【珠玉のコース料理×ペアリング<第5弾>】 浴衣でフレンチが味わえる、松之山温泉 酒の宿玉城屋。/十日町市


2022年09月11日 534ビュー
こんにちは。 ライター&カメラマンのリョウヘイです。

珠玉のコース料理×ペアリングを巡る旅。シリーズ第5弾は十日町市松之山温泉にある、酒の宿玉城屋さんです。
松之山温泉は今から700年前に発見されたと伝えられており、この温泉には、殺菌効果や皮膚などに対して治癒効果があるといわれるメタホウ酸が基準値の50倍以上含まれているのだそう。

そんなパワーあふれるお湯が湧いていることから、日本三大薬湯の一つに数えられています。(あとの2つは、群馬県の草津温泉と、兵庫県の有馬温泉)

そんな松之山温泉にある玉城屋さんは、客室数8室の小さなお宿。
2018年に旧名・玉城屋旅館から「酒の宿 玉城屋」に名称を変更、フレンチのシェフを迎え入れて、フレンチのディナーコースを提供するようになりました。

ここでどんなフレンチとお酒が味わえるのでしょうか?さっそく行ってみましょう!

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ジャズが流れる温泉旅館のダイニングへ

松之山温泉はJR十日町駅から約25km、車で40分程の山あいにあります。

訪れたのは7月ですが、空気はヒンヤリしていて気持ちよく、雨で緑がしっとりと濡れた様子も風情がありました。
両側を山に囲まれた谷状の地形に、旅館や商店が肩を寄せ合うようにして並んでいます。
この温泉街の中ほどに今回の旅の目的地、玉城屋があります。

宿の前の駐車スペースに車を止めて館内に入り、さっそくダイニングを見せて頂きました。こちらです!
重厚感あるウォールナットのフローリングに、壁にずらりと並ぶお酒や酒器。
窓を見れば、目の前の斜面に茂る木々がすぐ目の前に迫っています。
日が沈むと照明の光が際立ち、一層落ち着いた雰囲気に変わります。
こちらのダイニングが夕食・朝食会場で、ゆったりとした時間を過ごせそうです。
元々は畳敷きの宴会場だったそうですが、リノベーションしてこのような非日常感あふれる空間につくり変えたのだそうです。

フレンチシェフと酒匠が織り成す、至高のペアリング

今の玉城屋にリニューアルしたのが、四代目の山岸裕一さん。
山岸さんは1982年生まれ。大学で経営学を学んだ後に調理師専門学校へ進み、在学中から割烹で日本料理人としての修業を積んだそうです。
その後、企業に就職し財務経理部門などを経験。その一方、ワインが好きでソムリエ資格も取得したと言います。

「2016年に松之山に戻り宿を継ぎました。1年程は私が料理を作り、サービスをして、それ以外の業務も一人でこなしていました。当時は旅館が存続できるかどうかという厳しい状況でしたし、東京での生活や仕事を捨てて戻ってきたので、後悔しないようにやりたいと思ってがむしゃらに働いていたんですよ」と山岸さん。

東京で企業に勤めていた頃、海外出張に頻繁に出掛け、各地でおいしい食事やお酒と出合うことを楽しんでいた山岸さんは、「自分が訪れたい宿にしたい」と、食と酒をコンセプトに据えて、「酒の宿」を冠した旅館名に変えたのだそう。

当初は「ターゲットを絞り過ぎではないか?」という周囲の心配の声もあったそうですが、その一点突破が功を奏し、遠方から美食家たちが何度も訪れる宿に変化を遂げました。 その一方、連日睡眠時間が3時間という生活を1年程続け、さすがに体力が続かなくなったと言います。

そんな時に東京・六本木でレストラン・リューズを営む十日町出身のシェフ・飯塚隆太さんの紹介で、飯塚さんの元で修業をしていた料理人・栗山昭さんが来てくれることになったのだそうです。
こちらが料理長の栗山昭さん。栗山さんは1985年生まれ、東京都出身。ラ・クレモンティーヌ、ラトリエ・ドゥ・ジョエル・ロブション、レストラン・リューズを経て、2017年12月、玉城屋の料理長に就任しました。

「十日町ではしいたけやアスパラをはじめ、すごくいい食材を使わせて頂いています。そんな生産者さんへの敬意も込めながら、食材のおいしさをしっかりと引き出せる料理をお出ししたいと考えています。 それから、食後感が重くならないことにも気を遣っていますね。」と栗山さん。
夕食の「里山フレンチのフルコース」は、18:00~と20:00~で時間が決まっており、約2時間30分程度をかけてゆっくりと楽しめる内容となっています。
今回は日本酒のペアリングも付けて頂きました。

山岸さんはソムリエ資格だけでなく、酒匠(さかしょう、唎酒師の上位資格)の資格保有者でもあります。
そんな山岸さんが料理に合わせてセレクトした日本酒と共に地元食材をふんだんに使った里山フレンチを頂きましょう!

一品目 美雪鱒・赤イカ・ブルーベリー × 苗場酒造株式会社 kamosumori 純米吟醸

一品目の料理は3種類のフィンガーフード(写真は2人分)。魚沼産の鱒のスモーク+卵黄にパセリクリーム、鶏のレバームースとブルーベリーを入れたシュー、柏崎産の赤イカのゲソを使ったカレーパンの3種類。

お酒は、kamosumoriの純米吟醸の火入れのお酒。こちらは山岸さんがお隣津南町の苗場酒造さんと協働で開発した日本酒で、一段仕込みで酸があるのが特徴です。
生酒に火を入れてドライにし、村上市にある冨士美園さんのほうじ茶の茶葉とハイビスカスを漬け込んで、さらに炭酸ガスを加えるなど、アレンジが加えられています。 甘くて飲みやすく、華やかな色味と香りに惹き込まれる一杯目でした。

二品目 アスパラガス × 株式会社松乃井酒造場 松乃井 純米大吟醸

二品目は、アスパラガスのポタージュです。津南町の畑で採れたおいしいアスパラガスを、乳製品は使わずに水とブイヨンでシンプルに調理。「ここのアスパラは日本でもトップレベルだと思います」と栗山さんは賞賛します。

口に含むと、アスパラ以上にアスパラの香りとうまみが感じられ、津南の大地に広がっているというアスパラ畑が脳裏に浮かんでくるようでした。ポタージュの中には、自家製リコッタチーズと自家製クルトンが浮かんでいます。

お酒は、松乃井の純米大吟醸。地元の酒米を45%まで磨いてつくったお酒で、とてもスッキリとした味わいです。
「最初の方で新潟の淡麗辛口のおいしいお酒を楽しんで頂こうと思い、今日はこのお酒を選びました」と山岸さん。

パンは毎日焼いているそうで、燕市にある玉川堂さんの美しい鎚起銅器に載っています。

三品目 栄螺 × 今代司酒造 木桶仕込み 純米大吟醸

お次は、白い皿に美しく盛り付けられた柏崎産のサザエです。サザエの下には、ピーマン、タマネギ、トマトを炒めて煮たピペラードという料理が敷かれており、アクセントに辛味のある伝統野菜・神楽南蛮(かぐらなんばん)も使われています。

ソースはアサリ出汁をベースにサザエの肝を加えたもの。苦みを感じさせる部位が外されたサザエは、とても上品な味わいでした。

お酒は今代司の純米大吟醸木桶仕込み。昔ながらの木桶で仕込んでいるお酒なのだそうで、ドライな中に木のニュアンスが含まれています。

四品目 茄子 × 来福酒造株式会社 来福×フェルミエ FUSION2022 バニラビーンズ

四品目は茄子料理。一番下には南蛮海老の殻と頭から取っただしのゼリーが敷かれ、真ん中には山椒の香りを付けた油でマリネした南蛮海老の身、上には大長茄子のムース、その上に水茄子、千両茄子のチップが添えられています。

ムースは大長茄子を焼き茄子にし皮を取り除いた後、チキンブイヨンで炊いて、ゼラチン、生クリームと合わせたものだそうで、さまざまな食感に茄子のうまみ、南蛮海老のうまみが融合した奥深い味わいでした。

お酒は今回のラインナップでは唯一の新潟県外のお酒です。こちらは茨城県の来福酒造さんの日本酒ですが、新潟市にあるワイナリー、フェルミエさんのワイン樽で熟成させたもの。「バニラのようなニュアンスやローストのような香ばしさもあり、焼き茄子とのマリアージュを楽しんで頂きたいと思います」と山岸さん。

ちなみにあらかじめペアリングする日本酒を全て決めるのではなく、即興でこのようなユニークな日本酒をお出しすることもあるのだそうです。

五品目 鮑 × 尾畑酒造株式会社 真野鶴 純米大吟醸 辛口生一本

お次はアワビです。6時間くらいかけて蒸した柏崎産のアワビに、キュウリのスパゲッティ、魚沼産の天恵菇(てんけいこ)と呼ばれるシイタケが、鮑の殻の上に盛り付けられています。シンプルにバターで味付けされており、素材が持つうまみを堪能できました。

お酒は佐渡の真野鶴純米大吟醸。米の風味が強い新潟らしいお酒で、アワビや天恵菇のうまみに同調します。

六品目 甘鯛 × 阿部酒造株式会社 僕たちの酒

六品目は甘鯛。日本料理の松笠焼きのように、油で皮目を揚げてパリパリにした一品です。トウモロコシのピューレと赤紫蘇のソースはそれぞれ素材の豊かな風味があふれており、淡白な甘鯛の身との相性抜群。十日町産の枝豆とインゲンも添えられています。

お酒は柏崎市にある阿部酒造さんの「僕たちの酒」という日本酒です。アルコール度数は12度と低めで、酸が特徴。
トウモロコシの甘みを感じるソースに白ワインのような酸を重ねて楽しみます。

七品目 妻有ポーク「越乃紅」 × 吉乃川株式会社 みなも 純米大吟醸
    又はあがの姫牛 × 中川酒造 越乃白雁 大吟醸原酒2009

七品目はメインの肉料理。こちらは妻有ポークの最高級ブランド「越乃紅(こしのくれない)」のオーブン焼きで、とても柔らかく、脂身まで甘く上品でした。5分オーブンに入れては出して…を2時間ほど繰り返しているのだそうです。

お酒は吉乃川のみなもの純米大吟醸。香りが華やかな1801酵母が使われており、フルーティーでフローラルな香りが特徴とのこと。豚の脂のニュアンスとの相性を考えてのセレクトなのだそうです。

このメインは牛肉にアップグレードをすることも可能で、今回はあがの姫牛のローストも頂きました。
赤みの旨味と肉質の柔らかさがあがの姫牛の特徴で、ワラで燻製にしているため少しスモーキーな香りもあります。ソースは骨から取ったもの。塩味が利いていますが、それは骨から出てきた塩分なのだそう。

お酒は中川酒造さんの越乃白雁の大吟醸で、2009年に仕込まれたもの。黄金色の熟成酒で、ナッツやキャラメルのようなコクがあります。実に芳醇な日本酒でした。2022年現在、入手が困難なお酒でもあるようです。

八品目 青胡桃

肉料理の後には、お口直しとして青胡桃のシロップ漬けが登場しました。これは、栗山さんが自ら十日町の山に分け入って採ってきた青胡桃なのだそう。同じ山で採ったというクロモジで風味を付けています。フワッとした牛乳のムースが添えられています。 コリコリとした青胡桃の食感と、独特の香りに癒やされます。

九品目 メロン

九品目はデザート。上に載っているのはフレッシュなメロンのエスプーマで、その下にはメロンの身、山椒のゼリー、ミントアイスが隠されています。
なんとも贅沢な味わいで、大人のためのメロンクリームソーダという感じのデザートでした。

小菓子とコーヒー

デザートの後は、お菓子とコーヒー。 栗山さんが前年の秋に収穫した栗を使ったケーキに、フキノトウのチョコレート、コーヒー風味のクッキー、フランボワーズのパート・ド・フリュイ。どれも個性的でおいしく、丁寧に作られていることがうかがえます。

最後のコーヒーと共に余韻を味わいながら、2時間30分のコースを締めくくりました。

淡麗辛口だけではない、新潟の個性豊かなお酒と出合う体験

ここが温泉旅館であることを忘れてしまいそうになるフレンチのフルコース。
しかし、周りを見渡せば、他のお客さんがみな浴衣を着てリラックスしながら料理とお酒を楽しんでいます。

ホテルのメインダイニングでフレンチを食べるとなると、ジャケット着用などのドレスコードを求められますが、そんな堅苦しさはここでは無用。そんな気楽さもこのお宿の魅力です。

「玉城屋は料理が主役です。料理は栗山料理長に自由に作ってもらい、それに合わせて私がお酒を決めています。ペアリングで大事にしているのはお客様に楽しんで頂くこと。そのために振れ幅を出すようにしています。同じ新潟のお酒でもすべてが淡麗辛口ではなく、酸があるもの、どっしりしたもの、甘さがあるものなど、いろいろなお酒があります。あとは、今日の最初のお酒のように1種類くらいはアレンジをしたものも出すようにしています。日本酒に詳しいお客様でも、何か新しい発見をして頂けたらうれしいですね」と山岸さん。

山岸さんはここ玉城屋の他に、同じ松之山エリアで姉妹館「Hotel 醸す森」も運営。こちらは今年7月に客室の改装を終え、以前のホステルから、アートをコンセプトに据えたホテルにリニューアルしました。

「醸す森は今後もう一段の改修を予定しています。玉城屋も次の冬には共有部の改修をして空間を整えていきます」と山岸さん。
今後も進化をしていく玉城屋の今を感じに、十日町市松之山へ出掛けてみてはいかがでしょうか?
酒の宿 玉城屋

酒の宿 玉城屋

住所:新潟県十日町市松之山湯本13
電話番号:025-596-2057

エリア

湯沢・魚沼エリア

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この記事を書いた人
リョウヘイ

ライター・カメラマン・編集者。1983年生まれ、新潟県五泉市育ち。
建築学生時代に旅に目覚め、20代の頃に25カ国を旅行。東京都内の出版社で海外旅行情報誌の編集に携わった後、新潟へUターン。
2018年に独立。日本の地方から世界の辺境まで、旅をしながら多様な文化と暮らしを探るのがライフワーク。