歴史と文化に触れながらまち歩きを楽しむ、「城下町村上 町屋の人形さま巡り」/村上市
2024年05月10日
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かつて城下町として栄えた新潟県村上市には、昔ながらの町屋造りの建物が今も数多く立ち並んでいます。そんな村上の町で、毎年春に開催される「城下町村上 町屋の人形さま巡り」は、各家が代々大切に受け継いできたさまざまな「人形さま」を町屋の内部に飾り、「人形さま」を眺めながらまち歩きも楽しんでもらおうという人気のイベントです。村上の春の風物詩ともいえる「城下町村上 町屋の人形さま巡り」に出かけてみました。
町屋に展示された約4000体の人形さま
新潟県の最も北にある村上市は、幸いにも大きな戦禍や災害に見舞われることもなく、今なお昔ながらの町屋が立ち並んでいます。また、村上の旧家には、江戸期のひな人形をはじめ武者人形や布袋様など、さまざまな人形も数多く残されているのだとか。
こうした各家に代々受け継がれてきた「人形さま」を町屋の中で展示し、まち歩きをしながら人形さまとともに町屋内部の生活空間も楽しんでもらおうと2000年にスタートしたイベントが、「城下町村上 町屋の人形さま巡り」です。25回目を迎える2024年は、約4000体が68軒の町屋で展示され、多くの観光客で賑わいました。
こうした各家に代々受け継がれてきた「人形さま」を町屋の中で展示し、まち歩きをしながら人形さまとともに町屋内部の生活空間も楽しんでもらおうと2000年にスタートしたイベントが、「城下町村上 町屋の人形さま巡り」です。25回目を迎える2024年は、約4000体が68軒の町屋で展示され、多くの観光客で賑わいました。
「浪漫亭」で展示されている菅原道真公の人形のコレクション
着物でまち歩きを楽しむ「城下町 着物でぶらり」も
着物姿で町を散策してもらおうという「城下町 着物でぶらり」も実施されました。3月16日(土)に行われたオープニングセレモニーでは、艶やかな着物姿の方30名ほどが集まり、思い思いに村上のまち歩きを楽しむ様子が見られました。
オープニングセレモニーに集まった着物姿の参加者たち
お友達同士で誘い合ってこのイベントに参加されたという伴田美奈子さん、高橋浩子さんたちも華やかな着物姿で村上の町を散策し、イベントに花を添えていました。
村上市内の九重園で働いているという高橋さんは、「今日は大好きな着物を着てまち歩きを楽しむことができて、とても楽しかったです。年に一度くらいはお茶会で着物を着る機会があるのですが、着物で歩くと街並みも普段とは違った印象で、よりいっそう村上の魅力を感じることができたように思います」とにっこり。
瀬波温泉から参加された伴田さんも、「着物姿の方たちが村上の町を散策している様子は、華やかで、風情があって、あらためて城下町村上は着物が似合う町なんだなあと感じました。これをきっかけに、たくさんの観光客の方が着物姿で町を歩いてくれるようになったらすてきですね」と話してくださいました。
村上市内の九重園で働いているという高橋さんは、「今日は大好きな着物を着てまち歩きを楽しむことができて、とても楽しかったです。年に一度くらいはお茶会で着物を着る機会があるのですが、着物で歩くと街並みも普段とは違った印象で、よりいっそう村上の魅力を感じることができたように思います」とにっこり。
瀬波温泉から参加された伴田さんも、「着物姿の方たちが村上の町を散策している様子は、華やかで、風情があって、あらためて城下町村上は着物が似合う町なんだなあと感じました。これをきっかけに、たくさんの観光客の方が着物姿で町を歩いてくれるようになったらすてきですね」と話してくださいました。
風情ある村上の街並みに着物姿が映える
黒塀通りでおしゃべりを楽しむ観光客の方々
かわいらしい着物姿の柴犬さんも遊びに来ていました
2024年実行委員長を務める九重園代表取締役の瀧波匡子さんにお話を伺いました。
―全国から大勢の観光客が訪れる人気のイベントですね。
最初の年は、イベントが始まるまでは本当に村上を訪れてくださる方がいるのだろうかとみんな心配していたのですが、始まってみると全国から大勢の観光客が訪れてくださり、地元の人たちはびっくりしていました。
それまでは古くて恥ずかしいと思っていた町屋の魅力を外から来た人が教えてくださいました。お客さまに褒めていただくことで、地元の人たちも初めて村上の町に誇りを持てるようになったんです。
最初の年は、イベントが始まるまでは本当に村上を訪れてくださる方がいるのだろうかとみんな心配していたのですが、始まってみると全国から大勢の観光客が訪れてくださり、地元の人たちはびっくりしていました。
それまでは古くて恥ずかしいと思っていた町屋の魅力を外から来た人が教えてくださいました。お客さまに褒めていただくことで、地元の人たちも初めて村上の町に誇りを持てるようになったんです。
2024年実行委員長を務める九重園代表取締役の瀧波匡子さん
―地元の方たちとお話しできるのも楽しいですね。
それぞれの店の方が人形さまの由来やお店の歴史などについて村上弁で説明してくれることも「人形さま巡り」の特徴となっています。
説明役は仕事を引退したお年寄りたちが引き受けてくれました。「この人形さまはお殿様から拝領したもので」などと私が言ったら嫌味に聞こえそうなことも、高齢の父が話すとみんな「わぁっ」と笑って場が和みます。観光客と触れ合うことで、お年寄りたちが生き生きとして元気になったことも嬉しい効果でした。
それぞれの店の方が人形さまの由来やお店の歴史などについて村上弁で説明してくれることも「人形さま巡り」の特徴となっています。
説明役は仕事を引退したお年寄りたちが引き受けてくれました。「この人形さまはお殿様から拝領したもので」などと私が言ったら嫌味に聞こえそうなことも、高齢の父が話すとみんな「わぁっ」と笑って場が和みます。観光客と触れ合うことで、お年寄りたちが生き生きとして元気になったことも嬉しい効果でした。
九重園の店内に飾られた人形さま。通り土間から眺めることができる
―九重園の人形さまも、実にみごとですね。
ありがとうございます。ひな人形は、村上藩のお殿様から拝領した江戸時代のものです。ほかにも大名行列人形、浦島太郎の竹田人形があります。大名行列は、ひとりひとり顔つきが違うので、よく見ていただくと面白いですよ。武士は鼻が高くてハンサムな人が多く、奴さんは丸顔でだんごっ鼻でかわいらしいです。ユニークですよね。
ありがとうございます。ひな人形は、村上藩のお殿様から拝領した江戸時代のものです。ほかにも大名行列人形、浦島太郎の竹田人形があります。大名行列は、ひとりひとり顔つきが違うので、よく見ていただくと面白いですよ。武士は鼻が高くてハンサムな人が多く、奴さんは丸顔でだんごっ鼻でかわいらしいです。ユニークですよね。
大名行列人形。武士は凛々しい顔つきの美男子が多い
家来の奴さんは丸顔で親しみやすい顔立ち
実は、私はもともと人形が怖くて、あまり好きではなかったのですが、今では愛情を持って、「今年も多くの方に来ていただけてよかったですね」などと声をかけられるようになりました。
「千客万来」という言葉がありますが、イベント中は私たちもお客さまに来ていただける幸せをしみじみ感じています。町屋の生活空間に入る面白さを味わい、商家の暮らしぶりを感じて、地元の方との触れ合いも楽しんでいただきたいですね。
「千客万来」という言葉がありますが、イベント中は私たちもお客さまに来ていただける幸せをしみじみ感じています。町屋の生活空間に入る面白さを味わい、商家の暮らしぶりを感じて、地元の方との触れ合いも楽しんでいただきたいですね。
九重園の客間に置かれていた「茶香炉」。茶葉を加熱して香りを楽しむ
―「着物でぶらり」のイベントも多くの方で賑わいました。
村上市はとても風情があって、着物がよく似合う城下町です。たくさんの方に着物を着てこの町を訪れていただきたいですね。日本の文化をこの村上から発信したいと思っています。
―老舗のお茶屋さんである九重園さんについても教えてください。
創業約250年、村上市内では最も古い村上茶の製造販売店になります。初代の瀧波重兵衛は文化文政の頃に鍋や釜、瀬戸物を販売していたので、屋号は鍋屋重兵衛といいます。
2代目のときに村上藩のお殿様から緑茶づくりを命じられたものの、当時の町人は高級品の緑茶なんて飲んだこともなく、製法を知らなかったそうです。そこで宇治から柳田九兵衛という職人を招いて、3年間かけて製法を教えてもらいました。
恩人である柳田九兵衛にあやかって「九兵衛」から「九」の字をいただき、主の「重兵衛」から「重」の字を取って、「九重園」と名付けたと伝わっています。
今は「町屋Cafe 九兵衛庵」で抹茶や和菓子の提供も行っていますので、まち歩きの合い間にぜひ立ち寄っていただけたらと思います。
創業約250年、村上市内では最も古い村上茶の製造販売店になります。初代の瀧波重兵衛は文化文政の頃に鍋や釜、瀬戸物を販売していたので、屋号は鍋屋重兵衛といいます。
2代目のときに村上藩のお殿様から緑茶づくりを命じられたものの、当時の町人は高級品の緑茶なんて飲んだこともなく、製法を知らなかったそうです。そこで宇治から柳田九兵衛という職人を招いて、3年間かけて製法を教えてもらいました。
恩人である柳田九兵衛にあやかって「九兵衛」から「九」の字をいただき、主の「重兵衛」から「重」の字を取って、「九重園」と名付けたと伝わっています。
今は「町屋Cafe 九兵衛庵」で抹茶や和菓子の提供も行っていますので、まち歩きの合い間にぜひ立ち寄っていただけたらと思います。
高い天井に昔ながらの建具、火鉢などタイムスリップしたような町屋の内部空間
通り土間の天井には「鍋屋重兵衛」と書かれた提灯が下げられている
「城下町村上 人形さま巡り」は、村上市内に店を構える「千年鮭きっかわ」の15代目店主、吉川真嗣さんが発起人となって2000年にスタートしたイベントです。吉川さんに当時の想いなどを伺いました。
―「城下町村上 町屋の人形さま巡り」を始められた経緯を教えてください。
私は大学卒業後、商社勤務を経て、1990(平成2)年に村上に戻り家業を継ぎました。「村上の鮭文化を守り続けたい」という思いがあったわけですが、1997(平成9)年、町屋を取り壊して道路を拡幅し、商店街を近代化しようという計画が持ち上がりました。残念ながら、当時の村上では、町屋の文化的・歴史的な価値はほとんど認識されていなかったんです。
その数か月後、全国町並み保存会連盟会長の五十嵐大祐さんとお会いする機会がありました。商店街の道路拡幅計画の話をしますと、「町屋を取り壊せば、村上の城下町としての価値も失われてしまう。道路を拡幅して成功した商店街など全国に一つもないのだから、やめさせなさい」と言われました。
その言葉に衝撃を受けた私は、その後、全国の商店街を訪ね歩いてみたんですよ。そして、五十嵐さんの言葉が真実であることを実感したわけです。
私は大学卒業後、商社勤務を経て、1990(平成2)年に村上に戻り家業を継ぎました。「村上の鮭文化を守り続けたい」という思いがあったわけですが、1997(平成9)年、町屋を取り壊して道路を拡幅し、商店街を近代化しようという計画が持ち上がりました。残念ながら、当時の村上では、町屋の文化的・歴史的な価値はほとんど認識されていなかったんです。
その数か月後、全国町並み保存会連盟会長の五十嵐大祐さんとお会いする機会がありました。商店街の道路拡幅計画の話をしますと、「町屋を取り壊せば、村上の城下町としての価値も失われてしまう。道路を拡幅して成功した商店街など全国に一つもないのだから、やめさせなさい」と言われました。
その言葉に衝撃を受けた私は、その後、全国の商店街を訪ね歩いてみたんですよ。そして、五十嵐さんの言葉が真実であることを実感したわけです。
―町屋や風情ある街並みは残すべき財産だと?
以前、県外から村上を訪れた方を「千年鮭きっかわ」のお店にご案内したら、その方が「すごいですね。こんなところに住めるなんて、本当に幸せですね」と感嘆の声を上げられたんですよ。
そのときに、「ああ、そういう見方もあるのか」と目から鱗が落ちたようでした。ここで暮らしている私たちにしてみたら、町屋は古くて暗いし、不便だし、寒いし、あちこち傷んでくるし、生活するのは大変なだけだと感じていましたが、外の人が見たらそんなに魅力ある建物なのかと驚きました。
以前、県外から村上を訪れた方を「千年鮭きっかわ」のお店にご案内したら、その方が「すごいですね。こんなところに住めるなんて、本当に幸せですね」と感嘆の声を上げられたんですよ。
そのときに、「ああ、そういう見方もあるのか」と目から鱗が落ちたようでした。ここで暮らしている私たちにしてみたら、町屋は古くて暗いし、不便だし、寒いし、あちこち傷んでくるし、生活するのは大変なだけだと感じていましたが、外の人が見たらそんなに魅力ある建物なのかと驚きました。
町屋特有の太い梁と通り土間のある空間。天井の梁に1000尾以上の鮭が吊るされている光景は圧巻だ
改めて地元に目を向けてみると、村上市の商店街、小町~大町~上町の通りには、昔ながらの町屋造りを活かした建物が数多く立ち並んでいます。外側はサッシやトタン板、アーケードなどで覆われていますが、店内に一歩足を踏み入れれば、太い梁と大黒柱のある吹き抜けが現われ、箱階段や神棚、囲炉裏、土間などがある昔ながらの生活空間が今も残されています。
「この町屋こそが本物の魅力をもつ村上の宝だ」ということに気づいた私は、「町屋を取り壊すのではなく、町屋の魅力を生かして村上のまちを元気にしよう」と声を上げ、お店を1軒1軒回って、町屋の内部空間を公開してくださるように説得を始めました。
「この町屋こそが本物の魅力をもつ村上の宝だ」ということに気づいた私は、「町屋を取り壊すのではなく、町屋の魅力を生かして村上のまちを元気にしよう」と声を上げ、お店を1軒1軒回って、町屋の内部空間を公開してくださるように説得を始めました。
―町屋を公開する取組みが「人形さま巡り」につながっていったわけですね。
1998(平成10)年、賛同してくれるお店22店舗で「村上町屋商人(あきんど)会」を結成し、内部を公開してくれる店舗を紹介した町屋めぐりのMAPもつくりました。生活空間を公開する取組みは全国的にも異例でしたから、珍しさが話題を呼び、多くの観光客に来ていただくことができました。
この取組みを進める中で、商店街の人たちの話をいろいろ聞いていくと、多くの店でひな人形や武者人形、布袋様などさまざまな人形が大切に残されていることがわかりました。「これらの人形を町屋の中に展示したらすばらしいのではないか」と思い立ち、2000(平成12)年にスタートさせたのが「城下町村上 町屋の人形さま巡り」です。
どうしても成功させたかったので、東京のNHK本社まで出かけ、「村上の町全体が美術館に変わります。ぜひ取り上げてください」と『日曜美術館』の担当デスクに直談判したところ、紹介していただくことができて、全国から大勢の観光客が村上を訪れました。外から人が来てくれて、褒められることで、地元の人たちの意識も変わっていきました。それがいちばん嬉しかったですね。
1998(平成10)年、賛同してくれるお店22店舗で「村上町屋商人(あきんど)会」を結成し、内部を公開してくれる店舗を紹介した町屋めぐりのMAPもつくりました。生活空間を公開する取組みは全国的にも異例でしたから、珍しさが話題を呼び、多くの観光客に来ていただくことができました。
この取組みを進める中で、商店街の人たちの話をいろいろ聞いていくと、多くの店でひな人形や武者人形、布袋様などさまざまな人形が大切に残されていることがわかりました。「これらの人形を町屋の中に展示したらすばらしいのではないか」と思い立ち、2000(平成12)年にスタートさせたのが「城下町村上 町屋の人形さま巡り」です。
どうしても成功させたかったので、東京のNHK本社まで出かけ、「村上の町全体が美術館に変わります。ぜひ取り上げてください」と『日曜美術館』の担当デスクに直談判したところ、紹介していただくことができて、全国から大勢の観光客が村上を訪れました。外から人が来てくれて、褒められることで、地元の人たちの意識も変わっていきました。それがいちばん嬉しかったですね。
「千年鮭きっかわ」では1000年の歴史をもつという村上の鮭料理を伝える
村上の鮭文化を伝える吉川さんですが、2022年には「茶館きっかわ 嘉門亭」もオープンしました。
村上には、大切なお客さまは一家の当主自らがお茶を淹れてもてなす「亭主の茶」という風習があります。この文化をもとに、独自のお点前で一煎から四煎まで村上茶の多彩な味わいを楽しめるお茶サロンをつくりました。
目の前でスタッフがお点前をしてくれる。丁寧に淹れられた特別なお茶をゆっくりと堪能できる
ここはかつて旅籠として使われていた明治時代の建物です。大改修をして今のようなかたちにしましたが、壁の一部や柱などは昔のままです。庭の眺めも楽しんでいただきたくて、引き戸を開け放てば庭とつながりがもてるような造りにしてあります。
天気の良い日には、中庭に出て散策も楽しめる
季節ごとに変わる一口菓子や、村上の伝統工芸品「村上木彫堆朱」を使ったお道具なども併せて楽しんでいただけたらと思います。人形さま巡りの合い間にぜひ立ち寄ってゆっくりとした時間を過ごしていただきたいですね。
村上堆朱の器に入れられた一口菓子は、好きな品を選べる
一年を通して訪れたいまち、村上
村上では、3月の「町屋の人形さま巡り」をはじめ、5月には「春の庭 百景巡り」、9~10月の「町屋の屏風まつり」や10月の「宵の竹灯籠まつり」など、一年を通してさまざまなまち歩きの機会がありますので、一度、ぶらりと出かけてみませんか。
茶館きっかわ 嘉門亭
村上市大町3-7
0254-75-5711
営業/10:30~17:00(LO16:00)
休店日/水・木曜、ただし祝日の場合は変更あり、その他臨時休業あり
この記事を書いた人
県内最北にある村上地域。海・山・川などの恵まれた自然に加え、伝統や文化が色濃く残る村上地域(村上市、関川村、粟島浦村)の魅力・情報を幅広く発信していきます。