醸造について学び、味わい、楽しむ。摂田屋の2つの新施設、醸蔵と米蔵/長岡市


2021年04月04日 9637ビュー
醸造の町として知られる長岡市摂田屋。味噌、酒、醤油の蔵元が6軒集まっており、歩くとほのかに良い香りがしてきます。長岡の市街地は戊辰戦争と第二次世界大戦でその多くが焼失してしまいましたが、摂田屋は被害を免れ、風情ある町並みが残されています。そこに相次いで誕生した二つの新しい施設をご紹介します。

吉乃川 酒ミュージアム「醸蔵」

最初に訪れたのは、日本酒の蔵元「吉乃川」の敷地内に2019年10月オープンした酒ミュージアム「醸蔵(じょうぐら)」です。吉乃川は天文17年、西暦1548年に創業されました。なんとあの関ヶ原の合戦以前から酒を作り続けている歴史ある酒蔵なのです。今回は蔵元の川上麻衣さんのガイドで施設を見て回りました。
入り口には酒蔵のシンボル・杉玉が下げられています。この建物が造られたのは、今から約100年前の大正年間で、当時は「常倉(じょうぐら)」と呼ばれていました。その頃、酒造りは季節労働で、多くの蔵人たちが農業などの仕事を持ちながら、酒を仕込む時期になると蔵に泊まり込んで作業をしていました。常倉は2階を蔵人たちの宿泊場所、1階を酒の瓶詰め作業場として使っていたそうです。
「醸蔵」という名前にはお客様と酒蔵の関係を「醸していく施設」でありたいという想いが込められています。「敷地内にこうした場をつくることで、吉乃川に興味を持って頂いた方々と直接つながることができます。そこからお互いより良い関係を築いていければと考えています。」と、川上さんは話してくれました。
蔵の中は柱や仕切りのない大きな空間が広がっています。それを可能にしたのがトラス構造と呼ばれる建築技法です。これは建築部材を三角形につなぎ合わせて、その構造体の集合によって建築物を支えるもので、体育館などの大空間や長い橋などに利用されています。
建築時、この工法が取り入れられたことが文化的価値があると評価され、現在、国の登録有形文化財となっています。
建築好きの方はぜひ天井も見上げてチェックしてみてください。
順路は特に設けられていませんが、まずは蔵元「吉乃川」の歴史を知ることのできる展示コーナーに足を運びました。こちらは酒造りについての解説パネルや、かつて実際に使われていた道具類なども合わせて見ることができます。なお、お雛様は3月のみの展示となります。
お酒のラベルコレクション、ポスターなどもずらり。ほかにも古い徳利やおちょこなどと一緒に、昭和初期に使われていたという計算機も飾られていました。酒好きはもちろんですが、アンティークなグッズや器が好きという人にも楽しめるコーナーです。
壁の大型プロジェクターでは昭和40年代の昔のCMも流れています。倉庫に眠っていたものをデジタル化したものなのだそうです。
蔵の一番奥には大きなガラス張りの窓があります。その向こうに見えるのはなんと!ビールを醸造する機械。じつは吉乃川は日本酒以外に「摂田屋クラフト」というクラフトビールも作っているのです。吉乃川の日本酒と同じ仕込み水で造り、米麹を副原料としたクラフトビール(発泡酒)は、すっきりとした優しい味わいが特徴です。

ビール工房の右手には「SAKEバー」があります。吉乃川の定番酒はもちろん先ほどのクラフトビールや、水出しコーヒー、吉乃川麴甘酒「朝麴」、さらに「ここでしか飲めない」特別なお酒や、飲み比べセットも用意されています。
また時期によって限定酒が変わるため、お酒好きの人にはたまりませんね。

8種類の日本酒が1,000円(税込、60分、フリーテイスティング/平日のみ)で楽しめるコーナーもあります。ここはサーバー形式で、自身で好きな銘柄をチョイスしてグラスに注いでいただきます。川上さんに使い方を教えていただきました。
これは槽(ふね)と呼ばれる日本酒を搾る機械で、数年前まで現役で活躍していたものが展示されています。SAKEバーにはこの「槽」に関係した超レアなメニューがあるのですが、それが「あらばしり×責め 飲み比べセット」です。あらばしりは槽から最初に出てくる分で、責めは最後の方の酒のこと。同じタンクのお酒なのに搾りの場所によって味わいが違うということが分かるメニューなのです。なおこちらは限定商品のため、通年で置いてあるわけではありません。
酒バーの近くには「酒造り体験ゲーム」があります。これは吉乃川伝統の酒造りにバーチャルで挑戦して杜氏を目指すもので、所要時間は5分ほどです。
実際の酒造りと同じ工程をタブレット操作で行います。仕込み米を水に浸すところから始まり、蒸したお米をざるで並べたり、麹の種付けを行ったり。これがなかなか難しいのです。最後に5段階評価で判定があるのですが、私は残念ながら下から2番目の「蔵人」で「これからに期待!」という結果でした。なお最高レベルの「杜氏」を獲得すると麹甘酒「朝麹」のプレゼント(200ml/1本)があるそうですよ。
ミュージアムを一通り楽しんだ後は、売店に立ち寄りました。
お酒がズラリと並んでいます。定番銘柄から、季節のお酒、そして摂田屋クラフトもこちらで購入できます。SAKEバーで提供されているおつまみも売られているので、お気に入りのお酒と合わせ買いをして自宅で晩酌を楽しむのも良いですね。
麹甘酒「朝麹」や吉乃川の吟醸酒を使ったガトーショコラなども扱っているので、お子さまやお酒が飲めない方も楽しめますよ。
これから暖かくなり、町歩きにはぴったりの季節。
「醸蔵」で吉乃川のお酒やクラフトビールも愉しみながら、摂田屋の蔵のある風景を訪ねてみてはいかがでしょうか?

吉乃川 酒ミュージアム「醸蔵」

住所:長岡市摂田屋4-8-12(吉乃川敷地内)
TEL:0258-77-9910
営業時間:午前9時30分から午後4時30分まで
     SAKEバーのラストオーダーは午後4時
休館日:火曜日(火曜祝日の場合は翌水曜日)/年末年始
 ※2021年のゴールデンウィークは無休で5月6日(木)が休館
入館料:無料(試飲等は有料)
予約:不要(ただし10名以上の場合は要予約)

機那サフラン酒本舗の米蔵を新たに再生

ということで、次に訪ねたのは2020年10月にオープンした「摂田屋6番街 発酵ミュージアム・米蔵」です。
かつて明治時代に養命酒と人気を二分した「機那サフラン酒」という薬用酒がありました。それを製造販売していた「機那サフラン酒本舗」の創業者・吉澤仁太郎は、商売で得た財を注ぎ込んで蔵や屋敷を次々と建てていきました。現在残る建物は10棟で、米蔵はそのひとつです。
こちらも「醸蔵」と同じく大正年間に建てられたもので、多いときは2,000俵以上の米俵が積み上げられていたと伝わっています。やがて家運が傾き、この蔵も使われなくなっていましたが、修復や改修作業を経て、昨年新たな施設に生まれ変わりました。こちらは木組で見事なトラス構造を見ることができます。
ここは摂田屋の観光案内所としての役割も担っています。運営を手がけるミライ発酵本舗の統括マネージャー・平沢政明さんは「この場所を摂田屋観光の起点となるような、摂田屋の魅力発信の場所にしたい」と話してくれました。
オープンして今年の3月でまだ半年ですが、既にさまざまなイベントやワークショップを行ってきました。そのひとつが「発酵食品工房パンづくり講座」です。発酵を楽しみながらおいしく学んでもらおうという企画で、キャンセル待ちも出るほどの人気講座だったそうです。
ピアノソロ、弦楽四重奏、邦楽などのコンサート「ミュージックサフラン」も行われました。現在予定されているものは、気軽にカフェ感覚でお抹茶を楽しめる「摂田屋6番街サフラン茶会Vol.2」(2021年4月24日開催)です。
発酵にちなんだ講座やコンサートは新年度も継続予定で、詳細はこれから順次発表になるそうです。出かける前にホームページで情報をチェックしてから訪ねるのも良いかもしれませんね。
最近「街角ピアノ」が話題ですが、米蔵にもピアノが置いてあり、誰でも自由に演奏できるようになっています。このピアノは、満州生まれで長岡で育った世界的ソプラノ歌手・中澤桂さんがかつて愛用していたシュベスターのアップライトピアノで、縁あってこの場所に寄贈されたものです。
壁一面には絵本の展示販売コーナーがあります。長岡市出身で国際的な絵本作家・松岡達英さんの作品が置いてあります。通常の書店と違い、気になった本を手に取ってゆっくり読んだり、お子さんに読み聞かせしたりと、じっくりと絵本を楽しめる場所になっています。
おみやげコーナーでは摂田屋の蔵元のお酒や醤油、味噌などの発酵食品が売られています。もちろん「サフラン酒」もここで買えますよ。
機那サフラン酒本舗の離れ座敷の建具をモデルにしたしおりは、見事な組子細工のデザインを再現したオリジナル商品です。和の技術の繊細さ、素晴らしさを感じることができる一品です。
おみやげコーナーの隣には、週末は行列ができるという人気コーナー「おむすびと汁と茶 6SUBI」があります。これは新潟のお米や食材を使って地域と人を結ぶというコンセプトのカフェで、おむすびのほか、機那サフラン酒を使った「キャラメルカヌレ」「仁太郎サワー」なども提供しています。(メニューは変更の可能性あり)
カウンターの一角にはおいしい発酵体験ができる場所として「味噌汁バー」(体験料500円・税込)もありました。これは摂田屋の星六や星野本店などの味噌を使って自分で味噌汁を作るというもの。
摂田屋と深い関係にある発酵について、この場で学べるようにと「発酵LAB」のコーナーもあります。まだ準備中ですが顕微鏡も何台か用意されており、いずれそこで酵母などを実際に観察できるようにしたいと考えているそうです。
米蔵の前には樹齢推定百年の桜の木があり、花の見頃は4月中頃と予想されています。また機那サフラン酒本舗の主屋と鏝絵蔵は、土日祝日に一般公開されています。これからの季節、花見がてら摂田屋に出かけてみてはいかがでしょうか。

摂田屋6番街 発酵ミュージアム・米蔵

住所:長岡市摂田屋4-6-33
TEL:0258-86-8545
営業時間:午前9時から午後5時まで
休館日:火曜日(火曜祝日の場合は翌水曜日)/年末年始(12月29日〜1月5日)
※おむすびと汁と茶6SUBIは水曜日も休み

この記事を書いた人
和田明子

長岡市のリバティデザインスタジオで、夫とともにグラフィックデザインやコンテンツ制作を行う。アート、映画、文学、建築、カフェ巡り、旅行、可愛いものが大好き。ウェブマガジン「WebSkip(https://webskip.net/)」も細々と更新中

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