を与えてきたのが小千谷縮
国の重要無形文化財でユネスコ無形文化遺産にも登録されている特産品です。  

小千谷縮。樋口織工藝社・樋口隆司さんの作品。

江戸時代には宿場町であり、信濃川舟運の要衝地でもあった小千谷。江戸中期に伝統の麻織物を改良して生まれた小千谷縮の産地として、さらに魚沼地方から塩沢紬などの織物が集まり、江戸や京都へ移送される地として栄えていました。

信濃川を渡った元町や本町エリアを巡る前に、継之助が戦争回避のために新政府軍と談判をした慈眼寺を目指しましょう。ここでの談判決裂により、歴史は北越戊辰戦争へと動いていきました。

慈眼寺までは駅から徒歩約30分、タクシーを利用すれば約6分です。今回は小千谷の町の空気を味わいながら、歩いて向かいました。

談判の舞台で、小千谷商人の気風に触れる

1868(慶応4)年閏4月26日、小千谷南部の雪峠で新政府軍が会津藩を撃退。会津藩は小千谷港から船で長岡方面へ逃げていきました。
新政府軍が小千谷陣屋に本陣を構えたとき、縮問屋の小千谷商人たちの判断により、即座に新政府軍に協力したことで、小千谷は戦禍を免れました。
同年5月2日、戦争を回避するために継之助が新政府軍の岩村精一郎と会談をした慈眼寺には、その部屋が「会見の間」として残されています。
現在も『峠』や継之助ファンが全国から訪れ、「数分間、無言でここにじーっと座っていかれる方もいらっしゃいます」と、65代住職の船岡芳英さんが話してくれました。
「談判の日は旧暦でいえば6月。梅雨のじめじめとした空気が、この会見が決裂することを予言していたのかもしれませんね」

新聞連載開始前の1965(昭和40)年に取材で訪れた司馬遼太郎さんの芳名帳は、現在でも大切に保管されています。
芳名帳に書き残された「河井継之助の風姿を知らむがため慈眼寺に来る。山内の蝉声を聞きつつ」の書は、境内の石碑にも刻まれています。

慈眼寺では継之助が使っていた茶碗などの貴重な品も保管しており、会見の間に飾られた2人の肖像画や継之助の書などとともに鑑賞できます。
会見の間の一角には新政府軍の薩摩藩士の位牌も祀られています。遠く鹿児島から遺族が訪れたこともあるそうです。

慈眼寺から徒歩8分ほどの船岡公園の一角には、船岡山西軍墓地もあります。
新政府軍に協力したことや、戦死者を大切に弔っていることについて、船岡住職は「小千谷の人は古くから江戸や京都と交流があり、バランス感覚に優れていたのでしょう。さらに情報が早く入ってきたことが、北越戊辰戦争での即断につながったのだと思います」と、商人町ならではの小千谷の人たちの気風が根底にあると推察します。

慈眼寺は2004(平成16)年10月の中越地震により、「会見の間」の壁が崩れ落ちるなどの被害を受けましたが、全国の檀家や歴史ファンからの寄付によって復興。
「皆さんに感謝しています」と船岡住職。見学希望の場合は事前に連絡を入れましょう。
慈眼寺

慈眼寺

小千谷市平成2-3-35
TEL.0258-82-2495
見学は要予約
公式サイト

江戸時代から続く割烹で歴史に酔う


慈眼寺や船岡公園を訪ねた後は、信濃川へ向かって約10分歩き、談判決裂後に継之助が昼食をとったといわれる1730(享保15)年創業の老舗割烹東忠へ。
湯殿川畔に建つ木造三階建てで、本館と別館、土蔵が登録有形文化財に指定されています。
現在は居食亭 東忠としておよそ300年の歴史を受け継いでいます。
 
継之助が二見虎三郎とともに昼食をとりながら酒を飲んだと伝わる梅の間。食事やカフェ利用者は見学もできます。
小千谷の旬の食材を使った多彩な料理が楽しめる「継之助談判の刻(とき)東忠御膳」には、継之助の好物だった桜めしも並びます。
桜めしは大根の味噌漬けを刻んでご飯と混ぜた郷土料理。地域や家庭によって、米といっしょに炊き込む場合もあるそうです。
写真右から高の井酒造の「伊乎乃」(300ml、720 ml)、新潟銘醸の「N-888プレミアム」(720ml)「美禄 長者盛 大吟醸」(180ml)。
地元小千谷の高の井酒造新潟銘醸の地酒は、季節限定酒を含め各種メニューに並びます。他に県内の人気地酒も扱っています。
談判決裂後の継之助の気持ちを想像しながら、小千谷の幸と桜めし、そして地酒を味わってみたいですね。
居食亭 東忠

居食亭 東忠

小千谷市元町11-11
TEL.0258-82-2033
営業時間/11:00-13:30(カフェは-16:00)、17:00-22:00(夜のみ要予約)
定休日/不定休

天領だった港町・小千谷の歴史を歩く

食事の後は、かつて小千谷の中心地だった下タ町(現元町)に残る史跡を訪ねます。
居食亭 東忠から約200mの湯殿川畔の陣屋跡は、現在は福祉施設になっています。2000(平成12)年に地元、元町町内会が建立した記念碑があります。
幕府直轄の天領だった小千谷。その陣屋は、1724(享保9)年からは会津藩が管理する出張陣屋となっていました。
陣屋跡から約5分歩き、真言宗の寺・五智院へ。
五智院の参道。
五智院には、かつての陣屋の屋根の一部が移築されています。
この寺院には、1868(明治元)年に日本初の公立学校といわれる振徳館が開講されました。
その歴史は現在の小千谷小学校に受け継がれています。

五智院から信濃川へ向かって徒歩約6分。
支流の湯殿川河口近くに、かつて小千谷港(舟改番所 ふなあらためばんしょ)がありました。
現在は記念碑が建てられています。

元町に隣接する本町には、江戸時代に縮仲買業で財を成した西脇邸の邸宅があります。
映画『峠 最後のサムライ』のロケ地にもなりました。
映画では、継之助の妻・おすが役の松たか子さんや旅籠屋の娘・むつ役の芳根京子さんらのシーンが撮影されました。
西脇邸は、雪どけとともに庭園を公開しています。園内には県内の地酒を販売する売店もあるので、美しい庭園の中で地酒を味わいながら、映画のシーンや、自分なりの継之助の人間像を思い描いてみるのもいいですね。
西脇邸

西脇邸

小千谷市本町2-7-6
TEL.0258-82-3000
営業時間/4月下旬-11月末・10:00-16:00
定休日/営業期間中の火・水曜
入園料金/300円

小千谷駅近くの酒スポットへ

歴史散策を満喫したら、再び小千谷駅方面へ戻り、2つの酒蔵を訪ねましょう。
小千谷駅を背にして右側に位置する高の井酒造の創業は江戸初期。
2022年3月25日には蔵元直売所ゆきみず庵がオープンしました。直売所限定品を含む高の井酒造の商品を購入できるとともに、有料試飲も楽しめます。
事前予約制で酒蔵見学もできるので、酒蔵の方たちから直接、酒造りや酒蔵の思いなどを聞くことができます。
ゆきみず庵の入り口には小千谷の観光スポットを紹介する木製の案内板や、蔵元がお薦めする店や施設のパンフレットなどが置かれています。
杜氏の木村明裕さんは小千谷市片貝の出身。異業種から酒蔵に転職し、新潟清酒学校を卒業し、9年前から杜氏を務めています。
酒蔵に転職したのは「地元に恩返しがしたかったから」と木村さん。丁寧な酒造りを若い蔵人たちにも徹底指導し、皆で透明感のあるきれいな味わいを追求しています。
木村さんが特にお薦めする「田友 純米吟醸」は、市内の冬井地区の棚田で栽培した越淡麗を100%使用。仕込み水も冬井地区の湧き水を使ったオール冬井産。
「越淡麗ならではの、きれいでふくよかな味わいが楽しめます」と木村さん。

全国で初めて取り組んだ雪中貯蔵によって仕上げた限定販売の「越の初梅 雪中貯蔵酒」や、代表銘柄「たかの井」などを飲み比べてみましょう。
雪中貯蔵の様子。原酒が入ったタンクを埋め込みます。
高の井酒造

高の井酒造

小千谷市東栄3-7-67
TEL.0258-83-3450
<蔵元直売所>
TEL.0258-86-6090
営業時間/10:00-16:00
定休日/日曜・祝日
酒蔵見学/可能(要予約、有料、詳細はサイト参照)

もう一つの酒蔵新潟銘醸は、小千谷駅を背にして左側に位置します。創業は1938(昭和13)年。酒蔵見学はできませんが、お酒を購入することはできます。
創業家の吉澤家は長岡市の摂田屋にある旧機那サフラン酒本舗を創設。現在「機那サフラン酒」はリキュールとして、新潟銘醸で製造しています。
今年杜氏4年目を迎えた星野敦さんは、新潟清酒学校で高の井酒造の木村さんと同期でした。「世代は違いますが、お互いに切磋琢磨して、それぞれの酒蔵の特徴を表現していきたいと思っています」と星野さん。
取材当日は、出品酒となる大吟醸酒の搾りの作業が行われていました。
通常のお酒はヤブタという機械で搾りますが、出品酒は「艘(ふね)」と呼ばれる四角いタンクに、もろみを入れた袋を積み重ね、重みで垂れてきたお酒を集めます。
出品酒は酒蔵の技術や意識を高めることにもつながっています。
杜氏の星野さんお薦めの1本は、メダカが描かれたイラストが愛らしい「純米吟醸 めだかの宿」。すっきりした味わいの中にも「四段仕込みによってうま味を出した、冷やしても味のある生貯蔵酒です」と星野さん。アルコール度数12の低アルコールなので、日本酒初心者にもお薦めです。
新潟銘醸には地元の晩酌酒として愛される「長者盛」と、首都圏での販売展開に力を入れる「越の寒中梅」の2本柱があります。
星野さんは定番の「長者盛」を大切にしながら、「越の寒中梅」では新たな層に向けた商品に挑戦しています。
新潟銘醸

新潟銘醸

小千谷市東栄1-8-39
TEL.0258-83-2025
酒蔵見学/不可(商品購入のみ可)

旅の締めは、駅から徒歩数分の髙留商店へ。地元で愛されている“町の酒屋さん”との出合いは、酒旅の醍醐味です。髙野直人さん、千佳子さんご夫妻がお薦めの地酒を紹介してくれました。
写真右は新潟銘醸の「泰然(たいぜん)純米大吟醸」。コスパが高く、ぬる燗にも合う純米大吟醸酒です。左は、小千谷の米と水にこだわった高の井酒造の「田友 特別純米」。
2018(平成30)年には戊辰150年記念地酒「小千谷談判」を企画。
高の井酒造新潟銘醸の純米酒(300ml瓶)をオリジナルラベルでセット販売。小千谷土産にはぴったりですね。
高留商店

高留商店

小千谷市東栄1-3-23
TEL.0258-82-2635
営業時間/9:00-18:00
定休日/不定休

小千谷には地酒を応援する市民グループが活動しており、髙留商店の高野ご夫妻もそのメンバーです。会の名称は日本酒ルネッサンス倶楽部 ODIYA SAKE40
小千谷縮作家の樋口織工藝社代表・樋口隆司さんが主宰し、これまで、市内の飲食店をめぐる「はしご酒」や、小千谷出身杜氏が所属する蔵の吟醸酒を楽しむ「吟醸酒の会」などを開催してきました。
今回取材のお願いをすると、これまで集めてきた酒器を全て並べて待っていてくれた樋口さん。写真で樋口さんが手にしている酒器は「佐渡市のガラス工芸作家・佐々木玲子さんの作品『星影の森』です。佐々木さんが私をイメージして造ってくださったんですよ」と樋口さん。
さらに小千谷の2つの酒蔵の地酒、杜氏を多数輩出している杜氏の郷としての小千谷、そして伝統の小千谷縮の魅力を語ってくれました。

「小千谷の人たちが楽しみながら、地元の酒や食の豊かさを知って、発信してほしいですね」。樋口さんがさらりと着こなす小千谷縮。その風合いの素晴らしさが、旅のすてきな思い出になりました。

日本酒ルネッサンス倶楽部 ODIYA SAKE40

問い合わせTEL.0258-83-2121(樋口織工藝社)

撮影:佐藤晴子(渡邊久男写真事務所)、高橋朋子
写真協力:小千谷観光協会、高の井酒造、新潟銘醸

河井継之助と酒を訪ねる旅 立ち寄りスポット

この記事を書いた人
長岡・柏崎地域振興局★ふらっと旅を楽しみ隊

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