世界からも注目!文化人が愛した老舗の発酵の味。今成漬物店/南魚沼市


2022年10月09日 5840ビュー
お皿に盛りつけられた美味しそうな漬物。南魚沼の蔵元・八海醸造の酒粕に漬け込んだ粕漬けで、上から時計回りに茄子、越瓜、蕨、錦糸瓜、胡瓜です。こちらは300年以上の歴史を誇る南魚沼市六日町の老舗、今成漬物店の看板商品「山家(やまが)漬」になります。
今成漬物店のそもそものはじまりは、江戸時代中期にまでさかのぼります。創業時は鴻池屋という屋号で商売をしていました。その頃は酒造り、舟運業、漬物製造と手広く商いをしていた豪商だったそうです。酒造りで出来る酒粕を使った粕漬けを、樽単位で都会の料亭などに卸していたのが漬物作りの原点です。(現在は酒造りはしていません)
当初は今のように店舗を構えていませんでした。江戸時代の交通手段は徒歩か船。川舟で舟運業を営んでいた鴻池屋(今成漬物店)は、物品と共に文化や情報を地域に運んでくるという重要な役割を担っていました。
当主は自然と文学などの素養も身につき、江戸時代の十六代・今成喜左衛門は、当時一流の俳人・三浦樗良(ちょら)の門下生でした。また喜左衛門の妻は『北越雪譜』で知られる鈴木牧之(ぼくし)の姉でした。

北越雪譜の図版を使った包装紙

鈴木牧之との縁にちなんで、錦糸漬の包み紙は北越雪譜の図版をあしらったデザインになっています。(錦糸漬 小箱350g 2,160円、以下全て税込)
また二十代当主の今成文平も喜左衛門と同じく俳句を嗜んでおり、なんとあの正岡子規の門下生だったとか。酒粕に漬け込んだ熊の肉を東京の子規に送ったところ「殊に美味を覚え候」と喜んだそうです。
他にも高浜虚子、北原白秋、坂口安吾など多くの文人が、漬物を食べてその美味しさを絶賛しました。

會津八一が命名した「山家漬」

文平の息子である今成隼一郎も、父や先祖の血を受け継ぎ文学好きの青年でした。進学した旧制新潟高校で出会ったのが1年先輩の會津八一でした。ふたりは文学を通じて友情を結び、その交流は生涯続きました。
隼一郎は湯沢の大源太に広大な農場を開墾し「今成農場」として野菜作りを始めました。そこには越後の野菜を粕漬けにして販売し、全国に拡げようという思いがあったそうです。その粕漬けを食べた八一が美味しさに感銘を受け、西行の山家集にちなんで「山家漬」と命名、揮毫もしてくれたのです。
山家漬の包装紙には、そのときの八一の書があしらわれています。こうして鴻池屋の本格的な漬物作りが始まり「今成漬物店」がスタートしました。

200年以上前に作られた蔵で作る漬物

さて数々の文人たちをうならせてきた漬物はどのように作られているのでしょうか。製造現場にお邪魔してみました。
なんとここは200年以上前に建てられた蔵です。この地域で大火があったときも難を逃れたそうです。
一歩足を踏み入れると、ふわりと良い香りがしてきました。「炊きたてのご飯が欲しい!」と思わずにはいられません。発酵が作り出す豊かな香りに、美味しさの原点を見た気がします。
樽の蓋を開けると、さらに香りが強く立ち上ります。漬物好きとしては、もうたまらない気持ちになってきました。
ゆっくりと優しく、酒粕を撫でるようにして漬け込んだ野菜を取り出します。
出てきたのは錦糸瓜です。蔵の淡い光を受けてキラキラ輝くさまは、まるで宝石を掘り出したよう。漬物作りは最初に塩に漬ける「生漬」から始まり、その後、酒粕を使う第一段階の「中漬」を経て、最終工程の「本漬」へと進みます。奈良漬けなどは材料によっては10年以上漬け込むものもありますが、こちらの粕漬けは1年から長くて2年。そのため野菜の歯ごたえが残り、発酵独特の豊かな風味と、漬物のシャキシャキした食感の両方が楽しめるのです。

発酵から生まれたスイーツ

これまで、漬物を漬け込んだ後の漬け粕はほとんど廃棄していました。今成漬物店4代目の今成要子さんは「酒粕自体にも風味があり、捨ててしまうには惜しい美味しさ」と話します。これを使って何かできないだろうか。そこで漬け込み後の漬け粕に仕込んでみたのがクリームチーズでした。こうして今から3年ほど前に誕生したのが限定生産品の「クリームチーズの粕漬」(864円)です。
いただいてみましたが、これがまさに絶品の一品でした。濃厚なチーズの口当たりに酒粕の豊潤な香りが相まってまさに「大人のデザート」という感じです。ワインはもちろん、八海山の日本酒や発泡酒、紅茶にも合うそうです。
そのチーズの粕漬を使って開発した商品が「つけもなか」です。きっかけは「にっぽんの宝物 JAPANグランプリ」というコンテストへの応募でした。これは「地方の原石」を全国・世界レベルのヒット商品に育てるというコンセプトで開催されているもの。それに出品するための新商品として企画開発したのが「つけもなか」なのです。
(竹籠12個入り・5,400円、6個入り2,700円、袋入り3個972円)
要子さん曰く、「つけもなかは伝統の技と新発想のコラボレーションで誕生」した商品です。「にっぽんの宝物 JAPANグランプリ」ではスイーツ部門のグランプリ、さらに各部門のグランプリから選ぶグランドグランプリにも輝きました。
最中の皮に使われている色素は天然由来のもの。和菓子文化が盛んな金沢から取り寄せているそうです。左はクリームチーズのみをあしらったタイプ、中央が錦糸漬けを加えたもの、右が八海醸造の日本酒に漬け込んだレーズンを入れたものになります。
噛みしめた瞬間に鼻に抜ける風味がたまりません!日本一に輝いたのも納得の美味しさでした。
発酵の食文化は、世界一流の人たちも注目しています。今成漬物店には、世界一のレストランの称号を持つ、デンマークのレストラン「ノーマ」のスーシェフもやって来たことがあるのだとか!
また、山形の有名レストラン「アル・ケッチャーノ」の奥田政行シェフが来店した際には、発酵の様子を見て「これですよ、これこそおいしさの元なんです」と語ったそうです。
国内外の料理人、そして文学史に名前を残す作家たちをうならせた漬物、ぜひ一度ご賞味ください!
(写真:左が3代目の今成正子さん、右が4代目の要子さん)

■今成漬物店

住所:新潟県南魚沼市六日町1848
TEL:025-772-2015
定休日:なし
営業時間:午前10時から午後6時
※現在「つけもなか」は予約販売となっております

今成漬物店

エリア

湯沢・魚沼エリア

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グルメ
この記事を書いた人
和田明子

長岡市のリバティデザインスタジオで、夫とともにグラフィックデザインやコンテンツ制作を行う。アート、映画、文学、建築、カフェ巡り、旅行、可愛いものが大好き。ウェブマガジン「WebSkip(https://webskip.net/)」も細々と更新中

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