「越後妻有 大地の芸術祭2022」を満喫してきた!~宿泊編~(十日町市)


2022年07月21日 6508ビュー
初日のフリー鑑賞(パスポート利用)を終え、今夜はアート作品でもある「うぶすなの家」に宿泊。
今回はその模様をお伝えします。

アート作品として再生したかやぶき民家

午後から拠点施設の越後妻有里山現代美術館 MonET(モネ)でたっぷりと作品鑑賞。
その後国道を北上し、いくつかの作品を鑑賞してタイムリミットを迎えました。

JR飯山線・下条駅のあたりから県道へそれること10分少々。
いくつかの集落を抜けたあたりで、まるで昭和以前にタイムスリップしたかのような1軒のかやぶき屋根の民家があります。それが「うぶすなの家」です。
『うぶすなの家』(入澤美時、安藤邦廣/2006)
この建物は1924(大正13)年に建てられたそうで、もうすぐ築100年!
杉板と土壁の外壁、母屋に玄関を加えたような「越後中門造り」という雪国特有の建物は複雑な屋根が特徴です。
 
母屋の大きな入口(本来の玄関は別)を入ると、アートなかまどがお出迎えする広い土間と、その奥に続くのは大きな囲炉裏がある空間。
なんだかワクワクしますね!
 
お出迎えしていただいたのは、うぶすなの家スタッフの水落静子さん(写真左)と、今日はヘルプとして来ていただいた大地の芸術祭スタッフの長津春菜さん(右)。
(写真は夕食時のもの)

うぶすなの家は主に地元に住むお母ちゃんたちが運営に関わっていて、宿泊の際には食事作りや給仕などを担当。
昼間は予約制でランチなども楽しめるんですよ。

晩ご飯の前に、水落さんからうぶすなの家にある作品について教えていただきました。

2004(平成16)年の中越地震で被災したかやぶき民家を、2006年の芸術祭の際に「やきものミュージアム&レストラン」として再生したうぶすなの家
そもそも「うぶすな」とは「産土」と書くのですが、「産土神」はその土地を守る神様のこと。
うぶすなの家は“土”がキーワードとなっています。
 
かやぶきのススキも、壁の杉板も全て土から産まれてきたものであり、うぶすなの家で鑑賞できるやきもの作品も原料は土です。また、食事で提供する山菜などの食材もこの地の土で育ったものばかり。
うぶすなの家という作品を形成する物はそれぞれ土と深い関わりがあります。

名だたる陶芸作家たちの共演

1階には日本を代表する陶芸作家たちの作品が展示されています。
『かまど』(鈴木五郎/2006)
うぶすなの家の入口に鎮座する象徴的な作品。
銅や鉄系の釉薬による深い緑色が代表的な“織部焼”でできています。
動物や植物などが描かれた陶板をランダムに張ったかのように見えるかまどの本体部分は、一度かまどの形に成型~絵付けしたものをあえて割り、焼成しているそう。
2階を抜け天井まで続く煙突も全てやきもので、輪切り状の陶板はそれぞれ模様がつながっています。
ちなみにこのかまどは実際に使えるそうです。

続いては奥の囲炉裏へ。
『囲炉裏』(中村卓夫/2006)
越後妻有の土を使った“妻有焼”の陶板を張り巡らせた囲炉裏。
 
粘土を板状にして成型する”タタラ作り”という手法によるもの。
赤くざらざらとした素焼きがベースで、所々に光沢のある模様があります。
ここでは実際に火をたくことはありませんが、食事をすることができ、人気だとか。
 
続いては、ヒノキが香る洗面所と浴室へ。
素敵な洗面台があると思ったら、やはりこちらも作品でした!
『洗面台』(吉川水城/2006)
益子焼の中でも伝統的な黒釉の「枝垂桜文」の洗面台。
 
金とプラチナが施された桜がまるで中央に吸い込まれていくかのよう。
陶器であるのにどこかソフトな印象を感じるのは、素焼きを2回、本焼きを2回、計4回の焼成によるものだそうです。
もちろん実際に使うことができます。
 
『風呂』(澤清嗣/2006)
そら豆のような形をした信楽焼の湯舟。
周りの大きなタイルのようなものは、登窯の中で何度となく使われていた棚板なんですよ。
 
この作品も、宿泊者は実際に使うことができるんです!
う~ん、なんてぜいたく♪
 
食後に一風呂いただきましたが、芸術作品の中に湯を入れてそこに浸かるというのは、何とも不思議な感覚・・・また、大きめの男性(私)にはぴったりなサイズ感で、母親の胎内にいるような気分?でもありました。

それにしても、『かまど』に『囲炉裏』、『洗面台』、『風呂』…なんともストレートというか、潔い作品名ですよね。
いずれも道具であるということはとてもシンプルで分かりやすいのですが、一つ一つの作品の製作過程や見え隠れする技術などを知ると、『うぶすなの家』という作品は、むちゃくちゃすごい陶器の集合体なのだということを思い知らされます。

1階にはまだ作品があるのですが、続きは後ほどご紹介…
2階には過去の展示から切り替わり、今回初お披露目の新作が展示されています。
『うぶすなの白』(布施知子/2022)
新潟県出身の布施知子さんは、日本よりも世界での知名度が高い折り紙作家。
大地の芸術祭総合ディレクターの北川フラムさんに「世界一の超絶技巧」と言わしめた布施さんの作品が「闇の茶室」「金の茶室」「風の茶室」と呼ばれる3つの部屋にそれぞれ展示されています。
 
闇の茶室
白い円錐形の作品は、中央から外に向かって折り目が増えていく“無限折り”という独自の技法。
 
金の茶室
もともとは繭を取るために蚕を育てていたという部屋。
白い和紙で囲まれた茶室には、さまざまな形で折ったカラフルな箱が並んでいます。
 
風の茶室
広い風の茶室には、無限折りの折り紙作品がうねるように配され、しずくのような折り紙も吊るされています(よく見るとらせん状に折られています)。
 
折り方や組み合わせでさまざまな表情を見せる折り紙の奥深い世界を実感。
 
これらの作品は、いずれもうぶすなの家に宿る精霊のようなものを表現しているそうです。
2階の作品は夜は鑑賞できないので、今のうちにじっくりと堪能します。
これだけの作品を独り占め状態で鑑賞できるのは、宿泊者の特権ですね。

 
それでは1階に戻りましょう。
囲炉裏の奥にある座敷には、すでに布団が敷かれていたのですが、この部屋の壁には作品が展示されています。

『表面波』(中村卓夫/2006)
『囲炉裏』と同じ作者の作品です。

 左側は信楽の赤土をベースに、白土と九谷の金色などのコントラストが美しいやきもの。
 

 

凹凸のあるフォルムに力強さを感じます。
 
一方、右側の床の間は繊細な感じ。
細長いやきものが連なり、天板を突き抜けています。
土壁は中の下地(骨組み)があらわになり、よく見ると向こう側(外)が見えます。
 
今夜はこの作品の傍らで寝るんですね~。すごいな・・・いい夢見れるかな?(笑)
 

器も作品。田舎料理とのコラボレーション

さて、いよいよ夕食の時間です。
夕食は、作品である『いろり』を囲んで食べることもできますが、今回はちゃぶ台でお願いしました。
地元のお母ちゃんたちが腕によりをかけて作ってくれた晩ご飯がこちらです!
地物をふんだんに使った郷土料理。※内容は日によって異なります
この日は採れたての山菜がずらり。この地ならではの手作りの味ですね。
作品である器がごちそうを引きたてます。
 
追加オーダーで地酒も♪(右奥)
酒器も作家によるものです。
手前左から右に、春の冬菜、木の芽(アケビの新芽)、コシアブラ。
右奥はアブラコゴミのごま油炒め。
手前中央の木の芽の巣ごもりには、奥にあるシャキシャキの長芋を混ぜていただきました。
 
山菜のほのかな苦みが地酒によく合います!
全般的にご飯にも合います。
 
天ぷらも山菜がメイン。
ウドや山タケノコ(姫竹)、フキノトウにコシアブラなど。
手前の赤みがあるものは、雪下ニンジンです。甘~い♪
 
お米は地元の棚田米。
噛みしめるほどに甘みを感じます。
山タケノコ入りのみそ汁も美味♪
 
肉料理もあります。
地元のブランド豚「妻有ポーク」のみそ漬け焼き。
クセがなくやわらかい肉質はみそ味がぴったりで、ご飯が進む…進みまくりです!
ご飯おかわり!
 
地元ならではの料理の数々を堪能させていただきました。
ごちそうさまでした。
 
夕食が終わったら、お母ちゃんたちは自宅に帰ります。
ここからは、完全に宿泊者のみの時間。
 
テレビがないので、静かな時間が流れます。
Wi-Fiはつながるのでネットは使えますが、ここでガヤガヤと動画を楽しんだりするのは無粋というものでしょう。
耳をすませばカエルや虫たちの鳴き声。
田舎の夜は意外とにぎやかです。
 
作品の『風呂』を堪能し、風呂上がりに少し取っておいた地酒をぐびり。
いろりを挟んで弾む会話を楽しむのもいいですね。
 
外に出てみると、この日は月明かりが眩しいくらい雲がない空。
明日は晴れそうです。
ゆるやかに更けていく越後妻有の夜。

 

バラエティー豊かな朝食

鳥のさえずり(というには少々上品すぎる)で目覚めた朝。
台所では既に朝食の準備が行われている模様・・・おはようございます。
 
軽く外を散歩したり、朝風呂を堪能してみたり、うぶすなの家の朝は早起きがおすすめ。
 
今回ご用意いただいた朝食はこちらです。
(内容は日によって変わります)
ご飯の隣はふきのとうポテト、コゴミのたまり漬けとたくあん、
中ほどのピンク色はウドの酢の物、その隣はワラビの生姜醤油、サトイモの特製あんかけ。
右奥はウドの白和え、その隣はゼンマイのきんぴら、ウドとたけのこのきんぴら。
左奥の姫竹はマヨみそでいただきます。
 
山菜料理が多いですが、昨夜の夕食とはまた違った印象。
山菜の種類の豊富さよ・・・調理法もさまざまなので、飽きることなく楽しめます♪
 
ちなみに、ふきのとうポテトとサトイモの特製あんかけは、今回の芸術祭のためにmanoma(山形県鶴岡市のカフェ)の松浦シェフが監修したもの。
 
今日もご飯が進みます♪

宿泊しなくても楽しめる料理もあり

日中はランチやドリンクを提供するうぶすなの家。
うぶすなごはん ~お母さんの季節の小鉢とメインの一皿~」は、「妻有ポークの煮豚&車麩唐揚げ」(2,000円/税込)と「車麩の唐揚げ山菜だれ」(1,500円/税込)の2種類。
こちらもmanomaの松浦シェフ監修です。

これは写真がないので、詳しくは芸術祭のホームページをチェックしてみてください。
夏には「ばあばの味噌キーマカレー」も提供予定とのこと。
 
また、宿泊に関する情報はこちらから
宿泊は2名以上3名までと条件が限られますが、とっても豊かな時間が過ごせるおすすめの宿です。
 
おいしい朝ご飯で今日一日の元気を注入。
アートと田舎料理、そして地元のお母ちゃんとの触れ合いで心もお腹も満たされました。
うぶすなの家のスタッフの皆さん、お世話になりました!
うぶすなの家

うぶすなの家

所在地/新潟県十日町市東下組3110
TEL./025-755-2291
開館時間(作品鑑賞)/11:00~16:00
料金/①個別入館料 大人500円(中学生以下無料)
   ②作品鑑賞パスポート
■宿泊について■
宿泊可能期間/2022/4/29(金祝)~11/13(日)の毎日
       ※宿泊希望日の7日前までに予約
宿泊料/1人25,000円(1泊2食付き) ※1棟貸切
定員/3名まで(1泊1グループ限定、2名より)
その他/チェックイン17:30~19:00、チェックアウト翌朝9:00
■食事(レストラン営業)について■
営業日/春:4/29(金祝)~7/24(日)の土・日・祝日のみ ※要予約
    夏:7/30(土)~9/4(日)※火・水曜定休
    秋:9/10(土)~11/13(日)の土・日・祝日のみ ※要予約
営業時間/11:00~14:00(L.O.)
※食事利用の際にも、入館料またはパスポートが必要となります

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この記事を書いた人
ケバブー

長岡生まれ新潟育ち。 ​
郷土料理からラーメン、地酒やスイーツまで新潟の食を広く愛するフォトライター。