おいしいで繋がる「農業×福祉×食」新潟素材がたっぷり詰まったおしるこを味わう/新潟市


2022年04月16日 5264ビュー
全国どこに行っても“おいしい”に出会えたら、誰しもがきっと笑顔になれるもの。新潟ではお米や野菜、果物と春夏秋冬で採れるものが地域によって異なり、土地ごとにおいしい食材を発見できるのが魅力です。
 
そんなおいしさの裏側を支えるのは作り手たち。農家さんや料理人さんを始め、製造加工や流通に携わる方など多種多様な人たちによって新潟の食が成り立っています。今回、料理人でありながら作り手に寄り添いながら、素材本来の味にこだわって提供するテイクアウト専門店『旬果甘味店ルコト(旧DAIDOCO青果氷店)』にお邪魔しました。作り手が作り手を支える、不思議な関係性を紐ときに。
※『旬果甘味店ルコト(新潟市東区松島3-1-3)』は、築70年を超える古民家を改装してアトリエ併設の店舗としてオープンした。
※旬果甘味店ルコトは、2月23日から新たなメニューとして『新潟素材のおしるこ(各600円)』を提供する。
※テイクアウト専門店として、季節の果物を使ったドリンクやお菓子なども提供する。

旬果甘味店ルコトで提供する新潟素材のおしるこや焼菓子には、新潟で育まれた恵みが詰まっています。なぜなら提供までの過程には、生産者から仕入れた規格外の農産物の素材が持つ個性を生かして商品開発を行い、中央区に開設された『おいしい循環ラボ』で福祉事業所の利用者さんと一緒に一次加工した素材も使って手作りしているからです。
※旬果甘味店ルコト店長の小田嶋千枝さん(左)と全体統括するC’s kitchen代表の佐藤千裕さん(右)

「本当は、人前に出るのが苦手です……」と照れくさそうに笑うのは、旬果甘味店ルコトやおいしい循環ラボなどを手掛けるC’s kitchen代表の佐藤千裕さん。農や福祉、食に関することになるとひと一倍思いがあふれてくる佐藤さんに、おいしいで繋がる関係性についてお聞きしました。

素朴な味、何度も口に運びたいおしるこ

旬果甘味店ルコトらしいおいしさを知るために、まず注文したいのが『さつまいものおしるこ』。

さつまいもときな粉、もちもちの白玉にポン菓子、すべて新潟産の素材を使用しています。とろっとしたおしるこには、紅はるか(さつまいも)の濃い甘さときな粉の控えめな香ばしい甘さによって​奥行きのある口当たりを楽しめます。白玉の柔らかさに、独特な食感の幅をもたらすポン菓子、素材一つひとつの力強さを感じられるおしるこに仕上がっています。
※新潟素材のおしるこでは、さつまいものおしるこの他に『黒豆のおしるこ』と『雑穀とお米の栗ぜんざい』を商品展開する。また、春夏秋冬で採れる食材によってメニューは更新され、4月から5月頃までは越後姫の豆乳クリーム白玉を提供する。

しかも、おしるこはすべて卵や乳、小麦、動物性素材不使用とするこだわりよう。素材本来のおいしさがぎゅっと詰まっている味わい、この一杯にかける思いはなんだろう。
 
もともとは、キッチンカーでかき氷を販売する『DAIDOCO青果氷店』として活動してきたが、名称変更までして始めた旬果甘味店ルコト。そのきっかけを佐藤さんがゆっくりと語ってくれました。 
 
「2008年にフリーランスの料理人として独立をしてから、お菓子や料理の教室の傍ら、ケータリングなどを行ってきました。その中で、多くの農家さんと携わってきて、ハネもの(規格外の農産物)をどうにかできないかと相談をもらうことが増えてきたんです。
 
さらにお話しを伺うと、『ハネモノは台風といった異常気象の影響等でどうしても大量に出てしまい、もったいないなぁとは思うけれど……形が良くてきれいで立派な自信作の農産物を届けたい』という気持ちが強いから、そのままではあんまり市場には出したくないと語ってくれました」
※山本農園が作る人参(中央)佐藤さんのもとには、時間をかけて信頼関係を築いてきた農家さんのハネものが届く。
※そら野ファームで栽培する越後姫。真っ赤に色づき一番甘くておいしい完熟の状態だが、形が不揃いのために規格外になるそう。

フードロス削減やもったいないと叫ばれる昨今、スーパーや八百屋さんに出回っていない規格外の農産物があると知れ渡るようになりました。多くの人が注目して、「フードロスを減らすことに協力したい」と応援するものの、それを消費者が安く購入してしまっては、農家さんが苦労して選別して出荷した正規品が売れずにロスになってしまうのです。
 
「コロナ禍になってからは加速して、市場に出したくても出せない正規品が増えて、生産者にとっても非常に厳しい状況です。さらに、先祖代々農業を続けてきた農家さんも、次世代には継がせないという方も本当に多い。​『この集落であと5年後に農業をやっているのは俺だけだな』と寂しそうに話す農家さんもいるほどです。

だから私たち料理人がつなぐひととして間に入って、製造加工を切り口にして、規格外農産物に手間をかけて付加価値を高め、おいしい素材をよりおいしく生かして届ける必要があると思ったんです」

農と福祉と食、3つの垣根を超えておいしいで繋がるプロジェクト

※2018年に実施されたクラウドファンディング。農と福祉と食の連携プロジェクト『rucoto(ルコト)』はここから始まった。
 
新潟県において事実、農家さんの数が年々減少傾向にあります。2018年には新潟市の総農家数は9,675戸(農林省調べ)と言われているほど。農家さんのハネものをどうにかしようと奮闘してきた佐藤さん一人の力では、到底及ばないほどのさまざまな課題を目の当たりにしてきたそう。
※『rucoto(ルコト)』では福祉事業者と連携して調理などを行う。(写真提供:C's kitchen)

「ある日、福祉事業者さんに伺ったところ、新設された施設にはピカピカの立派な厨房機器があるけれども毎日は稼働していなくて。そこで、これまでうちのスタッフでやっていた規格外の枝豆を茹でて鞘から出す作業を手伝ってもらえませんかと相談しました。

それがきっかけで農と福祉、そして食の連携に可能性を見出し、お互いに無駄になっているもったいないものを食で繋いでいかそうと『rucoto(ルコト)』プロジェクトを立ち上げました」
 
クラウドファンディングではたくさんの支援金と協力者、そして応援メッセージをいただき温かな気持ちとなったと振り返る佐藤さん。これまでに連携や協力してきた福祉事業者は6社、こうした成功事例だけをみるとどうしても華やかに見えるものの、実際は時間をかけて形にしていったと補足します。
 
「プロジェクトでは農家さんと福祉事業者さん、お互いの状況に違いによってぶつからないよう、理解度を深めていくためにおいしいをキーワードに繋ぐことから始めました。そう思えたのも農家さんと福祉事業所の利用者さん、両者で分かり合えるおいしさへの思いを見つけたらからです」
※2018年のクラウドファンディングの際に描いたプロジェクト構想時のイメージ図(写真提供:C's kitchen)

「農家さんにとっておいしい。素材の味を殺さずに、誰もが食べられるもの喜ばれるものを届けたいーー
 
メニューを考えるときは、できるだけ素材の持ち味や個性を生かせるように心がけています。そう思うようになったきっかけは、過去に農家さんの桃を使って商品開発したところ、『新しい味だけど、うちの桃じゃなくてもいいかな……』と仰ったことがありました。だってそうでしょ、農産物の作り手としては素材本来のおいしさが伝わるのが一番うれしいものだからと。
 
私自身、銀座の無国籍料理レストランで修行して、2000年に新潟移住してからは結婚式場でパティシエとして経験を積んできましたが、若い頃は斬新なアイデアや奇抜な料理を目指しがちでした。だから、味にひと手間を加えてこだわったつもりでしたが、作り手目線でのおいしいとかけ離れてしまっていたんです。
 
福祉事業所の利用者さんにとっても一緒ではないかと、その一言を聞いてハッとしたのを覚えています。食物アレルギーなどで食事の制限がある方や高齢の方でも、赤ちゃんでも障害のある方にとっても誰もが一緒に食べられて、旬の素材も味わえる『おいしいもの』が作れたらいいなと思ったんです」
※旬果甘味店ルコトでは、新潟素材のおしるこ始め、万人がおいしく頂けるものを理念にしている。

「福祉事業所の利用者さんにとってのおいしい。食べ物を頂けると同時に作れることにも喜びがあるーー
 
利用者さんと一緒に調理作業をしていると、こうした普段では気づけないことや学びがあります。たとえば、少し難しい作業にチャレンジして、おいしいものが完成したときの利用者さんの表情……調理用帽子とマスクで隠れていてもわかる、笑顔があふれていました。しかも、黄色い歓喜の声も同時に上がるほどです。おいしいものを作ることによって食への思いが何倍もあふれてくる、農家さんと一緒の気持ちじゃないかと思えたんです」

農業が盛んな産地だからこそできること

旬のおいしさを詰め込んだ、新潟素材の季節のジャム(各640円)
※店内には、旬のおいしい時期に採れた素材で作るジャムやお菓子も並ぶ。にんじんと柑橘ピールのケイク 300円、笹川流れの塩チョコクッキー270円、新潟地酒の酒粕サブレ 420円(それぞれ税込価格)
 
日本各地で農福連携といった社会貢献プロジェクトが増えている一方、事業が形にならずに収束してしまうケースも増えています。その背景には、農福連携の仕組みを作る上でどこまで農福といえるのか、はたまたお互いの理念があう事業者が見つからないといった課題があるそう。
 
「旬果甘味店ルコトをきっかけに、社会貢献プロジェクトに関心度が高い若者が伸び伸びと育つ環境を作りたい」と佐藤さんは語ります。
 
「農業が盛んな新潟で農と福祉、そして食と繋がる循環社会を生み出せる可能性がある、そう思って取り組んでいます。旬果甘味店ルコトにおいしい循環ラボ、キッチンカー、rucotoプロジェクト、コロナ禍でストップをしている農業体験や食育プロジェクト……私たちC’s kitchenでは多数のプロジェクトを抱えていますが、持続性ある事業づくりにしようと力を入れています」
※冬には野沢果樹園の『紅玉リンゴジンジャードリンク』、春から夏にかけては冷たい越後姫の『豆乳クリーム白玉おしるこ』や『枝豆のおしるこ』、新潟素材のかき氷などが登場する。

旬果甘味店ルコトにお邪魔して、佐藤さんからお話を聞いて感じたこと。

「あのお店、おいしいよ」と知人にお勧めされたとき、どうしても食べる側の気持ちになってしまいます。しかし、その食材や製造加工の作り手が考えるおいしいまでも商品設計しているところはそう多くないのではないでしょうか。農と福祉、食で繋がるおいしい関係性に、新潟素材のおしるこを食べることで仲間入りできるかもしれませんね。
旬果甘味店ルコト

旬果甘味店ルコト

住所:新潟県新潟市東区松島3丁目1-3
営業時間:11時30分~17時30分
定休日:月~水曜(祝日の場合は営業)
駐車場:5台
Webサイト:https://cskitchen.shopinfo.jp/pages/3690688/DAIDOCO

この記事を書いた人
水澤 陽介(みずさわ ようすけ)

新潟県生まれ、東京、沖縄を経て地元新潟にUターン。2021年2月、三条市の中央商店街に本屋「SANJO PUBLISHING」を立ち上げ、“まちを編集する本屋さん”をモットーにまちの魅力を集め、届けています。 まちを編集する本屋「SANJO PUBLISHING」(https://note.com/ncl_sanjo