新旧が融合した街の今 お米の可能性を拡張する「古町糀製造所」/新潟市


2021年09月09日 6009ビュー
はじめて訪れてもどこか懐かしい。白山神社のそば、歩くたびに鳥居や看板から古き良き佇まいを感じられる「上古町商店街」。一説によると、江戸時代から古町という名称があったそうで。越後米の寄港地のちかくに位置することから、経済都市の礎を支えてきたのだろう。
 
いまの時代に戻すと、上古町商店街は新しくファッションやチョコレートをキーワードに新旧のお店が共存する通りに。さらに路地へと一歩踏み入れると米屋さんの名残が感じられる不思議なエリアです。
新潟県でも古町でも馴染み深いものといえばお米。とはいえ、日常でご飯を食べる機会が減っている昨今、続々と発見されている古来私たちの身近にあった発酵食品に欠かせない菌からお米の活路を見出そうと取り組みが増えています。

2009年から上古町商店街にある糀ドリンク専門店「古町糀製造所」もそう。2021年7月に「お米ののむヨーグルト」を発表したばかりで、日常に根付くお米の可能性を拡めようと取り組んでいます。同代表の小畑宏樹さんに、新商品の製造秘話と移り変わる上古町商店街についてお聞きしました。
小畑 宏樹(おばた ひろき)さん:上越市で生まれ。小学校へ上がると同時に新潟市へ引越し、高校時代まで新潟市(旧小須戸町)で過ごす。高校卒業後は、東京大学工学部 都市工学科へ進学し、街づくりを学ぶ。2017年にNSGグループへ入社し、本部へ配属。2年目は株式会社峰村商店に配属、3年目から株式会社古町糀製造所に配属となり、2021年8月に代表取締役に就任。

古町糀製造所の根底にあるお米と発酵への思い

白山神社から徒歩3分、上古町商店街のほぼ真ん中に位置する古町糀製造所。創業者である葉葺正幸さんはもともと、東京都の銀座でおにぎり屋を営んでいたそう。食材を探しに新潟を訪れ、味噌蔵や酒蔵に足を運んだ際にみつけた糀とそのうつくしさに惹かれて甘酒を主軸としたお店を開きました。

農家や醸造所からは喜ばれたものの、開業した2009年当時はお米からつくられる甘酒、ひいては糀自体も一般的なものではなかったと小畑さんは言います。

「開業当時、お客さんは口々に『糀ってなに?』『甘酒ってどういうもの?』という意見が多数でした。ただ、2010年代の前半に甘酒や発酵食品がメディアに取り上げられて、ブームが起きたんです。

しかも、大手メーカーさんが参入して市場も伸びました。他方で多くの人たちに甘酒を知られることで得意苦手のどちらの声も聞こえるようになったのです」(小畑)
(特有の甘さがある甘酒に果実の酸味を加えた古町糀製造所のフレーバー甘酒)

糀によって甘さが増した甘酒を売りにする古町糀製造所。次の一手として果実の酸味に着目し、お米と糀からブレずに万人に好まれる飲みものを開発し続けてきました。

「甘酒はいろんな素材の味と馴染むんです、あまり知られていませんが。蜂蜜レモンや桃、梅、お茶であっても適切な分量で甘酒と混ぜてつくったらおいしい。商品開発だってまだまだ試したことがない素材との組み合わせが多く、お米の存在を新しい価値へと変えるチャンスが秘めているんです。

わたし自身もお米そのものにこだわりがあります。もともと、祖父母が農業を行っていたのでお米が身近な存在でした。だからお米をつくる、食べる行為に対してプライドを持っています。自社で新潟県内の食材に新しい価値を生み出し、全国展開したい気持ちもひと一倍あります​」(小畑)

長岡でみつかる新種「乳酸菌ヤマコシ株」

新潟の山あい、雪深い地域では冬に青野菜を摂れない課題がありました。その課題を解決したのが、乳酸菌の力を借りた発酵食品。さらに、土地に根付いた発酵の知恵が家庭ごとの味となって、製法として代々受け継がれてきました。

新米シーズンとなる新潟では、秋から冬にかけてお米をつかった麹菌をつくり、発酵させる準備に入ります。古町糀製造所が発表した「お米ののむヨーグルト」はお米のみを原料とし、乳酸菌と糀菌を組み合わせてヨーグルト風味のドリンクとしたもの。味噌の醸造元である株式会社峰村商店から技術協力を受け、開発に成功されました。

「新潟の地域資源の掘り起こしを目的に有用微生物の調査と研究を行ってきた新潟県農業総合研究所食品研究センターが、500種類近くの新種の乳酸菌を発見されました。

当社のお米ののむヨーグルトでは、長岡市山古志地域に伝わる伝統発酵食の無塩漬物『いぜこみ菜』からみつかった乳酸菌『ヤマコシ株』を活用しています。ヤマコシ株は甘酒に酸味をもたらしてくれる性質のため、開発を繰り返して
乳酸菌飲料に近い味わいに着地ができました」(小畑)
(すっきりとした味わいに、ほのかなお米の甘みが香る「お米ののむヨーグルト」 / 1本1,080円 税込 ※古町糀製造所と峰村醸造の直売店、オンラインショップで販売中)

わたしたちの食生活に古来根付いているお米と麹、そして乳酸菌。現在、各市場自体の成長が頭打ちとなって横ばいを続いています。古町糀製造所はじめ、醸造関係者一丸となって新しいかたちでの提供が模索されています。

「新潟市沼垂地域にある『峰村醸造』でお米ののむヨーグルトの開発と製造を行っています。沼垂地域には、以前から多数の醸造蔵が立ち並び、峰村醸造も明治38年から味噌をつくってきた歴史があります。

一方、味噌屋ですので糀の扱いは得意なものの、乳酸菌については知らないことも多く、従来つくっている甘酒に組み込むことは新たな取り組みでした。完成品に近づくにつれ、職人たちもすごいものができたと興奮しっぱなしでした笑。

プレゼントや頑張った自分へのご褒美としての嗜好品のイメージが強かった甘酒から、もう一歩進んで日常に溶け込める商品になってほしいという思いがお米ののむヨーグルトという新しいかたちになったのです」(小畑)

伝統的な文化が根付く上古町商店街

お米の文化から時代に合わせて変化する古町糀製造所、その拠点がある上古町商店街は新旧、さまざまな文化が混ざり合いながら発展してきた歴史的に重要なエリアです。

醤油や味噌を生業とするお店から若者たちが休日に遊びにくる市街地として。近くにある信濃川の上流では、お米づくりが盛んに行われてきたり、世代によって街の見えかたが様変わりするそう。

小畑さんは「40年前の上古町商店街は人が集まる街並みだった、と父から聞いて驚きました」と語ります。そして、拠点を構えるからこそコロナ禍でも明るいニュースを届けられたらと話します。
「わたしは大学時代にまちづくりや都市計画を専攻していたので、上古町商店街はじめ新潟県の歴史を調べてきました。明治時代まで遡ると新潟県は人口が日本一だったという歴史がありまして、白山神社へとつながる通りとして上古町商店街は重要な立ち位置にありました。

コロナ禍の前では、ガイドブックにも掲載されて東京や大阪、さまざまな地域から訪れる観光スポットとして賑わってきましたが、今状況が変わりました。とはいえ、ここ1年間で新しいお店が増えたりと様変わりしているので。小さなお店ではありますが、父親から聞いてきた活気ある商店街になるように人を呼び込むなど取り組みを続けていきたい」(小畑)

終わりに

お米どころ新潟であっても、産業全体からみれば食生活の変化は如実に現れています。だからこそ、ご飯と味噌汁でいただく以外にもお米をおいしく飲むという日常に寄り添うものが活路になりえるように感じました。

明治時代から文化を引き継ぎ、さらなる発展を期待される上古町商店街の地で古町糀製造所の取り組みもまた、街にとって必要な文脈となっていくのだろう。
古町糀製造所

古町糀製造所

所在地:〒951-8063 新潟県新潟市中央区古町通二番町533番地
TEL:025-228-6570
FAX:025-333-4827
MAIL:info@furumachi-kouji.com
営業時間:10:00~17:00 定休日:火曜日

古町糀製造所

この記事を書いた人
水澤 陽介(みずさわ ようすけ)

新潟県生まれ、東京、沖縄を経て地元新潟にUターン。2021年2月、三条市の中央商店街に本屋「SANJO PUBLISHING」を立ち上げ、“まちを編集する本屋さん”をモットーにまちの魅力を集め、届けています。 まちを編集する本屋「SANJO PUBLISHING」(https://note.com/ncl_sanjo