良寛さんゆかりの地 与板を訪ねる その二/長岡市


2023年03月22日 4617ビュー
「良寛さんゆかりの地 与板を訪ねる その一」からの続きです。​
旅のスケジュールはこちらです。
その一では、長岡駅から「蓮正寺」まで旅しました。

後半のスタートですが、良寛にも「白雪(はくせつ)こう」というお菓子を所望する手紙があったことを思い出しながら、昨年オープンした蔵カフェ「茶々(ちゃちゃ)いま」さんで一服することにしました。

茶々いま

店主の田中洋介(たなかようすけ)さんに案内され、店舗から町家づくりの長い廊下を進んでいくと、蔵カフェにたどりつきます。日常からタイムトンネルを通って別の世界にたどりついた感じです。
バラエティに富んだメニューに悩んだ末、「煎茶と抹茶プリンセット」を注文しました。
セット到着。まず自慢の煎茶からです。「ほー」っと思わず唸る美味しさです。お茶屋さんの煎茶はやっぱり違う!と、ジャズが流れる雰囲気の中で、少し「違いがわかる」人間になった気分。
お茶請けもいいアクセントになっています。お茶請けはすべて店内で手作りしているそうです。地元産食材を使用したお米とお茶のクラッカー、甘過ぎず、少し硬めに焼かれているのもあって、お茶とマッチした素敵なコンビネーションです。
季節によって様々なお茶請けをご提供する予定とのこと。
田中さんに話をお聞きしました。
田中さんは大学卒業後、約10年間、東京でシステムエンジニアとして働いていたそうですが、システムの土台である「経営」そのものにとても興味があり、大好きな与板にUターン。民間企業勤務を経て、家業であり、来年創業から200年を迎える有限会社カクタ田中清助商店の伝統を受け継ぎました。
その後、お茶処静岡で日本茶を学ぶなどの努力を重ね、日本茶インストラクターの資格を取得したそうです。
お茶本来の甘味や渋み、旨味は茶葉でこそ出せる、お茶には抗酸化作用やリラックス効果など健康面での効用のほか、お茶を淹れ、みんなで飲む、家族団らんには欠かせない日本の伝統文化の一つでもあると田中さんは熱く語ります。
以前はキッチンカーで人が集まるところに行って、地元産野菜を焙煎した野菜茶を販売したり、百貨店に出品したこともあったそうですが、新型コロナウイルスの感染拡大により試飲販売も難しくなったことから、実際にお店に足を運んでもらう方法を思案したそうです。また、茶葉の加工の工程により味が異なる繊細なお茶をもっと若い人たちに飲んでほしいという思いを強く持っていました。
そこで昨年、お茶と海苔を保存してきた二つの蔵を一つにまとめ、地域活動で知り合った長岡造形大学の先生及び学生の協力のもと、もう一つの蔵を改造して、蔵カフェ・茶々いまの開店にこぎつけたのです。
雨漏りもなく、耐震性にも優れた蔵。改修工事は築100年超えの蔵の良さをそのまま活かすために、改修工事は最低限にとどめたそうです。店内は当時の大工さんが木材の位置を示す文字や数字も残っており、昔の人たちの仕事の痕跡を見ることもできるほか、昭和の古い調度品なども残されています。
最近は雑誌やSNSなどでの紹介もあって、徐々に若い人たちも増えてきているそうです。今後はお茶の販売やカフェの営業を軸に身の丈に合った経営を行いつつ、日本茶の講座や和服など他の日本の伝統文化とのコラボイベントなどにもチャレンジしていきたいとのこと。中小企業診断士の資格も持つ田中さんはさらなる商品開発にも意欲を見せます。
蔵カフェ・茶々いま

蔵カフェ・茶々いま

(長岡市与板町与板423、℡090-4725-4702)
 営業:水~土曜日 10:30~17:00、定休日:日~火曜日

以前、長岡造形大学の学生さんから与板のマップを作ってもらったとき、学生さんたちはこの町を「レトロで怪しく、かわいい」と評していたそうです。大判焼屋さん、洋菓子屋さん、パン屋さんなどとの緩やかな連携のもとで、この通りが「スイーツ通り」のようなものになればとおっしゃる田中さん。
「緩やかな連携」って良寛さんの「淡交」にも通じるような・・・。

ここで一休み。与板の魅力あるお店をいくつか紹介します。
 グランピエール大石
職場のスイーツ男子御用達のお店。もちろん多くのマダムやお嬢さんたちもひっきりなしに来店されます。お客様、店員さん、みなさん幸せなお顔。私は「ガンジーシューパイ」と「ぐるぐるカスタードくん」(この商品名、おじさんが若い店員の方に注文するのに少し恥ずかしかったけど)を買いましたが、まさに絶品でした。ケーキなど洋菓子のほか、地元ならではの和菓子などたくさんの種類のスイーツが店頭を華やかに飾っており、お客様を魅了する大人気店です。
グランピエール大石

グランピエール大石

(長岡市与板町与板444、℡0258-72-2144)
  営業:8:30~19:00、定休日:水曜日


 べっこうや

地元の美味しいパン屋さんとして有名ですが、最近は与板のすごい企業「株式会社サカタ製作所」さん製の機械から削り出される「かき氷」も話題。夏だけでなく年中提供され、定番のほか季節限定のかき氷も楽しめます。ちなみに2月は「ヘーゼルナッツ」でした。氷も特注だそうで、そのフワフワ感は半端じゃありません。口溶けもあまり経験したことのない心地よさ。頭がキーンとなりにくいそうで、かき氷の概念が変わります。どうぞお試しあれ。
べっこうや

べっこうや

(長岡市与板町与板527、℡0258-72-2224)
  営業:8:00~19:00、定休日:日曜日・祝日


 ​とうふ工房 心豆庵
「割烹豆腐オオハシ」さんの直売所です。店頭には手作りの豆腐や油揚げのほか、「豆醍醐(まめだいご)」(表参道・新潟館ネスパスでも人気の豆腐の味噌漬け)や「豆乳おからドーナツ」などバラエティに富んだ商品が並んでいます。素材や作り方にこだわり、美味しく、健康に良い豆腐づくりを心掛けているという大橋社長さんご夫妻。ガラス張りの工房での直売のほか、各地のイベントでの販売や移動販売、宅配などのサービスにも力を入れ、お客様とのコミュニケーションを大事にしているそうです。
とうふ工房 心豆庵(しんとうあん)

とうふ工房 心豆庵(しんとうあん)

(長岡市与板町与板乙1204-1、℡0258-72-2318)
 営業:9:30~18:30、定休日:第3日曜日(3連休の場合は第4日曜日)


 石黒大判屋

行列のできる大判焼屋「石黒大判屋」さんについては、過去のブログ(お休み充実与板旅/長岡市)で紹介していますので、そちらも是非ご覧ください。

再び旅に戻ります。

弟由之隠栖遺跡

良寛さんの生家である出雲崎・山本家の名主の跡を継いだのは弟の由之(ゆうし)でしたが、山本家は没落。由之は居住地から追放される「所払い」となり、与板で隠栖生活(俗世間を逃れて静かに暮らすこと)を送りました。
良寛は弟を思い、当時住んでいた和島から険しい「塩之入峠(しおのいりとうげ)」を越えて度々会いに来たそうです。峠が改修された時、良寛は「夢のようだ」と大いに喜び、その気持ちを表した歌を詠んだそうです。

新木家跡

反対側の通りに良寛の父・以南(いなん)ゆかりの新木家(あらきけ)跡が見えてきました。新木家は与板の大庄屋で、以南はここから出雲崎の橘屋(たちばなや)に婿入りしました。生家跡には「橘以南誕生地」という碑と、彼の代表作「朝霧に一段ひくし合歓の花」という句碑が建てられていますが、俳諧の師匠として多くの弟子を指導していたそうです。
なお、この場所を管理している髙橋光太郎(たかはしこうたろう)さんのご厚意により写真を撮影させていただきました。どうもありがとうございました。

 
新木家跡

新木家跡

問い合わせ先:
株式会社エヌ・アール・ケー総合企画
(940-2402 新潟県長岡市与板町与板119、 ℡0258-41-5336)

都野神社

いよいよ旅の終わり、与板の町への感謝も込めながら、与板郷総鎮守の都野(つの)神社を訪れました。都野神社は八幡宮の御祭神も合祀されており、「与板の八幡さま」とも呼ばれています。
都野神社の創建について詳しいことはわかっていませんが、千年ほど前の記録に「都野神社」の名前が載っており、その頃から既に存在していたことが推測されています。
天保7年(1836年)に与板を襲った大火では都野神社の社殿も焼失してしまいましたが、藩主の井伊直経(いいなおつね)公が先頭に立って復興に当たり、大坂屋をはじめとする豪商の支援を受けて再建が行われたそうです。その際、現在の埼玉県の熊谷から小林源太郎(こばやしげんたろう)という彫師を招き、数年の歳月をかけて作られたものが本殿と向拝の彫刻。極めて精緻で見事な彫刻です。
以前は埼玉からバスを仕立てて、この彫刻を見学に訪れる方々もいらしたとか。最近では、地元の与板町ガイド会(お問い合わせは「まちの駅 よいた」 ℡0258-72-4161まで)のボランティアガイドの皆様が、与板の子どもたちや、ご希望に応じ観光で訪れたお客様に説明しているそうです。

※「まちの駅 よいた」は冬期間休業となっています
境内には昭和33年(1958年)に良寛生誕200年を記念して建立された「良寛詩碑」がありますが、これも三輪左一を偲んで作られた詩です。良寛は左一のことを本当に思っていたんですねえ。
ほかにも明治時代に建立された書家・中林梧竹(ながばやしごちく)先生の碑もあり、書を学ぶ人にとってはたまらない地となっています。
宮司の八田元史(やだもとふみ)さんと裕子(ゆうこ)さんご夫妻、とても穏やかで優しいお二人です。
昔の神社は子どもたちの遊び場で賑やかだったそうです。今では自然観察に訪れる子どもたちが多く、中にはザリガニ採りに夢中になる子もいるとのこと。豊かな森に囲まれており、とりわけ新緑の頃に散策するととても気持ちがいいそうですよ。皆さんも参拝かたがたこの社に癒されてみてはいかが。
また、都野神社最大のイベント「十五夜祭り」は、そのために帰省する人たちも含めて、神社を中心に町全体が盛り上がります。今年は9/15~18で、16日が宵宮、17日が本宮となる予定だそうです。

昨年のポスターです。(今年は日にちが変わりますのでご注意を)

少子高齢化という流れの中で、与板も人口が減少し、空家も増えていますが、お祭りを通して町が一つになれればと八田さん。神社がこれからも町の人たちの心の拠り所となっていくために、引き続き大切に守っていきたいと笑顔でお話ししてくださいました。
 
与板郷総鎮守 都野神社

与板郷総鎮守 都野神社

(長岡市与板町与板乙6045、℡0258-72-2135)



今回の旅はこれでおしまい。与板の皆様、本当にありがとうございました。

良寛さんは周りの人たちを和やかにさせる不思議な魅力を持っていたそうで、漢詩ではよく「優游(ゆうゆう)(無心になってゆったりした様子)」という言葉を使ったそうです。今回旅でお会いした与板の皆さんからはとても親切に接していただいたのですが、良寛さんの「優游」の精神が受け継がれているように感じました。
良寛さんはまさに与板の人たちの心の中にある、そんな与板に皆さんも自分の心の中にある良寛さんを探しに行ってみてはいかがでしょうか。


追記
良寛さんの書は、適当な表現かどうかわかりませんが、強くて優しいように思います。大小、太細、濃淡、鋭鈍、遅速など対照的な表現方法を自由自在に操る筆さばきというか・・・。恥ずかしながら、私も書や文芸を趣味としている端くれとして、旅の土産に自詠の歌・句を書いてみました。

 
「朝霧の峠(たうげ)の向こう(むかふ)訪ふ人はもう間近とぞ合歓の花咲く」
(朝霧能堂有計乃無可不止布人者毛宇末知加東所年武乃花斜久)
良寛の父・以南の句に敬意を表しつつ、良寛と由之の兄弟の絆を歌にしてみました。
「淡雪のふはりと肩に良寛碑」
良寛の碑に春の淡雪がふわりと降りかかる景。ところで与板には良寛さんの碑をはじめとして本当に石碑が多いような気がしました。その理由を取材先でもお尋ねしましたが、石碑を建てることがはやった時期があったのではないか、良寛碑を建立して誘客に結び付けようとしたのではないかなど様々なご意見がありました。地場産業の打刃物の関連なども含め、さらに追跡調査してみたいと思います。


皆さん、このブログをお読みいただき、ありがとうございました。

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この記事を書いた人
長岡・柏崎地域振興局★ふらっと旅を楽しみ隊

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