まるで奇跡のような歴史のある土地。そこに新しい魅力を重ねていきたい。/胎内市


2023年04月21日 5478ビュー
胎内市乙(きのと)地区。こぢんまりとした集落に、1300年もの歴史がある乙宝寺(おっぽうじ)があります。「この小さな集落に、これだけ歴史の長いお寺があること自体が奇跡」。そう目を輝かせて話すのは、乙宝寺から目と鼻の先にある「乙まんじゅうや」の久世俊介さんです。おまんじゅう屋さんだけでなく、乙宝寺の観光ガイドや地元野菜を使った「寺弁」の開発に携わるなど多彩な顔を持つ久世さん。お店の歴史や地域への思いをお聞きしました。
久世 俊介
1988年胎内市(旧中条町)生まれ。高校卒業後、塾講師を目指して埼玉大学教育学部に進学。結婚を機にUターンし家業に入る。地元を盛り上げたいとの思いから、乙宝寺の観光ガイドや精進料理風弁当「寺弁」の開発に携わる。コロナ禍の2021年には乙まんじゅうやの新ブランド「JYUKICHI」をスタートさせた。SNSにも力を入れ、ツイッター公式アカウント(@kinotomanju)では「蒸し上がった饅頭を眺めるだけの動画」が140万回以上再生。「ふわふわ」「眼福」と癒される人が続出した。

創業200年を超える老舗の新しい挑戦

―趣のある素敵なお店ですね。

ありがとうございます。当店は1804年創業、今年で219年目になります。初代は現在の福島県伊達市で麦饅頭を作っていたそうです。その近くのお寺では、乙宝寺に移るのが出世コースだったようなんです。初代は当時のご住職を強くお慕いしていたそうで、乙宝寺に移るのに合わせて乙まで一緒について来たと聞いています。酒まんじゅうを作り始めたのは、乙に来てからのようですね。
乙(きのと)まんじゅうは1個120円。地元名産の米粉を使ったサクサクの揚げまんじゅうは1個140円
揚げまんじゅうは注文を受けてから揚げるのでふわふわアツアツ
保存料も添加物も使わない、昔ながらの製法で作る

―どうりで、外までお酒の甘い香りが漂っていました。

酒まんじゅうと言っても、お酒は使っていないんです。麹を発酵させて作るので日本酒のような甘い香りがするんですね。麹を使っていることをもっと知って欲しくて始めたのが、新ブランドの「JYUKICHI」です。ブランド名は初代萬屋重吉にあやかって付けました。
麹の優しい甘さを感じるプリンは、1個310円から。抹茶味は、乙宝寺とも縁の深い村上市産の茶葉を使用

―新しいことにいろいろ取り組んでいるのですね。乙宝寺にちなんだ「寺弁」というお弁当もあると聞きました。

乙には「どっこん水」という名水があります。その水で育った野菜を使った精進料理風のお弁当を、地元の米澤屋旅館さんや地元農家さんと一緒に作りました。


―地元のつながりが強いのですね。

自分達も親世代も、人間関係は密ですね。でも子どもの頃はそれが嫌で。さすがに今はないのですが、帰ってきたら近所のおばあさんが当たり前のようにうちの台所にいたり、クリスマスの夕食まで一緒だったり。高校を卒業したら絶対に地元を出てやる!と思っていました。

進路はというと、中学の時に通っていた塾の国語の先生の授業がめちゃくちゃ分かりやすくて、自分もあんなふうになりたいと思って教育学部へ。塾講師は教員免許がなくてもなれると後で知ったのですが(笑)、小中学校の教員免許を一応持っています。
乙への思いを語る久世さん

歴史と湧水が育んだ乙の歴史

―結婚を機に地元に戻ったそうですが、大人になって感じる乙の魅力は?

まず、乙宝寺を中心とした乙の歴史ですね。あとはどっこん水。県外に出て初めて水がまずいと思いました。そもそも、水にうまいまずいがあるなんて思っていませんでしたから。歴史があって、静かで、きれいな水がある。子育てにはすごくいい環境だと思います。

乙宝寺もいい遊び場。私が子どもの頃はお寺の敷地で野球をしたり、ゲームボーイで遊んだりしていました。コロナ禍で遠出できなかった時も、よく乙宝寺に行っていました。密を避けられるし、ざわざわした心も落ち着かせてくれる。仕事でも生活でも大事な場所です。

ちなみに乙宝寺にある三重塔は1620年に作られたもの。お参りすると幸運のご利益があります。中は支柱とそれを支える材があるだけで、床のない吹き抜け構造。東京スカイツリーにも用いられた伝統的な建築手法なんですよ。
乙宝寺は子どもの頃の思い出も詰まった場所

魅力ある乙を子どもたちにつなぎたい

―好きな場所やよく行くスポットはありますか?

海がきれいな「はまなすの丘」は、車で5分くらいなのでよく行きます。出かけた帰りの夜に立ち寄ることが多くて、波の音を聞きながらぼーっと無心になれるところがいいんですよね。乙は海も近いし、山も近いんです。
晴れた日には佐渡島や粟島も望めるはまなすの丘

―アウトドアスポーツもされますか?

私はどちらかというとインドアで、外で体を動かすのは地元消防団の練習の時くらい(笑)。本を読むのは好きですね。常に持ち歩いて、電車での移動時間とかちょっとした隙間に読むことが多いです。仕事に関係する本とか、好きなミステリー小説とか。


―インドアというのはちょっと意外でした。他におすすめスポットはありますか?

同じ胎内市にあるY.O.L.O. CALIFORNIA STYLE KITCHEN (ヨーローカリフォルニアスタイルキッチン)は大好きなお店。ハンバーガーが絶品で、ジューシーな肉々しさがたまりません。店もおしゃれ。忙しい時はテイクアウトで注文させてもらっています。
Y.O.L.O. CALIFORNIA STYLE KITCHENのハンバーガーセット。ランチはサラダとポテトが付いて1,100円、ディナーはハンバーガー単品900円

―今後はどんなふうに地元を盛り上げたいですか?

今の子どもたちは学校で地域の学習をたくさんしているんですよね。僕らの時代はあまりしてこなかった。それもあってか地元の大人が乙のいいところを知らないことも多いんです。寺弁を作ったときは「そんな地元の野菜を使った弁当、誰が買うんだ」と言われたこともありました。乙宝寺に、どっこん水。地元の人がその良さを知らないのは課題だと思うので、なんとかしたいですね。

それと、乙宝寺にお参りに来た人が立ち寄れるお店が、今はうちの店くらいしかありません。今後はもっと気軽に入れる店を増やしたいですね。それは子どもたちのためでもあります。「地元にも働く場所があるんだ」と思ってもらえるような選択肢として示したい。そして乙の歴史や文化を子どもたちの世代に受け継いでいきたいです。

乙まんじゅうや

胎内市乙1235
0254-46-2008
8:00〜18:00
年中無休 不定休あり

この記事を書いた人
新発田地域振興局 魅力見つけ隊

地元には、地元しか知らない素敵な魅力がたくさん詰まっています。
王道はもちろん、地 元あるあるネタまで、分かりやすくお伝えします。