休業から復活した百年銭湯「泉乃湯」で伝統と新しい挑戦の湯につかる/三条市


2024年05月20日 847ビュー
はじめまして。
新たにライターとして加入した旅が大好きなまきたろうです。
よろしくお願いします。
 
旅に行くと地域ごとに有名な観光スポットは多々ありますが、その地域をよりディープに感じられる場所としてお勧めしたい場所が「銭湯」です。
日帰り温泉とは違ったローカル感が素晴らしく、皆それぞれが長い歴史を持っています。
近所の人にとっては物心ついた頃からずっと入ってきたお風呂でもあり、言ってみればそこに住んできた人のお家のお風呂に入らせていただくようなものです。
とはいえ昔はどこにでもあった銭湯は全国的に閉業や休業が相次ぎ、県内でも営業している地域は限られてきています。

復活の100年銭湯

そんな中で休業からこの4月24日に再開することになった創業約100年の銭湯、三条市の『泉乃湯』へ入浴に行きました。
 
場所は三条市の一ノ木戸商店街から少し奥に入った、東三条駅と北三条駅のどちらからも徒歩で10分少しの位置にあります。
住宅地の細い道を進むと突然現れたのは、大きくそびえ立つ、存在感のある煙突。銭湯ファンにしてみれば「ああここにあったか」と喜ぶ目印ですが、馴染みのない人にとっては少し驚く景色かもしれません。
住宅地の真ん中で近所の人たちから利用されてきた印象を受けます。
飾り気が全くない、あるいは飾る必要は昔から全くなかったと感じるシンプルな外観ですが、のれんと看板が銭湯であることを確かに主張しています。
そして入り口前のベンチ。夏場などは湯上りのお客さんが涼みに座ってよもやま話などをしてきたのだろうと想像が膨らみます。
そしてのれんを腕押しして中へ入っていきます。
番台にいたのは市内で美容師をしている四代目店主の小泉允彦さん。

泉乃湯の創業は昭和元年(1926年)。以前は鍛冶町の職人さんが仕事終わりに来たり、飲み屋街の店員さんや芸妓さんなどが仕事前に来たりして賑わっていたそうです。
ですが家庭風呂の普及などから利用者は減っていき、三代目の小泉さんのお父さんが高齢になったことを理由に2023年11月に休業になったそうです。
 

再開への新たな挑戦

そこで「地域に住む多くの人たちにとっても大切な場所だった泉乃湯の伝統を途切れさせたくない」と思っていた小泉さんに、ベンチャー企業「株式会社下田村」村長の今井さんが「運営する古民家ホテルを利用する外国からのお客さんなどに日本の銭湯を体験して欲しい」という思いから声をかけて再建のサポートに加わり、金工作家の内山さん、金属加工製作所の代表小林さんも加わった四人でもう一度挑戦してみようと再建プロジェクトをスタートしたそうです。
若き挑戦者たちの再建プロジェクト。うーんどこからか中島みゆきさんの歌が聞こえてきそうです。
 
面白いと思った手法がSNSで泉乃湯のアカウントを作って「泉乃湯を一緒に盛り上げてくれる人を募集します!」として清掃や修繕のボランティアを募集したこと。
実際に募集に応じて仕事も年齢も違う、銭湯を愛する30人以上の人たちがお手伝いに参加してくれたそうです。そうやって一人ではくじけてしまいそうな時にも、チームだったから乗り越えてこれたとのこと。
家族経営だった銭湯の再開に一人で取り組むのではなくチームで、時にはボランティアの力も借りて進めていく。なんだか新しいワクワクする取り組み方ですね。
ちなみに私もSNSでその募集を知って、少しだけオープン前のお手伝いに行きました。
銭湯のタイルをセメントで修繕するという、まず普通に暮らしていたらやることは絶対にないだろう貴重な体験をさせていただきました。
ボランティア作業に参加してみると、手がけたお風呂に対して愛着がわいてきました。今までいろいろな銭湯や温泉に入ってきましたが、メンテナンス作業をしたことのある湯はここだけです。これは思い入れが違いますね!
タイルはなんだか昭和を感じるレトロモダンなデザイン。これも素敵です。
カラン(蛇口)も古くなっていたものは交換したそうです。
何ということでしょう。色の判別も難しくなっていたカランが新品に。
というよりレバー式カランの新品が今でも売っていることが地味に驚きでした。
カランの時代はまだ続くのですね。
泉乃湯の男湯のカランは18台。カランの数が多いということはかつては同時間帯の利用者が多かったということが推察できます。
風呂桶と風呂椅子も新品に。高さが少し高い椅子は座り易くていいですね。
桶は伝統の「ケロリンおけ」。本当に全国どこの銭湯に行ってもお目にかかります。
湯上りに座る椅子の革も、お知り合いに頼んで張り替えてもらったとのこと。
脱いだ服を入れる籐の脱衣かごは昔のまま。昭和レトロの美しさを感じます。

これぞ三条の風呂釜

そして三条らしいと思ったのがカマド。オガクズを燃やしてお湯を沸かす方式のボイラーになっています。
今も周辺の複数の木材加工店からオガクズを回収しているとのこと。
さすがは職人の町。
つまり大まかにくくると職人さんが木材加工店で汗水流して働いた時にできたオガクズで湯を沸かし、
そのお湯で職人さんたちが汗を流していたという循環。「昭和のSDGs」と言えるかも知れません。 
諸説あるのですが、木を燃やして沸かしたお湯は「お湯が柔らかい」「体が冷めにくい」などと言われています。
たしかに何かお湯がなめらかな気がする…! 
ネットでは伝わらない肌感覚なので気になった方はぜひ確かめに行ってもらいたいです。
銭湯というと熱い湯をイメージしがちですがこの日は程よい適温で熱い湯舟とぬるめの湯舟に交互に入りながらお湯を堪能しました。小さい子どもにはぬる湯くらいがちょうど良さそうです。
小泉さんによればオガクズの種類によっても燃え方が違ってくるため、
お湯の温度はまだまだ試行錯誤の段階とのこと。奥が深い!
銭湯で湯につかって目に付くのは「タイル絵」。銭湯ごとで違いもあって楽しみのひとつです。
泉乃湯のタイル絵は男湯が鹿で女湯が幼児もしくは赤ちゃん。なぜこの絵柄なのかは由来が分からなくなっていて、当時は職人さんの好みで作られることがあったとのこと。
なぜ富士山や新潟の景色などではなく鹿なのか、子どもなのか?それを想像するだけで肩までつかって百まで数えるぐらいの時間が過ごせてしまいそうです。

湯上りは手を腰に当てて飲むのが作法

さて銭湯での風呂上がりの楽しみといえば「牛乳」です。
売られているのは塚田牛乳。1901年に1頭の乳牛から始まった県を代表する牛乳です。
普通の牛乳、フルーツ牛乳、コーヒー牛乳のビン牛乳御三家があったのですが、
コーヒー牛乳は売り切れていました。
今回はフルーツ牛乳を選択。
分厚いビンに口をつけて飲めば天真爛漫な少年だったありし日の給食が思い起こされます。
さらにフルーツ牛乳は2019年と2020年に立て続けに大手牛乳メーカーが製造を中止していて、いつ飲めなくなってしまってもおかしくない貴重な牛乳です。なかなか飲む機会がないので特別な感じのする味でした。

100年のその先へ

これからの泉乃湯はグッズ販売の展開も考えているそうで、まずはタオルとキーホルダーの販売を新しく始めています。キーホルダーは今ではなく前の看板を元にしたレトロデザインです。泉乃湯ファンクラブの会員証のような存在になっていったらいいですね。
それ以外にも修繕、広報、コミュニティの活用と挑戦したいことはいろいろとあるそうです。
いろいろな部分でこれから新しい挑戦をしていこうという気分に満ちた銭湯でした。
四代目の小泉さんは今までやっていた美容師のお仕事を続けながら銭湯経営も行うということで、銭湯を営業する日は朝の5時から2時間準備をして、昼間は美容師をしてから夕方早めに仕事を切り上げて銭湯を開くという流れでしばらくはやっていくそうです。

今は週3日の17時から20時30分までの営業ですが、落ち着いてきたら営業時間を増やしたいとのことでした。
営業時間が増えてくれたら嬉しいですが、まずは無理なく続けていっていただけたら、それだけでも銭湯ファンとしては嬉しいものです。

100年続いてきたことを時代だからと諦めることは簡単ですが、続けていくことは本当に大変で、かつ素晴らしいことだと思います。
これからもいつ来ても懐かしく感じるお風呂であってほしいと思いました。

ちなみに、実は新潟市の銭湯も2か所、5月に休業から再開する場所があります。
懐かしくも新しい銭湯に、機会があれば立ち寄り湯してみてください。
泉乃湯

泉乃湯

住所:三条市林町1丁目6-18
電話:0256-33-1127
営業日:水・金・日(令和6年4月現在)
営業時間:17:00~20:30まで(令和6年4月現在)
定休日:月・火・木・土
駐車場:5台

泉乃湯

この記事を書いた人
まきたろう

若い頃は自転車日本縦断や四国八十八ヶ所の歩き遍路など旅を住み家とし、新潟に戻っても漂泊の思いやまず仕事の傍ら県内外をさ迷っている人生まだまだ旅の途中の人。 昭和とか縄文とか古いものが好き♪五泉市在住。