内面に潜り、自分自身と向き合う時間を。読書ができる書店と喫茶「Rural Reading」/長岡市


2022年12月01日 1200ビュー
日々、仕事や家事、身の回りのことに追われる現代。
 
「本を読もう」と思っていざ開いても、終わっていない仕事や家事が気になり、じっくりと本と向き合う時間が少なくなってきている気がします。
 
そんなときに目に入ったのが、長岡市寺泊にある読書ができる書店と喫茶「Rural Reading」。Instagramのプロフィールをみると「会話は"図書館程度"でお願いします」という注意書きが書かれているようです。
 
「喫茶だけど、会話は図書館程度? どういうことだろう?」と気になりながらお店へ。そこには凛としていながらも不思議と本の世界へ入り込める、何度も通いたくなる空間がありました。

書店としても、本を片手に喫茶としても利用できる、Rural Reading

JR燕三条駅から車で25分ほど。燕市から寺泊へと向かい、川沿いから少し外れたところに現れるのが、読書ができる書店と喫茶「Rural Reading」です。
 
この日お伺いしたのはオープン前の朝8時過ぎ。朝の光が差し込むなか、お店のドアをそっと開けると、冨永美沙希さんが出迎えてくれました。
Rural Readingは、東京都から移住してきた冨永さん夫婦が2022年に立ち上げたお店。書店のように本を購入するだけでも、喫茶店のように本を片手にお茶やお菓子を楽しんでもOKです。ただし、会話は図書館程度の大きさで。そのおかげか、店内は穏やかな心になりながらも少しだけ背筋が伸びるような程よい空気に包まれていました。

内面に潜れる本や誰でも気軽に読める本を中心にセレクト

本棚に目をやると、暮らしにまつわる本やエッセイ、アート、純文学など、さまざまなジャンルの書籍が並んでいることがわかります。選書のほとんどは冨永さんが担当。自分の内面に潜れる本やお休みの日にふと読みたくなる本、誰でも気軽に読める本を中心にセレクトしているそうです。
 
数あるジャンルのなかでも気になったのは、個人書店ではあまり見かけないビジネス書。そのことを冨永さんに話してみると自身の経験に基づいた飾らない言葉が返ってきました。
「私自身、ビジネス書が好きなんですよね。自分の内面に潜るといってもさまざまなアプローチがありますが、そのひとつがビジネス書だと思うんです。会社員のころに休日に1冊ビジネス書を読むだけで来週からの仕事の悩みが消えたりして、かなり助けられてきました。同じように悩んでいる人の助けになればとお店にも置くようにしています」
 
気取らずに感性に触れたものを選ぶ。だからこそ、幅広いジャンルで何度訪れても新しい発見があるお店になっているのでしょう。最初に足を踏み入れたときに感じた心地よさは、空間だけでなく、店主のふたりの飾らない姿勢によるものなのかもしれない。冨永さんのお話をうかがうなかで、そんなことを考えていました。
 

ゆっくり本を読んでほしいから。冷めてもおいしいドリンクと軽食を

▲ソルティチャイ(550円)とレーズンサンド(1ケ200円)
 
お店では、ゆったりと読書を楽しんでもらえるようにドリンクや軽食も提供しています。ドリンクはコーヒーではなく、中国茶やチャイ、クラフトコーラを、軽食では自家製ベーコンを挟んだベーグルサンドやレーズンサンドを。ドリンクは冷めてもおいしいようにと考えていまのメニューに落ち着いたそうです。
 
 
提供している中国茶と出合ったのは、好きで通っていた弥彦の飲食店を訪れたとき。たまたま中国茶のブランド“IDLE MOMENT”を立ち上げた戸田裕也さんがいらっしゃって、そのおいしさに衝撃を受けたといいます。
 
「コーヒーはキリッと集中する感じがするのですが、上質なお茶は身体を緩めてくれる作用があるみたいで、種類によってはお酒を飲んだときみたいにふわ〜っとしてくるんですよね。繊細な味だからこそ感性が開く感覚があって。このお茶なら忙しくて本を読まなくなった人でも文字がすっと入ってくるように感じてIDLE MOMENTさんの中国茶を選びました」
 
お店で人気だというチャイにもIDLE MOMENTさんの茶葉を使用。独自の配合でスパイスを合わせ、甘くてまろやかな味になるように調整しています。
▲こちらは、ベーグル&クリームチーズ 380円
 
フードにもこだわりを持つふたり。ベーグルは毎朝お店で焼いたものを、間に挟むベーコンは自分たちでスモークした自家製ベーコンを提供しています。カフェタイムに人気のレーズンサンドも、自身で焼いたサブレにマスカルポーネを挟んで岩塩でアクセントをつけて。
 
ドリンクもフードも冷めてもおいしく、読書の合間に楽しめるように意識してメニューを考えてきました。
 

物件の心地よさに惹かれてこの地に移住

熊本県で生まれて、岡山県、千葉県、バンコクと転々としてきた冨永さん。小さなころから絵本が好きで、小学生にあがると二宮金次郎のように歩きながら本を読むような子どもだったといいます。
 
しかし、新卒で会社員になると時間と心の余裕がなくなり、本を読まなくなるように。ビジネス書から少しずつ読み始めるようになり、仕事も読書も無理なく続けていた矢先、新型コロナウイルス感染症の影響で仕事がなくなってしまいました。
 
「パートナーと一緒に住んでいたのですが、ふたりしてコロナ禍で仕事がなくなってしまったんです。最初は次の仕事を探そうとしたのですが、いまならどこに行ってもいいんだなと思って。自分たちがこの先どんな環境でどんなふうに生きていきたいのかを考えたときに、自然の近くで暮らしたいという希望が出てきました」
 
もともとキャンプが趣味のふたりは、新潟県を含めて長野県、山梨県と自然豊かな地方へ足を運び、物件を探し始めました。そうしてたどり着いたのが、いまの物件。初めて訪れると窓が大きく心地よい明るさを感じたといいます。
 
「人間って知らない土地に行くと身体が緊張すると思うのですが、それがなかったんです。この家は3〜4年空き家だったそうですが、持ち主の方が定期的に空気を入れ替えてくださっていたそうで、田舎のおじいちゃんの家に来たみたいな感覚でした。最近、アニー・マーフィー・ポール著の『脳の外で考える』という本を読んだのですが、そこにも思考だけに頼らず感覚に従って決定することの重要性が書かれていて。私もそんな感覚でこの物件に決めたような気がします」
 
初めて見た物件に心地よさを感じた冨永さん。それは土地に対しても同じでした。20歳のころに金沢から新潟市まで青春18きっぷを使って旅行していたときに一番気持ちよさを感じたのも、寺泊周辺だったと当時を振り返ります。
 
「はっきり覚えているわけではないですが、昔、旅行中にいいなと思った風景と、山が見えて田んぼが広がっているこの地域の感じが似ているんです。20歳の頃にこの景色に惹かれて、26歳でたまたま寺泊に移住したことに不思議な縁を感じています。でも、移住してみると想像もしなかったことの連続で。うちの地域には春と秋に神社で神事があるのですが、こうした神社を介したご近所付き合いは初めて。住んでみないとわからないことではありますが、新しい発見ばかりでおもしろいです」
 
初めて訪れたときから何か惹かれるものがあった寺泊の風景。感性を大切に生きてきた冨永さんの肌に合う土地だったのかもしれません。

自分の内面に潜ってもらうため。こだわり抜いた空間づくり

物件を決めると、「本に関わる仕事がしたい」「喫茶店のようなくつろげる場をつくりたい」と、自然と書店と喫茶をかけ合わせたお店の開業を目指すように。弥彦のとある飲食店の代表にアドバイザーになってもらい、建築士さんと4人でどんな空間にするか話し合いを重ねました。
 
打ち合わせで出てきた言葉は静かで落ち着ける空間で、古家具を活かすこと。書店と喫茶が入り混じり、「ここは何だろう?」と不思議に思える空間を目指していきました。
基礎工事など最低限は大工さんにお願いし、あとはセルフリノベーション。古い材木はこの物件で使われていたものを、古家具は冨永さんの母校九州大学から借りてきたものを使用しました。
 
本が並ぶ入り口近くの床は、木の組み木を組み合わせたヘリンボーンという手法。大工泣かせといわれる手法ですが、丁寧に一枚一枚貼り合わせて完成にこぎつけたそうです。
リノベーションは1年以上と長い期間ですが、建築士さんからは「時間がかかった分、美術館みたいな空間になりましたね」と労いの言葉も。ふたりにとってこだわり抜いたかけがえのない空間となりました。
目指したのは、日常から距離を置いて自分の内面に潜れる空間。このお店でお客さんにどう過ごしてほしいかを考えていったところ、自分自身と向き合い五感を大切にする“リトリート”という言葉を思い出したそうです。
 
「もともとはヨガで使われている言葉で、1週間くらいかけて、旅行先でヨガや瞑想、野菜中心の食生活を送る時間のこと。転じて最近では、ヨガに限らず、自分と向き合うさまざまなアクティビティを行う”リトリート”も増えています。私は17歳でヨガと出合い、社会人になってからは時々“リトリート”に参加してきました。ただ、リトリートはまとまった時間とお金がないとできないもの。お店ならいつでも気軽に行けるので、そういう過ごし方をしてもらえればと考えるようになりました」

書店と喫茶から、文化醸成の場へ

ようやく第一歩を歩み始めたRural Reading。いずれは文化が生まれる拠点としての役割を果たせればと冨永さんはこれからの想いを口にします。
 
「美術作家であり、詩も多く残している永井宏さんという方がいるのですが、その方が『どんな人でも表現はできる』と一般の人と一緒に雑誌を作っていらしたんです。高校生のころに初めて知って、いろんな人が表現できる場づくりに興味を持つようになりました。表現を生み出すためには、自分の内面に潜り、自分と向き合う必要がある。このお店で本と自分と向き合うことで内省が深まり、表現をする人が増えていったら。そして、文化的な場所として知られるお店になったらいいなと思っています」
 
本を読む行為は、自分と向き合い、思考のきっかけを探る行為でもあります。そのためには、凛とした空気のなかでもくつろぎながら本を読める環境が必要です。そんな空間を目指して、空間も家具も、メニューもこだわり抜いているRural Readingだからこそ、いつもより本の世界に没入できるのかもしれません。
 
ーー 本を通して自分と向き合う人が増えることで、文化が醸成されていく。
 
Rural Reading、そしてこの地域の未来に一筋の光が見えるような、そんな心温まる時間を過ごせました。


photo:Takahiro(TwitterInstagram
 
Rural Reading

Rural Reading

住所:新潟県長岡市寺泊入軽井1878
営業時間:10:00 - 18:00
定休日:不定休のためインスタグラムで確認を(冬季休業あり)

この記事を書いた人
madoka

新潟県在住ライター。旅での気づきを日常に持ち帰ってもらえるように、地域の人や暮らしも含めて伝えるようにしています。